村に着き、門番に挨拶をすると冷たい対応をとられた。
『ああ、帰ってきたのかタープ。お疲れさん』
視線は横にそれ、正面から顔を見てくれない。
「なんだよ、変な感じだな、大丈夫か? 勤務がハードなのか?」
つい先日、勇者が村を救ったということなので、もっと明るく会話すると思っていた。なぜか余所余所しい。人見知りする仕事でもないだろうに、門番の変化は気になったが、一過性のことだと気にしないことにした。
しかし道を歩くと村人たちの視線が気になった。いつもの温かい目つきではなかった。『お疲れさま』のように挨拶すらなくなって、問題解決以前の異変の時よりも目つきが悪くなっていた。一人二人ではない、自分を見る村人全員の目つきが悪くなっていたのだ。
何だか胸騒ぎがする。
ミキが泊まっていた冒険者ギルド指定宿に訪れた。昼過ぎになった。
宿のフロントでの受付嬢は知らない女性だったが対応は普通だった。冒険者カードを見せると『あっ』と小さな声を発したが、これからミキを呼び出してもらうために気にしないようにした。
「B級冒険者のミキが宿泊している筈だけど、呼んで貰えるかな? 僕はタープ。彼女の幼馴染です」
『タープさん……ですか』
なんだか目で何かを言わんとしている様子。
『ミキさんは村から旅立ちました』
「えっ? ミキはチェックアウトして村から出て行ったと?」
『はい、もう四日前ぐらいかと』
ミキは村を旅立っていたという。彼女からは何のメッセージも残されていなかった。受付嬢の話によると冒険者ギルドの方が行先などには詳しい筈と教えてもらう。急いで冒険者ギルドの方へ向かった。
歩いても数分だ。
冒険者ギルドの両開き扉を開けて中に入る。顔見知りは……メガネっ子ことネコミミ女史がいた。目が合うと彼女は驚いた顔をして、また悲しげな目を見開いてタープを見つめた。今日はメガネをかけていない。あの時に失くしたのだろうか。

「やぁ」
『タープさん……』
彼女はどぎまぎした感じになった。
「あ、あの……少し聞きたいことがあるんだけどさ」
『私もお話があります、もうすぐ早上がりなんです。待ってて頂けますか?』
「ありがとう、待つよ。それなら隅の席をお借りする。ホワイトボアのステーキ定食をお願い出来るかな」
『はい、分かりました。食べて待っててくださいね』
タープは無言で頷き、隅の席へ移動した。どうやら詳しい話が聞けそうだ。どうしてミキがいないのか、村を歩いている時の住民の視線、門番の対応、腑に落ちないことだらけだった。
◇
『タープさん、勇者様が村の問題を解決して下さって、私たちは記憶を鮮明に残しながら気がついたのです。それまでは夜の悍ましい記憶を失っていたようなのですが、消えていた記憶までも蘇ってきたのです』
「……」
『ミキさんは敵対勢力の仲間として冒険者ギルドを除名されました』
「え? そ、そんな」
『事実です。タープさんも裏切って寝返ったとして軽蔑すべき人物だと責められ、それからミキさんは放心状態に陥って村中を彷徨い、その後、村の外へ出ていきました』
「それじゃミキを拘置して事情聴取なりしたのかな?」
『いえ、彼女はB級冒険者でしたし、力づくではとてもとても、それに素直に自ら報告を色々とされましたので、自由を制限しないという方針でギルドマスターが決を下しまして……』
「それじゃミキの行方は……」
『それ以来、村には戻って来ていないようです』
「最後にミキを見かけたのはいつですか?」
『私が見たのは三日前が最後です』
話し終えたネコミミ女史は悲しそうな眼をしてタープの顔を見ていた。たぶん彼は幼馴染のミキを追って村を出ていくことだろう。その事が言えないまま胸がキュっと締め付けられていた。
『タープさん、ミキさんは村の住民たちから責められました。不届き者を村に入れて村人たちの命を危険にさらしたと、それはもう酷く責められていました』
「……」
『ブラッコスさんとシローキさんがいつの間にか魔物に取って代わられ、その事を知っていたにも拘らず勇者様に救われるまで冒険者ギルドへも黙っていたのも問題になりました』
「―――そうですか」
(僕を守ろうとしたミキは、他の住人たちからは売女のような印象に変わり、扱われてしまったのか)
◇◇ 三日前
何故逃げるのか、自分には何もかもよく分からない。
とにかく足を動かさなければ、止まれば死んでしまうと恐れが湧きあがり歩き続ける。
もう寒くなる間近、部屋の外は寒いし村に帰ろう、でも外に向かって歩こう、これで良いんだわ私。
目が覚めた時、私は自分が何をしていたのか記憶が蘇った。
まざまざと色鮮やかに裏切りの行為。正常なら決してしない行為。
白く色づく溜息を吐く。溜息と共に魂が抜けるようだった。
私は何を間違えたのだろう。タープを救いたかっただけだった。でも村の住人たちからは責められた。
今でも私自身の考えが分からない。まして分かりたくない気持ちも強かった。
嗚咽を漏らしながら歩く私。愛するタープを裏切った私。
村をフラフラと彷徨い、村人の冷たい視線の反面、子供たちからは哀れみの目線が注がれる。
涙が止まらない、溢れる涙が手を滑らせる。
街中を泣き歩こうとも、何かが変わるわけでも無いことは分かっていた。
微かに残った理性が私の短い人生の終わりを告げてくる。お前ははしたない女だと。
心中でケジメをつけて、私の全てを心のゴミ箱に放り込んだ。
タープ、さようなら。会いたいけど、もう会えない。
◇◇
(ミキに今から追いつけるのかは分からない。でも探さなければ。だって幼馴染だから)
