俺を好きじゃないやつが作った菓子とか最高じゃん、とバスケ部のエースが言ったから


 そこで、ガラッと扉が開く。

「櫻井ー、そろそろ鍵閉めるぞー」
「すみませんっ、すぐ出ますっ」
「慌てんでもいいぞ。お? 珍しい奴がいるな?」

 調理部顧問の柘植(つげ)先生が、高瀬君を見た。

「えー。珍しいってなんすかー」

 高瀬君も慣れた様子で返す。

「ここには二度と来ないと言ってただろ。十五年間教師してるが、サバ味噌を爆発させた奴は初めてだぞ」
「あっ! それ櫻井の前でバラさないでくださいよー!」
「櫻井は料理上手だもんなぁ」
「高瀬君……サバ味噌、どうやったら爆発するの?」
「俺もわかんないけど、爆発した」
「サバが宙を舞ったな」
「え、なにそれ、ちょっと見てみたい」

 思わず声に出してしまった。

「味噌汁を爆発させたのはまだわかるんだけどなー。玉子焼きを巻いてて燃えたのも、いい思い出だ」
「だからバラさないでくださいって!」

 玉子焼きを巻いてて、燃える? なんで燃えるの?

「まあ、高瀬は料理はからっきしだが、勉強も運動もできて人当たりもいい。櫻井。これからも高瀬と仲良くしてやってくれよ?」
「えっ、はいっ」
「柘植先生は俺のなんなんだよー」

 親子のように仲がいいことを不思議に思っていると、スポーツ課には、選択科目に調理があると先生が教えてくれた。栄養バランスを学ぶためだそうだ。高瀬君は一年生の頃に選択していたけど、最終日に「二度と家庭科室には来ません」と遠い目をしたという。

「まだ知り合ったばっかなのに、かっこ悪いとこ見せすぎ……」
「かっこ悪くないよ? 苦手なことは誰にでもあるんだから」
「櫻井……ありがと」

 はにかんだような笑顔に、やっぱり弟みたいだなと思ってしまった。

「おーおー、青春だねー」
「先生の立ち位置、なんなんだよー」
「青春の見守り人?」
「教師じゃないのかー」

 楽しそうに話している間に、電気を消しに行く。柘植先生と高瀬君が親子みたいに仲良しなんて知らなかったな。


「高瀬……櫻井はあの通りいい奴だが、性格が控えめで、調理部以外に友達がいないみたいなんだ。仲良くしてやってくれよ」
「そのつもりです。……言われなくても」
「お? 嫉妬か?」
「知り合ったばっかですってば」
「青春だねー」
「先生、話きいてー」

 僕が戻ると、先生が「気を付けて帰れよ」と僕と高瀬君の頭を撫でる。料理も教え方も繊細なのに、それ以外は豪快だ。最初はちょっと苦手かなと思ったけど、今では父親みたいに頼れる先生だ。
 高瀬君は「ガキ扱いだよな」と苦笑しながら、先生にヒラッと手を振っていた。