緩やかな風の流れにふわりと意識を取り戻した。どこか土の匂いがする。目を明けたつもりが真っ暗闇だった。
まだ夜なのかと思ったけれど、星の瞬きもわずかな灯火もなく、ひたすらに暗く冷たい。真っ暗な川を流れ漂うような、そんな妙に寂しく落ち着くような心持ち。
黄泉の国、か。そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
……私は死んだのだな。直前の記憶を思い出す。
ギロチンの衝撃はなかった。拍子抜けするほどあっけなく視界がバウンドして、意識を失った、気がする。
18年の人生が思い浮かぶ。走馬灯というものは死ぬ前に流れるものではなかったのかな。死んだ後なのに。そう思うと妙におかしくなってきた。
私の人生とは何だったのか。成すべきことは何も成せず、この有様だ。
公爵令嬢として生まれ、生まれる前からフリードリヒ王子の婚約者だった。だから幼少の、それも物心つく前から王子と縁があった。だから王子のことはよく知っている。フリードリヒ王子は温厚で他人に影響されやすい。人を信じすぎないように。そう何度言っても治らなかったその美点とも欠点ともつかないその部分をあの女、シャーロットに付け込まれたのだろう。あるいは何らかの魔法や薬などが用いられたのかも知れない。フリードリヒ王子はそれほど頭の悪い人間ではなかった。そう、信じたい。
私はあの善良な王子が好きであったのだ。
思い返せば全てがおかしくなったのは私と王子が学園に通い始めた3年前だ。
学園は貴族と優れた才能を持つ平民の子女のみが入学を許される。
同学年で入学したシャーロットは男爵令嬢にも拘らず王子のまわりをうろつき始めた。随分はしたないと思いはしたが、それでどうなるというわけでもない。第一、シャーロットは学生だ。
しかしシャーロットの周囲は不審だった。
この学園は学問はもちろん、それぞれ立場に応じた振る舞いを学ぶのも目的の1つだ。
私は公爵家、王家の剣として危険を排除する立場にある。だからそれら不審人物の調査を命じた。思えば王が病を患ったのもちょうどその頃だ。
上がってき報告書はそれなりに整えられていた。
シャーロットは男爵家養子。だがそれ以前の素性は不明。
そしてシャーロットの周囲に集まる人員は男爵や子爵、平民とその身分相応だが領地や出身がバラバラでキナ臭く思われた。男爵家や子爵家など、その周辺の貴族家と社交を行うのが精々だ。通常、遠くの領土と繋がる必要も資力もない。
だからその背後関係について、更なる調査を行った。
しかし調査は様々な妨害にあい、進捗は捗々しくなかった。
何かがギリギリだったのだろう。調査が奴らの尻尾を掴みかけていたのか、私が卒業と同時に王子と正式に結婚する予定だったからか。あるいは両方か。
おそらく何らかの時間的制約が迫っていたのだろう。そう思うほど、私と私の家族の公な暗殺は極めて乱暴だった。公爵家を廃して全員を処刑するなど、本来たった5日で行えるべくもない。
けれども全員殺してしまえば後から異は唱える者はない。唱えられない。
すると畢竟、私の行為は間に合わなかった点を除き、正しきことをなした。それに私にはこれ以上のことは不可能だった。諦めとも自嘲ともとれる溜息が口からこぼれる。致し方ない。尽くせる全力は尽くしたのだ。
私も、私の家族も王家のために存在する。常々そう自認して役目を果たした。だからよい。死んだ以上、どうしようもない。心残りはあるがあとはゆっくり眠ればいい。
そう思った私の思念は唐突に止まり、収斂し、何かの光に包まれた。
そうして急にざわざわと人の声が聞こえ、静かだった闇が慌ただしくなっていく。
「ミラベル⁉︎ ミラベルだな⁉︎ 返事しろ⁉︎」
「ぁ……ぅぐ……」
肩を揺らされ、急に視界が明るくなる。何、だ?
先程とは一転、視界が光に埋め尽くされた。目を、閉じられない。けれども世界はぼんやりしてよくわからない。体も上手く……体?
