勇者たちの使命

 訓練を終了し、いつの間にか六年もの年月が過ぎた。どこから見ても凛とした高潔な姿に成長した若者たち。一方、もう一人の幼馴染は……

 ざわざわ……

 教会にいた職員をはじめとする人間は、彼女のあまりに完成された美しさに言葉を忘れていた。均整の整った体型、人離(ひとばな)れしたスタイル、動作と共に香り立つような女性フェロモン、埃とは無縁の美しい髪をした美少女が侍女・メイドたちを引き連れて扉を開けて入ってきたのである。

 ざわざわ…………

 女神とまごうような美少女は厳かに礼拝堂を通過し、微笑みを湛えながら奥へと進んでいく。

 コツコツ……神をまつる教会は静寂である。静粛な雰囲気は雑談すら(はばか)れる。しかし人は多い。彼女の足音は響いていた。すれ違う職員や神官たちはその美少女の香りにハッとし、男女問わず脳に直接、性的な欲求を浮かび上がらせる程であった。

 ざわざわ…………が止んだ。

 全ての人は女神様降臨かと勘違いするかの如く、時間が止まったかのような静寂の中、騎士の礼どころか平伏(ひれふ)しそうになった。

 彼女の周囲は、まるで神話のような光景であった。
 美術品のような美少女はミズハという名であったが、今は聖女と呼ばれている。

 彼女は周りの視線を(まと)わりつけながら協会トップである教皇猊下(げいか)の部屋へと向かっていた。







 ガキッ、ズルル、バァーン……


 彼女は足をひねらせてこけそうになったものの、踏ん張って姿勢を戻そうと足に力を入れ、制御しようと頑張った拍子に、壁に頭をぶつけてしまった。



「せ、聖女様……」

「い……いちゃい……泣きそうでしゅ……うう」

 ミズハはうるうるした目でメイドたちに心の中で助けを求めた。まるで捨て猫が新たな飼い主を求めるかの如く。

「聖女様、大丈夫ですか? なんだか凄い音がしましたけど。一旦、お部屋に戻りましょう」

「しゅ……しゅみましぇん……」

「はい、こちらの手を取ってください。他の者たちも一緒に戻りますね」

「いちゃかったです……ありがとうございましゅ……」

 部屋で寝かされるミズハ。不慣れな聖女公務の日頃の疲れもあって痛みに耐えていたら眠りこけてしまった。

 ◇

「はっ!」

 聖女ミズハは現在十八歳。教会の最上位階にある聖女特別室で目が覚めた。驚いたのは、頭の中に近い未来の出来事が、女神様から伝えられたからだ。

 それは加護とは異なる、まごうことなき神託であった。

「そ、そんな……」

 コンコン

「どうぞ、お入りください」

「お休みのところ失礼いたします」

 教皇
「聖女様、女神様からの神託が降りなさったのですね」

「はい、勇者パーティの全員を集めて下さいませんか? 魔王討伐の出発のお告げが参りました」

 教皇
「はっ、直ちに」

 教皇が部下の司教に目配せをすると、伝令がさっと走って行った。

 教皇
「聖女様、お告げは何と?」

 聖女ミズハ
「我が人類の勝利です。過去、どの勇者も成し遂げることが出来なかった偉業です」

 教皇
「それは御目出度いです。でも少しお顔が優れないご様子ですが……」

 聖女ミズハ
「それは大丈夫です。ご心配をおかけしましたね」

 つい額に手を持っていったが、タンコブは侍女らがヒールをかけて治していた。苦笑いで誤魔化すミズハであったが、ポンコツであることは自分で理解しているものの、今はみんなと会えることが嬉しかった。

 ◇

 聖女の間より下の階にある教皇の間。ここでは最上位の意思決定機関があり、今、勇者パーティの全員が集まり、会合が開かれている。

 加護の大イベントから王都へと引越し、各々の基礎技術を訓練及び修行で何年も過ごし、仲間同士の連携技も繰り返し鍛錬した。そして今、著しく成長し、心身ともに立派になったメンバーが再結集したのである。

 聖女ミズハ
「みなさん、喜んでください。魔王討伐は成し遂げられます。女神様からの近未来神託で明らかになりました。人類史上初です」

 勇者サトシ
「よし! これで我々もやる気が出るな」

 聖騎士ミキオ
「良かった、過去は全員が討伐失敗で亡くなったんだろ。生き延びられるっていう素晴らしい予言だな」

 大魔導士ユアイ
「こんなに嬉しいだなんて!」

 聖付与師ヨシタカ
「ぼくは涙が出てきましたよ」

 魔王討伐が史上初で成功すると聞き、全員がホッとしている。過去は全滅だったのだから、本当に朗報だ。

 結果が女神様の神託で出た以上、待つのではなく、なるべく早く魔王討伐を為さなければならない。旅の準備を急ぎで整える。

 教皇
「ポーション、エリクサー、食料、就寝具、防寒具、予備の武器、お供の騎士数十名は準備できております」

 教皇
「国王陛下との旅立ちの謁見、王都街道の出立のパレード、ご両親など親族への速達、七日後には間に合わせましょう」

 教皇
「料理、洗濯など身の回りのお世話のメイドは約十名、専用馬車もすぐにご用意できます」

 勇者サトシ
「承知いたしました。ご高配、感謝の極みでございます。教皇猊下(げいか)

 こうして、史上初の魔王討伐成功の明るい未来へ向かって、全員が出発日に向けて行動を開始した。

 勇者は未だ転移魔法を使えないため、馬車での移動を強いられた。なぜか空間魔法系は苦手だという。