<6話:桜の木の下からまたはじまる>
気付けばあっという間に高校一年目の学校生活が幕を閉じた。
殊、秋以降……葵斗と恋人ごっこなんてするようになってからの毎日は映像を三倍速で再生しているような速さで過ぎ去って行った気がする。
修了式を終えた春休み。家の近くの小さな公園に腕を張っている桜の蕾の具合を見るのは昔からの癖。
春の訪れを待ち侘びる、この季節が俺は好きだ。桜前線が西から東へと伸びてくるタイミングを見計らって、毎日蕾の膨らみを観察する。
今年は葵斗に貰ったカメラがあるから、毎日一枚写真を撮ってはマジックで日付を入れてスクラップブックに挟んでいった。
三月も下旬に差し掛かった頃。パッ、と一輪花片が綻んだのを見て、俺は胸の奥がぽわっと暖かくなった気がした。
すぐに一枚写真を撮って、葵斗にメッセージを送る。
『葵斗、桜が咲いた。そっちはどう?』
葵斗と俺の家は学校を真ん中にして逆方向。俺は海側で、葵斗は山側だ。山、と言っても本格的な山ではなく、木々の多い高台の上、という感じ。坂が多い地域だということは路線が同じだから知っていることだ。
『こっちはまだ蕾が固いかな……』
一時間後くらいにきた返事は、葵斗も近くの桜を見に行ったからなのかも知れない。
そっか、と返すより先にメッセージの受信音がした。
送り主は葵斗だ。こちらの返事を待たずに続けてメッセージが送られてくるのは珍しい。
『明後日、都合が悪くなかったら、君の家の近くに桜を撮りに行っても良い?』
成程、詰まりはデートの誘いという訳か。
花見、と云うにはまだ早いけれど、駄目だと断る理由も別にない。
『良いよ。時間も何時でも良い。駅まで迎えに行く』
そう返したら、じゃあ十三時頃に駅に着くようにする、と葵斗。
それに対して『了解』のスタンプを押し、既読が付くのを待ってからアプリを閉じる。
明日、明後日は気温が少し高くなると朝の天気予報が告げていた。明後日になったら、今日よりももう少し蕾も綻んでいるかも知れない。
そうだと良いな、なんて無意識に思いながら、俺は一輪の桜を撮った写真とカメラをブルゾンのポケット左右にそれぞれ突っ込んだ。
翌々日、約束通り駅の改札前に行けば、葵斗は改札横の花屋を覗いていた。
声を掛ければ、あぁ千理、と花から俺に視線が移る。
「葵斗、昼食べた?」
「軽く」
「んじゃ、コンビニ寄って行こ。俺食べてないんだ」
昼飯を食べなかったのはわざと。桜の下で花見気分を味わいたくて、敢えて公園で食べようと思ったのだ。
「昨日、今日と暖かかっただろ? 桜、結構咲いてきた」
朝見に行ったら五分咲きよりは咲いていたと笑って見せる。
「わざわざ確認して来たの?」
「あぁ。家から近いし。朝の散歩がてら」
「そっか」
「ここから二十分くらい歩くけど、歩く? バスなら十分で着くけど」
「うーん、いや、折角だから歩きたいかな」
今日も比較的暖かいし、陽射しを浴びながら春を感じるのは好きなんだ、と目を細める葵斗の口許は仄かな弧を描いている。
他の奴が見ても気付かないレベルの小さな微動だけど。
葵斗と親密になって半年近く。たまに写真部の部員と葵斗込みで話をしたりするけれど、葵斗の表情の変化に気付くのは俺だけみたいだった。
俺からしてみたら、まあまあ判り易いと思うんだけど。
まあそれはさて置き。肩を並べて駅から十分くらいのコンビニで各々欲しいものを調達してから、また十分程歩く。
「ほら、あの公園。小さいけど木はそこそこ大きいんだ」
公園を指差して少し歩幅を大きくする。
「あ、朝よりも咲いてる」
「咲き始めると早いもんね」
