花を生けるはずが、恋が育ちました。〜幽霊部員だった俺が、部員二人の華道部で一軍男子に完全敗北するまでの話〜

 「おーい、柊珂。今日のイベントの告知見た?」

 昼休みのチャイムと同時に、教室の前方の席に突撃した。

 「……見た」

 「終わってね? 俺のパーティーじゃ絶対一瞬で散るわ」

 「今日の放課後、手伝う。部屋立てとくから」

 「神? さすがしゅーかくん」

 「その呼び方やめろ」

 ちょっと嫌そうに眉をひそめるけど、柊珂はスマホを閉じて普通に俺の相手をしてくれる。

 「……おい三雲」

 柊珂が購買にパンを買いに席を立った瞬間、後ろから松田がガタッと椅子を引いて詰め寄ってきた。

 「お前、いつの間に吾妻とそんな仲良くなってんだよ」

 「部活同じだし」

 「は? 週一の部活でそんな仲良くなるか? 普通」

 「毎晩ゲームしてるからかも」

 「は? あの吾妻と? 嘘だろ、あいつ話しかけても『ん』しか言わねーぞ」

 「あいつ以外と喋るぞ」

 この前なんて、俺が顧問の真似したらめちゃくちゃウケてたし。


 ◇


 「柊珂、部活行こうぜ」

 「……珍し」

 あれ? なんで俺自分から誘ってんだ?
 遊ぶ相手いなかったからだっけ?
 ……たぶん、そうだ。

 「置いてくぞ」

 柊珂の声にハッとして慌ててカバンを掴んで追いかけた。

 最近、花を触るのはちょっと面白い。
 たんぽぽだけしか載ってなかった俺の脳内花図鑑も、少しはレパートリーが増えた。

 「柊珂、これは?」

 「それはデルフィニウム」

 「でるふぃ……? これさ、柊珂っぽいよな」

 「どこが?」

 「なんか近寄り難い」

 「喧嘩売ってる?」

 「綺麗じゃん」

 「……変なの」

 それだけ言って、またすぐに花に向き合う柊珂の横顔は今日もあり得ないくらい整っていて。
 そしてなにより、柔らかい。

 「……なんか、ずっと見てられるんだよな」

 「……なんか言ったか?」

 ……待って。俺今、なんて言った?

 「あ、いや! なんでもねー!」

 ブンブンとちぎれそうなくらい首を振る。

 それなのに――
 気付けば、花より柊珂の方を見ていた。


 ◇


 「三雲! 今日カラオケ行こうぜ! 西校の女子も呼んだから!」

 放課後のチャイムと同時に、松田たちが俺の机をドンドンと叩いた。

 「あー、わりぃ。今日、部活あるからパスで」

 リュックのチャックを閉めながら断ると、「は?」と松田が素っ頓狂な声を上げる。

 それなのに視線を上げれば、松田だけじゃなくて長瀬もそれ以外のやつらもみんな宇宙人でも見たみたいに固まっている。
 別に変なこと言ってないよな?

 「……お前、何言ってんの?」

 「え? だから部活だって」

 「いやいや。部活って、今日、月曜だぞ?」

 「…………あ、」

 リュックを肩にかける手が止まった。

 「あ、いや……そうじゃなくて、なんか、自主練っていうか……」

 「華道部で自主練するやつがどこにいるんだよ。あの『サボり魔樹くん』が、最近木曜日も俺らの誘い断って速攻で理科室行ってんじゃん」

 長瀬の鋭いツッコミが突き刺さる。

 待て。俺、何考えてんの?
 曜日感覚死んだ?

 ……ちがう。購買の月曜限定『具だくさんカレーパン』柊珂と買いに行ったし。

 じゃあ、なに?
 木曜日じゃないって分かってたのに、あいつのとこ行こうとしてたわけ?

 ……待て待て待て。
 ストーカーかよ。キモすぎだろ、俺。

 「あー……! 思い出した、今日、塾の面談だったわ!」

 「はぁ? お前塾なんか行って――」

 「わり! またな!」

 松田たちの声を無視して、逃げるように教室を飛び出した。

 廊下を全力で走りながら、心臓がうるさいくらいにドクドク鳴っている。

 ただの友達。ただの部活仲間。それだけなのに――。
 急に顔が熱くて死にそうだ。

 なんなんだよ、これ。
 全部ぜんぶ意味不明で、俺はただがむしゃらに駅へと走った。