そうこうするうちに冬になり、蓮君たちはウィンターカップの初戦を勝利で飾った。
ホッとする間もなく、明日も試合だ。決勝まで連日試合があることには驚いたけど、蓮君たちは「集中が切れなくていい」と言っていた。そういうところも頼もしくてかっこいいと思う。
会場のロビーで待っていると、蓮君がこちらに向かってくる。他校の生徒にも目を引く人たちはいるけど、やっぱり僕は、かっこよくて可愛い蓮君に目がいってしまう。「遅くなってごめん」と眉尻を下げて謝ってくれる顔も、最近はどうにも可愛く見えて、ちょっとだけ困っていた。
「蓮君。初戦突破おめでとう!」
「ありがと、真尋」
蓮君は目を細めて、僕の頭をポンと撫でる。二ヶ月くらい前から、蓮君は本当に嬉しい時には、こうして僕の頭を撫でるようになった。蓮君の大きな手に撫でられると何だか安心する。ちゃんと家ではお兄ちゃんなんだな、と心がふわふわした。
外に出ると、冷たい空気に首を竦めてしてしまう。天気予報でも、明日と明後日はホワイトクリスマスになりそうだと言っていた。なのに、油断したなあ……分厚い方のマフラーしてくれば良かった。
「これ巻いとけ」
蓮君が、ふわふわのマフラーをぐるぐる巻きにしてくれる。
「わっ、ありがとうっ。でも蓮君は運動したんだし、汗が冷えたら風邪ひいちゃうよ」
「完璧に拭いてきたし、下に分厚いの着てるから平気」
そう言って笑う蓮君からは、ほのかにミントの香りがした。
でも僕の方が、もこもこになるくらい着てると思う……。
「俺は筋肉量多いから」
「うっ、確かに……」
「実はこれ、真尋にクリスマスプレゼント」
「えっ……」
「真尋が好きな北欧っぽい色にしたんだけど」
淡いブルーとイエローで、僕が巻いても派手すぎない。ふわふわでもふもふだから、蓮君のマフラーにしては珍しいなと思っていた。
「モテるはずだよ……」
思わず本音がこぼれる。まさか友達の僕にまで、こんなにスマートにクリスマスプレゼントをくれるなんて。
多分、前に一緒に遊びに行った時に、『一人暮らししたら北欧っぽい家具や食器で揃えたい』と言ったのを覚えてくれていたんだろう。そんな些細なことを覚えてくれてるなんて、嬉しすぎてどうしたらいいのかな。
……というのがまた顔に出ていたのか、蓮君はにこにこしながら僕を見ていた。
「ありがとう、蓮君。もう顔に出ちゃったと思うけど……すごく嬉しい。綺麗な色で大好き。大事に使うね」
マフラーを掴むと、もふぅっと最高の手触りがした。
「僕もクリスマスケーキ、張り切って作るね」
「うん。楽しみにしてる」
蓮君は嬉しそうに笑って、僕の頭をまた撫でた。
ケーキは生ものだし、素人の僕が作って万が一にも何かあったらいけないから、全日程が終わってから渡すことにしていた。これは、ますます張り切らなくちゃ。
駅に向って歩きながら、試合中のことを思い出す。
「やっぱりウィンターカップって、気迫が違うね。蓮君もいつもより鋭い感じで、かっこよかったよ」
「ん。好きな子にかっこいいとこ見せたかったから、頑張った」
いつも以上に優しい顔をして、そう言った。
好きな子……蓮君からそういう話、初めて聞いたな。友達とはいえ、何でも話すわけじゃないけど……知らなかったことがショックだ。胸がチクチクモヤモヤした。
「そっか、応援に来てくれたんだ。よかったね」
「え? ……あ。……しまった」
蓮君は突然頭を抱えて、大きな溜め息をついた。
「油断した……ってか、変に誤解しそう………………絶対するだろ……」
蓮君は何かを呟きながら、僕の方をチラチラ見る。それから、よし、と言って、僕の手を引いて建物の陰に移動した。
蓮君は、僕の目をまっすぐに見据える。
「真尋だよ」
「え?」
「好きな子の名前。櫻井 真尋」
「え……」
同姓同名? と一瞬思ったけど、僕の思考を読んだかのように、蓮君は僕を指さした。
「あ、えっと……」
本当に僕だった。驚きすぎて実感がないけど、ひとまず、『友達として好き』という意味じゃないのはわかった。
「えっと……僕で、合ってるんだね……」
「反応可愛すぎ……ってか、気持ち悪がられてなさそうで、安心した」
「気持ち悪くないよ? びっくりはしたけど」
知り合ったばかりの頃に蓮君が、性別よりもメンヘラ化するかどうかの方が大事だと言っていた。だから、嫌悪感も違和感もない。