公園のベンチに腰を落とすと、丁度頭上に淡い淡い紅色が広がる。その下で俺はおにぎりのビニールを剥き、葵斗はペットボトルのミルクティーの蓋を捻った。
「綺麗だな」
「うん、綺麗だね」
「葵斗のとこはまだ?」
「ここよりは全然だけど、少し開いてきたよ、」
そう云いながらペットボトルを横に置いた葵斗はゆっくり腰を上げて俺と向かい合うようなポジションに立つと頭上の桜を撮り始めた。
葵斗の撮る景色はぼやけているからこそ、桜なんかは薄紅霞のようになる。
暗室に貼ってあった写真がそうだった。俺だけにピントが合っていた写真だ。ある意味、俺たちの始まりの写真。
「千理」
「うん?」
「僕の家の方も桜が満開になったら、一緒に見てくれる……?」
規模は大きくないけれど自然公園が近くにあるのだと続ける葵斗に、俺はひとつ返事で頷く。
「春休みの予定は特にないからいつでも呼び出してくれていーよ」
ふたつ目のおにぎりの最後の一口を飲み込んで答える。
「……君、友達多そうなイメージなのに……」
本当に約束ひとつないの? と不思議そうな葵斗にからからと笑う。
「学校の友達は学校での友達だよ」
学外で遊ぶことなんて殆どない。そもそも写真部の部室に通い詰めて毎日葵斗と一緒に帰ってて。休みの日も葵斗と会ってるのに他の奴と遊ぶ時間なんてないし。
悪戯めかしてそう云えば、葵斗は微かに嬉しそうな、だけどそれよりももっと僅かにだけ申し訳なさそうな顔をするものだから、葵斗が気にすることじゃない、と肩を揺する。
「葵斗と一緒に居るのは俺の意思だし」
一緒に居ようと思ってなきゃ部室に通わないって。そうだろ? とポラロイドカメラをボディバッグから取り出したら、葵斗はやっとホッとしたような顔をした。
次に葵斗からの誘いの連絡が入ったのは四日後のこと。春休みがあと数日で終わるという日だった。
今度は葵斗の家の最寄り駅で待ち合わせ。待ち合わせ時間は予想外に遅めで十六時だった。
「葵斗のことだから、朝早いんじゃないかって思ってた」
落ち合って早々揶揄っぽく云ったら、それも考えたけど、と葵斗。
「君は朝が弱いじゃないか」
「年明けと同じだよ。徹夜しておけば遅刻しないって」
「徹夜は身体に良くない」
それに、と葵斗は小さな声で続けた。
この時間しか見れない景色を千理と一緒に見たいんだ、と。
自然公園まではバスを使っても二十分以上掛かるからと交通機関を使った。
「おぉー、凄い、桜に囲まれてる!」
自然公園を歩み進めると、大きな広場に出た。
四方、というよりは円形に桜の木が広場を切り抜くように腕を広げている。満開ではないにしろ、七分咲き以上は花開いていそうだ。
ぐるりとゆっくり広場を一周してから、カメラを取り出す。
葵斗も同じようにカメラのレンズキャップを外して、ほぼ満開になっている桜を撮り始めた。
「桜って不思議だよな」
俺の呟きを「どうして?」と拾われ、上手く説明は出来ないんだけとど……と語尾を濁す。
「何となく嬉しくて懐かしい気持ちになるっていうか……」
勿論毎年見てるから、その思い出はあると思うんだけど。
それよりももっと奥深いところで郷愁じみたものを感じるというか。
どうしてだろうな。
肩を竦めて見せたら、葵斗は何とも表現し難い顔をしながら俺をファインダーに収めた。
「胸の隅にいつか、どこかでの幸せな思い出があるのかも知れない」
いつか、どこかでの。その部分だけ僅かにながら強調されたのは気の所為だろうか。
それよりも、と葵斗は俺の手首を引いて広場を抜けて眺望の良い場所に連れて行かれた。
「おわ、夕陽がすご……」
