夏休み明けの憂鬱を乗り越えて、九月のシルバーウィークに入った。五連休で何をしようか面倒な高校の授業を受けながら、楽しみにしていたのだけど。
「何で連休に台風来るかな」
天気予報でわかっていた事だけど、連休一日目である今日の午前十時。起床すると、案の定の雨模様だった。それもかなり荒れていて、休日にしては早めな時間に起きてしまったのも雨音や風の音がうるさかったからで。俺の心も荒れ模様だ。
「……はぁ、もう眠れそうにないし起きるか」
俺の住む部屋は七階にある鉄筋コンクリートでかなり音を遮ってくれるのだけど、それを貫通してくるほどで。もう完全に目が冴えてしまって眠れそうにもなくベッドから這い出た。
「うおっ、雷もか」
地響きのような落雷の音も鳴り響いた。苦手というほどでもないが、やはり急にそんな音がしたらびっくりしてしまう。
「……アニメでも見ようかな」
俺はキーボードが乗っている勉強机に座る。机の隣にあるワゴンの上にモニターが乗っていて、足元にはデスクトップパソコンが置いてあった。この構成のため当然勉強机は本来の目的のためには使えなくなっている。部屋の真ん中にある背の低い丸机が代役になってくれていた。
「積んでたやつ見るか」
キーボードを叩いてスリープモードを解除。ノイズキャンセリングイヤホンをつけて、早速見放題サービスで、アニメを見始めた。
「……うん?」
三話くらい一気見してから、少し休憩しようとイヤホンを外して立ち上がって、ベッドの上に置いてあったスマホを見ると電話がきていたようだ。普段からミュートにしているので気がつかなかった。さらにはメッセージも一人から何個も送られてきていて。中身を見ようとした瞬間にインターホンが鳴った。それもマンション内からのもので。
「はい」
「やっぱりいるじゃない! 早く開けて!」
「う、うん」
出ると、いつもよりも感情的な見知った女の子の声がした。何か嫌な予感がして開けたくないが、無視するわけにもいかず彼女を迎え入れる。
「ど、どうしたの?」
玄関先にいたのは隣人でクラスメイトのココロ。幼く可愛らしい姿をしているのだけど、今日は不機嫌そうでしかめっ面をしている。いつも整えられている茶髪のショートボブの髪は少し乱れていて、彼女の状態を現しているようだ。亜麻色の半袖にショートパンツという部屋着姿のままでいる。
「メッセージ、送ったんだけど。それに電話もしたのだけど?」
質問をしたら責めるような質問が返ってくる。やはりご機嫌斜めで刺激しない方が賢明のようだ。
「ごめん、アニメ見てて気づかなかったんだ」
「……そう。本当みたいね、無視されるのかと思ってたから、ごめんなさい」
「いやいやそんな事はしないよ」
ココロの心を読む力はこういう時に勘違いが起きなくて助かる。
「それでどうしたの?」
「実は……ええと、情けない事なのだけど……」
途端にココロは顔を赤らめて歯切れが悪くなる。しかし、意を決したように俺を真っ直ぐ見据えると。
「今日凄い外が荒れているでしょう? 雨も風も強くて……それに雷も」
「う、うん」
「私、雷とか苦手で怖くて……だから……その……しばらく一緒にいて欲しい……の」
ココロは耳まで真っ赤にして、瞳を潤ませ上目遣いでそう頼んでくる。
「……わかったよ。特に急ぎの予定とかもないから」
断る理由もないし、そんな風に頼まれたら拒否出来るわけもなく、了承した。
「ありがとう」
そういう事で今日は、ココロと俺の部屋で一緒に過ごすことになった。何だか交際している間柄みたいな感じだなと思ってしまったが、すぐにそれを振り払った。
◇
「……ごめんなさい。アニメを見ていたのよね」
