はしたないのはオレの前だけ


「な、飯どうする?」
「オレ飯よりねみぃ~。昨日ほぼ完徹なんだよー……」
「ああ、ゼミの課題?」

 午前の講義を終え、眠そうな松枝、空腹そうな安田と教室を出た時。ブブッと、ポケットのスマホが震えた。

(……鷹谷)

『学食来れる?』

 それだけの短い文面を確認した目線が、無意識に人差し指へと流れる。この指をケガしたのは2日前のことだ。絆創膏はもう外したけれど。
 逃がす気はないと言ったあいつと別れてから、初めて連絡が来た。

(……今日断っても、多分あいつは会うまで連絡してくるよな)

「呼ばれた。俺学食行くわ」

 二人に告げ、鷹谷にも『行く』と返信して学食に向かう。

『奥の窓際。先食ってる』

 そうメッセージがあった通り、窓辺の2人席で食事している鷹谷はすぐに見つかった。俺も昼食を購入してから向かう。

「……よう」
「あ、来た?」

 学校では相変わらず眼鏡ボサ頭の鷹谷は、その見た目にはそぐわない綺麗な所作で焼き魚定食を食べていた。思わず「渋っ」とツッコんでしまう。

「俺和食派なの」
「へぇ……」

 俺はと言えば定番のカレーを、鷹谷の向かいに座ってとりあえず食べ始めた。
 こちらは気まずいものを抱えたままだが、鷹谷はいつも通りに見える。不機嫌な気配もない。特に会話もなく、黙々と食べ進めている。

(今日はまた何考えてんのかわかんねー……)

 やがて先に食事を終えた鷹谷は、一口水を飲んでから俺の顔を見た。

「今週末俺んち来ない?」
「はっ?」

 さらりと繰り出された誘いに、こっちはカレーを詰まらせそうになる。

「い、家っ?」
「そう。別に取って食わねーよ。健全なおうちデート」 
「健全って……、けど……」
「来いって。信じてもらえてなかったみたいだし、ガンガン進めてくことにしたから」
「っ……」

(またさらっとぶち込んできやがる……やっぱ怒ってんのか……?)

「それは……その……」

 デートの誘いにも乗っておきながら、告白を信じていなかったのはたしかだ。謝ったほうがいいのかもしれない。いや、まるきり信じていなかったわけでもないのだけれど。
 もだもだとそんな思案を巡らせている間に、鷹谷が再び口を開いた。

「責めてはねーよ。仕方ねーかなとは思ったし」

 言って、テーブルに出してあったスマホを手に取る。トントンと画面を操作しながら、

「だからとにかく来い。土曜でどう? 俺もバイトは14時までだからその後……」
「ま、待て待て。勝手に話し進めん──」
「来なかったら画像拡散」
「結局それかよ!」
「来るだろ?」

(ぐぅっ……)

「……本当に健全なんだろうな?」
「当たり前。でなきゃ意味ねー」
「わかったよ、行くよ」
「よし」

 鷹谷がうなずくのと同時に俺のスマホが震えた。見るまでもなく、またスケジュール共有されたのだろう。
 ──正直、もう頭の隅のほうでは諦めているというか、悟っている自分もいる。

 こいつが楽しげに、勝ち誇ったように笑う顔には、多分俺は適わないんだと。