「た、助かりました、ありがとうございます!」
「怪我はない?」
助けてくれた英雄は、意外にも白のインナーに水色のジャケット、ゆったりとしたワイドパンツという格好で。その日常的な姿と裏腹に、手には星のような輝きを放つ黄色い剣を持っている。
「はい、俺は問題ないです」
彼は手を伸ばしてくれて、それを掴んで立ち上がる。ぱっと見たら体格は全然平均的で俺と同じくらいだし、腕も細いのだけど、引っ張り上げられるとその圧倒的な強さを感じた。
「君も大丈夫かい?」
「ええ」
ココロもどこにも怪我はなさそうで、普通に歩いてこちらに寄ってくる。
「あなたは、もしかして英雄の……?」
十中八九そうだろうけど、念のため尋ねてみる。すると、彼は心底嬉しそうな笑顔を咲かせて。
「知ってくれているんだね! そう、僕は英雄のニンショウ。よろしく」
「や、やっぱりそうなんですね! 凄くかっこよかったです!」
あの化物を簡単に倒して、あの余裕そうな笑顔を見て、本物のヒーローだと確信して胸が熱くなった。
「いやー? そうでも……あるかな! だって僕強いし英雄だしね! ははっ!」
ニンショウさんは褒められたのがよっぽど嬉しいのか露骨に浮かれた反応を見せる。
「ねぇ……この人、結構俗っぽい感じなのね」
「そうかな?」
ココロが横に来てそう耳打ちしてくる。確かに聖人みたいな雰囲気ではないけど。
「写真とか撮っちゃう? 全然SNSに上げてくれていいからさ! サインも欲しかったらあげるよ?」
「あ、いや。今は状況が状況だし、今度で大丈夫ですよ?」
「それもそっか! それじゃあまた後でだね」
「あ、ありがとうございます」
ココロが再び小声で、やっぱり俗っぽいでしょと囁いてきたので、俺もそうみたいだねと返した。
「あのぉ……ニンショウ……さん」
そんなやり取りをしていると、突然背後からか細い女人の声が聞こえた。振り返るとそこには紫色のいかにもな魔法使いが着るようなローブを身に着けた、俺よりも背の高いスレンダーな女性だ。藍色の長い髪をしていて、フードにより顔は見えづらいが、何となくダウナーな美人の雰囲気があった。
「び、びっくりした……」
「いつの間に」
足音どころか気配も感じれなかった。まるで忍者や暗殺者のような怖さすらある。
「アモちゃん、いつも言ってるけど気配を消して現れるとびっくりするじゃないか」
「すみません、癖で」
「どんな癖よ……」
ココロは顔を引きつらせてツッコむ。俺も普段ならカッコいいとか思ってしまいそうだが、今は何故か恐さの方が上回っていた。
「それで、そっちは片付いた?」
「はい大方は……。それと、客も魔法でワープさせた……けどまだ生き残りがいる……ようです」
「マジか。ならちょっくらやってくるか」
ニンショウさんは、淡く星のように黄色く輝く剣を握り直し、店を出て吹き抜けから下を確認する。俺達もなんとなくついていき見ると、もう無人となった一階のイベントスペースにさっきのモンスターと同種のやつが五匹歩いていた。
「そうだ、君さこのスマホで戦う姿撮っておいて」
「え。は、はい」
すぐに録画モードに出来るようにしてあるスマホを渡される。
「後で、戦う姿を投稿しようと思ってね。いやーこれもバズるぞ!」
彼の言葉を聞く度に俺の中で好感度が下がっていく。
「あたしも……お供します」
「それじゃ、いつも通りサポートよろしく!」
ニンショウさんは吹き抜けから、一階のモンスター達がいるド真ん中に飛んだ。
スタっと軽々と着地すれば、モンスター達は獲物の存在にすぐに気づき、ノータイムで一気に襲いかかってくる。
「……灰になれ」
アモさんは小声でそう呟くと、突き出した右手の先に赤色の魔方陣が出現させ、そこから火球を放つ。それは最初に飛びかかったモンスターに命中し、跡形もなく消える。
「よっと!」
続いて二体が挟み込むように襲いかかる。が、目で追いつけないほどの速さの回転斬りで一瞬で亡骸に変えた。
「……瞬け」
仲間がやられてもお構いなく突進する愚か者に天誅を下すように、アモさんの黄色い魔方陣から稲妻が迸り、一瞬で絶命させる。
「はい、いっちょ上がり」
無謀にも正面から向かってくる最後の敵も、あっさりと一振りで黙らせた。