部屋に招き入れるといつも通り俺のベッドの上に腰掛ける。すると、緊張していた面持ちが和らいでいた。
「別に気にしないで。ちょうどきりの良いところで止めてたからさ」
「良かった……」
俺の心を読んで本当だとわかったようでほっと一息をついた。それを見届けてから俺は勉強机の方の椅子に座る。
「雷苦手なんだ」
「ええ、そうなの。あなたにいつも子供っぽいとか思われて言い返してきたけれど、こればっかりは反論出来ないわね――きゃあ!?」
ココロは自嘲気味に笑う。瞬間、雷の音がして彼女は悲鳴を上げ、掛け布団に顔を埋めた。
「うぅ」
「だ、大丈夫?」
「え、ええ……」
まるで怯えたうさぎのような様子でベッドから顔を離して立ち上がる。
「ちょっと部屋からぬいぐるみを持ってくるわ」
「う、うん」
ココロは表情は青ざめていて、もはや一人で隣の部屋に行けるのかすら不安になるほどだ。
「一人で行ける?」
「心配は――きゃぁぁぁ!」
「うおっ!?」
また爆発したような音が鼓膜から身体の芯まで震わせられ、それに驚いたココロは俺に抱きついてきた。
「こ、ココロ?」
小さな身体が密着して、その人肌の体温と柔らかな感触がダイレクトに伝わる。そして何より怯えている震えが何よりも伝わってきて、胸がぎゅっと締め付けられる。
「……っ! ご、ごめんなさい」
「あ、ああ」
ばっと俺から離れると、そのまま駆け足で部屋から出て行ってしまう。玄関の方をぼーっと見ていると、すぐに扉が開いて大きい猫のぬいぐるみを抱き抱えたココロが戻ってくる。彼女は俯いたまま入ってきて、俺の前を通りまたベッドに座り、ぬいぐるみをぎゅっとした。
「……」
ここまで彼女の弱いところを見るのは初めてで、心配になる。
「……弱みを見つけた、とは思わないのね」
「いやぁ、そう思えないほど怖がってるからさ」
ちょっとくらいの苦手そうなリアクションならからかってやろうと思うけど、そんな気は起きないレベルだ。
「はぁ……本当に自分が情けなくなるわ」
大きくため息をつくと、ココロは力なくベッドに横たわる。
「……別にそこまで思い詰めることないと思うけど」
「だってこの年で雷が怖いだなんて、幼稚じゃない」
俺は床に腰を下ろした。見上げるような形でココロに視線を向ける。
「誰だってそういう部分はあるよ。ココロは知っていると思うけど、俺だって沢山ある。それと同じで、自分を責める必要はないよ」
「……」
「それにココロなら幼稚じゃなくて、可愛らしい面になるから、強みまである」
「全く……何を言っているのよ、もう」
そう言ってみるとココロの頬が少しふっと緩んだ。一緒に少し覚めた視線も向けられたけど。
「当たり前でしょ。割と良い事言ってあなたを少し見直していたのに」
「え! もしかして好感度アップ?」
「今のでもうマイナスよ。さっきまでの気持ちを返してもらいたいわ」
ぷりぷりと怒っているが、それによって真っ青になっていた顔が多少良くなっていて、声の張りも戻ってきてもいた。
「良かった良かった。少しは元気が出たみたいだね」
「絶対それで狙っていないわよね。だとしても、普通に励まして欲しかったわ」
また珍しく素直な気持ちを吐露してくるものだから、罪悪感と庇護欲のような感情が芽生えてしまう。
「で、でも俺が言ったことは本当だからさ。弱いとこを持っていても気にせず、何なら隠さずに見せても良いと思うよ」
「……そんな簡単じゃないわ。昔から弱いところなんて見せられなかったから」
ココロの視線が下へと向けられ表情に影がかかる。
「あなたは知っているわよね、私が心を読めたから周りから気味悪がられて孤立していたって」
