土曜日の朝。
中津川駅前の空は、よく晴れていた。
神谷悠斗は駅前の時計を見上げ、小さくため息をついた。
午前八時五十分。
待ち合わせは九時。
つまり、約束より十分も早く着いてしまっている。
「……なんで俺、早く来てんだよ」
自分で自分に呆れる。
今日は文化祭のための中津川PR企画、その最初の取材日だった。
本当は来る気なんてなかった。
昨日までは、そう思っていた。
でも昨夜、何となくスマホで「中津川市」と検索してしまった。
馬籠宿。
苗木城跡。
恵那山。
栗きんとん。
そして、古い町並みや商店街の写真。
知っているはずの町なのに、画面の中の中津川は、悠斗の知らない顔をしていた。
「まあ、確認するだけだし」
誰に言い訳するでもなく呟く。
制服姿の悠斗は、駅前のベンチに腰を下ろした。
すると、遠くから元気な声が聞こえてきた。
「神谷くーん!」
振り返ると、水野美月が手を振りながら走ってくる。
彼女も制服姿だった。
肩に小さなバッグをかけ、片手にはノートを持っている。
「来たじゃん!」
「たまたま」
「駅前にたまたま制服で?」
「散歩」
「苦しいよ、それ」
美月は楽しそうに笑った。
朝から元気すぎる。
悠斗は少しだけ目を細めた。
「お前、本当にやる気だな」
「当たり前でしょ。中津川PRプロジェクト、今日から本格始動なんだから」
「大げさ」
「大げさなくらいがちょうどいいの」
美月は駅前を見渡す。
まだ人通りは多くない。
けれどバスを待つ人や、買い物袋を持った人がちらほら歩いている。
いつもの駅前。
悠斗にとっては、何度も見た景色だった。
美月はその景色を見ながら、嬉しそうに言った。
「ね。今日はここから始めよう」
「ここ?」
「中津川駅前」
「普通すぎるだろ」
「普通って、ちゃんと見たことある?」
「あるに決まってるだろ。毎日通ってる」
「通ってるのと、見てるのは違うよ」
その言葉に、悠斗は返せなかった。
昨日も似たようなことを言われた気がする。
自分はこの町を知っている。
そう思っていた。
でも本当にそうなのか。
その答えは、まだ分からなかった。
「おーい、美月!」
別の声が聞こえた。
振り返ると、眼鏡をかけた男子が大きなリュックを背負って歩いてきた。
首にはヘッドホン。
眠そうな顔をしている。
「大地、遅い!」
「まだ九時前だろ……」
加藤大地。
同じ学年で、動画編集が得意らしい。
美月が協力を頼んだと言っていた。
大地は悠斗を見ると、軽く手を上げた。
「神谷だっけ。よろしく」
「よろしく」
「俺、編集担当ね。撮るだけ撮ってくれれば、なんとかする」
「適当だな」
「編集でなんとかなる」
その自信はどこから来るのか。
悠斗が少し呆れていると、今度は女子が一人やってきた。
長い髪をひとつにまとめ、首からカメラを下げている。
「おはよ。朝から元気だね、美月」
「琴音! 来てくれてありがとう!」
「写真撮れるなら面白そうだし」
原田琴音。
写真部所属。
落ち着いた雰囲気で、周りをよく見ている。
琴音は駅前の景色を見て、すぐにカメラを構えた。
「朝の光、けっこういいかも」
「何撮ってんの?」
悠斗が聞くと、琴音はシャッターを切りながら答えた。
「駅前の空気」
「空気って撮れるのかよ」
「撮れるよ。たぶん」
「たぶんかよ」
最後に、息を切らして男子が走ってきた。
「待たせた!」
「翔太、ぎりぎり!」
「いや、道中で古い石碑を見つけてさ」
「もう始まってる……」
美月が苦笑する。
山口翔太。
歴史好きで、語り出すと止まらないタイプらしい。
