真夜中オルタナティブ文学

『はなむけの湯』
 
 水面に、花びらが舞う。色彩豊かに彩られた空間に言葉を失う。
 やっと出てきた感想は、綺麗、だった。修飾語をぶっ壊したいくらいに美しい。
 瞬きも、呼吸も、もう必要ないかもしれない。
 網膜に映るこの景色を、冷凍して、記憶の中心に閉じ込めたい。
 溶ける肌は、水より透き通っていて、指の先からも花が咲いていた。
 もはや、嘔吐したいはずの香りでさえ、甘くて芳しい。
 この世の誰も、彼女のことを、もう奪えない。世界を葬る、圧倒的な拒絶。
 誰にも触れさせないの、と宣言した彼女は希望の脆さを知っていた。
 誰もが、仮面を脱ぐ場所で、彼女は自分を葬った。
 謝罪も贖罪も通用しない。ただ完璧に、ただ純粋に、彼女は自分に従った。
 誰が悪いのか、一切関係ない。もはや、この空間には悪者など存在しない。
 いつかは朽ちていくはずの人間が、おのずからただ朽ちただけ。
 私は、彼女の顔を知らない。
 
 完