勇者たちの使命4 死の呼び声

 村の朝にはちょっとした騒ぎになっていた。主に男性陣だった。

『どうしてタープなんかと一緒にメグミちゃんが旅立つんだよ!』

『二人きりって、どういうことですかマスター!』

『何かあったらどう責任取るんですか!』

 口々に好き勝手言っている。あれほど食事デートや告白やらでアプローチしていたミキのことなんて誰も口にしない。

 僕はあれから考えて馬車による移動に切り換えた。女性を歩かせることへの反感を少しでも軽減したかったからだ。

 メグミは冒険者ギルドの職員であったが、E級冒険者でもあった。その事は昨日ギルドマスターに教えてもらった。魔法使い系のスキルを持つらしい。馬車の中で詳しくスキルを聞いて臨時パーティを組むことにした。

 マジックバックに旅に必要なポーションやテント、食料を詰め込み、馬車の詰所でメグミを待つ。旅に女の子と二人きりで移動するというのはミキ以来であった。正直なところ少しドキドキする。

 昨日、ギルドマスターからはメグミがいざとなった際に役立つからと言われた。

 生死のギリギリで何か役立つものがあるのだろうか。マスターが言うのだから何かあるのだろう。馬車の中で過ごすのは長い。色々と聞いてみようと思った。

『お待たせしました、タープさん、おはようございます』
「ああ、おはようございます。出発日和ですね」

『はい。準備は万端です』
「分かりました。馬車の準備も出来ていますから早速行きましょうか」

 御者は一人。エサとなる草も積み込まれているが、馬車内は充分広かった。
 隣町はループという名前だ。まずはそこへ行ってミキらしき女性の足がかりを見つける。

 ◇

『そうなんですか、妹さんは三つ下なんですね』
「ええ、可愛い年頃です。エリーという名前です」
『エルソンの魔法学校に通っているんですね』
「特に攻撃魔法を頑張ってるみたいですよ。ミキを目標にしていたのですが」

 たわいのない会話をしている間にミキの名前を出してしまう。その際は軽く緊張する。

『ミキさん、心配ですよね』
「今頃どうしてるんだろうな……」

 次に口にする言葉を探していると、僕よりも先にメグミが口を開く。

『ギルドマスターが言ってたスキルなのですが、私には見当もつかないです』
「いざという時、重宝するらしいです。メグミちゃんが気付かないなら何だろうね」
『分かりません。一応ヒールは使えますけど神官レベルではないですし』

 ギルドマスターが言っていたいざという時に役立つというのは結局分からなかった。もったいぶって教えてくれなかったが、どうしてなのかタープも想像すらできなかった。

「スキル合わせや魔物との戦闘時の連携は夜に練習しましょう」
『はい、色々と教えてくださいね』

 メグミはタープの一つ下の年齢だった。妹よりは上、感覚的には新しい妹が出来たような感じだったが、恋愛対象でもあるため、やはり女性らしさにドキドキすることも多かった。そういう時はミキ捜索の話題をメインにしていた。

『隣町のループには近くに川を堰き止めて作ったダムみたいなものがあるそうです』
「そこは重点的に探しまくりたいですね」
『ミキさんをそのダムで探すのには抵抗感があります』
「見つけても溺死体だとすると困るから、飛び込む前にミキを見つけたいな」

 強がってみたが、やはり亡くなったミキを見つけるのはタープも嫌だった。出来ればそんなのは見たくないし、自殺未遂の段階までに確保するつもりだった。

 ただB級冒険者のミキをD級とE級の僕らで確保できるのか? という根本的問題はあった。物理的ではなく会話で解決するしかないな、と思う。

 ◇

 ループという隣町が見えてきた。

 今まで話題に出しにくかった宿泊について、とうとう口に出す時が来た。タープはごくりと喉を鳴らし、メグミの顔を見ながら話し始めた。緊張している。

「そ、それで宿泊の時のことなんだけど、二部屋で一人ずつ部屋を取るのが理想と言えるんだけど、路銀の余裕を計画的にするとなると、やっぱり一部屋で二人が泊まるのが効率的なんだよな……あ、でも、メグミちゃんがどうしても嫌だというなら分かれて泊まる方がいいよね、きっとその方がいいよね」

 彼女の中で渦巻いているであろう戸惑いが少しでも軽減されるよう、説明を尽くしていると。

『一部屋でいいです』

 あっけなくキリリとした顔で返事をされてしまった。

「そうだね、それならお風呂付きに出来るかも」

 路銀を計算しながらメモをする。

『じゃ一部屋で決まりですね』

「……」

 貞操観念つよつよなメグミちゃんというイメージしかなかったので、同衾などもってのほかと思っていた。タープが困惑していると、それに気づいたメグミが小さく頷き、一言。

『お風呂、覗かないで下さいね』

「あ、あのね……」

 投げかけたメグミの言葉に、迷うような素振りをみせるタープ。

(いいのだろうか……若くて可愛くて人気者のメグミちゃんと二人きりだなんて)

 二人も長旅になることは承知であり、馬車の中で会話を繰り返したおかげか、冒険者ギルドの職員と冒険者という関係から随分と砕けた会話をするようになっていた。

 ミキとタープは二人で旅に出ていたが、宿泊する際は各自でテントを張り別場所で寝た。宿泊施設に泊まる時も同様で二部屋を借りて泊まった。だからメグミと同室になるという予定にドギマギしてしまう。

 ミキとブラッコスが一つの部屋でいたことを思い出す。

(なぁミキ。お前も同じシチュエーションになったのだろう。何もなかったのか、何かあったのか。僕には想像するだけで辛い。これからメグミちゃんと僕は同室になる。ミキが知ったら何て思う? 何も起きないと信じてくれるかい?)

 心の中でミキに問いかけるタープだった。