高瀬君がバスケしてるところか。どんな感じなんだろう。楽しみだなあ。
……なんて、軽く考えていました。
「キャーー!! 高瀬くーーん!!」
女子たちの黄色い声援が飛ぶ。部活の見学とは思えないほどの人数で、まるでアイドルのコンサートだ。僕が想像していた部活動の域を超えていた。
そういえば高瀬君って、学内一かというくらいの人気者だ、って山口が言ってたな……。
黄色い声が飛ぶのも当然だった。
それに、バスケの試合を観たことのない僕でもわかるほどに、高瀬君は上手い。
昨日帰ってから調べたけど、この高校のバスケ部は全国でも有数の強豪校だった。スポーツ科がある時点でそうなんだけど……その中でも高瀬君は群を抜いていた。
見入っているうちに休憩に入る。バスケって、こんなにドキドキするんだ……。そう思っていると、高瀬君がこっちを見た。僕は片隅に潜んでいたのに目が合って、ヒラッと手を振ってくれる。
「キャーー!!!!」
「高瀬君がこっち見たーー!!」
勘違いだった。恥ずかしい……。
でも女子たちに便乗して、僕もこっそり手を振ってみた。
短い休憩の後は、紅白戦が始まるみたいだ。
「えっ……」
開始早々、高瀬君が宙を飛ぶ。ダンッ!! と音がして、ゴールにボールを押し込んだ。
「すっごい……高校生ってダンクするんだ……」
体育館がまるで試合会場のように湧く。
佐藤君と佐々木君も同じチームで、どんどん点数を重ねていく。終わった頃には随分と点差が開いていた。
「高瀬まじかーっ!」
「突然覚醒すんなよーっ!」
相手チームからブーイングが起こる。ハラハラしたのも束の間。彼らは笑顔で高瀬君の周りに集まってきた。でも高瀬君は試合中とは別人のように無表情になって、何かを言っている。
「湊ー! 蓮がお腹すいたってー!」
「ちょっと待ってねー、すぐ哺乳瓶持って行くからねー」
佐々木君の声に、佐藤君が応える。佐藤君が持って来たのは、ペットボトルのスポーツ飲料だ。
「このやり取り、ガチで推せる」
「わかるーっ、今日は見れてラッキーだったねっ」
「高瀬君が赤ちゃんにしか見えなーいっ」
女子たちがキャーキャー言う。ごめん、高瀬君。俺も哺乳瓶に見えてきたよ。
彼女たちが言うには、三人は毎回何かしらのやり取りをしているそうで、それが女子たちに人気らしい。その中でも今回の哺乳瓶は、一番人気だとか。僕は誰とも会話していないのに、情報が勝手に集まっていく……。
「湊王子、汗だくでも麗しい」
「いうて汗かいてないじゃん。涼しげだよねー」
「王子だからね。あっ、王子ーっ!!」
その声に、キラキラの笑顔で手を振って答える佐藤君。本当に王族みたいだ。
「佐々木くーん! 可愛いよー!」
「ありがとー! みんなも可愛いよー!」
佐々木君は完全にアイドルだし……え、僕、この三人に肉じゃが振る舞ったの? 友達になれて嬉しいとか言って大丈夫だった? 男友達ができて嬉しいけど、完全に僕とは別次元の方々だ。
その後も情報は勝手に集まる。
三人とも差し入れを受け取らない。出待ちは駄目で、部長から出禁にされる。解散、の合図で見学者も体育館から出ること。それに倣って、僕も体育館から出た。
教室に置いていた荷物を取って昇降口に向かったところで、メッセージの着信が鳴る。
『一緒に帰ろ』
短い一文。お腹すかせてたからな、と思いつつ、昇降口のところにいると送った。
今日も一応、家でクッキーを作ってきた。誰かに見られるかもしれないから、以前のように地味な包装をして、コンビニ袋に入れた。
「櫻井、待たせてごめん。……あ。それってもしかして」
初対面の時にこのスタイルだったから、高瀬君は気付いたみたいだ。袋を見るなり、目がキラキラと輝いた。
「うん。よかったらどうぞ」
「ありがと。嬉しい」
いつも通りに目を見てお礼を言ってくれる。その隣から、佐々木君が顔を出した。
「オレも食べていい?」
「駄目。俺の」
「蓮のものは俺のものだよね?」
「俺のものは俺のもの」
佐々木君と佐藤君を押し退けて、中の袋を開ける。
「……一枚ずつな」
「わーいっ! ありがとーっ!」
「優しくなったね、蓮」
なんだかんだ言いながら、高瀬君は優しい。
こんなことなら、二人の分も用意すればよかったな……でも、迷惑かもしれないし……。
「コイツらの分は用意しなくていいから」
「えっ?」
「そうだよ。オレたちは分けて貰うから」
「それに毎回一緒に帰ってるわけじゃないしね。でも、ありがとう」
一言も発せずに、僕のモヤモヤは解決された。
「……僕、そんなにわかりやすい?」
「だいたいわかる」
高瀬君は意地悪に笑って、僕の口にクッキーを突っ込む。
「一枚ずつな」
そう言って今度は優しく目を細めるから、思わずドキッとしてしまった。ふいうちの優しさがずるいよなあ……。
「櫻井君、このあと予定ある?」
突然佐藤君に話を振られて、クッキーをもぐもぐしながら、首だけ横に振って答える。
「じゃあ、どこかで話して行こうよ」
「はい! オレはバーガーの気分です!」
「俺は炭酸」
「それ、もう一択だよね。櫻井君はそれでいい?」
まだ飲み込んでないから、首を縦に振る。声で答えられずに申し訳ない。その考えもみんなに伝わったみたいで、ゆっくり食べていいよ、と佐藤君から母親のように見つめられた。