体は切り離されてしまったはずだ。
なんだか記憶がはっきりしない。つい今しがたより混濁している。まるで全てが泥になったかのように重い。
「ふい、ど、り」
「そうだ。フリードリヒだ。おい、間違いなくミラベルだ。進めろ!」
何だかぞわぞわと弱い電流が流れるような気持ち悪さがあふれ、体の表面がぐずぐずとしたものから土が固まるように引き締まっていく感覚が、する。気がつくとパチパチとまばたきをしていた。
揺れ動く視界も次第にその振動によって不純物が除去されるようにクリアになっていくに連れ、ゆっくりと焦点が定まっていく。ひゅごひゅごと喉をかすれる空気も通りが良くなり、先ほどと違い声帯を震わせて声を出す。
目の前の私を見つめる男の嬉しそうな表情に見覚えが合った。
「フリードリヒ、様?」
思わずそう尋ねるほど、フリードリヒは全体的に薄汚れ、先程、死ぬ直前に見たきらきらしい姿から変わり果てていた。けれども最後に見たよりしっかりとした視線と精悍さを増した風貌。それから顎髭。うん? 記憶より5は年を取っているような。
「そうだ、私だ。ミラベル、よかった」
そうして強く抱きしめられ、少々動転する。これまでフリードリヒとこのように身体的な接触はなかった。せいぜいエスコートの時に腕を借りる程度で。
改めて周囲を見渡せば、そこはかつては上等だっただろう丁度が設えられた部屋で、やはり全体的に古びていた。見覚えはない。
「一体、何が? 私は死んだのでは」
「そうだ。死んで、そして蘇った」
フリードリヒの瞳はこれまで見たよりもしっかりとし、そして私の目をまっすぐ捉えていた。
フリードリヒは私の処刑前後の顛末を述べた。
我がヒューゴー家の処分を決定したのは王だ。王とフリードリヒは完璧に整えられた資料を見た。ヒューゴー家が隣国と内通し転覆を図っていたことを赤裸々に示す資料だ。あまりにも整いすぎて、フリードリヒもそれ以外の結論を導き出せなかったほど。
それでも通常であればきちんと審議するはずだ。けれども傀儡となった幕僚の意見と病床の王の鶴の一声で処刑が決まった。フリードリヒが反論する隙もなく、玉璽の押された令書に基づき、定められた裁判と処刑が敢行された。
「本当に、あっという間のことだったんだ。私もそなたを尋ねて何度も屋敷を訪れた。しかし」
フリードリヒは唇を噛みしめる。けれど私は処刑直前の不審げなフリードリヒの表情を思い浮かべる。きっと屋敷にいた家族ではない誰かが追い返したのだろう。
王は直後に亡くなられ、わけのわからぬうちにフリードリヒが戴冠し、シャーロットと婚姻するというありえない状況に陥ったのだそうだ。前王毒殺の疑いでフリードリヒが排斥されたのは間もなくのこと、今はシャーロットの後ろ盾を名乗る貴族家が国を牛耳っているらしい。短い期間に守旧派の貴族の多くが処刑または国外追放された。
「何ということ」
「気がつけば全てが終わっていた。私はそなたになんということを……」
フリードリヒ王子、いや、今はただのフリードリヒの瞳には後悔がありありと浮かんでいる。
「それほど敵が……周到だったのでしょう」
私にも何もできなかったのだ。気弱な王子ができることなど、さらに少なかっただろう。
「今、王家はほぼ断えている。私以外は粛清された。旧来の臣下を頼り地下に潜り復権を狙っているが、味方はほぼ処刑され力が足りないのだ。それでその……先日偶然こちらの高名な死霊術師とお会いしてやむなく貴方を復活させたのだ。……けれどもそなたを処刑したのは私も同じだ。報いを受けよというなら受けよう」
「やむなく?」
「あ、ああ……そなたは安寧に眠りについた、と思っていて」
じっとフリードリヒを見つめれば、わずかにたじろぐ。
フリードリヒの置かれた立場を考えれば、フリードリヒにとってもあまりに急なことだったのだろう。そのことに少し、ほっとした。少なくともフリードリヒが積極的に私を排除しようとしたわけではなかったということを。そして心に小さく、熱が宿る。
