夕食の香りに誘われて。
紬も、みんなが待つ厨房へ。
テーブルには、美味しそうな料理が所狭しと並んでいた。
ケーキの箱を冷蔵庫に仕舞い、紬は凪の隣に座る。
「おかえり。今日は何泣き虫?」
「怯え泣き虫……え、何でバレたの!」
「泣いた後はいつも、とろん。とした目になるんだよ」
「紬のこと、良く見てるんだね」
小悪魔的な笑みを浮かべ、珠景は紬にウインクを飛ばした。
咄嗟に目を逸らした紬の隣で、凪は平然と言葉を返す。
「一緒に暮らしてんだから、これくらい分かって当然だろ」
口元を緩ませ、紬は嬉しそうに頷く。
すると、鬼の目が光った。
「はい、そこ。聖夜にイチャつかない。独身の私が心苦しいでしょ」
缶ビールをグラスに注ぎながら、リンは不満げな声を漏らす。
「見苦しいの間違いだろ。もう諦めろよ」
「おーい。今のは聞き捨てならんぞ。私は、全ての言葉を拾い集めるんだから」
「言葉のゴミ収集車かよ。迷惑だから、早く嫁に行け」
「行けたら苦労せん。そういうあんたも、早く彼女作れば? あ、モテないか」
「んなことねぇ」「そんなことないっ!」
思わず、二人の話に割り込んでしまった。
熱を帯びていた会話が途切れ、空気が冷えていく。
「た、例えば誰よ? 高校の同級生?」
「……わ、私とか」
「「「え」」」
珠景とリン。凪の声が重なった。
想定外の言葉に、波紋が広がっていく。
弥栄は穏やかな表情で微笑み、温かいお茶を飲んだ。
瞬きを三回。
遅れて状況を理解する。
「……あっ。いや、これはその……えっと、あば、だば、さば……の煮付け、じゃなくて……その、うぅ」
茹で上がった顔を両手で隠し、恥ずかしさに押し潰されて俯く。
視界を閉ざしたことで、周りの様子が分からなくなった。
沈黙が続き、心臓の音だけが耳に届く。
「俺もお前が好き」
突然、耳元で囁かれた一言。
咄嗟に顔を上げ、凪に目を向ける。
唇が触れてしまいそうな距離に、凪の顔があった。
「……ッ!」
紬を見つめ、人差し指を口元に当てて微笑む。
「内緒な」
「う、うん。内緒っ」
紬は照れ笑いを浮かべ、豪華な料理と向き合う。
同時に、家族の顔が目に映った。
ニンマリ笑うリン。
楽しそうな珠景。
静観を極める弥栄。
ここに居るのは、紬と凪だけじゃない。
今日は、みんなで過ごすクリスマス・イブ。
「は、早く食べよ。お腹すいた!」
手を合わせ、『いただきます』を告げる。
特別な夜のひととき。
会話が弾み、心と胃袋が満たされていく。
日常の延長線に、彩りを添えて。
夕食を堪能した紬は、お風呂を済ませて早めの就寝。
今年も、素敵なプレゼントを貰えると信じて――
❀.*゚
昨日の夜が、思い出になる。
目を覚ますと、枕元にプレゼントが置かれていた。
眠気が残る目を擦り、ゆっくりと起き上がる。
「……んぅ。今年は何だろ?」
紬は包装を丁寧に剥がし、プレゼントの中身を確かめる。
中に入っていたのは、子供用の野球のグローブだった。凪とお揃いの水色。
「おおっ! え、凄い!」
子供のように目を輝かせ、紬はグローブを手に取った。
そして、珠景の部屋に突撃する。
「珠景、おはよっ!」
朝の光が射し込む和室。
珠景は布団の上に座り、小さな箱を見つめていた。
「おはよう。これって……危ないものだったりする……?」
「いや、それプレゼント! クリスマスの夜に、サンタさんがくれるの」
「……じゃあ、私が貰って良いってこと?」
「うん! 今年はグローブ貰った!」
紬は嬉しそうな表情で、水色のグローブを見せた。
「良かったね。凪君とキャッチボール出来るじゃん」
「私へたっぴだから、これで練習しなきゃ。珠景は何を貰った?」
珠景は包装を剥がして、中の箱を取り出す。
「これは……カメラ?」
珠景に届いたのは、ミラーレス一眼カメラだった。
「えっ! 良いカメラだよ、それ!」
「そうなの? でも、スマホのカメラあるし……」
「こっちの方が、もっと綺麗に撮れると思う。リンさんに、使い方聞いてみよ」
「早速、聞きに行こっか」
「うん! 私もこれ見せたい!」
クリスマスプレゼントを持って、紬と珠景はリンの部屋へ向かう。
寝ているリンの枕元には、日本酒の一升瓶が置かれていた。
ちなみに、凪はスポーツブランドのパーカーを貰ったらしい。
サンタさん、今年もありがとう――