翔太は目を輝かせていた。
「今日はどこ行くんだ? 馬籠? 苗木城? それとも中山道関係?」
「まずは駅前商店街」
「渋いな!」
「渋いのか?」
悠斗が思わず聞く。
翔太は胸を張った。
「渋いよ。駅前にはその町の今が出る」
「そういうもん?」
「そういうもん」
妙に説得力があるような、ないような。
こうして五人がそろった。
美月はノートを開き、真ん中に立つ。
「改めまして」
そして、元気よく言った。
「中津川PRプロジェクト、開始です!」
誰も拍手しなかった。
少し間が空く。
「してよ!」
美月が叫ぶ。
翔太だけが慌てて拍手した。
「お、おおー!」
「翔太くん優しい!」
「俺は?」
「神谷くんは冷たい」
「知ってる」
美月は咳払いをした。
「今日の目的は、中津川に本当に紹介するものがないのか調べること」
悠斗をちらりと見る。
「誰かさんが、何もないって言うから」
「事実だろ」
「だから調べるの」
美月はノートを掲げた。
「ルールがあります」
「ルール?」
「一つ、思い込み禁止」
ペンでノートを叩く。
「二つ、聞いた話をすぐ否定しない」
「俺向けだろ」
「三つ、まず見る」
「はいはい」
「四つ、まず聞く」
「探偵かよ」
「似たようなものだよ。町の宝探し」
町の宝探し。
その言葉に、悠斗は少しだけ眉を動かした。
大地がカメラを取り出す。
「じゃあ、撮りながら行くか」
琴音もカメラの設定を確認する。
「最初の一枚、駅前からにしよう」
翔太はもう周辺の建物を見回している。
「この辺り、昔の道筋と今の町並みが重なってて面白いんだよ」
「長くなりそうだから歩きながらで」
美月が笑う。
五人は駅前から商店街へ向かって歩き出した。
◇
土曜日の商店街は、静かだった。
シャッターの閉まった店もある。
けれど、開いている店からは人の気配がした。
和菓子店。
喫茶店。
雑貨屋。
八百屋。
昔からそこにあるような建物が、通りに並んでいる。
悠斗は周囲を見渡し、肩をすくめた。
「ほらな」
「何が?」
「やっぱり普通」
美月が振り返る。
「早い。まだ歩き始めたばっかり」
「だって見たままだろ」
「神谷くんの悪いところ出てる」
「悪いところ?」
「見た瞬間に決めつけるところ」
美月はそう言って、一軒の店の前で立ち止まった。
そこは古い和菓子屋だった。
木の看板に、柔らかい文字で店名が書かれている。
店先には栗きんとんの文字。
悠斗は少しだけ足を止めた。
「栗きんとんか」
「中津川といえば、やっぱり外せないでしょ」
「食べ物だけでPRになるのか?」
「なるよ。食べ物って、その土地の記憶だから」
美月は自信満々に言った。
その言葉を聞いて、琴音がすぐにカメラを構えた。
「今のいいね。美月、もう一回言って」
「え、恥ずかしい」
「言葉も撮りたい」
「写真なのに?」
「気持ちの問題」
大地は店の外観を撮影している。
「看板、いい雰囲気だな」
翔太も頷いた。
「中津川の栗菓子文化は大事だよ。山の恵みと町の職人技が繋がってる」
「へぇ」
悠斗は思わず声を漏らした。
美月がすかさず反応する。
「今、ちょっと興味持った?」
「持ってない」
「嘘だ」
「持ってない」
「顔に出てた」
「出てねぇ」
美月は楽しそうに笑った。
その笑顔を見て、悠斗は少しだけ視線を逸らした。
◇
店の中に入ると、甘い香りがした。
木の棚には、栗きんとんや羊羹、季節の和菓子が並んでいる。
店の奥から、年配の店主が出てきた。
「いらっしゃい」
柔らかい声だった。
美月が少し緊張しながら一歩前に出る。
