合宿は秋休みの五日間のうち、真ん中の三日間を使って行われることになった。朝、学校に集合し、マイクロバスを使って隣県の合宿所へ向かうことになっている。
二年生たちは先に学校で備品などを準備する手筈になっていて、今日は天津とバラバラで学校に来た。
だけどさすがというべきか、まだ一年生は来る時間じゃないのにもう天津が二年生たちと混じって一緒に準備をしている。
天津は俺と目が合うと、すぐ傍まで走ってきた。
「おはようございます、先輩」
「おはよ。てか、早すぎん? 一年はゆっくりでいいのに」
「やだなぁ、先輩たちだけに準備を任せておけませんって!」
朝からにっこりと爽やかな笑顔を浮かべて、また準備に戻っていく。
やがて他の一年たちも合流し、ここからは俺たちがやります! とほとんど仕事を奪われた。
実際、こうなるから最初の準備だけは二年でやろうということになったのだけれど、今年の一年はかなり優秀らしい。合宿中は嫌でもいろんなことをしてもらわなければならないけど、これなら率先してやってくれそうだ。
そうして各部でまとまって四台のバスに乗り込むことになったけれど、男バスは人が多いからという理由で数人が女バスの方へ移動することになった。
こうなると誰が女バスのバスに乗るか、じゃんけんになるわけで。
男たちは単純だから、できれば女バスと一緒がいいなんて言い出すヤツが出てくる。逆に俺は男ばかりの方が気楽だからと、早々にそのじゃんけん大会から抜け出した。
「先輩が抜けるなら俺もこっちー」
「うっしゃ! 天津が抜けた!」
「これでさらに勝機が……!」
正直、女バスのほうは天津が抜けてしまって残念そうにしているけどな。とは、言わないことにして勝負の行く末を見守る。
天津はそれすらも興味がないのか、ツンツンと俺の肩を叩いた。
「ね、先輩。もう座っちゃいましょーよ」
「いいけど、一年で固まらなくていいわけ?」
「アイツ等とはいつでも話せるもん」
一応、天津は他の一年生たちと仲がいいはずだ。移動教室や体育の授業で校舎を歩いているときに、他の部員と一緒にいる姿をよく見かける。
いまの会話を聞いたら、他の部員たちが泣いてしまいそうだ。だけど、自分のことを優先してくれて嬉しい気持ちもある。
……って、なに彼氏面してるんだろう。本格的に天津の彼氏ポジションってやつに、脳内が侵食され始めているかもしれない。
「先輩は窓際でいいですか?」
「うん。てか、天津は通路側でいいの?」
「もち! だってもし先輩が寝ちゃったら、通路側だとみんなが先輩の寝顔見ることになんじゃん。そんなの嫌だもん、俺」
「さすがに起きたばかりなのに寝ないよ」
「だとしても、俺が先輩のこと独り占めしたいんで!」
朝から熱烈なアピールをされて胸のあたりがムズムズする。
結局、天津によって窓側へ押し込められてる間に、誰が女バスの方へ行くのかも決定したらしい。
ようやくバスが進み始めて、社内ではゲーム大会とお菓子交換パーティーがそこかしこで始まっていた。
「なぁ、醒井も天津もポテチいる?」
「うわっ……よく朝からそんなもん食えるな」
「だって俺、朝食ってねーもん」
「なおさらだろ……」
青井が通路側から身を乗り出してポテチの袋を向けてくる。
チョコレートもクッキーもあるぞ~と言って、ドヤ顔で鞄の中身を見せてきた。
「俺はいいよ」
「あっそ。天津は?」
「クッキーなら食べたいです」
「ほいよー」
隣で青井からクッキーをもらい、美味しそうに頬張る天津を眺める。さっきはいらないと言ったけれど、人がおいしそうに食べているのを見ると心が惹かれてしまうわけで……。
「先輩も一口いります?」
「いや、俺は……」
「じーっと見てたくせに。ほら、あーん」
「あ、あーん……?」
天津から差し出されて、食べかけのクッキーに齧りつく。サクッとクッキーが崩れて、口の中いっぱいにバターの甘さが広がった。
「はい、もう一口」
「ん……」
与えられるがままにモグモグとクッキーを頬張っていたら、天津の肩越しに青井と目が合う。
青井はニヤニヤと笑うと、「醒井と天津がイチャイチャしてるー!」と騒ぎ始めた。
「クッキーをあーんってしてた」
「し、してな……いや、してたけどイチャイチャしてたわけじゃない!」
「え〜〜そうかなぁ?」
青井が意地悪な顔で言う。すると、天津が俺の肩に頭を擦り寄せながら右手を握った。
「そーなんです。俺と先輩、イチャイチャタイム中なんで邪魔しないでください」
「ちょ、天津……!」
「それと俺、このまま先輩と一緒に寝るんで静かにしててくださーい」
青井からの視線を物ともせず、天津が俺の手を握ったまま目を瞑ってしまう。
それから本当に天津の方が眠ってしまって、周囲に国宝級の美しい寝顔を晒していた。
バスが揺れるたびに頭の位置を探して、何度も肩に擦り寄ってくる天津が可愛くて仕方ない。
「お前が周りに寝顔を晒してどうすんだよ……」