……そう。蓮君にとって大事なのは、蓮君を好きかどうかだ。
「確認なんだけど……僕が蓮君を好きだったら、お菓子渡せなくなるよね」
それが大前提だ。蓮君を好きじゃない人間が作ったものだから、今まで食べてくれていたんだ。
「蓮君が美味しそうに食べてくれるのが嬉しいし、これからもいっぱい食べて貰いたいと思ってるんだけど……」
「あー……それが自分の首絞めてたのか……」
蓮君はまた頭を抱える。でもすぐに顔を上げて、初めて見せる真剣な表情で僕を見据えた。
「真尋が作ってくれるなら、何でも食べたいよ。真尋なら、愛情だけ入れてくれるって信じてるし」
「あ、愛情……」
「多分これからもずっと、俺がどんなに頑張っても、料理への愛情には勝てそうにないし」
あ、そっちの愛情か。それならたっぷり詰まっている。料理より好きになるものは、確かにないかも。ということも伝わってしまったのか、蓮君を苦笑させてしまった。
「突然言われても困るよな。ごめん」
そう言ってから、緊張したように表情を固くする。
「大会が終わったら、まずは俺とデートっぽく、でも今まで通り友達としてで大丈夫だから、二人きりで遊んでください」
まるで恋愛番組の告白のように手を差し出される。
断ったら、明日からの試合に影響するかもしれない。
……というのは、建前だ。蓮君の気持ちへの答えは出せていないのに、僕は、これからも蓮君と遊べるのが嬉しかった。
「うん。僕の方こそ、お願いします」
「っ、やった……!」
手を握ると、蓮君は子供っぽく喜ぶ。どうしよう。可愛くて胸がきゅうっとした。
「蓮君は行きたいところある? あ、その前に、一緒に初詣に行きたいな。陽向君たちも一緒に」
気が早いかもしれないけど、決勝まで残ったら、その後は大晦日だ。友達との初詣はずっと憧れていた。
「陽向たちにも話しとくな。真尋が外泊平気なら、そのまま海に、初日の出観に行かね?」
「行くっ」
「決まりな。多分保護者として、陽向の兄貴もついてくるけど」
「心強いよ」
みんなは毎年行ってるのかな? その中に混ぜて貰えるなんて、とても嬉しい。
「俺、絶対優勝するから。だから……優勝したら、春休みに俺と一緒に、近場でいいから一泊の旅行しませんか」
「うんっ。楽しみにしてるね」
修学旅行以外で友達とどこかに泊まるのも初めてだ。こんなに楽しみなことがあっていいのかな。
「……死んでも優勝する」
「生きて優勝して欲しいっ。僕も全力で応援するねっ」
旅行も楽しみだけど、蓮君たちが優勝して喜ぶ姿を見たい。インターハイでは準優勝だったから、尚更だ。
あの時は蓮君が足を傷めちゃったんだよね……冷蔵庫から出した缶を落として、当たりどころが悪かったのか、足の指にヒビが入っちゃって。
「一泊だけど、手は出さないから」
「手? ……あっ、ごめんっ」
蓮君から、さっき告白されたんだった……。
嬉しい予定に気を取られて、つい普通に会話してしまった。
「真尋はそのままでいて。楽しそうにしてる真尋が好き。でもたまには、こんな感じで意識して貰うけど」
「う、うん……」
「友達としての俺がいなくなるわけじゃないから。これからも変わらずに、よろしく」
「うん。僕の方こそ、よろしくね」
また手を差し出されて、ぎゅっと握った。
「真尋。これもずっと言いたかったんだけど」
「うん、なに?」
「櫻井 真尋って、綺麗な名前だな」
「っ……!」
「初めて知った時から、ずっと言いたかった」
まっすぐに僕を見つめて、優しく微笑む。こんなに甘い表情は、初めてで……。
「蓮君は顔がいいねっ……」
高熱が出たみたいに頭がボーッとして、そんなことを言ってしまった。
「ありがと。真尋に褒められると嬉しい」
失敗だった。ますます甘いどころか、甘くて眩しい笑顔が返ってきた。
蓮君のことを友達と思ってるはずなのに、こんな笑顔を見せられたらドキドキしてしまう。だって、顔がいい。それに、近い。とても近い。
「今日の意識して貰う時間は終わり。帰ろ、真尋」
蓮君は僕から離れて、普段通りの笑顔に戻った。
ホッと息を吐いて、火照った顔を半分マフラーに埋める。ふわふわして落ち着くのに、心臓がまだドキドキしている。
まだ友達としての好きだけど……その好きが変わるのも、時間の問題かもしれない。
-END-