「処刑のことはもう結構です。私はまずは何を致しましょう」
成すべきことは多い。立ち上がろうと膝に力を込めればぐらついた。
「まだ体が定着していないのだ。そなたを復活させたのは、何か、何か手がかりがないかと思ってのことだ。あの裁判を、全ての始まりを覆せるものがないか。それから謝りたかった。誠に申し訳ない」
フリードリヒが頭を下げようとするのを止める。
「ヒューゴー家は王家の剣です。王命に従うのに何の否やがありましょう」
改めて見るフリードリヒの額には、苦悩と後悔の皺が深く刻み込まれていた。フリードリヒも5年の間、辛酸を舐めたのだろう。
それにしても死霊術師? 背後に控える胡乱げなマントの男を見つめれば、少々怯えるようにうろたえた。私は死んだ。そうすると今の私はゾンビかグールだろうか? そういえば先程から呼吸をシていないような気はする。
「良いのです。ヒューゴー家は王家の剣。であるのに王家を守れなかったのですから、当家が不甲斐ないのです」
「ミラベル、そなたは本当に変わらぬな」
フリードリヒは少々呆れたように小さな息をつく。そうして窓の外から雷鳴が轟く。未だつながっているのだ、あの処刑の日と。それならばやることは明白だ。
「ですが手がかり、ですか。申し訳有りませんが、私は裁判で述べたとおり、処刑前は拉致監禁されておりました。しかし独自にシャーロットとその周りを調査しておりました。ライザックという私の従者は存命でしょうか」
「しかしヒューゴー家の一族郎党及び関係者は皆処刑された」
怯えるようなフリードリヒを落ち着く小さく微笑みかければ、フリードリヒはなぜだか怯えたように私を見る。ゾンビだからだろうか。けれど昔からこうだった気もする。
「僥倖です。では埋葬されているのですね。術士殿。追加で蘇りをお願いしたい」
まだ夜なのかと思ったけれど、星の瞬きもわずかな灯火もなく、ひたすらに暗く冷たい。真っ暗な川を流れ漂うような、そんな妙に寂しく落ち着くような心持ち。
黄泉の国、か。そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
……私は死んだのだな。直前の記憶を思い出す。
ギロチンの衝撃はなかった。拍子抜けするほどあっけなく視界がバウンドして、意識を失った、気がする。
18年の人生が思い浮かぶ。走馬灯というものは死ぬ前に流れるものではなかったのかな。死んだ後なのに。そう思うと妙におかしくなってきた。
私の人生とは何だったのか。成すべきことは何も成せず、この有様だ。
公爵令嬢として生まれ、生まれる前からフリードリヒ王子の婚約者だった。だから幼少の、それも物心つく前から王子と縁があった。だから王子のことはよく知っている。フリードリヒ王子は温厚で他人に影響されやすい。人を信じすぎないように。そう何度言っても治らなかったその美点とも欠点ともつかないその部分をあの女、シャーロットに付け込まれたのだろう。あるいは何らかの魔法や薬などが用いられたのかも知れない。フリードリヒ王子はそれほど頭の悪い人間ではなかった。そう、信じたい。
私はあの善良な王子が好きであったのだ。
思い返せば全てがおかしくなったのは私と王子が学園に通い始めた3年前だ。
学園は貴族と優れた才能を持つ平民の子女のみが入学を許される。
同学年で入学したシャーロットは男爵令嬢にも拘らず王子のまわりをうろつき始めた。随分はしたないと思いはしたが、それでどうなるというわけでもない。第一、シャーロットは学生だ。
しかしシャーロットの周囲は不審だった。
この学園は学問はもちろん、それぞれ立場に応じた振る舞いを学ぶのも目的の1つだ。
