「あ、あのっ!」
尚の言葉を遮るように、すぐ近くから小さく震えた声が飛んできた。
僕たちは同時に振り向く。
そこに立っていたのは——ひとりの女子生徒だった。
両手でスカートの裾をぎゅっと握りしめ、顔を真っ赤にしている。
……尋常じゃない緊張感だ。やはり決闘前だからだろうか。
もしかして、あれが噂に聞く「武者震い」というやつか?
だとしても、これは非常にマズい。女子相手に二対一で闘うなんてフェアじゃない。ここは僕か尚、どちらかが犠牲になるしかない。
……仕方ない。僕が倒されたら、尚に敵討ちを託すことにしよう。
「あの……!」
悲壮な覚悟を決めて身構えていたら、女子は僕と尚を交互に見たあと、一思いに叫んだ。
「好きです!」
「うん」
「「え?」」
尚と女子の声がハモった。なぜ二人して驚いているんだろう。
好き嫌いの話なら、僕だって同意の「うん」くらい返す。僕だって好きなものは山ほどある。コーラグミとか、プリンとか、サクサクのポテトとか。
僕がひとり納得の頷きを深めていた、その時――。
「及川くんも近江くんも両方好きです!!」
「「え?」」
今度は僕と尚の声がハモった。
……ん? どういうことだ?
「……俺ら、全然系統違うけど」
うん。僕もそう思う。尚は無駄に爽やかだけど、僕はそうじゃない。
尚は困ったように眉を下げ、女子に向けてふわりと罪な笑みを向けた。これまで数多の女子を撃沈させてきた、あの『営業用スマイル』だ。なるほど、尚があの笑顔で相手の戦意を削ぐ作戦か。これなら勝てるかもしれない。
「なあ尚、決闘は? もう始まってる?」
「ほっくん、一回お口チャックね」
秒で遮られた。真面目に戦術を練っている人間に対して失礼な奴だ。
女子は顔を真っ赤にして、ついに涙目になりながら叫んだ。
「その……どっちでもいいので、お付き合いしてください!」
「どこに――」
同行すればいいんだ、と親切心から尋ねようとした、まさにその瞬間。
僕の口元が、尚の大きな手のひらでガバッと覆われた。
むぐっ、と実に情けない声が漏れる。
「ごめん。無理」
「どうして、ですか……?」
「俺ら付き合ってるから」
……?
「ね?」と、口を塞ぐ手が少しだけ緩み、至近距離から爽やか度200%の笑顔で覗き込まれる。
……そうか。尚がそう言うなら、そうなのかもしれない。僕はコクコクと首を縦に振った。
女子は「そんな……」と小さく呟き、泣きながら走り去っていく。
とりあえず、血を見るような決闘ではなかったらしい。……なんだ、よかった。
急に静まり返った体育館裏に、夏を告げる蝉の鳴き声だけが響いていた。
尚の言葉を遮るように、すぐ近くから小さく震えた声が飛んできた。
僕たちは同時に振り向く。
そこに立っていたのは——ひとりの女子生徒だった。
両手でスカートの裾をぎゅっと握りしめ、顔を真っ赤にしている。
……尋常じゃない緊張感だ。やはり決闘前だからだろうか。
もしかして、あれが噂に聞く「武者震い」というやつか?
だとしても、これは非常にマズい。女子相手に二対一で闘うなんてフェアじゃない。ここは僕か尚、どちらかが犠牲になるしかない。
……仕方ない。僕が倒されたら、尚に敵討ちを託すことにしよう。
「あの……!」
悲壮な覚悟を決めて身構えていたら、女子は僕と尚を交互に見たあと、一思いに叫んだ。
「好きです!」
「うん」
「「え?」」
尚と女子の声がハモった。なぜ二人して驚いているんだろう。
好き嫌いの話なら、僕だって同意の「うん」くらい返す。僕だって好きなものは山ほどある。コーラグミとか、プリンとか、サクサクのポテトとか。
僕がひとり納得の頷きを深めていた、その時――。
「及川くんも近江くんも両方好きです!!」
「「え?」」
今度は僕と尚の声がハモった。
……ん? どういうことだ?
「……俺ら、全然系統違うけど」
うん。僕もそう思う。尚は無駄に爽やかだけど、僕はそうじゃない。
尚は困ったように眉を下げ、女子に向けてふわりと罪な笑みを向けた。これまで数多の女子を撃沈させてきた、あの『営業用スマイル』だ。なるほど、尚があの笑顔で相手の戦意を削ぐ作戦か。これなら勝てるかもしれない。
「なあ尚、決闘は? もう始まってる?」
「ほっくん、一回お口チャックね」
秒で遮られた。真面目に戦術を練っている人間に対して失礼な奴だ。
女子は顔を真っ赤にして、ついに涙目になりながら叫んだ。
「その……どっちでもいいので、お付き合いしてください!」
「どこに――」
同行すればいいんだ、と親切心から尋ねようとした、まさにその瞬間。
僕の口元が、尚の大きな手のひらでガバッと覆われた。
むぐっ、と実に情けない声が漏れる。
「ごめん。無理」
「どうして、ですか……?」
「俺ら付き合ってるから」
……?
「ね?」と、口を塞ぐ手が少しだけ緩み、至近距離から爽やか度200%の笑顔で覗き込まれる。
……そうか。尚がそう言うなら、そうなのかもしれない。僕はコクコクと首を縦に振った。
女子は「そんな……」と小さく呟き、泣きながら走り去っていく。
とりあえず、血を見るような決闘ではなかったらしい。……なんだ、よかった。
急に静まり返った体育館裏に、夏を告げる蝉の鳴き声だけが響いていた。