以前にその話は聞いていた。同級生どころか親からも距離を離されていたとか。俺からすれば信じられない事だ。心を読めるなんてとんでもないスーパーな能力を嫌うなんて。
何より自分の事を自分と同じくらい知ってくれる、そんな相手と出会えているのに拒否するなんて憤りすら感じる。
「あなたはそう好意的に受け取ってくれるけど、普通の人は違う。避けられて時には嫌われて。そうなると誰かを頼るなんて……出来ないわ。それに、嫌われものが弱さを見せたら攻撃される隙を作るようなものだし」
「ごめん、思慮が足りてなかった。言われて出来たら苦労しないよな」
「いいの。あなたが心から気遣ってくれているのはわかるから」
そう言ってくれてはいるものの反省だ。ココロが相手だと良い意味でも悪い意味でもポジティブな方向に進めようとしてしまう。少し立ち止まって考えれば――
「あれ」
「どうしたの?」
「ココロの理論だとさ。めちゃくちゃ俺の事を信頼してくれている事になるよね。今、弱いところ見せてくれるって事は」
「……あ」
無意識だったのか、気づいた瞬間に彼女は耳で赤くする。何か反論しようと口をパクパクとさせるも、声はでていない。
「いやー嬉しいな。ココロにとってそういう存在になれたんだ」
「ち、ちがっ……! これはその、ええと、そういうことじゃ、ない、はず……なのだけど……うぅ」
自分の本音と建前が摩擦を起こしているのか、めちゃくちゃ混乱している。
そしてついに処理しきれなくなったのか、ベッドの端に座りぬいぐるみに顔を埋めて守りの体勢になった。
「ココロ、素直になりなよ」
「うるさい。話しかけないで、何も答えないから」
「沈黙は肯定と捉えます」
「勝手にして。違うけれど、そう思いたいならそうして」
顔を上げずぬいぐるみ越しにもごもごと答える。あんまりからかうのも悪いからここまでにして、落ち着くまで静かに過ごすべく、椅子に腰掛けスマホを適当にいじることにした。
再び大雨の音が鮮明に聞こえるようになる。何となくだが少し弱まった気がした。
「……」
「……」
ちょこちょこ様子をちらっと確認すると、ココロもこちらの様子を伺うようにチラチラ見てくる。目が合うとすぐに顔を伏せてしまう。何だか小動物みたいでいじらしくなる。
すると身体は自然に冷蔵庫へと向かい、冷やしてある一口サイズのミルクチョコレートが沢山入ったそれを手に取ると、三袋ほど彼女に差し出していた。
「からかってごめん、これ良かったら」
「お菓子を渡せば許されると思わないで……貰うけれど」
そう言う口とは裏腹に行動は素直で、チョコを受け取るとすぐに全部食べて、空袋を返される。
「美味しい?」
「……ええ」
またすぐにぬいぐるみに顔を隠してしまうが、声の調子は少し明るくなっている。
「ねぇココロ」
「……何」
鎖国状態は解除されたようで、俺はこの機を逃さないよう、最後に言いたいことを伝える。
「俺はココロの味方だから、他の人には無理でも俺には何かあれば今日みたく頼って――」
そう言いかけて、ふとこれは自分の本当の気持ではないと気づく。こんなカッコつけたようなのは違う。
ココロは、急に俺が黙った事でどうしたのかと顔を上げた。今なら心を読んでくれる。
「いや、俺はココロに頼られたいし、力になりたい。俺を助けると思ってそうしてくれると嬉しい」
ココロは俺の嘘も誇張もない発言を聞いて心を見て、瞳を大きくしてパチクリさせる。
そしてすぐに硬直状態は、呆れたような苦笑みと共に解除された。
「……ふふっ。気が向いたらね」
「うんっ!」
ふと外に意識を広げると、いつの間にか雨音はほとんどなくなっていた。窓の向こうに目を向けると、雲の隙間から光が差し込んでいる。
「やっぱりあなたってスイート変な人ね」
