ココロに心を読まれる時のトキ

「ふぅー満足」
「……よ、良かったね」
 あの後洋服店を二軒、雑貨屋、本屋とウインドショッピングをして、心が読めない普通をココロは味わっていた。
 その充足した表情は久しぶりに大好きなお菓子を沢山食べた時と同じくらい幸福そうにしていた。
「せっかく来たのだし、あなたも何かしたら?」
「……そうだなぁ」
 ココロについてで頭がいっぱいで何も考えていなかった。何か欲しい物がないか、あたりを見回すと、ふと家電量販店の奥、子供向けのゲームなどがある売り場が目につく。そして隣にいる小柄なココロを見て、一つ俺では出来なかったことを思い出す。
「ココロに協力して欲しい事があるんだ」
「いいわよ。今の私は機嫌がいいから、やれる事なら何でもしてあげる」
 ココロを利用するようで気が引けるが、背に腹は代えられない。俺は彼女共にキッズコーナーに行って、変身ヒロインアニメのコーナーにある玩具を指さした。
「これ買ってきてくれないかな。最近、はまって欲しかったんだけど、流石に恥ずかしくて」
「通販で買いなさいよ」
「いや、ここで買う方が安いし、この店のポイントカードもあるからさ」
「はぁ、全くしょうがないわね。それでどれを買うの?」
 俺は分かりやすいところに置いてある主人公組二人のそれぞれの変身アイテムを取った。紫とピンクの色違いで、形は腕時計型をしており、スマートウォッチがモチーフになっている。そのため、玩具にも色んな機能が付いていて、かなり満足度が高いらしく、買うことに決めた。
「それじゃよろしく。ポイントカードとお金」
「本当小さい時ぶりよ、こういうの買うのは。……言っておくけど、見た目的にピッタリと思っているんでしょうけど、スイート恥ずかしいんだからね」
「わかってるって」
 ちょっと思っている事を言い当てられて、嬉しくなる自分がいた。どうやら俺は、心の中を見られる事を想定以上に気に入っていたみたいだ。
 ココロは少し緊張した足取りで会計に向って、俺は少し離れたところから彼女の様子を眺めた。
 何の情報もなく玩具を買う彼女の姿は何の違和感もない。微かに聞こえてくる女性店員さんの声も表情も、明らかに小さい子に向けられたものだった。
 無事にココロはお買い物を済まして、玩具の入った袋を持って俺の元に。
「買ってきたわよ」
「ありがとう、じゃあちょっと向こうまで行ってからで」
 家電量販店の入り口付近、テレビが沢山置いてあるところで袋を受け取った。
「生まれて初めてよ。小さい子扱い受けて良かったと思ったのは。屈辱的だけれど」
「やっぱり勘違いされたんだ」
「小柄なのは認めるけれど、身体の感じから小学生ではないくらいにわかるでしょ」
「良く見ればそうだけど、ぱっと見たらそう思っちゃうんだよ」
 ふと、売り物のテレビを見ると今のニュース番組が映っていて、臨時のニュースを流れていた。
「……ココロ、これ見てみて」
「どうしたの?」
 音は聞こえないがテロップを読むと、この街で謎の生物の目撃情報が相次いでいるらしい。中には襲われて怪我をした人もいるらしく、警察が調べているようだ。
「何か怖いね」
「もしかしてその生物が英雄の街に出たようなモンスターだったりしてね」
「そ、それはないでしょー」
 そう笑い飛ばしたいけど、さっきの話した流れからこの報道を見てしまうとあり得そうな気がしてしまう。
「けど、もしそうだとしてもここなら安全ね。英雄さんがいるし」
「ははっ、確かにそうだ」
 どうやら俺達は一番の安全圏にいるようだ。ココロの事で頭がいっぱいだというのにさらに不安要素を持ち込まれると耐えられる気がしない。
「それでこれからどうしようか」
「……自由時間にしない? 一緒にいる必要性がなくなったのだし」
 その言葉選びだと義務的にいるような寂しさはあるけど、言いたいことはわかる。
「わかった。一時間くらい?」
「そうね……集合場所はどうする?」
「ここでいいんじゃない? あ、そうだ」
 俺は、玩具を見てちょっとした遊びを思いついた。
「時間が近づいてきて、用が終わったらこれで連絡を取り合わない?」
「どういう事?」
「これ、トランシーバ機能があってさ一キロくらい離れてても繋がるんだよ。せっかくだし試したくて」
「買った玩具ですぐ遊びたくなる子供じゃない。いっつも私を子供扱いしてくるけど、あなたの方がよっぽどキッズよ」
 ココロは大きくため息をついて、呆れた表情をする。
「さっき出来ることなら何でもするって言ったじゃん? だからお願い!」
「買い物でそれは終わったと思っていたけれど」
「お願い! こういうの頼めるのココロしかいないんだ!」
「それはそうでしょうけど……はぁ。しょうがないわね」
 ココロは周囲に聞かれていることを気にしたようで、すぐに折れてくれた。
「ありがとう! ちょっと電池も買ってくる」
 俺はすぐに単四電池を購入して戻る。ココロは既にパッケージから変身アイテムを出してくれていて、早速入れて電源をつけた。
「周りから見たら私がねだって遊んでいるように見えるのよね……ココロが読めなくて良かったわ」
「じゃあピンクの方をココロに」
 俺は主人公のものである紫色の方にした。大きさはギリギリ俺の腕でもつけられそうなくらいだ。流石にデザインは可愛らしくキラキラしていて、玩具感がある。
「流石につけては歩かないからね」
「わかったよ。でも、いつ連絡が来てもいいように気にしてね」
 俺は早速説明書を見ながら二つのアイテムが繋がるよう設定。連絡をかけるとちょっとした着信音が鳴るらしく、これなら気づけそうだ。色々設定出来るけど、ふわふわしたようなのとか、アニメの主題歌とかなるみたいだけど、スマホの初期についているような無難なものにしておく。
「えーとこれは……うわっ!」
 液晶画面には何個かアプリがあって、反応が少し微妙で、通話機能を押したつもりがライト機能を押してしまい画面が眩く光ってしまう。
「思ったより機能がいっぱいなのね」
「まぁ、画面を埋めるためだけのアプリもあるみたいだけどね」
 ライトの他にも普通の時計機能やちょっとしたゲームが遊べる機能があったりもする。それは置いておいて、通話機能がどんなものか試すべく、俺達は少し距離を取って連絡してみる。
「もしもしココロ聞こえる?」
「……ええ。思ったより鮮明に聞こえるのね」
 音はこもっているものの相手の言っている事は聞き取れる。ギリギリ普段使いも出来そうではあった。
「先に言うけれど、絶対に今日だけだからね」
「も、もしかして今心を?」
「読まなくたってわかるわよ、そのくらい」
「そ、そっか……」
 完全に心中を当てられたから期待してしまった。俺の事をわかってくれているようで嬉しいは嬉しいけど。
「じゃあ後でね」
「うん、また後で」
 ココロは玩具をポケットに入れるとひらひらと軽く手を振って三階へと上がっていった。
「さてと……」
 特に何か予定があるわけじゃないからどう時間を潰そうか悩む。
「心が読めない……か」
 案としては、本屋にでも行って何か使えそうなものを探すというのがある。けど、本を買う時はココロに見てもらう約束になっているから、きっと却下されてしまう。
「お菓子かな……」
 もしかしたらお菓子とかを制限されたストレスで変になっているのかもしれない。そう思い立って、とりあえず俺は一階へと向かった。

