3.
「まず、堀内をこの、点エーとする」
毛利くんは、円の上部中央に黒い点を作った。隣の紗絵は、笑顔で毛利くんのペン先を見守っている。
「まず、紗絵の噂の二組の宇田川を、点ビーとする。そして、点エーとビーの接点を、点ピーとする」
「無理、無理。訳分かんないって。余計にややこしいから。っていうか、数字で説明しようがないでしょ」
「ふむ、では違う説明とするか」
毛利くんの呆れたような顔。世の中の不平等を正していきたいです。
「まず、堀内をエックスとする」
「無理」
「おいおい、不可能に挑戦しようとする試みが勉強だぞ。花凜、ちょっとは耐えろ」
「一つずつ、丁寧に説明してよ。馬鹿でも分かるようにさ」
「いじけちゃだめだよ。私が分かりやすく説明するから。毛利くん、ペン貸して」
紗絵は、紙に棒人間を書き始めた。
「まず、この棒人間が堀内くんで、横の棒人間が宇田川さん。宇田川さんにはリボンが付いてるよ。で、この棒人間が、冴木さん、眼鏡掛けてる。で」
花凜は紙の上で手を振った。
「ちょっと、ちょ、紗絵。わけわかんないってば」
「じゃあ、どうしよっかな。じゃあ、こうしよう、堀内くんと宇田川さんの関係を一、堀内くんと冴木さんの関係を二、で、桑山さんと二見くんの関係を三として」
「もっと分かりやすく説明してよ。数字で説明するんじゃなくて」
「じゃあ、そうだなぁ。困ったな」
紗絵の困った眉。ごめん。もう、生まれてきたのが悪かったんです。
「じゃあ、堀内くんが、レイ、宇田川さんがカーリーだとして」
「いや、だから置換しないで」
きっと、言葉はもう届かない。
毛利くんが突然紗絵に尋ねた。
「ちなみに一宮に名を与えるなら、どうなるんだ」
「レオナルド」
「だよな。俺も絶対レオナルドだと思ってたんだよ」
花凜は、思わず大きな声を出していた。
「はぁ?」
数秒の名付けようのない沈黙の後、紗絵が気を取り直したように手を叩いた。
「花凜、読み聞かせだと思ってちゃんと聞いてね」
「はぁ」
「ある日ある日、川へ洗濯にに行ったおばあさんは、桃が流れてくるのを見つけました。家に帰っておじいさんと桃を開けてみると、中から堀内くんが出てきました」
「却下」
「昔話もダメかぁ」
「なぁなぁ紗絵、キジって七瀬だろ」
「バスケ部だからね」
「だよなぁ。俺も絶対バスケ部だと思ったんだよ」
「あっ、堀内くんじゃん」
紗絵の声につられ、花凜は思わず廊下の方に視線を向ける。すると、廊下には渦中の堀内くんがいた。男友達数人と一緒に廊下を歩いているところだった。今日も爽やかだ。
「ねぇねぇ、堀内くん」
紗絵は、廊下に呼びかけて、チャンスとばかりに席を立った。
花凜も横について行く。ここまで来たら、どうしても気になってしまう。
「堀内くんってさ、誰が好きなの」
堀内くんは顔を赤らめて、紗絵から視線を切った。
そして、真っ直ぐすぎる問いに答えることなく、廊下の奥に消えた。道中、隣の男の子たちに肩を小突かれていた。
隣を見てみると、紗絵は不思議そうに首をかしげたままだ。
「ふざけんなよ」
花凜は、紗絵の肩を力の限り殴った。
「痛っ。なに、花凜」
「なんでもないよ」
「唐突に殴るとは酷いじゃないか。この、花凜め」
紗絵の小さい手からパンチが飛んでくる。可愛い痛みだった。
席に戻ると、毛利くんは悔しそうに唇を噛み、パーカーのフードを被って椅子の上に体育座りしていた。
一瞬思考を巡らせた後、花凜は毛利くんの背中を擦った。
「ドンマイ」
青い物体から、小さな声が漏れる。
「クソ、マイエリザベス」
席に戻ってきた紗絵は、未だ不思議そうな顔をしている。
この鈍感すぎる友達は、よくモテる。
純粋さって人を惹きつける魅力になるんだなと花凜はぼんやり考えた。
完