でかい……と呟いて目を奪われた夕陽は大きく濃い橙色。
今まで見た夕陽の中で、ダントツな気がする。そろり、俺の手首を掴んでいた手が離れる。
「ここは別称、夕陽の丘とも云われててね……」
この景色を見せたかったのだと横目に俺を見てくる葵斗の顔は優しい。
「……写真、撮っとかなきゃ」
反射的にシャッターを切ってから、あぁと一人で苦笑してしまう。すぐに写真を撮らなきゃ、なんて、すっかり葵斗に染められているみたいだ。
葵斗もカメラを構えてパシャパシャとシャッターを切っていた。
陽が沈むのは早く、あっという間に空が群青に染まってしまう。
「そろそろ帰ろう」
風邪を引く前に。すい、と踵を返した葵斗の背を追い、自然公園から出る。確かに山側だけあって俺の家周辺よりはやや寒い。
十五分程バスを待って、駅に降り立つ。
時刻は十九時前。腹が減ったからファーストフード店に入らないか、と葵斗を見たら、彼は構わないと頷いた。
ガサツにバーガーに食い付く俺と違い、葵斗はちまちまと口端汚すことなく上品に噛み付いていた。
食べながら喋ると葵斗は怒るから、食べている最中は黙々と。
そうして食べ終わってから少し喋り、俺たちは解散した。
帰りの電車の中。撮った写真を一枚一枚順番を入れ替えて眺める。写真紙は珍しく一箱分綺麗に使い切っていた。
ほぼ満開の桜は珍しいものではないというのに、自分が撮った写真からは不思議と機嫌の良い微かな笑声が聞こえてきそうな気がした。
桜の下から始まった俺たちの物語。
まだ俺が葵斗に持ち掛けたゲームの行く末は何も明らかになっていないけれども、まだ一年……あと一年猶予はある。
何なら、延長戦に持ち越すことだって、俺がそうと云えばそうなるだろう。
俺と葵斗の関係を繋ぐ『春』はまだまだ始まったばかりだ。
気付けばあっという間に高校一年目の学校生活が幕を閉じた。
殊、秋以降……葵斗と恋人ごっこなんてするようになってからの毎日は映像を三倍速で再生しているような速さで過ぎ去って行った気がする。
修了式を終えた春休み。家の近くの小さな公園に腕を張っている桜の蕾の具合を見るのは昔からの癖。
春の訪れを待ち侘びる、この季節が俺は好きだ。桜前線が西から東へと伸びてくるタイミングを見計らって、毎日蕾の膨らみを観察する。
今年は葵斗に貰ったカメラがあるから、毎日一枚写真を撮ってはマジックで日付を入れてスクラップブックに挟んでいった。
三月も下旬に差し掛かった頃。パッ、と一輪花片が綻んだのを見て、俺は胸の奥がぽわっと暖かくなった気がした。
すぐに一枚写真を撮って、葵斗にメッセージを送る。
『葵斗、桜が咲いた。そっちはどう?』
葵斗と俺の家は学校を真ん中にして逆方向。俺は海側で、葵斗は山側だ。山、と言っても本格的な山ではなく、木々の多い高台の上、という感じ。坂が多い地域だということは路線が同じだから知っていることだ。
『こっちはまだ蕾が固いかな……』
一時間後くらいにきた返事は、葵斗も近くの桜を見に行ったからなのかも知れない。
そっか、と返すより先にメッセージの受信音がした。
送り主は葵斗だ。こちらの返事を待たずに続けてメッセージが送られてくるのは珍しい。
『明後日、都合が悪くなかったら、君の家の近くに桜を撮りに行っても良い?』
成程、詰まりはデートの誘いという訳か。
花見、と云うにはまだ早いけれど、駄目だと断る理由も別にない。
『良いよ。時間も何時でも良い。駅まで迎えに行く』
そう返したら、じゃあ十三時頃に駅に着くようにする、と葵斗。
それに対して『了解』のスタンプを押し、既読が付くのを待ってからアプリを閉じる。