私は公爵家、王家の剣として危険を排除する立場にある。だからそれら不審人物の調査を命じた。思えば王が病を患ったのもちょうどその頃だ。
上がってき報告書はそれなりに整えられていた。
シャーロットは男爵家養子。だがそれ以前の素性は不明。
そしてシャーロットの周囲に集まる人員は男爵や子爵、平民とその身分相応だが領地や出身がバラバラでキナ臭く思われた。男爵家や子爵家など、その周辺の貴族家と社交を行うのが精々だ。通常、遠くの領土と繋がる必要も資力もない。
だからその背後関係について、更なる調査を行った。
しかし調査は様々な妨害にあい、進捗は捗々しくなかった。
何かがギリギリだったのだろう。調査が奴らの尻尾を掴みかけていたのか、私が卒業と同時に王子と正式に結婚する予定だったからか。あるいは両方か。
おそらく何らかの時間的制約が迫っていたのだろう。そう思うほど、私と私の家族の公な暗殺は極めて乱暴だった。公爵家を廃して全員を処刑するなど、本来たった5日で行えるべくもない。
けれども全員殺してしまえば後から異は唱える者はない。唱えられない。
すると畢竟、私の行為は間に合わなかった点を除き、正しきことをなした。それに私にはこれ以上のことは不可能だった。諦めとも自嘲ともとれる溜息が口からこぼれる。致し方ない。尽くせる全力は尽くしたのだ。
私も、私の家族も王家のために存在する。常々そう自認して役目を果たした。だからよい。死んだ以上、どうしようもない。心残りはあるがあとはゆっくり眠ればいい。
そう思った私の思念は唐突に止まり、収斂し、何かの光に包まれた。
そうして急にざわざわと人の声が聞こえ、静かだった闇が慌ただしくなっていく。
「ミラベル⁉︎ ミラベルだな⁉︎ 返事しろ⁉︎」
「ぁ……ぅぐ……」
肩を揺らされ、急に視界が明るくなる。何、だ?
先程とは一転、視界が光に埋め尽くされた。目を、閉じられない。けれども世界はぼんやりしてよくわからない。体も上手く……体?
体は切り離されてしまったはずだ。
なんだか記憶がはっきりしない。つい今しがたより混濁している。まるで全てが泥になったかのように重い。
「ふい、ど、り」
「そうだ。フリードリヒだ。おい、間違いなくミラベルだ。進めろ!」
何だかぞわぞわと弱い電流が流れるような気持ち悪さがあふれ、体の表面がぐずぐずとしたものから土が固まるように引き締まっていく感覚が、する。気がつくとパチパチとまばたきをしていた。
揺れ動く視界も次第にその振動によって不純物が除去されるようにクリアになっていくに連れ、ゆっくりと焦点が定まっていく。ひゅごひゅごと喉をかすれる空気も通りが良くなり、先ほどと違い声帯を震わせて声を出す。
目の前の私を見つめる男の嬉しそうな表情に見覚えが合った。
「フリードリヒ、様?」
思わずそう尋ねるほど、フリードリヒは全体的に薄汚れ、先程、死ぬ直前に見たきらきらしい姿から変わり果てていた。けれども最後に見たよりしっかりとした視線と精悍さを増した風貌。それから顎髭。うん? 記憶より5は年を取っているような。
「そうだ、私だ。ミラベル、よかった」
そうして強く抱きしめられ、少々動転する。これまでフリードリヒとこのように身体的な接触はなかった。せいぜいエスコートの時に腕を借りる程度で。
改めて周囲を見渡せば、そこはかつては上等だっただろう丁度が設えられた部屋で、やはり全体的に古びていた。見覚えはない。
「一体、何が? 私は死んだのでは」
「そうだ。死んで、そして蘇った」
フリードリヒの瞳はこれまで見たよりもしっかりとし、そして私の目をまっすぐ捉えていた。
フリードリヒは私の処刑前後の顛末を述べた。
我がヒューゴー家の処分を決定したのは王だ。王とフリードリヒは完璧に整えられた資料を見た。ヒューゴー家が隣国と内通し転覆を図っていたことを赤裸々に示す資料だ。あまりにも整いすぎて、フリードリヒもそれ以外の結論を導き出せなかったほど。