「あの、私たち高校の文化祭で中津川のPR企画をしていて……少しお話を聞いてもいいですか?」
店主は目を細めた。
「高校生が中津川のPRか。いいねえ」
「ありがとうございます!」
「何が聞きたい?」
美月はノートを開いた。
「栗きんとんって、どうして中津川で有名なんですか?」
店主はゆっくりと話し始めた。
昔からこの地域では栗が身近だったこと。
秋になると、家庭でも栗を使った菓子を作っていたこと。
それが職人の手で磨かれ、今の栗きんとんにつながっていること。
派手な菓子ではない。
でも、栗そのものの味を大切にする。
余計なものを足しすぎない。
素材と向き合う。
店主の言葉は静かだったが、不思議と力があった。
悠斗は黙って聞いていた。
正直、栗きんとんなんて、ただの土産物だと思っていた。
秋になれば店に並ぶもの。
誰かの家に行く時に持っていくもの。
それくらいの認識しかなかった。
でも、目の前の店主は、それをまるで大切な思い出のように語っている。
「栗きんとんはね」
店主は笑った。
「中津川の秋を、手のひらに乗せたようなものなんだよ」
その言葉に、教室では感じなかった重みがあった。
琴音が小さくシャッターを切る。
大地は静かにカメラを回している。
翔太も珍しく口を挟まない。
美月は真剣にメモを取っていた。
悠斗だけが、何も持たずに立っている。
でも、心の中には確かに何かが残っていた。
◇
店を出た後、五人は商店街を歩き続けた。
美月は嬉しそうにノートを見返している。
「すごかったね」
「何が?」
悠斗が聞く。
「栗きんとんって、ただ美味しいだけじゃないんだなって」
「まあ……」
「まあ?」
「知らなかった」
思わず出た言葉だった。
美月がぴたりと止まる。
「今、何て?」
「何でもない」
「言ったよね? 知らなかったって」
「言ったけど」
「一個発見!」
「何が」
「神谷くん、中津川のこと知らないって認めた!」
「うるさい」
美月は満足そうに笑った。
大地がぼそっと言う。
「今の動画に入れたいな」
「入れるな」
「タイトル、神谷、初めての敗北」
「絶対やめろ」
琴音が笑う。
「でも、いい表情してたよ」
「してない」
「してた」
翔太が腕を組む。
「知らないことを知る。それが歴史の始まりだな」
「急に壮大にするな」
賑やかに歩いているうちに、通りの先にまた古い建物が見えてきた。
美月が足を止める。
「あ、ここも行きたい」
悠斗は看板を見上げた。
「はざま酒造?」
そこには、歴史を感じる酒蔵があった。
白壁と木の造り。
町の中にありながら、そこだけ時間が少しゆっくり流れているように見えた。
「酒蔵って……俺たち高校生だぞ」
「飲むわけじゃないよ!」
美月が慌てて言う。
「建物とか、歴史とか、水とか、職人さんの話を聞くの」
「水?」
「お酒って、いい水が大事なんだって。中津川の自然とも繋がってると思う」
大地がカメラを構えた。
「外観だけでも映えるな」
琴音も頷く。
「古い建物って光が似合う」
翔太はすでに目を輝かせている。
「酒蔵は地域文化の塊だよ。土地の水、米、人の技術、商いの歴史が全部入ってる」
「お前、こういう時だけ生き生きするな」
悠斗が言うと、翔太は胸を張った。
「歴史だからな」
美月は入り口の前で少し緊張した顔になる。
「取材、お願いしてみよう」
◇
中に入ると、空気が少し変わった。
木の香り。
静かな空間。
古い建物独特の落ち着いた雰囲気がある。
美月が受付の人に事情を説明すると、短時間ならと話を聞かせてもらえることになった。