 ◇

 スマホで時間を見た時には、もうすぐ一時間が経とうとしていた。とりあえず、ココロが好きそうなお菓子や菓子パンをいくつか買った。それから、適当に歩いて、何か役立ちそうなものはないか店を巡ったけど、目ぼしいものはなく。今は雑貨屋でぬいぐるみコーナーを見て、癒しになりそうかと吟味していたところだった。
「さてと、戻るか」
 ここは四階で、結構奥の方まで来てしまったからそろそろ戻らないと間に合わなくなる。
 ピロンと腕につけていたアイテムから着信音が聞こえてきた。
「もしもし、どう――」
「た、大変よ!」
 玩具越しから初めて聞く鬼気迫るココロの声が聞こえてくる。
「モールに、モンスターが! 急に出てきて――きゃあ!」
「こ、ココロ!? 今どこに!」
 悲鳴を聞いて血の気が引いて、視界が大きく揺れる。
「に、二階の……最初に入った店――」
 ぷつんと途絶えてしまう。それと同時にモール中につんざくような非常事態の警報が鳴り響いた。
「ココロ……!」
 不安や心配、それに支配される前に俺は走り出していた。逃げようと混乱する人並みをかき分けて二階へ。
「エレベーターは無理か。階段しか……! くそっ、遠い!」
 三階へ降り、そして二階へ。あの店は入口近くだ。奥まで来ていた自分に毒づきながら夢中で走る。そして見えてくる、あの店が。
「ココロ……!」
 入口前にはいない。すると中だ。視線を向けると、店内は荒らされていて、床にはガラスや服が散らばり、マネキンも横たわっている。一瞬それをココロと重ねてしまいすぐに、そんな思考を振り払い、それを飛び越えて中へ。
「こ、ココロ……? いる……?」
「ガァァァァ!」
「っ!」
 店の奥、今の俺から斜め先にある試着室の前にココロはいた。その前には、人間より一回り大きい黒い狼のような生物がいて、彼女を追い詰めていた。
「……トキ?」
 ココロが俺に気づく。彼女の逃げ場はもう試着室の中しかなくなっていた。このままだとまずい。腕についたアイテムをギュッと握りしめてから。
「ココロ!」
 俺はそこら辺に落ちていたハンガーを手に持ち投げつけた。それと大きな声を上げた事で、モンスターは俺の方に視線を向ける。救うチャンスだ。
「こ、こっちだ!」
 さらに何個も何個も投げると、巨躯も俺へと向き直り、狙いがこっちになった。
「だ、駄目よっ」
 もうココロには眼中にはないようで、一歩一歩そいつは目を離さず近づいてくる。俺も背を向ける勇気はなく向かい合いながら、後ずさる。
「……うわっ!?」
 マネキンに足を取られてつまずく。その瞬間、全身の力が抜けて思った。死ぬって。
「ガァァァァ!」
「……ぁ」
「嫌!」
 スローモーションに見えた。身体が地面に叩きつけられる光景も、モンスターがこちらに襲いかかる様子、そして俺を助けようと走り出していたココロが。
「……」
 モンスターの口が大きく開いて凶暴なキバが見えた時、死を予感して俺は目を瞑った。
「そこまでだ!」
「……!?」
 透き通るような凛々しい男の声が響いた。そのすぐ後に大きな音と風圧を感じて、目を開けると。
 俺の目の前には星のような光り輝く剣を持った同い年くらいの男と、真っ二つに切り裂かれたモンスターの亡骸があった。
「もう大丈夫だよ」
 好青年という言葉そのままの綺麗な顔立ちのその人は、爽やかな声と眩い笑顔を俺に向けた。
 間違いない、この人があの英雄だ。