薄暗い光を背にココロは今日一番の微笑みを見せた。
「何で連休に台風来るかな」
天気予報でわかっていた事だけど、連休一日目である今日の午前十時。起床すると、案の定の雨模様だった。それもかなり荒れていて、休日にしては早めな時間に起きてしまったのも雨音や風の音がうるさかったからで。俺の心も荒れ模様だ。
「……はぁ、もう眠れそうにないし起きるか」
俺の住む部屋は七階にある鉄筋コンクリートでかなり音を遮ってくれるのだけど、それを貫通してくるほどで。もう完全に目が冴えてしまって眠れそうにもなくベッドから這い出た。
「うおっ、雷もか」
地響きのような落雷の音も鳴り響いた。苦手というほどでもないが、やはり急にそんな音がしたらびっくりしてしまう。
「……アニメでも見ようかな」
俺はキーボードが乗っている勉強机に座る。机の隣にあるワゴンの上にモニターが乗っていて、足元にはデスクトップパソコンが置いてあった。この構成のため当然勉強机は本来の目的のためには使えなくなっている。部屋の真ん中にある背の低い丸机が代役になってくれていた。
「積んでたやつ見るか」
キーボードを叩いてスリープモードを解除。ノイズキャンセリングイヤホンをつけて、早速見放題サービスで、アニメを見始めた。
「……うん?」
三話くらい一気見してから、少し休憩しようとイヤホンを外して立ち上がって、ベッドの上に置いてあったスマホを見ると電話がきていたようだ。普段からミュートにしているので気がつかなかった。さらにはメッセージも一人から何個も送られてきていて。中身を見ようとした瞬間にインターホンが鳴った。それもマンション内からのもので。
「はい」
「やっぱりいるじゃない! 早く開けて!」
「う、うん」
出ると、いつもよりも感情的な見知った女の子の声がした。何か嫌な予感がして開けたくないが、無視するわけにもいかず彼女を迎え入れる。
「ど、どうしたの?」
玄関先にいたのは隣人でクラスメイトのココロ。幼く可愛らしい姿をしているのだけど、今日は不機嫌そうでしかめっ面をしている。いつも整えられている茶髪のショートボブの髪は少し乱れていて、彼女の状態を現しているようだ。亜麻色の半袖にショートパンツという部屋着姿のままでいる。
「メッセージ、送ったんだけど。それに電話もしたのだけど?」
質問をしたら責めるような質問が返ってくる。やはりご機嫌斜めで刺激しない方が賢明のようだ。
「ごめん、アニメ見てて気づかなかったんだ」
「……そう。本当みたいね、無視されるのかと思ってたから、ごめんなさい」
「いやいやそんな事はしないよ」
ココロの心を読む力はこういう時に勘違いが起きなくて助かる。
「それでどうしたの?」
「実は……ええと、情けない事なのだけど……」
途端にココロは顔を赤らめて歯切れが悪くなる。しかし、意を決したように俺を真っ直ぐ見据えると。
「今日凄い外が荒れているでしょう? 雨も風も強くて……それに雷も」
「う、うん」
「私、雷とか苦手で怖くて……だから……その……しばらく一緒にいて欲しい……の」
ココロは耳まで真っ赤にして、瞳を潤ませ上目遣いでそう頼んでくる。
「……わかったよ。特に急ぎの予定とかもないから」
断る理由もないし、そんな風に頼まれたら拒否出来るわけもなく、了承した。
「ありがとう」
そういう事で今日は、ココロと俺の部屋で一緒に過ごすことになった。何だか交際している間柄みたいな感じだなと思ってしまったが、すぐにそれを振り払った。
◇
「……ごめんなさい。アニメを見ていたのよね」
部屋に招き入れるといつも通り俺のベッドの上に腰掛ける。すると、緊張していた面持ちが和らいでいた。