案内してくれたのは、穏やかな表情の男性だった。
「高校生が町のPRか。いいですね」
「ありがとうございます」
美月が頭を下げる。
悠斗も慌てて軽く頭を下げた。
男性は酒蔵の歴史や、仕込みに使う水の大切さについて話してくれた。
酒を造る場所は、ただ商品を作る場所ではない。
その土地の気候や水、人の暮らしと深く結びついている。
中津川という土地の自然があって、そこで暮らす人たちがいて、受け継がれてきた技術がある。
その積み重ねが、今もこの場所に残っている。
「君たちはまだ飲めない年齢だけど」
男性は少し笑った。
「こういう場所は、大人だけのものじゃないんです。町の歴史として、誰が見てもいい。知ってもらえたら嬉しいですね」
その言葉に、美月の顔が明るくなる。
「はい。ちゃんと伝えたいです」
悠斗は周囲を見回した。
古い梁。
磨かれた床。
静かに並ぶ道具。
そこに派手さはない。
でも、確かに誰かが大切に守ってきた時間があった。
ふと、和菓子屋の店主の言葉を思い出す。
中津川の秋を、手のひらに乗せたようなもの。
ここにも、似たものがあるのかもしれない。
この町で暮らしてきた人たちの積み重ね。
自分が見ようとしていなかったもの。
「神谷くん」
美月に呼ばれ、悠斗は我に返る。
「どう?」
「どうって?」
「何か思った?」
悠斗は少しだけ迷った。
いつものように「普通」と言えば終わる。
でも、それは少し違う気がした。
「……古いけど」
「うん」
「ちゃんと残ってるんだなって思った」
美月は驚いたように目を丸くした。
それから、ゆっくり笑った。
「いい感想」
「別に」
「照れてる」
「照れてない」
大地が小声で言う。
「今のも使えるな」
「使うな」
琴音は酒蔵の入り口から差し込む光を撮っていた。
「ここ、いい写真になる」
翔太は男性に質問を続けている。
「この辺りの街道との関わりってありますか?」
「翔太、長くなる予感しかしない」
美月が笑う。
その笑い声が、静かな酒蔵に柔らかく響いた。
◇
取材を終えた五人は、再び外へ出た。
昼前の陽射しが少しまぶしい。
商店街の通りには、さっきより人が増えていた。
悠斗は何となく振り返って、はざま酒造の建物を見た。
さっきまでは、ただの古い建物だった。
でも今は少し違って見える。
そこに物語があると知ったからだ。
知らなければ、ただ通り過ぎるだけだった。
知った瞬間、景色は変わる。
それが少し悔しかった。
「神谷くん」
美月が隣に並ぶ。
「今日、どう?」
「何回聞くんだよ」
「だって気になるもん」
「まだ午前中だろ」
「じゃあ途中経過」
「……まあ」
悠斗は言葉を探す。
正直に言うのは、少し癪だった。
「思ったより、悪くない」
美月はぱっと笑った。
「やった」
「何が」
「一歩前進」
「大げさ」
「大げさじゃないよ」
美月は商店街の先を指差した。
「まだまだ行くよ。駅前、ちゃんと見るんだから」
「まだ歩くのかよ」
「当たり前」
大地が後ろであくびをする。
「昼飯も撮ろうぜ。グルメ要素いる」
琴音が頷く。
「お店の人の表情も撮りたい」
翔太は楽しそうに言う。
「午後は歴史の話もできるな」
「勘弁してくれ」
悠斗はそう言いながらも、足を止めなかった。
◇
午後。
五人は駅前周辺を歩きながら、いくつかの店や通りを見て回った。
昔ながらの喫茶店。
地元野菜を並べる店。
小さな雑貨屋。
どれも、悠斗にとっては珍しいものではない。
でも、美月たちはひとつひとつに足を止めた。
店主に話を聞き、写真を撮り、動画に残す。
何気ない看板。