『ああ、帰ってきたのかタープ。お疲れさん』
視線は横にそれ、正面から顔を見てくれない。
「なんだよ、変な感じだな、大丈夫か? 勤務がハードなのか?」
つい先日、勇者が村を救ったということなので、もっと明るく会話すると思っていた。なぜか余所余所しい。人見知りする仕事でもないだろうに、門番の変化は気になったが、一過性のことだと気にしないことにした。
しかし道を歩くと村人たちの視線が気になった。いつもの温かい目つきではなかった。『お疲れさま』のように挨拶すらなくなって、問題解決以前の異変の時よりも目つきが悪くなっていた。一人二人ではない、自分を見る村人全員の目つきが悪くなっていたのだ。
何だか胸騒ぎがする。
ミキが泊まっていた冒険者ギルド指定宿に訪れた。昼過ぎになった。
宿のフロントでの受付嬢は知らない女性だったが対応は普通だった。冒険者カードを見せると『あっ』と小さな声を発したが、これからミキを呼び出してもらうために気にしないようにした。
「B級冒険者のミキが宿泊している筈だけど、呼んで貰えるかな? 僕はタープ。彼女の幼馴染です」
『タープさん……ですか』
なんだか目で何かを言わんとしている様子。
『ミキさんは村から旅立ちました』
「えっ? ミキはチェックアウトして村から出て行ったと?」
『はい、もう四日前ぐらいかと』
ミキは村を旅立っていたという。彼女からは何のメッセージも残されていなかった。受付嬢の話によると冒険者ギルドの方が行先などには詳しい筈と教えてもらう。急いで冒険者ギルドの方へ向かった。
歩いても数分だ。
冒険者ギルドの両開き扉を開けて中に入る。顔見知りは……メガネっ子ことネコミミ女史がいた。目が合うと彼女は驚いた顔をして、また悲しげな目を見開いてタープを見つめた。今日はメガネをかけていない。あの時に失くしたのだろうか。

「やぁ」
『タープさん……』
彼女はどぎまぎした感じになった。
「あ、あの……少し聞きたいことがあるんだけどさ」
『私もお話があります、もうすぐ早上がりなんです。待ってて頂けますか?』
「ありがとう、待つよ。それなら隅の席をお借りする。ホワイトボアのステーキ定食をお願い出来るかな」
『はい、分かりました。食べて待っててくださいね』
タープは無言で頷き、隅の席へ移動した。どうやら詳しい話が聞けそうだ。どうしてミキがいないのか、村を歩いている時の住民の視線、門番の対応、腑に落ちないことだらけだった。
◇
『タープさん、勇者様が村の問題を解決して下さって、私たちは記憶を鮮明に残しながら気がついたのです。それまでは夜の悍ましい記憶を失っていたようなのですが、消えていた記憶までも蘇ってきたのです』
「……」
『ミキさんは敵対勢力の仲間として冒険者ギルドを除名されました』
「え? そ、そんな」
『事実です。タープさんも裏切って寝返ったとして軽蔑すべき人物だと責められ、それからミキさんは放心状態に陥って村中を彷徨い、その後、村の外へ出ていきました』
「それじゃミキを拘置して事情聴取なりしたのかな?」
『いえ、彼女はB級冒険者でしたし、力づくではとてもとても、それに素直に自ら報告を色々とされましたので、自由を制限しないという方針でギルドマスターが決を下しまして……』
「それじゃミキの行方は……」
『それ以来、村には戻って来ていないようです』
「最後にミキを見かけたのはいつですか?」
『私が見たのは三日前が最後です』
話し終えたネコミミ女史は悲しそうな眼をしてタープの顔を見ていた。たぶん彼は幼馴染のミキを追って村を出ていくことだろう。その事が言えないまま胸がキュっと締め付けられていた。
『タープさん、ミキさんは村の住民たちから責められました。不届き者を村に入れて村人たちの命を危険にさらしたと、それはもう酷く責められていました』
「……」
『ブラッコスさんとシローキさんがいつの間にか魔物に取って代わられ、その事を知っていたにも拘らず勇者様に救われるまで冒険者ギルドへも黙っていたのも問題になりました』
「―――そうですか」
(僕を守ろうとしたミキは、他の住人たちからは売女のような印象に変わり、扱われてしまったのか)
◇◇ 三日前
何故逃げるのか、自分には何もかもよく分からない。
とにかく足を動かさなければ、止まれば死んでしまうと恐れが湧きあがり歩き続ける。
もう寒くなる間近、部屋の外は寒いし村に帰ろう、でも外に向かって歩こう、これで良いんだわ私。
目が覚めた時、私は自分が何をしていたのか記憶が蘇った。
まざまざと色鮮やかに裏切りの行為。正常なら決してしない行為。
白く色づく溜息を吐く。溜息と共に魂が抜けるようだった。
私は何を間違えたのだろう。タープを救いたかっただけだった。でも村の住人たちからは責められた。
今でも私自身の考えが分からない。まして分かりたくない気持ちも強かった。
嗚咽を漏らしながら歩く私。愛するタープを裏切った私。
村をフラフラと彷徨い、村人の冷たい視線の反面、子供たちからは哀れみの目線が注がれる。
涙が止まらない、溢れる涙が手を滑らせる。
街中を泣き歩こうとも、何かが変わるわけでも無いことは分かっていた。
微かに残った理性が私の短い人生の終わりを告げてくる。お前ははしたない女だと。
心中でケジメをつけて、私の全てを心のゴミ箱に放り込んだ。
タープ、さようなら。会いたいけど、もう会えない。
◇◇
(ミキに今から追いつけるのかは分からない。でも探さなければ。だって幼馴染だから)