「別に気にしないで。ちょうどきりの良いところで止めてたからさ」
「良かった……」
俺の心を読んで本当だとわかったようでほっと一息をついた。それを見届けてから俺は勉強机の方の椅子に座る。
「雷苦手なんだ」
「ええ、そうなの。あなたにいつも子供っぽいとか思われて言い返してきたけれど、こればっかりは反論出来ないわね――きゃあ!?」
ココロは自嘲気味に笑う。瞬間、雷の音がして彼女は悲鳴を上げ、掛け布団に顔を埋めた。
「うぅ」
「だ、大丈夫?」
「え、ええ……」
まるで怯えたうさぎのような様子でベッドから顔を離して立ち上がる。
「ちょっと部屋からぬいぐるみを持ってくるわ」
「う、うん」
ココロは表情は青ざめていて、もはや一人で隣の部屋に行けるのかすら不安になるほどだ。
「一人で行ける?」
「心配は――きゃぁぁぁ!」
「うおっ!?」
また爆発したような音が鼓膜から身体の芯まで震わせられ、それに驚いたココロは俺に抱きついてきた。
「こ、ココロ?」
小さな身体が密着して、その人肌の体温と柔らかな感触がダイレクトに伝わる。そして何より怯えている震えが何よりも伝わってきて、胸がぎゅっと締め付けられる。
「……っ! ご、ごめんなさい」
「あ、ああ」
ばっと俺から離れると、そのまま駆け足で部屋から出て行ってしまう。玄関の方をぼーっと見ていると、すぐに扉が開いて大きい猫のぬいぐるみを抱き抱えたココロが戻ってくる。彼女は俯いたまま入ってきて、俺の前を通りまたベッドに座り、ぬいぐるみをぎゅっとした。
「……」
ここまで彼女の弱いところを見るのは初めてで、心配になる。
「……弱みを見つけた、とは思わないのね」
「いやぁ、そう思えないほど怖がってるからさ」
ちょっとくらいの苦手そうなリアクションならからかってやろうと思うけど、そんな気は起きないレベルだ。
「はぁ……本当に自分が情けなくなるわ」
大きくため息をつくと、ココロは力なくベッドに横たわる。
「……別にそこまで思い詰めることないと思うけど」
「だってこの年で雷が怖いだなんて、幼稚じゃない」
俺は床に腰を下ろした。見上げるような形でココロに視線を向ける。
「誰だってそういう部分はあるよ。ココロは知っていると思うけど、俺だって沢山ある。それと同じで、自分を責める必要はないよ」
「……」
「それにココロなら幼稚じゃなくて、可愛らしい面になるから、強みまである」
「全く……何を言っているのよ、もう」
そう言ってみるとココロの頬が少しふっと緩んだ。一緒に少し覚めた視線も向けられたけど。
「当たり前でしょ。割と良い事言ってあなたを少し見直していたのに」
「え! もしかして好感度アップ?」
「今のでもうマイナスよ。さっきまでの気持ちを返してもらいたいわ」
ぷりぷりと怒っているが、それによって真っ青になっていた顔が多少良くなっていて、声の張りも戻ってきてもいた。
「良かった良かった。少しは元気が出たみたいだね」
「絶対それで狙っていないわよね。だとしても、普通に励まして欲しかったわ」
また珍しく素直な気持ちを吐露してくるものだから、罪悪感と庇護欲のような感情が芽生えてしまう。
「で、でも俺が言ったことは本当だからさ。弱いとこを持っていても気にせず、何なら隠さずに見せても良いと思うよ」
「……そんな簡単じゃないわ。昔から弱いところなんて見せられなかったから」
ココロの視線が下へと向けられ表情に影がかかる。
「あなたは知っているわよね、私が心を読めたから周りから気味悪がられて孤立していたって」
以前にその話は聞いていた。同級生どころか親からも距離を離されていたとか。俺からすれば信じられない事だ。心を読めるなんてとんでもないスーパーな能力を嫌うなんて。