古い椅子。
軒先の花。
通りすがりの人の挨拶。
それらを美月は宝物みたいに拾い上げていく。
悠斗は最初、その様子を少し馬鹿にしていた。
けれど、時間が経つにつれて、だんだん分からなくなってきた。
もしかして。
本当に、自分が見ていなかっただけなのかもしれない。
そう思いかけて、すぐに首を振る。
まだ早い。
今日一日歩いただけで、町への印象が変わるなんて単純すぎる。
でも。
和菓子屋の店主の言葉。
酒蔵の静けさ。
美月の笑顔。
それらは確かに、悠斗の中に残っていた。
◇
夕方。
五人は駅前広場に戻ってきた。
ベンチに座り、今日撮った写真や動画を確認する。
大地のカメラには、思った以上にたくさんの映像が入っていた。
琴音の写真も、かなりの枚数になっている。
「見て、これ」
琴音がカメラの画面を見せる。
和菓子屋の店主が笑っている写真。
はざま酒造の入り口に光が差し込む写真。
商店街を歩く美月の後ろ姿。
そして、少し離れた場所で何かを見上げている悠斗の写真。
「勝手に撮るなよ」
「いい顔してたから」
「してない」
「してたよ。何か考えてる顔」
悠斗は画面から目を逸らした。
大地が動画を再生する。
美月の声が聞こえる。
『本当に何もないのか、調べてみよう』
その後に、和菓子屋、酒蔵、商店街の映像が続く。
まだ編集前なのに、不思議と形になっているように見えた。
「……意外と撮れてるな」
悠斗が言うと、大地がにやりとした。
「だろ? 編集したらもっと良くなる」
翔太も満足そうだった。
「歴史解説も入れよう」
「長すぎるのはカットな」
「なぜだ!」
「動画が終わらなくなるから」
美月が笑いながらノートを閉じる。
「神谷くん」
「何」
「今日、どうだった?」
またその質問。
悠斗はため息をつく。
でも、今度は逃げなかった。
「……思ったより」
言葉を区切る。
四人がこちらを見る。
「悪くなかった」
美月の顔が、ゆっくり明るくなった。
「一個発見」
「何が」
「神谷くんが初めて中津川を褒めた」
「褒めてねぇ」
「褒めたよ」
「悪くなかったって言っただけだ」
「それ、神谷くんにしてはかなり褒めてる」
大地が頷く。
「歴史的瞬間だな」
琴音も笑う。
「写真撮ればよかった」
翔太は真面目な顔で言った。
「これは中津川PR史に残る」
「残らねぇよ」
五人の笑い声が駅前広場に広がる。
悠斗は少しだけ居心地の悪さを感じた。
でも、不思議と嫌ではなかった。
夕焼けが町を染めていく。
遠くに恵那山が見えた。
いつもの山。
毎日見ていた景色。
でも今日は、朝とは少し違って見えた。
知らないことは、まだたくさんある。
そう思った。
何もない町。
ずっとそう決めつけていた。
でも。
もしかしたら。
何もないのではなく、自分が何も見ていなかっただけなのかもしれない。
悠斗はその考えを、まだ誰にも言わなかった。
ただ、夕日に染まる町を見つめていた。
隣で美月が言う。
「次はもっと面白いよ」
「まだやるのか」
「もちろん」
「どこ行くんだよ」
美月は得意げに笑った。
「次は、駅前取材をもっと本格的にやります」
「今日も駅前だっただろ」
「今日は下見。次は本番」
「マジかよ」
「マジです」
悠斗は大きくため息をついた。
けれど、その口元はほんの少しだけ緩んでいた。
美月はそれに気づいていたが、何も言わなかった。
ただ、嬉しそうに前を向いた。
春の夕風が、五人の間を通り抜ける。
中津川の町は静かに暮れていく。
その静けさの中で、彼らの小さなプロジェクトは、確かに動き始めていた。