「もう……止めていいと思うよ」
「あ、わかりました」
「……」
アモさんに言われて録画を止める。直後にニンショウさんがジャンプしてこっちに戻ってきた。
「どう? 撮れた?」
「多分」
「どれどれ…………おおーありがとう、中々良い感じだよ。ははっ、後で編集して……これはかなり伸びそうだ」
「よ、良かったです」
「……」
満足して貰えて何よりだけど、バズに喜んでいる姿を見るとさっきの無双ぶりが台無しだ。
「アモちゃんもナイス。流石のサポート、どんどん連携が深まってきたんじゃない?」
「……ですね」
「……」
今さらながらアモさんは何者なのだろうという疑問が湧いてくる。ニンショウさんは知っているけど、彼女の存在は聞いた事がない。
「やっぱりこの子、気になる?」
「ま、まぁ……」
ジロジロと二人の様子を眺めていたせいか、疑問を悟られてしまった。
「彼女はアモ。凄腕の謎の美人魔法使いさ。僕が一躍有名になったあの事件の後に出会ったんだ。そして力になりたいって言ってくれて、共に行動している」
「アモ……です……あたしのことは……秘密にしてくれると嬉しい……」
「は、はい。あ、そういえば……俺はトキって言います。こっちは友達のココロです」
「……」
しかし、秘密にして欲しいだなんて何か訳ありなんだろうか。
「二人ともよろしく! アモちゃんは恥ずかしがり屋みたいだから、目立ちたくないんだよ。動画に出てくれれば、もっと注目を浴びれるんだけどな……チラ」
「嫌……無理……ありえない……」
「そっかぁ。まぁ、気が変わったら言ってくれよな」
ニンショウさんは爽やか笑顔を浮かべるが、アモさんは避けるように下を向く。承認欲求は強いみたいだけど、他人を無視してまで満たそうとはしないようで安心する。
「お、ようやく警察が入ってきたな。全く行動が遅いぜ」
入口から武装した警察の人達が隊を組んで現れた。
「仕方ない……この街は……平和……だから」
「確かにな。それにしても、アモちゃんの占いはやっぱり当たるな」
「占い?」
また興味深い単語が出てきてつい聞き返してしまった。
「ああ。アモちゃんの占い百発百中。次に僕が必要とされる場所や日付を言い当てれるんだ。今日ここにいたのもそれがあったからさ」
「そ、そうだったんですね。じゃあトークショーというのも」
「それは……ニンショウが……守るついでに……ファンにチヤホヤされて……気分良くなりたいため」
「……あー」
「ノンノン、ファンサービスだよ」
危険な場所に人を呼び込むような事をするのはどうかと思うけど、助けている以上何も言えなかった。
「……」
「ココロ?」
さっきからずっと気になっていたのだけど、ココロが完全無言状態で、二人をじっと見ていた。というより、視線はそこを向いているが、しっかりとそれを捉えていなくて、ぼーっとしている感じだ。特にココロの瞳はアモさんに向けられていた。
「どうかしたの?」
「い、いえ。何でもないわ」
「あたしの……顔……何かついてる?」
「本当に何でもないです」
何故かココロの返事は突き放すように硬かった。流石に気になるのか、アモさんもココロを紫色の瞳を薄めて何かを読み取ろうとしていた。
「さぁてと、警察に事情を話に行きますかね。行くよアモちゃん」
「……うん」
ニンショウさんは一階へと降りて警察の方へと向う。アモさんも彼についていくのだけど、立ち去る一瞬、ココロの方を一瞥した。
それを受けた当の本人は遠くなる彼女の姿を食い入るように見ていた。
「アモさんが気になるの?」
「……あのね」
「うん」
「いえ、帰ってからにしましょうか」
ココロは何か言おうとして、すぐに口を閉じてしまう。とても気になるが、色々あって疲れもあるだろうし、追求するのは止めた。
俺達は彼らの後に続いて警察の方へと行き、保護される。
「……死ぬかと思った」
「ええ」
異常事態と英雄の活躍でどこか非現実感があったが、ようやく地に足がついて、頭が冷静になった。そして、安心感が頭から全身に回って、その暖かみに涙が出そうになる。何とか堪えたけど。
一方のココロはずっと難しい顔をして、それは警察の事情聴取が終わり、マンションに帰るまで変わらなかった。
