歌舞伎町青宵ポリ

 シェアハウスの部屋の灯りは落としてあった。


 カーテンのない掃き出し窓から、歌舞伎町のネオンが射し込む。


 青。

 ピンク。

 紫。


 ゆっくり色を変えながら、四人の影を静かに揺らしていた。


 キングサイズのベッドには、四人が並んでいる。


 ──正確には、三人と、一人。


 カイだけが端にいた。

 少し距離を置き、身体を固くしたまま。

 近いのに、遠い。

 心臓がうるさいくらい鳴っていた。


(え……ほんとに、始まっちゃうんだ……)


 声に出さず、喉の奥で呟く。


 隣では、レンがMIUの髪へ触れていた。

 その指先はゆっくりで、迷いがない。

 反対側からは、ユウキが静かにMIUの腰を引き寄せる。


 言葉はない。


 ただ、呼吸だけが少しずつ重なっていく。

 MIUの小さな吐息が、湿った熱として部屋へ溶けた。


 カイは動けなかった。

 見ているだけで胸の奥が熱くなる。

 手を伸ばせば届く距離なのに。

 それでも、ベッドの端で自分の身体を抱え込んだまま動けない。


 三人の吐息が混ざり合い、甘く湿った空気がゆっくり満ちていく。


 MIUの小さな声。

 レンの低い笑い。

 ユウキの静かな囁き。


 それらが混ざり合うたび、カイの鼓動は容赦なく早くなっていった。


 喉が渇く。

 目が逸らせない。

 でも、近づけない。

 触れたら最後、この壊れそうな関係を、自分が壊してしまう気がして。


 そのとき。


「カイくん……」


 名前を呼ばれ、肩がびくっと揺れた。

 MIUが、まっすぐこちらを見ている。

 ネオンに濡れた黒い瞳が、柔らかく光っていた。


「……こっち、おいで」


 細い指が、そっと差し出される。


 迷ったのは、一瞬だけだった。

 でも、その指先があまりにも温かそうで。

 カイは震える手で、その指を掴んだ。


 触れた瞬間。

 体温が一気に流れ込んでくる。


 逃げられない。

 もう、“外側”にはいられない。

 カイはMIUに手を引かれるまま、レンを跨いで彼女の隣へ潜り込んだ。

 レンが低く笑う。


「……やっと来たか」


 ユウキも静かにカイを見る。


「遠慮はいらない」


 その言葉で、最後の逃げ道が消えた。

 MIUの手が、そっとカイの腰へ触れる。

 軽く触れただけなのに、身体の奥がびくっと跳ねた。


 ──近い。


 近すぎる。


 MIUの体温が、こんなにも近くにある。

 指先から流れ込んだ熱が、そのまま胸を焼いていく。


 呼吸がうまくできない。

 視界が黒い髪で埋まり、甘い匂いが逃げ場をなくしていく。


(無理だ……)


 そう思ったときには、もう遅かった。

 身体の奥が勝手に反応していた。

 下腹部が熱く疼き、硬く張りつめる。

 慌てて太ももを閉じる。

 けれど、もう隠しきれなかった。


 レンが先に気づく。


「……隠せてねぇよ」


 カイの呼吸が止まった。

 視線がゆっくり落ちていく。


 もう誤魔化せない。


 緊張と興奮で張りつめた熱が、はっきり形を主張していた。


 一瞬、沈黙が落ちる。


 そして。

 ユウキがぽつりと漏らした。


「……おいおい」


 珍しく、声に驚きが混じっている。


「ダークホースじゃん」


 MIUの瞳も潤み、じっとカイを見つめていた。

 頬がぽっと赤くなる。


 レンが笑いながら、MIUの耳元へ囁く。


「なんだよ、いいもん持ってんじゃねぇか」


 四人の夜は、まだ始まったばかりだった。