「あ、流れ星」
午後七時頃、ココロと一緒に買い物をした帰り道。ふと空を見上げると藍色の空にはっきりと一本の星の軌跡が見えた。
それに気づいた瞬間ココロは願い事をしているのが目を瞑っね、俺も続いて願った。そして、再び一緒のマンションへと歩き出す。
「ココロはどんなお願いしたの?」
「少しの間だけでも心を読めなくなりますようにって願ったわ」
「……そっか。ココロはその力をよく思っていないもんね」
俺からしたら心を読める力は魅力的で憧れで、喉から手が出るほどだけれど、持っている本人はデメリットとして感じている。それに対して思う事がないでもないけれど、持つ者の苦しみも共有してもらっているから、理解はしているつもりだ。
「心が読めない生活は何度も夢に見たわ。そうなればきっと皆みたいに普通にお話して友達を作って普通に遊べる」
左手に持っている商品の入ったエコバッグを持つ手が強く握られる。沢山買っていたから何だか重そうにしていて足取りも少し覚束なく心配だ。
「思ったんだけど。心を読むには、相手を見てその人とココロの意識が双方向に向かないと駄目なんだよね」
「ええ」
「なら、一日中目隠して生活すれば心を読めなくなるんじゃね」
「……おバカ、理論的にはそうだけれど。そうしたら心どころか何も見えないじゃない」
「あ」
我ながら完璧なアイデアだと思ったのだけど、即論破されてしまった。
「じゃあ俺がココロの目になるよ。そうすれば問題なし」
「スイート問題ありよ。私は誰にも頼らず自分の足で立っていたいの。だから、バッグを持とうとしなくて良いから」
代わりに持ってあげようとしたが、心を読まれて先に止められる。
「いや、持つよ。絶対重いでしょ」
「大丈夫だから……」
「無理しちゃ駄目だよ」
「……いいって言っているのに、あなたってスイートお節介だし強引よね」
俺はまだココロが手にしているエコバッグを空いている右手で、彼女の手に触れないようにして持つ。
「……はぁ、拒否しても無駄そうね。でも、全部持って貰うつもりはないわ」
「じゃあ一緒にだね」
俺とココロはバッグの持ち手を片側ずつ持って歩く。
「……提案した俺が言うのもなんだけど、この状態ココロは大丈夫? 端から見たら完全に恋人か何かだけど」
「……気にしないようにしていたのに言語化するの止めてもらえるかしら」
「ご、ごめん。つい気になっちゃって」
「まぁでも別にいいわ。今さらだもの」
確かに朝の投稿中に相合い傘をした上に追いかけっこをした。もう今さらなのかもしれない。
「というか、今ってあなたの方が負担が多いわよね」
「え? まぁそうだけど」
彼女の魂胆は読めるが、流石にもう一つは持ちようがない気がするけど。
「いけるでしょ。こうやって二人でこのバッグを囲うようにして」
「マジか」
ココロと向き合う形になり、右手でココロのを左手で俺のを、もちろん反対側からも持ってもらい、横歩きで進んでいく。
「ねぇ、流石にこれはバカップルでもしなさそうなんだけども」
「もう何も言わないで。さっさと行くわよ」
薄暗いが彼女の顔が赤くなっているのははっきりわかる。
「……私の分析をするのも止めて。それにあなたもスイート恥ずかしがっているくせに」
「ごめん、早く行こっか」
互いに負担を軽減しながら一緒にダメージを受けながら、俺達の住むマンションへと急いだ。
「そういえば、あなたは何を願ったの? やっぱり心を読めるようにしたいとか?」
「いや、それよりも先にココロと凄い夏休みを過ごせますようにっていう願いが浮かんだからそれを」
「……そう」
「あれ、もっと顔赤くなった?」
「なっていないから!」
いつの間にか完全に夜となっていた空のキャンパスには、沢山の星が瞬いている。そして遠くからは雲も近づきつつあった。
※※※
時は2100年。日本では初の完全没入型のVRゲーム『リ・ユーウ2』が生まれた。
『リ・ユーウ2』の舞台は何でもありな世界。現代、SF、ファンタジー等々あらゆる要素が混ざっている。
そんな特殊世界に仮想空間にダイブしたプレイヤーには一つの制約があった。それはゲーム内にいる間は、現実の記憶がロックされるというもの。つまりその世界に生まれた人間として生きられた。プレイヤーが現実に戻れば、ゲーム内の記憶は残る。まるでリアルな夢を見たような体験が出来た。
全く違う人間となり、剣も魔法も未来技術も存在する何でもありな世界を生きられる。そんな世界に魅了された人々は毎日のようにダイブして、第二の人生を歩んでいた。
それと同時にゲーム内の出来事はリアルタイムの配信でもアーカイブでも視聴可能だった。視聴者は仮想空間内のプレイヤーの見ている世界を一人称視点で見て楽しむことが出来る。
視聴者の一人であるあなたは今日も今日とて平凡な高校二年生、トキの人生を眺めるのだった。
※※※