「怪我はない?」
助けてくれた英雄は、意外にも白のインナーに水色のジャケット、ゆったりとしたワイドパンツという格好で。その日常的な姿と裏腹に、手には星のような輝きを放つ黄色い剣を持っている。
「はい、俺は問題ないです」
彼は手を伸ばしてくれて、それを掴んで立ち上がる。ぱっと見たら体格は全然平均的で俺と同じくらいだし、腕も細いのだけど、引っ張り上げられるとその圧倒的な強さを感じた。
「君も大丈夫かい?」
「ええ」
ココロもどこにも怪我はなさそうで、普通に歩いてこちらに寄ってくる。
「あなたは、もしかして英雄の……?」
十中八九そうだろうけど、念のため尋ねてみる。すると、彼は心底嬉しそうな笑顔を咲かせて。
「知ってくれているんだね! そう、僕は英雄のニンショウ。よろしく」
「や、やっぱりそうなんですね! 凄くかっこよかったです!」
あの化物を簡単に倒して、あの余裕そうな笑顔を見て、本物のヒーローだと確信して胸が熱くなった。
「いやー? そうでも……あるかな! だって僕強いし英雄だしね! ははっ!」
ニンショウさんは褒められたのがよっぽど嬉しいのか露骨に浮かれた反応を見せる。
「ねぇ……この人、結構俗っぽい感じなのね」
「そうかな?」
ココロが横に来てそう耳打ちしてくる。確かに聖人みたいな雰囲気ではないけど。
「写真とか撮っちゃう? 全然SNSに上げてくれていいからさ! サインも欲しかったらあげるよ?」
「あ、いや。今は状況が状況だし、今度で大丈夫ですよ?」
「それもそっか! それじゃあまた後でだね」
「あ、ありがとうございます」
ココロが再び小声で、やっぱり俗っぽいでしょと囁いてきたので、俺もそうみたいだねと返した。
「あのぉ……ニンショウ……さん」
そんなやり取りをしていると、突然背後からか細い女人の声が聞こえた。振り返るとそこには紫色のいかにもな魔法使いが着るようなローブを身に着けた、俺よりも背の高いスレンダーな女性だ。藍色の長い髪をしていて、フードにより顔は見えづらいが、何となくダウナーな美人の雰囲気があった。
「び、びっくりした……」
「いつの間に」
足音どころか気配も感じれなかった。まるで忍者や暗殺者のような怖さすらある。
「アモちゃん、いつも言ってるけど気配を消して現れるとびっくりするじゃないか」
「すみません、癖で」
「どんな癖よ……」
ココロは顔を引きつらせてツッコむ。俺も普段ならカッコいいとか思ってしまいそうだが、今は何故か恐さの方が上回っていた。
「それで、そっちは片付いた?」
「はい大方は……。それと、客も魔法でワープさせた……けどまだ生き残りがいる……ようです」
「マジか。ならちょっくらやってくるか」
ニンショウさんは、淡く星のように黄色く輝く剣を握り直し、店を出て吹き抜けから下を確認する。俺達もなんとなくついていき見ると、もう無人となった一階のイベントスペースにさっきのモンスターと同種のやつが五匹歩いていた。
「そうだ、君さこのスマホで戦う姿撮っておいて」
「え。は、はい」
すぐに録画モードに出来るようにしてあるスマホを渡される。
「後で、戦う姿を投稿しようと思ってね。いやーこれもバズるぞ!」
彼の言葉を聞く度に俺の中で好感度が下がっていく。
「あたしも……お供します」
「それじゃ、いつも通りサポートよろしく!」
ニンショウさんは吹き抜けから、一階のモンスター達がいるド真ん中に飛んだ。
スタっと軽々と着地すれば、モンスター達は獲物の存在にすぐに気づき、ノータイムで一気に襲いかかってくる。
「……灰になれ」
アモさんは小声でそう呟くと、突き出した右手の先に赤色の魔方陣が出現させ、そこから火球を放つ。それは最初に飛びかかったモンスターに命中し、跡形もなく消える。
「よっと!」
続いて二体が挟み込むように襲いかかる。が、目で追いつけないほどの速さの回転斬りで一瞬で亡骸に変えた。
「……瞬け」
仲間がやられてもお構いなく突進する愚か者に天誅を下すように、アモさんの黄色い魔方陣から稲妻が迸り、一瞬で絶命させる。
「はい、いっちょ上がり」
無謀にも正面から向かってくる最後の敵も、あっさりと一振りで黙らせた。
