2.
毛利くんは、どこで買ったらそのサイズになるのかと、思わず疑問をぶつけたくなるような、オーバーサイズの青いパーカーを着ていた。スリーエックスエルぐらいじゃないの。痩せた体にぶっかぶかのシルエットが全く似合っていない。
違和感を口に出さぬよう、花凜は俯いて食事に集中する。
「ようよう、お二人さんよう、難しい顔してどうしたの」
毛利くんは陽気なテンションで、ふらふらと寄ってきた。
軽薄な感じだけど、残念ながら毛利くんは決して目立つタイプではない。
「毛利、助けてくれよ。真実が消えてしまったんだ」
紗絵が毛利くんに話しかけた。ああ、終わった。
「世界の秘密に関わるようなことなのか」
「毛利も消されるかもしれない」
「聞かせろ紗絵。俺の命は消されても構わぬ。花凜、屍の処理は頼んだぞ」
花凜は、一度箸を置き、この後の展開を想像した。
超絶意味不明な世界が繰り広げられるに違いない。二人の会話は二人にしか認識できない。もはや英語よりも難しい瞬間がある。
「学年一の爽やか、堀内くんは、二組のおしとやか、宇田川さんのことを好きだって、四組の桑山さんから聞いたんだ」
「ほう、続きを聞かせろ」
「なのに、花凜は私の仕入れた情報と違う情報を持っている」
紗絵に、お前が言うべきだみたいな目配せをされた。そんな説明難しいかな。
一応、わざとらしくため息をついてから、花凜は口を開いた。
「堀内くんは、三組の冴木さんが好きだって聞いたことがあるんだよね。みんな噂してるから、噂の出どころは分からないけどさ」
「ほう、興味深いな」
毛利くんは、顎に手を当てた。なんか、イライラする。
続けて、毛利くんは振りかぶりに振りかぶって、溜めに溜めた後で口を開いた。
時計の針の音が聞こえるほどの静寂を飲まされた。
「まずは、俺の持っている情報も伝えよう」
「五組の一宮《いちみや》という友人がいる。彼は堀内と同じバレーボール部だ。俺は一宮と中学からの同級生なんだ」
「へぇ、毛利くんに友達いるんだ」
紗絵が何気なく放った一撃だった。花凜は思わず吹き出しそうになる。
毛利くんは全く気に留めていない顔だ。この人も精神が強い。
「五組の一宮は、二組の宇田川さんを好んでいる。だから、紗絵の仕入れた情報は、堀内と一宮の誤認であったように思うぞ。端的に言えば勘違いだ」
「そうかな。桑山さんは、相当確信持ってた感じだったけど。嘘つく人にも思えないしなぁ」
「桑山か、確かに、彼女は嘘をつくような人間には思えないな。彼女は、昨年六組の二見に告白したそうだからな。二見《ふたみ》を選ぶとは、中々よい目をしている」
「桑山さん、六組の二見くんのこと好きなんだ。二見くんハンドボール部のエースだもんね。格好いいよなぁ」
「ちょ、ちょっと待って」
花凜は手で二人を止めた。不満顔で二人が見てくる。
「誰が誰だか、もう分からないんだけど」
「花凜、折角楽しくなってきたところなんだからさ、水差さないでよ」
「そうだ。まだ謎は解けていないんだぞ」
「ごめんってば。誰だっけ、あの、四組の桑山さんが六組の二見くんが好きとかは、今関係ないじゃん。バレーボール部とかさ。堀内くんが誰を好きかだよね」
「二見くんはハンドボール部だよ」
「そうだ。二見はエースだぞ」
紗絵と毛利くんに順々に正される。
花凜は額に手を当てた。やってしまった。
そういえば、毛利くんも勉強ができるタイプだ。記憶力いいとか自分で自慢してた気がする。この世の仕組みってどうなってるんだろう。
毛利くんは、一度こちらを軽蔑するような目で見てから話を再開した。
「それで三組の冴木だが、彼女には幼馴染がいる。七組の七瀬《ななせ》だ。バスケットボール部の新部長濃厚とされている男だ。七瀬と冴木は影で付き合っているって噂があるぞ」
「冴木さん、七瀬くんと幼馴染なんだ。知らなかった」
「あの、すいません。だからさ」
紗絵が毛利くんに向かって上手にウィンクした。
「毛利くん、意外と情報通だね」
「だろう。情報屋の毛利、これが異名さ。人の秘密を白日の元に。いつでも依頼しろよ」
「みんな恋愛してるなぁ、私も乗り遅れないようにしないと」
「乗り遅れるもなにも、運命はしかるべきときにやってくる。今やるべきことを粛々とするしかないのだろう」
「焦らず行くしかないか」
「あの、すいません」
小声で呼びかけると、やっと二人は止まってくれた。
怪訝そうな顔の紗絵と目が合った。
「なんだよ、花凜。まだ分からないことでも」
「分からないことだらけだよ。五とか六とか、バレーとかバスケがどうとか、もう、誰が誰だか」
「よし、この毛利が説明してやろう」
毛利くんは、ポケットからメモ用紙を取り出した。そして、紗絵のペンを借りて、紙の中央に大きな円を書いた。
