君との恋は放物線を描くように

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 無事に朝練を終えて、四限目の授業を受けた俺は、お弁当を持って三階にある空き教室に向かっていた。
 今日は月に一度のミーティングだ。一年と二年が集まって昼ご飯を食べながら、今後の練習メニューや体制について議論する日である。
 一年生と二年生を合わせると部員は三十人いて、そのうちレギュラーになれるのはベンチも含めて十人だ。これでもうちの部は入部時にテストがあって、高校からバスケを始める場合はバスケ同好会というまたバスケ部とは違った部に入ることになる。

 うちは部活動が盛んな高校で、ほとんどの部が所謂強豪と言われている。県大会まで進む部がほとんどで、インターハイまで行く部もざらではない。

 ただ実を言うとバスケ部はここ数年不振だった。だけどコーチを替え、中学から活躍していた部員を引き入れたことで、県大会までは難なく行けるようになった。
 それもこれも引退した三年生たちの強さと、途中でコーチから起用され、ポイントゲッターとして活躍していた天津の功績が大きい。
 だから自然と部員たちも天津のところに集まるし、本人も人当たりがよくてムードメーカーなところがあるから、常に和気あいあいとしている。
 案の定、空き教室に入ったら既に天津の周りには囲いができていて、俺は彼等の邪魔にならないよう、廊下側の一番端に座った。

「せーんぱい! 隣いいですか?」
「お、おう」

 離れて座ったというのに、俺のことを見つけた天津が隣にやってくる。
 朝のことなどなかったかのように爽やかな笑みを浮かべる天津に、俺のほうが意識してしまった。

「てか、一年生たちと食べなくていいの?」
「いいです。いつも一緒なんで」
「うっわ〜。ひっで〜。天津は醒井先輩にいっつもべったりだよなぁ」

 どうやら天津が移動してきたことで他の一年生たちも移動してきたらしい。一気に俺の周りが一年生で囲まれてしまって、あとからやってきた同じ二年の奴等が俺を見て「一年を従えてる?」なんて言い出した。

「違うから。気付いたらこうなってただけ。っていうか、暑苦しいからみんな散れー」
「えぇ〜。俺も醒井先輩の隣がいい〜。いつも天津に取られるし」
「あっ、こら先輩の隣は俺! 他の奴らは五メートル空けて座れ」
「それ、逆に俺がみんなから避けられてるみたいになるからやめて……」

 天津が強引に散らしたせいなのか、今度は周りと微妙な距離が出来てしまって落ち着かない。
 そうこうしているうちに部長の西田がやってきてミーティングが始まった。

「この前の県大会の結果を受けて、練習量を増やしたいと思います!」
「なら、日曜も朝だけやるか〜」
「えぇ、日曜は今まで通り休みがいいでーす!」
「練習メニューを見直して、もっと効率よくやろう」

 各々が思っていることを口にし、会議が滞りなく進んでいく。

 うちの部は最初に部員同士でチームをどうしていきたいのかを話し合い、それをコーチに上げて、細かい部分を詰めていくのが決まりになっている。
 部員同士でどうするか決めても、目標に足りないと思われたら練習量を増やされるし、逆にオーバーワークすぎると判断されたら減らされることもある。
 最近の俺たちは、県大会の決勝でギリギリ負けたこともあり練習に燃えていた。来年こそはインターハイにいって優勝するぞ、というのが目標である。
 俺はいまのメンバー的に、それができると思っている。なんていったって天津がいるからだ。
 ただ問題は俺がレギュラーに選ばれるのか、なのだけれど。

「いまもらった意見は副部長とまとめてコーチに伝えておくから。ただ、目標を高く掲げた分、練習はきつくなるから覚悟しとけよ」

 部長がニヤリと笑う。それにはみんなも引き攣った笑みを零していた。
 眼鏡をかけた大人しそうな部長は、やると決めたらやるタイプで、見た目に反してSっ気がある。
 これからは日曜も潰れそうだ……と、溜め息をついていると、天津が「よしっ!」とガッツポーズしていた。

「本当に天津は練習好きだよな」
「もちろん。強くなるためにここに来たんですから」

 そう言い切る天津が眩しい。
 実際、天津は誰よりも努力家だ。まだ入って間もないのに、率先して朝練をしている。
 過去にはそんな天津をよく思わない先輩たちから、「天津の練習量についていけない」「足並みを揃えろよ」なんて意見が出たこともある。それによって部全体が揉めたこともあったけれど、俺は努力できる天津が格好いいと思う。
 俺もレギュラーになれるように頑張らなくちゃと気合を入れて弁当を食べ始めたら、横からにゅっと箸が伸びてきた。

「先輩、卵焼きちょーだい」
「あっ、こら! 勝手に取るな」
「俺の卵焼きもあげるから」
「なんで卵焼き同士を交換するんだよ……」

 それだとあんまり意味がない気がするけれど、俺は天津の弁当箱から綺麗に巻かれた卵焼きをいただく。
 天津の家の卵焼きは甘めの味付けらしく、優しい甘みが口いっぱいに広がった。

「先輩の卵焼きはしょっぱいんスね」
「うん。卵焼きっていうよりはだし巻きに近いのかも」
「しょっぱいのおいしー。もっとちょーだい」
「ダメ。自分の分がなくなる」
「ケチ」

 後輩モードできゅるきゅると迫ってくる天津を無視して卵焼きを頬張る。そんなやり取りをしていたら、周りからイチャイチャしてるーと揶揄われた。

「ちょっと、周りは黙ってて。俺と先輩のイチャイチャタイムを邪魔しないで」
「また始まったよ」
「天津、本当に醒井先輩のこと好きよなー」
「あったりまえじゃん。バスケ上手いし、可愛いし」
「いや、どっちも俺にはない要素だけど……?」

 残念ながら天津よりバスケは上手くないし、可愛くもない。だけど、後輩たちは何故かうんうんと頷いていた。

「わかる。醒井先輩のアドバイスって的確だし」
「気付いたらボールが手元にあるっていうか」
「よくコート全体を俯瞰して見てますよね」

 そんなふうに後輩から褒められてちょっと気恥ずかしい。すると、二年の奴等もなぜか俺の親みたいな雰囲気を出して、腕を組みながらうんうんと頷いていた。

「わかる。醒井は欲しいときにドンピシャなパスくれるんだよな」
「ここに居てくれ、ってところに居るし」
「小さいからこそ、動きが俊敏っていうか」

 みんな口々に褒めるものだから、逆に萎縮してしまう。そんなことない、って言おうとしたけれど、その前に天津が口を開いた。

「先輩も俺と一緒で、誰よりも長く練習してるから。だから、技術が追いついてきたんですよ。ね?」

 太陽のような笑顔を見せる天津に焼かれそうになる。

 あぁ、もう、恥ずかしい……。

 俺はくるりと背を向けると、みんなから喜んでいる顔が見えないようにご飯をかき込んだ。