「もう……止めていいと思うよ」
「あ、わかりました」
「……」
アモさんに言われて録画を止める。直後にニンショウさんがジャンプしてこっちに戻ってきた。
「どう? 撮れた?」
「多分」
「どれどれ…………おおーありがとう、中々良い感じだよ。ははっ、後で編集して……これはかなり伸びそうだ」
「よ、良かったです」
「……」
満足して貰えて何よりだけど、バズに喜んでいる姿を見るとさっきの無双ぶりが台無しだ。
「アモちゃんもナイス。流石のサポート、どんどん連携が深まってきたんじゃない?」
「……ですね」
「……」
今さらながらアモさんは何者なのだろうという疑問が湧いてくる。ニンショウさんは知っているけど、彼女の存在は聞いた事がない。
「やっぱりこの子、気になる?」
「ま、まぁ……」
ジロジロと二人の様子を眺めていたせいか、疑問を悟られてしまった。
「彼女はアモ。凄腕の謎の美人魔法使いさ。僕が一躍有名になったあの事件の後に出会ったんだ。そして力になりたいって言ってくれて、共に行動している」
「アモ……です……あたしのことは……秘密にしてくれると嬉しい……」
「は、はい。あ、そういえば……俺はトキって言います。こっちは友達のココロです」
「……」
しかし、秘密にして欲しいだなんて何か訳ありなんだろうか。
「二人ともよろしく! アモちゃんは恥ずかしがり屋みたいだから、目立ちたくないんだよ。動画に出てくれれば、もっと注目を浴びれるんだけどな……チラ」
「嫌……無理……ありえない……」
「そっかぁ。まぁ、気が変わったら言ってくれよな」
ニンショウさんは爽やか笑顔を浮かべるが、アモさんは避けるように下を向く。承認欲求は強いみたいだけど、他人を無視してまで満たそうとはしないようで安心する。
「お、ようやく警察が入ってきたな。全く行動が遅いぜ」
入口から武装した警察の人達が隊を組んで現れた。
「仕方ない……この街は……平和……だから」
「確かにな。それにしても、アモちゃんの占いはやっぱり当たるな」
「占い?」
また興味深い単語が出てきてつい聞き返してしまった。
「ああ。アモちゃんの占い百発百中。次に僕が必要とされる場所や日付を言い当てれるんだ。今日ここにいたのもそれがあったからさ」
「そ、そうだったんですね。じゃあトークショーというのも」
「それは……ニンショウが……守るついでに……ファンにチヤホヤされて……気分良くなりたいため」
「……あー」
「ノンノン、ファンサービスだよ」
危険な場所に人を呼び込むような事をするのはどうかと思うけど、助けている以上何も言えなかった。
「……」
「ココロ?」
さっきからずっと気になっていたのだけど、ココロが完全無言状態で、二人をじっと見ていた。というより、視線はそこを向いているが、しっかりとそれを捉えていなくて、ぼーっとしている感じだ。特にココロの瞳はアモさんに向けられていた。
「どうかしたの?」
「い、いえ。何でもないわ」
「あたしの……顔……何かついてる?」
「本当に何でもないです」
何故かココロの返事は突き放すように硬かった。流石に気になるのか、アモさんもココロを紫色の瞳を薄めて何かを読み取ろうとしていた。
「さぁてと、警察に事情を話に行きますかね。行くよアモちゃん」
「……うん」
ニンショウさんは一階へと降りて警察の方へと向う。アモさんも彼についていくのだけど、立ち去る一瞬、ココロの方を一瞥した。
それを受けた当の本人は遠くなる彼女の姿を食い入るように見ていた。
「アモさんが気になるの?」
「……あのね」
「うん」
「いえ、帰ってからにしましょうか」
ココロは何か言おうとして、すぐに口を閉じてしまう。とても気になるが、色々あって疲れもあるだろうし、追求するのは止めた。
俺達は彼らの後に続いて警察の方へと行き、保護される。
「……死ぬかと思った」
「ええ」
異常事態と英雄の活躍でどこか非現実感があったが、ようやく地に足がついて、頭が冷静になった。そして、安心感が頭から全身に回って、その暖かみに涙が出そうになる。何とか堪えたけど。
一方のココロはずっと難しい顔をして、それは警察の事情聴取が終わり、マンションに帰るまで変わらなかった。



