古典の授業中。先生が枕草子について熱弁を振るっている。これをまともに聞き続けていたら、最高の睡眠導入剤だ。むしろ起きていろという方に無理がある。
それに加え、体育の直後の六限目という絶望的な悪条件も重なり、教室の後ろをチラリと振り返ってみれば、半分以上のクラスメイトが睡魔に惨敗を喫していた。
教科書を盾にして必死に眠りと戦おうとしてはいるが、すでに五人が寝たら激怒する教科担任の餌食となり、雷を落とされた後だった。
僕はといえば、隣の尚と平和に絵しりとりに勤しんでいた。
「ほっくん、今日はなにから始めようか。ライオ “ン” から始める?」
仕方ないく負けを認めて一から絵しりとりを再スタートしたというのに、尚はあれから古典の授業のたびに僕が描いた、たてがみが爆発したライオンをいじってくる。
僕をからかっている時の尚はやっぱり一番嬉しそうな顔をしているのだから、この前器がでかいなんて評価したのは完全に僕の思い違いだった。
尚からノートがスライドされてくる。
ノートには僕が描いた『めだか』の隣に尚が描いた上手な『かかし』が描いてあった。いつも悔しくて「ヘタクソ」なんて煽り散らしてはいるものの、今までの尚の絵を見てもヘタクソなものなんて本当は一つもない。絵も上手いなんてチートだ。
その隣に僕は『尚』と書いてノートを返す。
「ん?」
ノートを凝視したあと、尚が不思議そうな顔で僕の方を向いた。
「僕、尚のことずっと好きだったらしい」
ガリッ!!!
尚の手元から、筆記用具からは絶対に聞こえてはならない破壊音が響いた。
見れば、尚の握っていたシャーペンが、僕の描いた爆発ライオンの頭部を豪快に貫通していた。
「……らし、い?」
「ネットで調べた」
「……ネットで恋愛理解したの?」
「うん。尚が誰かに取られたら嫌なのも、全部『好き』だからだって書いてあった」
「……待って」
「僕、尚見ると安心す――」
「待ってほっくん。情報量が多い」
尚は僕の言葉を強引に遮ると、そのままガバッと机に突っ伏した。背中が小刻みに震えている。
「及川くん、どうかしましたか?」
「あ……、すみません。何でもないです」
教壇からの注意に、尚が消え入りそうな声で返答する。あのいつも完璧な尚が、こんな情けない弱々しい声を出すのは相当珍しい。
「尚」
「……ほっくん、頼むから一回黙ろうか」
「でも、僕やっぱり尚のことす――」
「待って北斗!! お願いだから授業中に脳を焼くのやめて……っ!!」
……脳を、焼く? なんで?一体なにを言っているのだろう。
その時、「及川くん、近江くん」と、冷ややかな声と鋭い視線が教壇からまっすぐに飛んできた。
あの目は激怒五秒前の合図だ。さっき松風が盛大に雷を落とされた時と同じ目をしている。ガチ説教だけは絶対に回避しなければならない。
僕は真面目にノートをとっている無害な高校生のふりをしてやり過ごしてみる。
が、どうしても隣の尚が気になってしまう。
ちらりと盗み見れば、尚は真剣に黒板の字をノートに書き写していた。
……でも。
そのノートに走る文字は、いつも綺麗で整っている尚の字にしては、少しだけ乱れて雑になっている気がした。
それに加え、体育の直後の六限目という絶望的な悪条件も重なり、教室の後ろをチラリと振り返ってみれば、半分以上のクラスメイトが睡魔に惨敗を喫していた。
教科書を盾にして必死に眠りと戦おうとしてはいるが、すでに五人が寝たら激怒する教科担任の餌食となり、雷を落とされた後だった。
僕はといえば、隣の尚と平和に絵しりとりに勤しんでいた。
「ほっくん、今日はなにから始めようか。ライオ “ン” から始める?」
仕方ないく負けを認めて一から絵しりとりを再スタートしたというのに、尚はあれから古典の授業のたびに僕が描いた、たてがみが爆発したライオンをいじってくる。
僕をからかっている時の尚はやっぱり一番嬉しそうな顔をしているのだから、この前器がでかいなんて評価したのは完全に僕の思い違いだった。
尚からノートがスライドされてくる。
ノートには僕が描いた『めだか』の隣に尚が描いた上手な『かかし』が描いてあった。いつも悔しくて「ヘタクソ」なんて煽り散らしてはいるものの、今までの尚の絵を見てもヘタクソなものなんて本当は一つもない。絵も上手いなんてチートだ。
その隣に僕は『尚』と書いてノートを返す。
「ん?」
ノートを凝視したあと、尚が不思議そうな顔で僕の方を向いた。
「僕、尚のことずっと好きだったらしい」
ガリッ!!!
尚の手元から、筆記用具からは絶対に聞こえてはならない破壊音が響いた。
見れば、尚の握っていたシャーペンが、僕の描いた爆発ライオンの頭部を豪快に貫通していた。
「……らし、い?」
「ネットで調べた」
「……ネットで恋愛理解したの?」
「うん。尚が誰かに取られたら嫌なのも、全部『好き』だからだって書いてあった」
「……待って」
「僕、尚見ると安心す――」
「待ってほっくん。情報量が多い」
尚は僕の言葉を強引に遮ると、そのままガバッと机に突っ伏した。背中が小刻みに震えている。
「及川くん、どうかしましたか?」
「あ……、すみません。何でもないです」
教壇からの注意に、尚が消え入りそうな声で返答する。あのいつも完璧な尚が、こんな情けない弱々しい声を出すのは相当珍しい。
「尚」
「……ほっくん、頼むから一回黙ろうか」
「でも、僕やっぱり尚のことす――」
「待って北斗!! お願いだから授業中に脳を焼くのやめて……っ!!」
……脳を、焼く? なんで?一体なにを言っているのだろう。
その時、「及川くん、近江くん」と、冷ややかな声と鋭い視線が教壇からまっすぐに飛んできた。
あの目は激怒五秒前の合図だ。さっき松風が盛大に雷を落とされた時と同じ目をしている。ガチ説教だけは絶対に回避しなければならない。
僕は真面目にノートをとっている無害な高校生のふりをしてやり過ごしてみる。
が、どうしても隣の尚が気になってしまう。
ちらりと盗み見れば、尚は真剣に黒板の字をノートに書き写していた。
……でも。
そのノートに走る文字は、いつも綺麗で整っている尚の字にしては、少しだけ乱れて雑になっている気がした。