高校二年生の夏休みが始まり、気づけば既に八月の中旬に入っていた。去年くらいまでは無為に時間を浪費して過ごしていたが、今年はとても充実した日々を送っている。その要因はもちろん今年転校してきて隣の部屋に住んでいるココロの存在だ。
小学生のような体つきの美少女で、彼女は見た目通りの幼さとどこか大人びた相反する二つの要素を持っている、少し変わった子だ。髪はいつもこげ茶色のショートボブで、好きなものは甘いもの。俺と出会う前は菓子パンとかお菓子だけを食べて過ごしていた。今は俺が料理を作って無理やり食べてもらっているけど。
そして何より彼女の凄いところは心が読めるところ。昔から人の心を読みたいと思っていたから、それが出来るココロは俺にとって憧れの人でもあった。
ココロに世話を焼いたり、逆に宿題を手伝ってもらったり、一緒に遊んだりと毎日のように時間を共有していて、おかげで無駄と思える事がほとんどなくなっていた。
今日も今日とて、約束はしていないけれど彼女と会うことになる。そう思うと自然と朝に起きられて、良い一日をスタート出来た。
起床して窓を開ければ、若干曇り空ではあるものの、良い日が始まりそうだと心は晴れていた。
「……ん?」
朝九時、こんな時間に珍しくインターホンが鳴り響く。何か頼んだわけでもなく、内側からのものだから、予想される人物は一人しかいない。
「はい」
「私だけど。開けて、早く来て」
案の定ココロだったが、逼迫した気持ちを抑えつけたような声で、急いで出た。
「ど、どうしたのココロ?」
「……」
「ココロ?」
ココロの髪が少し乱れていて焦っているのがありありと伝わってくる。けれど、すぐに本題にはいかずじっと俺を見つめてくる。この感じは心を読んでいるのだろう。
「……やっぱりそうなのね」
「何が?」
「あなたのおかげではっきりしたわ」
「ええと?」
俺を置き去りにして納得して話を進めるのを止めて欲しい。説明を求む。
「朝、起きたらね変な感じがしたのよ。いつもと何かが違うって」
「う、うん」
ようやく何があったか教えてくれそうなのだが、不思議な事にココロの表情は何故か明るくなっていて。
「目に見えないあったものがなくなった喪失感。表現は難しいのだけどそんな感じで、それに気づいた時、もしかしたらって予想がついて……今はっきりした」
「まさか」
ココロの瞳がキラキラして、目に見えないあったもののロスト。その二つを結びつけると俺にもその答えが見えてきた。見えてしまう。
「私、心が読めなくなったみたいなの!」
午後七時頃、ココロと一緒に買い物をした帰り道。ふと空を見上げると藍色の空にはっきりと一本の星の軌跡が見えた。
それに気づいた瞬間ココロは願い事をしているのが目を瞑っね、俺も続いて願った。そして、再び一緒のマンションへと歩き出す。
「ココロはどんなお願いしたの?」
「少しの間だけでも心を読めなくなりますようにって願ったわ」
「……そっか。ココロはその力をよく思っていないもんね」
俺からしたら心を読める力は魅力的で憧れで、喉から手が出るほどだけれど、持っている本人はデメリットとして感じている。それに対して思う事がないでもないけれど、持つ者の苦しみも共有してもらっているから、理解はしているつもりだ。
「心が読めない生活は何度も夢に見たわ。そうなればきっと皆みたいに普通にお話して友達を作って普通に遊べる」
左手に持っている商品の入ったエコバッグを持つ手が強く握られる。沢山買っていたから何だか重そうにしていて足取りも少し覚束なく心配だ。
「思ったんだけど。心を読むには、相手を見てその人とココロの意識が双方向に向かないと駄目なんだよね」
「ええ」
「なら、一日中目隠して生活すれば心を読めなくなるんじゃね」
「……おバカ、理論的にはそうだけれど。そうしたら心どころか何も見えないじゃない」
「あ」
我ながら完璧なアイデアだと思ったのだけど、即論破されてしまった。
「じゃあ俺がココロの目になるよ。そうすれば問題なし」
「スイート問題ありよ。私は誰にも頼らず自分の足で立っていたいの。だから、バッグを持とうとしなくて良いから」
代わりに持ってあげようとしたが、心を読まれて先に止められる。
「いや、持つよ。絶対重いでしょ」
「大丈夫だから……」
「無理しちゃ駄目だよ」
「……いいって言っているのに、あなたってスイートお節介だし強引よね」
俺はまだココロが手にしているエコバッグを空いている右手で、彼女の手に触れないようにして持つ。
「……はぁ、拒否しても無駄そうね。でも、全部持って貰うつもりはないわ」
「じゃあ一緒にだね」
俺とココロはバッグの持ち手を片側ずつ持って歩く。
「……提案した俺が言うのもなんだけど、この状態ココロは大丈夫? 端から見たら完全に恋人か何かだけど」
「……気にしないようにしていたのに言語化するの止めてもらえるかしら」
「ご、ごめん。つい気になっちゃって」
「まぁでも別にいいわ。今さらだもの」