明日、明後日は気温が少し高くなると朝の天気予報が告げていた。明後日になったら、今日よりももう少し蕾も綻んでいるかも知れない。
そうだと良いな、なんて無意識に思いながら、俺は一輪の桜を撮った写真とカメラをブルゾンのポケット左右にそれぞれ突っ込んだ。
翌々日、約束通り駅の改札前に行けば、葵斗は改札横の花屋を覗いていた。
声を掛ければ、あぁ千理、と花から俺に視線が移る。
「葵斗、昼食べた?」
「軽く」
「んじゃ、コンビニ寄って行こ。俺食べてないんだ」
昼飯を食べなかったのはわざと。桜の下で花見気分を味わいたくて、敢えて公園で食べようと思ったのだ。
「昨日、今日と暖かかっただろ? 桜、結構咲いてきた」
朝見に行ったら五分咲きよりは咲いていたと笑って見せる。
「わざわざ確認して来たの?」
「あぁ。家から近いし。朝の散歩がてら」
「そっか」
「ここから二十分くらい歩くけど、歩く? バスなら十分で着くけど」
「うーん、いや、折角だから歩きたいかな」
今日も比較的暖かいし、陽射しを浴びながら春を感じるのは好きなんだ、と目を細める葵斗の口許は仄かな弧を描いている。
他の奴が見ても気付かないレベルの小さな微動だけど。
葵斗と親密になって半年近く。たまに写真部の部員と葵斗込みで話をしたりするけれど、葵斗の表情の変化に気付くのは俺だけみたいだった。
俺からしてみたら、まあまあ判り易いと思うんだけど。
まあそれはさて置き。肩を並べて駅から十分くらいのコンビニで各々欲しいものを調達してから、また十分程歩く。
「ほら、あの公園。小さいけど木はそこそこ大きいんだ」
公園を指差して少し歩幅を大きくする。
「あ、朝よりも咲いてる」
「咲き始めると早いもんね」
公園のベンチに腰を落とすと、丁度頭上に淡い淡い紅色が広がる。その下で俺はおにぎりのビニールを剥き、葵斗はペットボトルのミルクティーの蓋を捻った。
「綺麗だな」
「うん、綺麗だね」
「葵斗のとこはまだ?」
「ここよりは全然だけど、少し開いてきたよ、」
そう云いながらペットボトルを横に置いた葵斗はゆっくり腰を上げて俺と向かい合うようなポジションに立つと頭上の桜を撮り始めた。
葵斗の撮る景色はぼやけているからこそ、桜なんかは薄紅霞のようになる。
暗室に貼ってあった写真がそうだった。俺だけにピントが合っていた写真だ。ある意味、俺たちの始まりの写真。
「千理」
「うん?」
「僕の家の方も桜が満開になったら、一緒に見てくれる……?」
規模は大きくないけれど自然公園が近くにあるのだと続ける葵斗に、俺はひとつ返事で頷く。
「春休みの予定は特にないからいつでも呼び出してくれていーよ」
ふたつ目のおにぎりの最後の一口を飲み込んで答える。
「……君、友達多そうなイメージなのに……」
本当に約束ひとつないの? と不思議そうな葵斗にからからと笑う。
「学校の友達は学校での友達だよ」
学外で遊ぶことなんて殆どない。そもそも写真部の部室に通い詰めて毎日葵斗と一緒に帰ってて。休みの日も葵斗と会ってるのに他の奴と遊ぶ時間なんてないし。
悪戯めかしてそう云えば、葵斗は微かに嬉しそうな、だけどそれよりももっと僅かにだけ申し訳なさそうな顔をするものだから、葵斗が気にすることじゃない、と肩を揺する。
「葵斗と一緒に居るのは俺の意思だし」
一緒に居ようと思ってなきゃ部室に通わないって。そうだろ? とポラロイドカメラをボディバッグから取り出したら、葵斗はやっとホッとしたような顔をした。
次に葵斗からの誘いの連絡が入ったのは四日後のこと。春休みがあと数日で終わるという日だった。