「まず、堀内をこの、点エーとする」
毛利くんは、円の上部中央に黒い点を作った。隣の紗絵は、笑顔で毛利くんのペン先を見守っている。
「まず、紗絵の噂の二組の宇田川を、点ビーとする。そして、点エーとビーの接点を、点ピーとする」
「無理、無理。訳分かんないって。余計にややこしいから。っていうか、数字で説明しようがないでしょ」
「ふむ、では違う説明とするか」
毛利くんの呆れたような顔。世の中の不平等を正していきたいです。
「まず、堀内をエックスとする」
「無理」
「おいおい、不可能に挑戦しようとする試みが勉強だぞ。花凜、ちょっとは耐えろ」
「一つずつ、丁寧に説明してよ。馬鹿でも分かるようにさ」
「いじけちゃだめだよ。私が分かりやすく説明するから。毛利くん、ペン貸して」
紗絵は、紙に棒人間を書き始めた。
「まず、この棒人間が堀内くんで、横の棒人間が宇田川さん。宇田川さんにはリボンが付いてるよ。で、この棒人間が、冴木さん、眼鏡掛けてる。で」
花凜は紙の上で手を振った。
「ちょっと、ちょ、紗絵。わけわかんないってば」
「じゃあ、どうしよっかな。じゃあ、こうしよう、堀内くんと宇田川さんの関係を一、堀内くんと冴木さんの関係を二、で、桑山さんと二見くんの関係を三として」
「もっと分かりやすく説明してよ。数字で説明するんじゃなくて」
「じゃあ、そうだなぁ。困ったな」
紗絵の困った眉。ごめん。もう、生まれてきたのが悪かったんです。
「じゃあ、堀内くんが、レイ、宇田川さんがカーリーだとして」
「いや、だから置換しないで」
きっと、言葉はもう届かない。
毛利くんが突然紗絵に尋ねた。
「ちなみに一宮に名を与えるなら、どうなるんだ」
「レオナルド」
「だよな。俺も絶対レオナルドだと思ってたんだよ」
花凜は、思わず大きな声を出していた。
「はぁ?」
数秒の名付けようのない沈黙の後、紗絵が気を取り直したように手を叩いた。
「花凜、読み聞かせだと思ってちゃんと聞いてね」
「はぁ」
「ある日ある日、川へ洗濯にに行ったおばあさんは、桃が流れてくるのを見つけました。家に帰っておじいさんと桃を開けてみると、中から堀内くんが出てきました」
「却下」
「昔話もダメかぁ」
「なぁなぁ紗絵、キジって七瀬だろ」
「バスケ部だからね」
「だよなぁ。俺も絶対バスケ部だと思ったんだよ」
「あっ、堀内くんじゃん」
紗絵の声につられ、花凜は思わず廊下の方に視線を向ける。すると、廊下には渦中の堀内くんがいた。男友達数人と一緒に廊下を歩いているところだった。今日も爽やかだ。
「ねぇねぇ、堀内くん」
紗絵は、廊下に呼びかけて、チャンスとばかりに席を立った。
花凜も横について行く。ここまで来たら、どうしても気になってしまう。
「堀内くんってさ、誰が好きなの」
堀内くんは顔を赤らめて、紗絵から視線を切った。
そして、真っ直ぐすぎる問いに答えることなく、廊下の奥に消えた。道中、隣の男の子たちに肩を小突かれていた。
隣を見てみると、紗絵は不思議そうに首をかしげたままだ。
「ふざけんなよ」
花凜は、紗絵の肩を力の限り殴った。
「痛っ。なに、花凜」
「なんでもないよ」
「唐突に殴るとは酷いじゃないか。この、花凜め」
紗絵の小さい手からパンチが飛んでくる。可愛い痛みだった。
席に戻ると、毛利くんは悔しそうに唇を噛み、パーカーのフードを被って椅子の上に体育座りしていた。
一瞬思考を巡らせた後、花凜は毛利くんの背中を擦った。
「ドンマイ」
青い物体から、小さな声が漏れる。
「クソ、マイエリザベス」
席に戻ってきた紗絵は、未だ不思議そうな顔をしている。
この鈍感すぎる友達は、よくモテる。
純粋さって人を惹きつける魅力になるんだなと花凜はぼんやり考えた。
完