確かに朝の投稿中に相合い傘をした上に追いかけっこをした。もう今さらなのかもしれない。
「というか、今ってあなたの方が負担が多いわよね」
「え? まぁそうだけど」
彼女の魂胆は読めるが、流石にもう一つは持ちようがない気がするけど。
「いけるでしょ。こうやって二人でこのバッグを囲うようにして」
「マジか」
ココロと向き合う形になり、右手でココロのを左手で俺のを、もちろん反対側からも持ってもらい、横歩きで進んでいく。
「ねぇ、流石にこれはバカップルでもしなさそうなんだけども」
「もう何も言わないで。さっさと行くわよ」
薄暗いが彼女の顔が赤くなっているのははっきりわかる。
「……私の分析をするのも止めて。それにあなたもスイート恥ずかしがっているくせに」
「ごめん、早く行こっか」
互いに負担を軽減しながら一緒にダメージを受けながら、俺達の住むマンションへと急いだ。
「そういえば、あなたは何を願ったの? やっぱり心を読めるようにしたいとか?」
「いや、それよりも先にココロと凄い夏休みを過ごせますようにっていう願いが浮かんだからそれを」
「……そう」
「あれ、もっと顔赤くなった?」
「なっていないから!」
いつの間にか完全に夜となっていた空のキャンパスには、沢山の星が瞬いている。そして遠くからは雲も近づきつつあった。
※※※
時は2100年。日本では初の完全没入型のVRゲーム『リ・ユーウ2』が生まれた。
『リ・ユーウ2』の舞台は何でもありな世界。現代、SF、ファンタジー等々あらゆる要素が混ざっている。
そんな特殊世界に仮想空間にダイブしたプレイヤーには一つの制約があった。それはゲーム内にいる間は、現実の記憶がロックされるというもの。つまりその世界に生まれた人間として生きられた。プレイヤーが現実に戻れば、ゲーム内の記憶は残る。まるでリアルな夢を見たような体験が出来た。
全く違う人間となり、剣も魔法も未来技術も存在する何でもありな世界を生きられる。そんな世界に魅了された人々は毎日のようにダイブして、第二の人生を歩んでいた。
それと同時にゲーム内の出来事はリアルタイムの配信でもアーカイブでも視聴可能だった。視聴者は仮想空間内のプレイヤーの見ている世界を一人称視点で見て楽しむことが出来る。
視聴者の一人であるあなたは今日も今日とて平凡な高校二年生、トキの人生を眺めるのだった。
※※※
高校二年生の夏休みが始まり、気づけば既に八月の中旬に入っていた。去年くらいまでは無為に時間を浪費して過ごしていたが、今年はとても充実した日々を送っている。その要因はもちろん今年転校してきて隣の部屋に住んでいるココロの存在だ。
小学生のような体つきの美少女で、彼女は見た目通りの幼さとどこか大人びた相反する二つの要素を持っている、少し変わった子だ。髪はいつもこげ茶色のショートボブで、好きなものは甘いもの。俺と出会う前は菓子パンとかお菓子だけを食べて過ごしていた。今は俺が料理を作って無理やり食べてもらっているけど。
そして何より彼女の凄いところは心が読めるところ。昔から人の心を読みたいと思っていたから、それが出来るココロは俺にとって憧れの人でもあった。
ココロに世話を焼いたり、逆に宿題を手伝ってもらったり、一緒に遊んだりと毎日のように時間を共有していて、おかげで無駄と思える事がほとんどなくなっていた。
今日も今日とて、約束はしていないけれど彼女と会うことになる。そう思うと自然と朝に起きられて、良い一日をスタート出来た。
起床して窓を開ければ、若干曇り空ではあるものの、良い日が始まりそうだと心は晴れていた。
「……ん?」
朝九時、こんな時間に珍しくインターホンが鳴り響く。何か頼んだわけでもなく、内側からのものだから、予想される人物は一人しかいない。
「はい」
「私だけど。開けて、早く来て」
案の定ココロだったが、逼迫した気持ちを抑えつけたような声で、急いで出た。
「ど、どうしたのココロ?」
「……」
「ココロ?」
ココロの髪が少し乱れていて焦っているのがありありと伝わってくる。けれど、すぐに本題にはいかずじっと俺を見つめてくる。この感じは心を読んでいるのだろう。
「……やっぱりそうなのね」
「何が?」
「あなたのおかげではっきりしたわ」
「ええと?」
俺を置き去りにして納得して話を進めるのを止めて欲しい。説明を求む。
「朝、起きたらね変な感じがしたのよ。いつもと何かが違うって」
「う、うん」
ようやく何があったか教えてくれそうなのだが、不思議な事にココロの表情は何故か明るくなっていて。
「目に見えないあったものがなくなった喪失感。表現は難しいのだけどそんな感じで、それに気づいた時、もしかしたらって予想がついて……今はっきりした」
「まさか」
ココロの瞳がキラキラして、目に見えないあったもののロスト。その二つを結びつけると俺にもその答えが見えてきた。見えてしまう。
「私、心が読めなくなったみたいなの!」



