真夜中オルタナティブ文学

『挫折記念日』
 
 敷いていたはずのレールが壊れ、走行していた列車は爆ぜた。
 見えていたはずの目的地には、いつしか濃い霧が立ち込めている。
 もう一度、正しく走れるようにと願えど、一向に届かない。
 人の背中をこんなに遠いと感じたのは、久しぶりだった。
 
 辺りが急に暗くなる。
 慌てて首を振れども、自分以外はなにもない。
 水を打つような静けさの中、鼓動だけが音を立てた。
 真っ暗な夜の淵で、光が見えなくなる。
 水の中で、呼吸が出来ない感覚を貪る。
 必死に必死に泳いでいるけど、未だ光は見えない。
 
 いつまでもいつまでも水の底に溶けてゆく。
 ズンズンと押し込められて沈んでゆく。
 後悔は追いつかず、希望は息をやめてしまった。
 どうも僕らの細胞は、楽しく生きられるようにプログラムされていない。
「もういいや」と呟いて、身を投げ出した瞬間、世界が反転した。
 
 暗かった海の底から光が湧き出す。
 落ちていたはずが、いつの間にか海の中を飛んでいた。
 背中には翼が生えている。
 優雅に水を切って進む。
 濁りのない目に、目的地などもう見えない。
 
 血だらけの翼が、今、光に向かって泳いでゆく。
 
「おぎゃーおぎゃー」
 病室では、この世界に生まれてきたことを、自ら祝福するような産声が響いた。
 
 完