幼馴染と離れられないのは、呪いじゃなくて恋のせいでした

一限目は俺が密かに楽しみにしている古典の授業だった。
正気を保てない古典だが、寝たら寝たで容赦なく怒られる理不尽極まりない教科担任。起きてさえいれば文句を言われることはないが、教室の前方の席で堂々とスマホを弄るわけにもいかず、俺と北斗が生み出した暇つぶしの解決策――それが『絵しりとり』だった。

前回の続きは俺の番で、トラを描いて隣の席の北斗にノートをスライドする。
北斗はノートを見つめたまま固まっていて。よほど考え込んでいるのか、それともついに寝てないように寝るハイレベルな術を身に着けたのか。

「ほっくん?」

呼びかけても返答はない。

「……寝た?」

様子を伺おうと頬をつつこう手を伸ばした瞬間、指先が触れるか触れないかの距離で、北斗の身体がビクッと大きく跳ね上がった。
そして、猛烈な勢いでノートに何かを殴り書きすると、雑にこちらへ送り返してくる。

……今のは完全に避けられたよな?

返ってきたノートにはあまりにもお粗末すぎるライオンの絵。普段は「尚ヘタクソ」「幼稚園児の絵」なんて煽ってくるくせに。

「これ、”ん”で終わるからほっくんの負けになっちゃうよ。描き直しする?」
「いい」

あの負けず嫌いな北北斗があっさり白旗をあげただと?
しりとりを続ける気すらなさそうだ。北斗はそのまま、黒板の文字を穴が開くほど凝視したまま、微動だにしない。
結局、古典の授業が終わるまでの間、北斗が俺の方を一度でも見ることはなかった。

チャイムが鳴り、休み時間になった途端、市橋たちが「なーなー! ビッグラブコンビ〜!」とニヤニヤしながら冷やかしにやってきた。
だが北斗は、席を立つなり素っ気なく言い放った。

「……ジュース買ってくる」

いつもなら「尚、メロンソーダ買ってこい」と当然のように命令してくるはずの北斗が、一人で教室を出て行ってしまう。

「あれ? 近江が一人で買いに行くの珍しくね? なに、お前ら夫夫喧嘩でもした?」
「……どうだろ」

市橋に笑いかけながらも、俺は今すぐ立ち上がって北斗を追いかけそうになる自分を、必死の思いで押し殺していた。
冷や汗が、背中をゆっくりと伝落ちていく。

……喧嘩だったら、どれだけ良かっただろう。

怖い。
理由もわからないまま、今ここで追いかけて、目の前でハッキリと拒絶されたら――俺は本当に終わってしまう。
十六年間、大切に愚直に積み重ねてきた『当たり前』の日常が、たった一日で、脆くも崩れ去ってしまうんじゃないかって。

俺は結局、遠ざかっていく北斗の背中を追いかけることもできず。
ただ座って北斗が戻ってくるのをじっと待つことしかできなかった。