勇者たちの使命

 ユアイ
「お兄ちゃん、ハグして欲しい」

 黄色系のパジャマに着替えたユアイがいた。似合ってて可愛い。

 ヨシタカ
「どうしたんだ、ユアイ、寂しいのか?」

 ユアイ
「うん。今夜は特にそう。ぎゅっとして欲しいの」

 ヨシタカ
「そうか、仕方がないな」

 ユアイ
「背中にちゃんと手を回してね。今日だけで好いから」

 ぼくは妹に近づき、腕の中にユアイを入れ、優しく包み込んだ。石鹸の匂いがした。そのまま抱き締めていると、彼女もぼくの背中に腕を回して力を込めた。

 ユアイ
「お兄ちゃん、頭もなでて欲しい」

 右手を使って妹の頭を撫でる。髪の毛も掬い上げ、頭皮をマッサージするように指を動かす。

 ユアイ
「お兄ちゃん……優しい」

 すごく幸せそうな顔をしている。暫くして胸の中からぼくの顔を見上げる。

 ユアイ
「お、お兄ちゃん、しゅきっ」

 ヨシタカ
「ぼくもユアイを大好きだよ。いつまでも一緒だからね」

 ユアイ
「その好きじゃないよっ! あ、あのね……今日だけのお願いがあるの。きいてくれる?」

 ヨシタカ
「なんだい、言ってごらん。叶えてあげるよ」

 ユアイ
「……」

 ヨシタカ
「?」

 ユアイ
「き…キ……キスして欲しい……」

 一気に真っ赤になったユアイ。

 ヨシタカ
「ああ、分かったよ」

 顎クイをして顔を近づけ、ほっぺにチュッとした。

 ヨシタカ
「ははーっ! キスって恥ずかしいなぁ。ぼくはさ、昔の恋人にだって一年で一回しかキスを許してもらえなかったんだよ。ふふ、結婚するまではキスもダメって言われてさ、なんとか説得して一年に一回だけど軽くチュッて許可貰ったよ。懐かしいな。胸がドキドキしちゃってさ。ぼくったら」

 ユアイ
「えーっ! 可愛い妹とハグしてる時に、ミズハねえちゃんの話するの? 信じらんないっ」

 ユアイ
「キスだって普通、キスだったらさ、唇にするパターンでしょ!? 私すごく覚悟要ったのに……、恥ずかしい妹と思われたくないのに、覚悟いったのに、もう、もう、お兄ちゃんのばかぁ~~~」

 いつものように「お兄ちゃんのばかっ」と叫んで部屋の扉を開け、走って自分の部屋へ戻ってしまった。解せん。

 何が悪かったのか、いつの間にか鈍感系ヘタレ主人公になってしまったぼくには、理解不能だった。

 いくら何でも怒らせてしまったのなら謝らなければならない。ユアイの部屋へ向かおうと廊下へ出た。

 ◇

「あれ? ミズハ……」

「えっ、ヨシタカくん……」

 ミズハが丁度、サトシの部屋からパジャマで出てきたところに出くわしてしまった。彼女の目が激しく泳いでいる。涙も溜めているような気がした。ま、まさか、サトシと……こんな時間にパジャマで二人きりだったなんて。

「……。ヨシタカくん、少し外でお話ししない? お伝えしないといけないことがあるの」

「それはサトシとの関係の事かい?」

「……うん」

 そのままの格好で宿のフロントを通り、外に出た。悪霊攻防戦のせいで外灯は殆どがついていない。周辺は真っ暗であるものの、月が三つあって満月なため若干薄明るい。ぼくたちは宿の壁にもたれかかって会話を始めた。

「ヨシタカくん、私ね、サトシ君と国の指示で婚約してるでしょ? だから今晩を最後に二人っきりになるのは止そうと思うの」

「み、ミズハ……」

「私ね、今さっき、サトシくんと関係したの。あなたの気持ちを知っていながら、ごめんね。キスも沢山したわ。こんな女なのに聖女だなんてショックよね。ごめんなさい」

 彼女は一気に話す。ぼくは頭の中が真っ白になって、身体から力が抜けていくのを感じた。どうして今、そんなことを話すんだ、やめてくれよ、ミズハ……。

 だけど、ぼくは堪えた。ぼくは、ミズハとサトシが結ばれて幸せになることが望みだった筈だ。だから一人前の男として、対応しよう。

「ミズハ、おめでとう。聖女だから婚前交渉は怒られるだろう、ぼくの心の中に今の話は閉まっておくね。ぼくを諦めさせてくれたんだろ? 寧ろありがとうと感謝しないとね」

 そう言って心の広い男性を演出し、ミズハの返事を聞かず走りだした。走って、走って、街を覆う防衛壁まで来た。背中を預け、ずるずると座り込む。

「ハハハ……失恋って辛いなぁ」

 独り言ちする。

 ◇

 ミズハ
「うぇ、うぇ、うぇ~~~~~~~~んっ!!!」

「うぇ~~~~~~~~~~~ん!」

「こうなるって分かってたのに、嘘ついちゃった。嘘に決まってるのに、ヨシタカくんを悲しませちゃった。うぇ~~~ん。うぇ~~~~~~~~ん!」

 …………ミズハの悲しむ泣き声は、長い間つづいた。