君との恋は放物線を描くように

 天津と仮初(?)の恋人になって二週間。
 俺は自転車を漕いで、朝から駅に向かっていた。
 というのも天津から、どうせ一緒に朝練するんだから登校も一緒にしましょうよ〜! と泣きつかれたのだ。
 天津曰く、付き合っているのだから、恋人っぽいことをもうちょっとしたいらしい。
 そもそも俺たちは正式に付き合っているのか……? と疑問が残るものの、天津の言う通りどうせ体育館で一緒になるのだ。それならば、と了承したのだけれど……。

『すみません、お名前聞いてもいいですか?』
『あの、連絡先聞いてもいいですか?』
『彼女さんはいますか?』

 朝、改札の出口で立っている天津は大変絵になるらしく、俺が行くと100%見知らぬ他校の女子生徒に声をかけられている。
 よくまぁ、朝の七時前から連絡先交換ができるものだ。しかも、声をかけてくる女子たちはみんなモデルみたいに可愛い。
 おまけに天津は邪険にすることなく、彼女たちからの申し出を丁寧に断っているからそれにもモヤモヤした。
 そんなふうにイケメンスマイルと優しさを振りまくから、毎朝天津の周りだけナンパスポットになってるんじゃないか、という文句が喉元まで出かかる。

「あ、先輩!」

 邪魔にならないように少し離れたところで見ていたというのに、天津が俺に気付いてブンブンと手を振ってくれる。

 あぁ、眩しい。だけど、お前の横にいる女の子は悲しそうな顔してるぞ。

「もう、早く声かけてくださいよ」
「いや、お前の周りがナンパスポット化してたから」
「ナンパスポットって! 俺、先輩の連絡先だけあれば十分なんですけどね〜」

 あはは、と笑う天津に、こんなことで喜ぶ自分が悲しくなる。わかりやすく機嫌を取られていることに気付いてはいたけれど、嬉しいものは嬉しかった。

 だって、自分にしか懐かない大型犬は特別可愛く感じるじゃん? ちょっとした優越感みたいな。
 たぶん、そんな類いの嬉しさだ。

「先輩、今日はちょっと遅かったですね」
「あー……実は親が体調不良でさ。朝ご飯とか代わりに準備してたら遅くなっちゃった」
「朝から偉すぎません……? てか、料理できるんスか?」
「簡単なものだけだよ。オムレツ作ったり、カレー作ったり、それくらいならできるから。今日の朝も、パン焼いたり目玉焼き作ったりしただけ」
「それでもすごいですよ! いいなぁ、俺も先輩の手料理食べたい」

 俺が料理しているところを想像しているのか、「絶対エプロン姿可愛いだろうな」「あーんしてくれないかな」とかいろいろ言われて、ジトッとした目を天津に向ける。天津は俺の視線に気付いたのか、だらしなく緩んだ頬を引き締めるように口元をキュッと結んだ。

「やだなぁ、冗談ですよ」
「冗談に聞こえないけど……」
「あ、てか、朝ご飯なかったってことは昼もないってことですか?」
「そうなるね」
「じゃあ、お昼一緒に購買行きましょ!」
「いいよ。でも、パン争奪戦に勝てるかな?」
「そこはバスケ部の意地を見せましょーよ」

 昼休みが終わったらお互いに購買まで走り、パンを確保するという約束をとりつける。
 からからと自転車を押して歩いていたら、あっという間に学校まで辿り着いてしまった。

「俺、自転車置くから先に行ってていいよ」
「いや、一緒に行きます」
「そう? じゃあ、すぐ置いてくる」

 まだガラガラの駐輪場に向かい、天津を待たせないようにさっと自転車を突っ込む。すると、横に見慣れた青色の自転車が停まった。

「あれ、アキ?」
「あ、鳴じゃん。おはよー」
「おはよ。そっちも朝練?」
「うん。バスケ部も大変だなー」
「こっちは自主練だし、日課みたいなものだから」
「すげぇ、サッカー部は強制参加だよ。しかも最近、練習メニュー増やされてさぁ……」

 同じクラスで友人の秋保悠士(あきほゆうし)――通称アキがげんなりとした顔で呟く。

 アキはサッカー部のエースで、一年の頃から既にレギュラーメンバーだった。どこかサッカー部らしさのない柔らかな物腰をしているアキは、密かに女子から人気がある。
 天津と比べたら、天津の方がわかりやすくイケメンでモテるけれど、アキも日に焼けた茶髪と肌が健康的でかっこよかった。しかも俺より背が高い。
 本当はアキみたいな高身長男子がバスケするべきだよなぁ、なんて羨ましく思っていると、なぜか駐輪場の外で待っていたはずの天津が隣に立っていた。

「先輩、まだですか?」
「あ、ごめん。もう行くよ。じゃあな、アキ」
「うん。鳴も練習頑張れよー!」

 アキに手を振って、少し先を歩く天津の背中を追いかける。
 いつもなら歩幅を合わせてくれるのに、今日の天津は合わせてくれなかった。それどころか、
「あれ、鍵が開いてない……」
「あ、じゃあ俺、取ってきますよ。先輩はここで待ってて」
 と、いつもなら行動を共にしたがる天津が俺を置いてさっさと行ってしまう。
 明らかに今日の天津は俺に対して素っ気なかった。

「駐輪場で待たせたこと、怒ってんのかな……?」

 怒る理由としたらそれしかない。でも、アキと話したのは時間にして数十秒だ。自転車を置きながらだったし、大して待たせたつもりはなかったんだけどなぁ……。

「あれ、今日は醒井だけ?」

 おはよーと挨拶しながら、同じ二年バスケ部で体格のいい青井と長身の佐々木がやってくる。
 二人が合流したところで、鍵を持った天津がやってきた。

「おはようございます」
「おー、おはよう。やっぱり天津もセットか〜」

 俺も天津も必ず朝練をしているので、もはや青井たちからはセット扱いだ。
 早速、準備ができたらみんなでスリーの練習をしようという流れになり、天津とは会話もなく朝練を終えてしまう。
 練習着から制服に着替え終わったあとも、天津は他の一年生たちとさっさと出て行ってしまって、俺はどうして怒っているのか聞けないまま午前の授業を受けた。