それでも通常であればきちんと審議するはずだ。けれども傀儡となった幕僚の意見と病床の王の鶴の一声で処刑が決まった。フリードリヒが反論する隙もなく、玉璽の押された令書に基づき、定められた裁判と処刑が敢行された。
「本当に、あっという間のことだったんだ。私もそなたを尋ねて何度も屋敷を訪れた。しかし」
フリードリヒは唇を噛みしめる。けれど私は処刑直前の不審げなフリードリヒの表情を思い浮かべる。きっと屋敷にいた家族ではない誰かが追い返したのだろう。
王は直後に亡くなられ、わけのわからぬうちにフリードリヒが戴冠し、シャーロットと婚姻するというありえない状況に陥ったのだそうだ。前王毒殺の疑いでフリードリヒが排斥されたのは間もなくのこと、今はシャーロットの後ろ盾を名乗る貴族家が国を牛耳っているらしい。短い期間に守旧派の貴族の多くが処刑または国外追放された。
「何ということ」
「気がつけば全てが終わっていた。私はそなたになんということを……」
フリードリヒ王子、いや、今はただのフリードリヒの瞳には後悔がありありと浮かんでいる。
「それほど敵が……周到だったのでしょう」
私にも何もできなかったのだ。気弱な王子ができることなど、さらに少なかっただろう。
「今、王家はほぼ断えている。私以外は粛清された。旧来の臣下を頼り地下に潜り復権を狙っているが、味方はほぼ処刑され力が足りないのだ。それでその……先日偶然こちらの高名な死霊術師とお会いしてやむなく貴方を復活させたのだ。……けれどもそなたを処刑したのは私も同じだ。報いを受けよというなら受けよう」
「やむなく?」
「あ、ああ……そなたは安寧に眠りについた、と思っていて」
じっとフリードリヒを見つめれば、わずかにたじろぐ。
フリードリヒの置かれた立場を考えれば、フリードリヒにとってもあまりに急なことだったのだろう。そのことに少し、ほっとした。少なくともフリードリヒが積極的に私を排除しようとしたわけではなかったということを。そして心に小さく、熱が宿る。
「処刑のことはもう結構です。私はまずは何を致しましょう」
成すべきことは多い。立ち上がろうと膝に力を込めればぐらついた。
「まだ体が定着していないのだ。そなたを復活させたのは、何か、何か手がかりがないかと思ってのことだ。あの裁判を、全ての始まりを覆せるものがないか。それから謝りたかった。誠に申し訳ない」
フリードリヒが頭を下げようとするのを止める。
「ヒューゴー家は王家の剣です。王命に従うのに何の否やがありましょう」
改めて見るフリードリヒの額には、苦悩と後悔の皺が深く刻み込まれていた。フリードリヒも5年の間、辛酸を舐めたのだろう。
それにしても死霊術師? 背後に控える胡乱げなマントの男を見つめれば、少々怯えるようにうろたえた。私は死んだ。そうすると今の私はゾンビかグールだろうか? そういえば先程から呼吸をシていないような気はする。
「良いのです。ヒューゴー家は王家の剣。であるのに王家を守れなかったのですから、当家が不甲斐ないのです」
「ミラベル、そなたは本当に変わらぬな」
フリードリヒは少々呆れたように小さな息をつく。そうして窓の外から雷鳴が轟く。未だつながっているのだ、あの処刑の日と。それならばやることは明白だ。
「ですが手がかり、ですか。申し訳有りませんが、私は裁判で述べたとおり、処刑前は拉致監禁されておりました。しかし独自にシャーロットとその周りを調査しておりました。ライザックという私の従者は存命でしょうか」
「しかしヒューゴー家の一族郎党及び関係者は皆処刑された」
怯えるようなフリードリヒを落ち着く小さく微笑みかければ、フリードリヒはなぜだか怯えたように私を見る。ゾンビだからだろうか。けれど昔からこうだった気もする。
「僥倖です。では埋葬されているのですね。術士殿。追加で蘇りをお願いしたい」