何より自分の事を自分と同じくらい知ってくれる、そんな相手と出会えているのに拒否するなんて憤りすら感じる。
「あなたはそう好意的に受け取ってくれるけど、普通の人は違う。避けられて時には嫌われて。そうなると誰かを頼るなんて……出来ないわ。それに、嫌われものが弱さを見せたら攻撃される隙を作るようなものだし」
「ごめん、思慮が足りてなかった。言われて出来たら苦労しないよな」
「いいの。あなたが心から気遣ってくれているのはわかるから」
そう言ってくれてはいるものの反省だ。ココロが相手だと良い意味でも悪い意味でもポジティブな方向に進めようとしてしまう。少し立ち止まって考えれば――
「あれ」
「どうしたの?」
「ココロの理論だとさ。めちゃくちゃ俺の事を信頼してくれている事になるよね。今、弱いところ見せてくれるって事は」
「……あ」
無意識だったのか、気づいた瞬間に彼女は耳で赤くする。何か反論しようと口をパクパクとさせるも、声はでていない。
「いやー嬉しいな。ココロにとってそういう存在になれたんだ」
「ち、ちがっ……! これはその、ええと、そういうことじゃ、ない、はず……なのだけど……うぅ」
自分の本音と建前が摩擦を起こしているのか、めちゃくちゃ混乱している。
そしてついに処理しきれなくなったのか、ベッドの端に座りぬいぐるみに顔を埋めて守りの体勢になった。
「ココロ、素直になりなよ」
「うるさい。話しかけないで、何も答えないから」
「沈黙は肯定と捉えます」
「勝手にして。違うけれど、そう思いたいならそうして」
顔を上げずぬいぐるみ越しにもごもごと答える。あんまりからかうのも悪いからここまでにして、落ち着くまで静かに過ごすべく、椅子に腰掛けスマホを適当にいじることにした。
再び大雨の音が鮮明に聞こえるようになる。何となくだが少し弱まった気がした。
「……」
「……」
ちょこちょこ様子をちらっと確認すると、ココロもこちらの様子を伺うようにチラチラ見てくる。目が合うとすぐに顔を伏せてしまう。何だか小動物みたいでいじらしくなる。
すると身体は自然に冷蔵庫へと向かい、冷やしてある一口サイズのミルクチョコレートが沢山入ったそれを手に取ると、三袋ほど彼女に差し出していた。
「からかってごめん、これ良かったら」
「お菓子を渡せば許されると思わないで……貰うけれど」
そう言う口とは裏腹に行動は素直で、チョコを受け取るとすぐに全部食べて、空袋を返される。
「美味しい?」
「……ええ」
またすぐにぬいぐるみに顔を隠してしまうが、声の調子は少し明るくなっている。
「ねぇココロ」
「……何」
鎖国状態は解除されたようで、俺はこの機を逃さないよう、最後に言いたいことを伝える。
「俺はココロの味方だから、他の人には無理でも俺には何かあれば今日みたく頼って――」
そう言いかけて、ふとこれは自分の本当の気持ではないと気づく。こんなカッコつけたようなのは違う。
ココロは、急に俺が黙った事でどうしたのかと顔を上げた。今なら心を読んでくれる。
「いや、俺はココロに頼られたいし、力になりたい。俺を助けると思ってそうしてくれると嬉しい」
ココロは俺の嘘も誇張もない発言を聞いて心を見て、瞳を大きくしてパチクリさせる。
そしてすぐに硬直状態は、呆れたような苦笑みと共に解除された。
「……ふふっ。気が向いたらね」
「うんっ!」
ふと外に意識を広げると、いつの間にか雨音はほとんどなくなっていた。窓の向こうに目を向けると、雲の隙間から光が差し込んでいる。
「やっぱりあなたってスイート変な人ね」
薄暗い光を背にココロは今日一番の微笑みを見せた。



