幼馴染と離れられないのは、呪いじゃなくて恋のせいでした

ゲームのキャラ選択をしている尚の横顔をじっと見つめる。
毎日当たり前のように隣にいるから意識したことはなかったけれど、改めて観察してみると、確かに恐ろしいほど整った顔立ちだ。女子たちだけでなく男子生徒からまで「ビジュが強すぎる」と評されているのも、今なら大いに納得できる。

「……なに?」

あまりの視線の強さに気づいた尚が、コントローラーを置いて僕の方を向いた。

「尚」
「ん?」
「キスするか?」

尚の動きが止まった。ゲーム画面だけが動いて、ポップな音楽を垂れ流し続けている。

「……は?」
「キス」
「いや、聞こえてるけど」

家の前の道路をぶおんと車が走り去る音が、静まり返った部屋に響く。

「……なに急に。どうしたんだよ」
「昨日調べた」
「何を?」
「好き」

尚がまた固まる。

「好きな人とはキスしたいってネットに書いてあった」

尚は片手で額を押さえ、深いふかーーーーいため息を吐き出した。

「……ほっくん。そういうの誰にでも言っちゃダメだよ」

尚の声が、いつもより少しだけ低くなる。言い聞かせるような、どこか呆れたような声。
誰にでも? そんなわけがないだろ。

「尚にしか言ってない」

その瞬間、尚の肩がぴくっと跳ねた。
何か考えているらしい。俯いたまましばらく黙り込み、さっきよりもさらに重いため息を吐き出すと、顔を上げて僕を真っ直ぐに見つめてきた。

「……北斗、目閉じて」
「ん。分かった」

言われた通り、目を閉じる。すぐ近くで布団が沈む音。ふわりと漂う、爽やかで少し甘い尚の匂い。
直後、左のほっぺたに羽毛が触れたかのような信じられないくらい柔らかくて軽い感触が落とされた。

「……簡単に目閉じるなよ」

尚の声がすぐ近くで聞こえて、僕はゆっくりと目をあけた。
少しでも動いたらもう一度触れられる距離で、尚が困ったように笑っている。だけど、その笑顔がどこか苦しそうなのはなぜだろう。理由は分からないが、とにかくほっぺたじゃダメだ。

「口」
「……は?」
「キスって普通そっちだろ?」
「ほっくんさぁ……っ」

尚がガバッと両手で自分の顔を覆ってしまった。
何か間違っていたのだろうか。でもネットにはそう書いてあったはずだ。。
それに――今、ほっぺたに触れられただけなのに。

嫌だとか、気持ち悪いとか、そんなネガティブな感情は一ミクロンも湧いてこなくて。それどころか、胸の奥で暴れていたもやもやが一瞬で綺麗に消え去って、ものすごく安心したような、温かい塊がじわじわと広がっていく。

だったらやっぱり確かめたい。

「え、ちょ、ほっ――」

確かめるなら、今しかない。
尚の制止の言葉より先に、僕はそっと自分の唇を重ねた。ほんの一瞬。一秒にも満たない時間だったと思う。
僕はゆっくりと唇を離した。

「……できた」

指先で自分の唇に触れてみる。
やっぱり全然嫌じゃなかった。むしろ、もう一回したいとすら思った。

ああ、そういうことか。

「僕、尚のこと好き」

ゲームが好きなのとは違う。
プリンが好きなのとも違う。
幼馴染だから、でもない。
ちゃんと、一人の男として、恋愛として、僕は尚のことが大好きなんだ。

「尚?」

返事がない。完全にフリーズしている。魂がどこかへ飛んでいってしまったのか、指先一つ動かさない。つつ突いてみるが、まったく反応がない。

「死んだのか?」
「…………死んだ」
「もう一回キスしたら生き返る?」
「……無理」
「僕のこと嫌い?」
「……嫌いなわけないからもうやめて」
「じゃあ好き?」
「…………大好き」