今度は葵斗の家の最寄り駅で待ち合わせ。待ち合わせ時間は予想外に遅めで十六時だった。
「葵斗のことだから、朝早いんじゃないかって思ってた」
落ち合って早々揶揄っぽく云ったら、それも考えたけど、と葵斗。
「君は朝が弱いじゃないか」
「年明けと同じだよ。徹夜しておけば遅刻しないって」
「徹夜は身体に良くない」
それに、と葵斗は小さな声で続けた。
この時間しか見れない景色を千理と一緒に見たいんだ、と。
自然公園まではバスを使っても二十分以上掛かるからと交通機関を使った。
「おぉー、凄い、桜に囲まれてる!」
自然公園を歩み進めると、大きな広場に出た。
四方、というよりは円形に桜の木が広場を切り抜くように腕を広げている。満開ではないにしろ、七分咲き以上は花開いていそうだ。
ぐるりとゆっくり広場を一周してから、カメラを取り出す。
葵斗も同じようにカメラのレンズキャップを外して、ほぼ満開になっている桜を撮り始めた。
「桜って不思議だよな」
俺の呟きを「どうして?」と拾われ、上手く説明は出来ないんだけとど……と語尾を濁す。
「何となく嬉しくて懐かしい気持ちになるっていうか……」
勿論毎年見てるから、その思い出はあると思うんだけど。
それよりももっと奥深いところで郷愁じみたものを感じるというか。
どうしてだろうな。
肩を竦めて見せたら、葵斗は何とも表現し難い顔をしながら俺をファインダーに収めた。
「胸の隅にいつか、どこかでの幸せな思い出があるのかも知れない」
いつか、どこかでの。その部分だけ僅かにながら強調されたのは気の所為だろうか。
それよりも、と葵斗は俺の手首を引いて広場を抜けて眺望の良い場所に連れて行かれた。
「おわ、夕陽がすご……」
でかい……と呟いて目を奪われた夕陽は大きく濃い橙色。
今まで見た夕陽の中で、ダントツな気がする。そろり、俺の手首を掴んでいた手が離れる。
「ここは別称、夕陽の丘とも云われててね……」
この景色を見せたかったのだと横目に俺を見てくる葵斗の顔は優しい。
「……写真、撮っとかなきゃ」
反射的にシャッターを切ってから、あぁと一人で苦笑してしまう。すぐに写真を撮らなきゃ、なんて、すっかり葵斗に染められているみたいだ。
葵斗もカメラを構えてパシャパシャとシャッターを切っていた。
陽が沈むのは早く、あっという間に空が群青に染まってしまう。
「そろそろ帰ろう」
風邪を引く前に。すい、と踵を返した葵斗の背を追い、自然公園から出る。確かに山側だけあって俺の家周辺よりはやや寒い。
十五分程バスを待って、駅に降り立つ。
時刻は十九時前。腹が減ったからファーストフード店に入らないか、と葵斗を見たら、彼は構わないと頷いた。
ガサツにバーガーに食い付く俺と違い、葵斗はちまちまと口端汚すことなく上品に噛み付いていた。
食べながら喋ると葵斗は怒るから、食べている最中は黙々と。
そうして食べ終わってから少し喋り、俺たちは解散した。
帰りの電車の中。撮った写真を一枚一枚順番を入れ替えて眺める。写真紙は珍しく一箱分綺麗に使い切っていた。
ほぼ満開の桜は珍しいものではないというのに、自分が撮った写真からは不思議と機嫌の良い微かな笑声が聞こえてきそうな気がした。
桜の下から始まった俺たちの物語。
まだ俺が葵斗に持ち掛けたゲームの行く末は何も明らかになっていないけれども、まだ一年……あと一年猶予はある。
何なら、延長戦に持ち越すことだって、俺がそうと云えばそうなるだろう。
俺と葵斗の関係を繋ぐ『春』はまだまだ始まったばかりだ。



