駅から少し離れた店は、そこまで混んでいなかった。
高瀬君が僕の分もアプリからまとめてモバイルオーダーしてくれて、電子マネーでやり取りしている間に受け取り連絡がきた。アプリだと早いし便利だ。僕もあとでインストールしよう。
「受け取ってくるね」
高瀬君が立ち上がる前に、席を離れる。代わりにオーダーして貰ったし、なにより高瀬君、お腹すいてそうだし。でもクッキーを食べてよくしゃべるようになったから、応急処置にはなるみたいでよかった。
「……なんか、すごいな」
一番奥の席なのに、そこだけ輝いて見える。そうだ。三人はいわゆる一軍男子だ。
こうして離れて見ると、僕の場違いさがよくわかる。……なんて考えてたら、また伝わっちゃうのかな。
みんなは僕のことを友達だと言ってくれるし、仲良くしてくれる。恐縮はするけど、態度を変えるのは失礼だ。そもそも僕、いつも空腹な高瀬君を放っておけないんだよね。
今も、俺はポテトと飲み物で、高瀬君は……ん? 多くない?
「高瀬君。コーラと、バーガー四個で合ってる?」
「合ってる。ありがと。え、櫻井それだけ?」
「うん」
「少食とは聞いてたけど……バーガーいる? ナゲット追加しようか?」
心配そうな顔でスマホを手に取った。
「大丈夫だよ。帰ってから夕飯も食べるし」
「だとしても、足りなくない?」
「蓮。文化部で少食なら、間食はこれで妥当だよ」
佐藤君が言うと、お化けでも見るような顔をされた。
「櫻井君は本当に少食みたいだけど……櫻井君ってよそよそしいから、真尋君って呼んでいい? 俺のことは湊って呼んでよ」
「オレは陽向って呼んでな、真尋っ」
さすが運動部。距離の詰め方がすごい。でも僕に合わせて、少し経ってからにしてくれたのかな?
「うん。湊君。陽向君」
言葉にすると、くすぐったい。今まで名前で呼ぶような友達はいなかったからだ。
「蓮が嫉妬してるから、蓮のことも呼んであげて」
「嫉妬って、お前な……」
「蓮君」
高瀬君と声が重なる。もう一度呼ぶと、何故か高瀬君は視線をそらした。
「……真尋」
ボソッと呼ばれて、またくすぐったくなる。でも高瀬君は、名前呼びされるのが嫌だったのかも……。
「蓮は、自分が一番に真尋って呼びたかったんだよな? 先に友達になったのは俺なのにーって」
「うるさい」
「俺たちは拗ねてるってわかるけど、他の人には不機嫌そうに見えるよ?」
また僕の気持ちを代弁してくれる。すると高瀬君はハッとして僕を見た。
「ごめん、さく……真尋。コイツらの言う通り、拗ねてた」
「えっ、うんっ、大丈夫だよっ?」
拗ねてた、って、可愛いんだけど……。練習の後の赤ちゃんな高瀬君を思い出してしまう。
「コイツら、勝手に来て真尋と仲良くなったくせに、図々しい」
「友達になるのに、蓮の許可はいらないよね」
「許可を取れ。先に声かけたのは俺だ」
蓮君は拗ねたままでバーガーに噛みつく。一口が大きいな……と思っていると、陽向君も大きな口でバーガーを頬張る。二人ともなんだか、肉食動物みたいだ。
湊君は二人より具だくさんのバーガーなのに、食べ方が優雅に見える。湊王子って呼ばれるのもわかるな。
たくさん食べる三人を見ていると、気持ちがいい。僕もポテトをかじる。普段と同じ味のはずなのに、いつもより美味しく感じた。
最初に食べ終えた湊君が、僕に視線を向ける。
「練習中の俺、どうだった?」
「えっと、専門的なことはわからないけど……相手の攻撃を防ぐ時はダイナミックなのに、シュートの時はスマートで、すごくかっこよかったよ」
素直な感想を伝えると、湊君は嬉しいと言って目を細めた。
「オレはっ?」
「陽向君もかっこよかったよ。相手の横をスルッとすり抜けたり、ボールを奪ってから素早くシュートを決めたり、目で追うのがやっとだったよ」
チーム内で特に小柄でもないのに、身を屈めて脇をスルッとすり抜けるから、相手には一瞬消えたように見えるんだろうな。
「蓮は?」
「普段はゆったりしてるから、別人みたいにパワフルでかっこよくて驚いたよ。ジャンプが高くて相手も届かないし、ダンクシュートってかっこいいね。普段の練習からあんなに本気でやってるんだ、って感動したよ」
思わずにこにこしていると、湊君がクスッと笑った。
「ダンクなんて、紅白戦では一度もしたことないよね」
「蓮」
「真尋君が観に来てくれたから、張り切ったんだよね」
「言うなよ……」
蓮君がうつむいて溜め息をつく。
「見学に誘ったすぐ翌日だったから、心の準備ができてない、どうしようって」
「えっ、ごめんっ、もっと後にすればよかったねっ……」
友達の部活に誘われたことがないから、わからなかった。翌週とかの方がよかったのかな……。
「ごめん、真尋君。言い方が悪かったね」
「真尋って自己肯定感低めなんだな。もっと上げてこうぜ?」
何故か陽向君にポンッと肩を叩かれた。
「別に、翌日でもいい。せっかく観に来てくれるなら、バスケに興味持ってくれるようなことしたいと思っただけだから」
「そうなんだ……焦らせてごめんね。蓮君は、本当にバスケが好きなんだね」
バスケをしている蓮君は本当に楽しそうだった。きっとあのダンクシュートも、僕にバスケの魅力を伝えるためのサプライズだったのだろう。
「あのダンクで、バスケってパワフルでかっこいいなって思ったよ。また観に行ってもいい?」
「やった。またいつでも来て」
嬉しそうに笑って、僕の目を見て「来てくれてありがと」と言う。本当にこういうところだよなあ。男の僕でもドキッとしてしまう。
「本当は、毎日来て欲しいんだよね」
「蓮は、真尋のこと大好きだもんな〜」
「……否定はしない」
否定しないんだ……?
前に陽向君も言ってたけど、本当に胃袋掴んじゃったのかな?
だとしたら責任重大だ。蓮君の脳の栄養のためにも、仲良くしてくれる恩返しのためにも、もっと美味しく作れるように頑張って、お菓子のレパートリーも増やさないと。
「蓮……真尋君、純粋な勘違いしてるみたいだけど」
「いっそ、ここで言っちゃったら?」
「無理」
「でもさ、女子人気高いんだろ?」
「今じゃない」
湊君と陽向君の言葉に、蓮君はムッとして返答をする。
「ごめん……僕、何か勘違いしてた?」
「……してない。大丈夫」
大丈夫、ともう一度言って、蓮君は拗ねたように僕を見る。
「大丈夫だから。今度、どっか遊びにいこ」
「えっ? うんっ」
「やった」
初めて見る、ふにゃっとした笑顔。
可愛い、と胸がきゅうっとなる。大柄な蓮君には申し訳ないけど……きっと僕、蓮君の赤ちゃんみたいなところに弱いんだ……。