毛利くんは、どこで買ったらそのサイズになるのかと、思わず疑問をぶつけたくなるような、オーバーサイズの青いパーカーを着ていた。スリーエックスエルぐらいじゃないの。痩せた体にぶっかぶかのシルエットが全く似合っていない。
違和感を口に出さぬよう、花凜は俯いて食事に集中する。
「ようよう、お二人さんよう、難しい顔してどうしたの」
毛利くんは陽気なテンションで、ふらふらと寄ってきた。
軽薄な感じだけど、残念ながら毛利くんは決して目立つタイプではない。
「毛利、助けてくれよ。真実が消えてしまったんだ」
紗絵が毛利くんに話しかけた。ああ、終わった。
「世界の秘密に関わるようなことなのか」
「毛利も消されるかもしれない」
「聞かせろ紗絵。俺の命は消されても構わぬ。花凜、屍の処理は頼んだぞ」
花凜は、一度箸を置き、この後の展開を想像した。
超絶意味不明な世界が繰り広げられるに違いない。二人の会話は二人にしか認識できない。もはや英語よりも難しい瞬間がある。
「学年一の爽やか、堀内くんは、二組のおしとやか、宇田川さんのことを好きだって、四組の桑山さんから聞いたんだ」
「ほう、続きを聞かせろ」
「なのに、花凜は私の仕入れた情報と違う情報を持っている」
紗絵に、お前が言うべきだみたいな目配せをされた。そんな説明難しいかな。
一応、わざとらしくため息をついてから、花凜は口を開いた。
「堀内くんは、三組の冴木さんが好きだって聞いたことがあるんだよね。みんな噂してるから、噂の出どころは分からないけどさ」
「ほう、興味深いな」
毛利くんは、顎に手を当てた。なんか、イライラする。
続けて、毛利くんは振りかぶりに振りかぶって、溜めに溜めた後で口を開いた。
時計の針の音が聞こえるほどの静寂を飲まされた。
「まずは、俺の持っている情報も伝えよう」
「五組の一宮《いちみや》という友人がいる。彼は堀内と同じバレーボール部だ。俺は一宮と中学からの同級生なんだ」
「へぇ、毛利くんに友達いるんだ」
紗絵が何気なく放った一撃だった。花凜は思わず吹き出しそうになる。
毛利くんは全く気に留めていない顔だ。この人も精神が強い。
「五組の一宮は、二組の宇田川さんを好んでいる。だから、紗絵の仕入れた情報は、堀内と一宮の誤認であったように思うぞ。端的に言えば勘違いだ」
「そうかな。桑山さんは、相当確信持ってた感じだったけど。嘘つく人にも思えないしなぁ」
「桑山か、確かに、彼女は嘘をつくような人間には思えないな。彼女は、昨年六組の二見に告白したそうだからな。二見《ふたみ》を選ぶとは、中々よい目をしている」
「桑山さん、六組の二見くんのこと好きなんだ。二見くんハンドボール部のエースだもんね。格好いいよなぁ」
「ちょ、ちょっと待って」
花凜は手で二人を止めた。不満顔で二人が見てくる。
「誰が誰だか、もう分からないんだけど」
「花凜、折角楽しくなってきたところなんだからさ、水差さないでよ」
「そうだ。まだ謎は解けていないんだぞ」
「ごめんってば。誰だっけ、あの、四組の桑山さんが六組の二見くんが好きとかは、今関係ないじゃん。バレーボール部とかさ。堀内くんが誰を好きかだよね」
「二見くんはハンドボール部だよ」
「そうだ。二見はエースだぞ」
紗絵と毛利くんに順々に正される。
花凜は額に手を当てた。やってしまった。
そういえば、毛利くんも勉強ができるタイプだ。記憶力いいとか自分で自慢してた気がする。この世の仕組みってどうなってるんだろう。
毛利くんは、一度こちらを軽蔑するような目で見てから話を再開した。
「それで三組の冴木だが、彼女には幼馴染がいる。七組の七瀬《ななせ》だ。バスケットボール部の新部長濃厚とされている男だ。七瀬と冴木は影で付き合っているって噂があるぞ」
「冴木さん、七瀬くんと幼馴染なんだ。知らなかった」
「あの、すいません。だからさ」
紗絵が毛利くんに向かって上手にウィンクした。
「毛利くん、意外と情報通だね」
「だろう。情報屋の毛利、これが異名さ。人の秘密を白日の元に。いつでも依頼しろよ」
「みんな恋愛してるなぁ、私も乗り遅れないようにしないと」
「乗り遅れるもなにも、運命はしかるべきときにやってくる。今やるべきことを粛々とするしかないのだろう」
「焦らず行くしかないか」
「あの、すいません」
小声で呼びかけると、やっと二人は止まってくれた。
怪訝そうな顔の紗絵と目が合った。
「なんだよ、花凜。まだ分からないことでも」
「分からないことだらけだよ。五とか六とか、バレーとかバスケがどうとか、もう、誰が誰だか」
「よし、この毛利が説明してやろう」
毛利くんは、ポケットからメモ用紙を取り出した。そして、紗絵のペンを借りて、紙の中央に大きな円を書いた。