そうぽつりと呟いて、俺は天津の寝顔を見ながら自分が窓側に座ったことを後悔したのだった。
二年生たちは先に学校で備品などを準備する手筈になっていて、今日は天津とバラバラで学校に来た。
だけどさすがというべきか、まだ一年生は来る時間じゃないのにもう天津が二年生たちと混じって一緒に準備をしている。
天津は俺と目が合うと、すぐ傍まで走ってきた。
「おはようございます、先輩」
「おはよ。てか、早すぎん? 一年はゆっくりでいいのに」
「やだなぁ、先輩たちだけに準備を任せておけませんって!」
朝からにっこりと爽やかな笑顔を浮かべて、また準備に戻っていく。
やがて他の一年たちも合流し、ここからは俺たちがやります! とほとんど仕事を奪われた。
実際、こうなるから最初の準備だけは二年でやろうということになったのだけれど、今年の一年はかなり優秀らしい。合宿中は嫌でもいろんなことをしてもらわなければならないけど、これなら率先してやってくれそうだ。
そうして各部でまとまって四台のバスに乗り込むことになったけれど、男バスは人が多いからという理由で数人が女バスの方へ移動することになった。
こうなると誰が女バスのバスに乗るか、じゃんけんになるわけで。
男たちは単純だから、できれば女バスと一緒がいいなんて言い出すヤツが出てくる。逆に俺は男ばかりの方が気楽だからと、早々にそのじゃんけん大会から抜け出した。
「先輩が抜けるなら俺もこっちー」
「うっしゃ! 天津が抜けた!」
「これでさらに勝機が……!」
正直、女バスのほうは天津が抜けてしまって残念そうにしているけどな。とは、言わないことにして勝負の行く末を見守る。
天津はそれすらも興味がないのか、ツンツンと俺の肩を叩いた。
「ね、先輩。もう座っちゃいましょーよ」
「いいけど、一年で固まらなくていいわけ?」
「アイツ等とはいつでも話せるもん」
一応、天津は他の一年生たちと仲がいいはずだ。移動教室や体育の授業で校舎を歩いているときに、他の部員と一緒にいる姿をよく見かける。
いまの会話を聞いたら、他の部員たちが泣いてしまいそうだ。だけど、自分のことを優先してくれて嬉しい気持ちもある。
……って、なに彼氏面してるんだろう。本格的に天津の彼氏ポジションってやつに、脳内が侵食され始めているかもしれない。
「先輩は窓際でいいですか?」
「うん。てか、天津は通路側でいいの?」
「もち! だってもし先輩が寝ちゃったら、通路側だとみんなが先輩の寝顔見ることになんじゃん。そんなの嫌だもん、俺」
「さすがに起きたばかりなのに寝ないよ」
「だとしても、俺が先輩のこと独り占めしたいんで!」
朝から熱烈なアピールをされて胸のあたりがムズムズする。
結局、天津によって窓側へ押し込められてる間に、誰が女バスの方へ行くのかも決定したらしい。
ようやくバスが進み始めて、社内ではゲーム大会とお菓子交換パーティーがそこかしこで始まっていた。
「なぁ、醒井も天津もポテチいる?」
「うわっ……よく朝からそんなもん食えるな」
「だって俺、朝食ってねーもん」
「なおさらだろ……」
青井が通路側から身を乗り出してポテチの袋を向けてくる。
チョコレートもクッキーもあるぞ~と言って、ドヤ顔で鞄の中身を見せてきた。
「俺はいいよ」
「あっそ。天津は?」
「クッキーなら食べたいです」
「ほいよー」
隣で青井からクッキーをもらい、美味しそうに頬張る天津を眺める。さっきはいらないと言ったけれど、人がおいしそうに食べているのを見ると心が惹かれてしまうわけで……。
「先輩も一口いります?」
「いや、俺は……」
「じーっと見てたくせに。ほら、あーん」
「あ、あーん……?」
天津から差し出されて、食べかけのクッキーに齧りつく。サクッとクッキーが崩れて、口の中いっぱいにバターの甘さが広がった。
「はい、もう一口」
「ん……」
与えられるがままにモグモグとクッキーを頬張っていたら、天津の肩越しに青井と目が合う。
青井はニヤニヤと笑うと、「醒井と天津がイチャイチャしてるー!」と騒ぎ始めた。
「クッキーをあーんってしてた」
「し、してな……いや、してたけどイチャイチャしてたわけじゃない!」
「え〜〜そうかなぁ?」
青井が意地悪な顔で言う。すると、天津が俺の肩に頭を擦り寄せながら右手を握った。
「そーなんです。俺と先輩、イチャイチャタイム中なんで邪魔しないでください」
「ちょ、天津……!」
「それと俺、このまま先輩と一緒に寝るんで静かにしててくださーい」
青井からの視線を物ともせず、天津が俺の手を握ったまま目を瞑ってしまう。
それから本当に天津の方が眠ってしまって、周囲に国宝級の美しい寝顔を晒していた。
バスが揺れるたびに頭の位置を探して、何度も肩に擦り寄ってくる天津が可愛くて仕方ない。
「お前が周りに寝顔を晒してどうすんだよ……」
そうぽつりと呟いて、俺は天津の寝顔を見ながら自分が窓側に座ったことを後悔したのだった。



