君との恋は放物線を描くように

 ◇

 放課後、部室で着替えていると、突然副部長の(さこ)がみんなの前で手を叩いて「ちゅうもーく」と叫んだ。
 そんなに広くない部室だから、峪の声がキーンと鼓膜の中で響く。やれ、うるせぇだの、叫ぶなだの野次が飛んだところで、隣にいた部長が副部長の肩をギリギリと掴んだ。

「みんなの気を引いてくれるのは助かるけど真面目やれ。な?」
「……ウッス」

 眼鏡の下の圧が怖い。穏やかだけど怖いと言われるのはこれが所以だ。どちらかというと峪の方がムードメーカーでカリスマ気質があるのだが、それだと話が進まない、まとまらないという理由でも西田が部長に選ばれた。
 いまではみんな、それで正解だったと思っている。実際の力関係を見ても、それは明らかだった。

「……よし、全員集まって……はないけど、もう言っちゃうな。みんな喜べ。今年も秋合宿が決まった」

「はぁ〜!?」「うわ最悪……」「地獄の秋合宿じゃん……」と二年がげんなりした顔で言う。
 だけど部長がボソリと「今回は箱の関係で女バスも一緒だ」と言った瞬間、雄叫びが上がった。

「え、マジ!?」
「それはテンション上がる」
「男だけの合宿とかやってらんねぇもんな」

 そう口々に言うのは、女バスとなかなか練習メニューが合わず、一緒になることが少ないからだ。
 うちはスポーツに力を入れている高校であるがゆえに、広い体育館もすぐいっぱいなってしまう。だから、体育館を使用する部はなるべくバッティングしないように、その日の練習メニューをあらかじめ共有していた。
 だから、同じバスケ部でありながら、なかなか女バスとは一緒にならない。さらに今回は広い体育館の使用料を折半して借りるという名目で、男バレと女バレも一緒になるそうだ。
 その情報が入った瞬間、部室内が一気にどこぞのカーニバルみたいに沸き立った。

「お疲れ様でーす。……って、なんスか、この騒ぎは……」

 遅れてやってきた天津が、副部長から肩を抱かれている。秋合宿が決まったと聞いた瞬間、天津の目が輝いた。

「マジっスか? やったー!」
「しかも今回は女バスと女バレも一緒だ」
「いや、それは別にどうでもいいっス。俺はたくさん練習できるのが嬉しーんで」
「はぁ〜!? お前、モテるからってそういうこと言うな!」

 ドスドスと腹にパンチを受ける天津が、必死になって峪の攻撃から逃れてくる。
 俺の隣に落ち着いた天津が、軽く肘で突いてきた。

「合宿、楽しみっスね」
「うん。たくさん練習できるし」
「それもあるけど……。俺は先輩といつもより長く一緒にいられるから嬉しい」

 誰にも聞こえないように、コソッと天津が耳打ちをしてくる。
 そのとき、昼間のことを思い出して、じわりと耳たぶが熱くなった。

「変なこと言うな、バカ」
「あ、思い出しちゃいました? 俺が先輩としたいって言ったこと。大丈夫ですよ、いきなり手を出したりはしませんって」
「……思い出したのはそっちのことじゃない」

 これ以上、顔が真っ赤になるのは嫌だと天津から距離を取る。
 だけど天津はニヤニヤと笑ったままで、俺は逃げるようにコートへ向かったのだった。