中津川駅前の空は、よく晴れていた。
神谷悠斗は駅前の時計を見上げ、小さくため息をついた。
午前八時五十分。
待ち合わせは九時。
つまり、約束より十分も早く着いてしまっている。
「……なんで俺、早く来てんだよ」
自分で自分に呆れる。
今日は文化祭のための中津川PR企画、その最初の取材日だった。
本当は来る気なんてなかった。
昨日までは、そう思っていた。
でも昨夜、何となくスマホで「中津川市」と検索してしまった。
馬籠宿。
苗木城跡。
恵那山。
栗きんとん。
そして、古い町並みや商店街の写真。
知っているはずの町なのに、画面の中の中津川は、悠斗の知らない顔をしていた。
「まあ、確認するだけだし」
誰に言い訳するでもなく呟く。
制服姿の悠斗は、駅前のベンチに腰を下ろした。
すると、遠くから元気な声が聞こえてきた。
「神谷くーん!」
振り返ると、水野美月が手を振りながら走ってくる。
彼女も制服姿だった。
肩に小さなバッグをかけ、片手にはノートを持っている。
「来たじゃん!」
「たまたま」
「駅前にたまたま制服で?」
「散歩」
「苦しいよ、それ」
美月は楽しそうに笑った。
朝から元気すぎる。
悠斗は少しだけ目を細めた。
「お前、本当にやる気だな」
「当たり前でしょ。中津川PRプロジェクト、今日から本格始動なんだから」
「大げさ」
「大げさなくらいがちょうどいいの」
美月は駅前を見渡す。
まだ人通りは多くない。
けれどバスを待つ人や、買い物袋を持った人がちらほら歩いている。
いつもの駅前。
悠斗にとっては、何度も見た景色だった。
美月はその景色を見ながら、嬉しそうに言った。
「ね。今日はここから始めよう」
「ここ?」
「中津川駅前」
「普通すぎるだろ」
「普通って、ちゃんと見たことある?」
「あるに決まってるだろ。毎日通ってる」
「通ってるのと、見てるのは違うよ」
その言葉に、悠斗は返せなかった。
昨日も似たようなことを言われた気がする。
自分はこの町を知っている。
そう思っていた。
でも本当にそうなのか。
その答えは、まだ分からなかった。
「おーい、美月!」
別の声が聞こえた。
振り返ると、眼鏡をかけた男子が大きなリュックを背負って歩いてきた。
首にはヘッドホン。
眠そうな顔をしている。
「大地、遅い!」
「まだ九時前だろ……」
加藤大地。
同じ学年で、動画編集が得意らしい。
美月が協力を頼んだと言っていた。
大地は悠斗を見ると、軽く手を上げた。
「神谷だっけ。よろしく」
「よろしく」
「俺、編集担当ね。撮るだけ撮ってくれれば、なんとかする」
「適当だな」
「編集でなんとかなる」
その自信はどこから来るのか。
悠斗が少し呆れていると、今度は女子が一人やってきた。
長い髪をひとつにまとめ、首からカメラを下げている。
「おはよ。朝から元気だね、美月」
「琴音! 来てくれてありがとう!」
「写真撮れるなら面白そうだし」
原田琴音。
写真部所属。
落ち着いた雰囲気で、周りをよく見ている。
琴音は駅前の景色を見て、すぐにカメラを構えた。
「朝の光、けっこういいかも」
「何撮ってんの?」
悠斗が聞くと、琴音はシャッターを切りながら答えた。
「駅前の空気」
「空気って撮れるのかよ」
「撮れるよ。たぶん」
「たぶんかよ」
最後に、息を切らして男子が走ってきた。
「待たせた!」
「翔太、ぎりぎり!」
「いや、道中で古い石碑を見つけてさ」
「もう始まってる……」
美月が苦笑する。
山口翔太。
歴史好きで、語り出すと止まらないタイプらしい。
翔太は目を輝かせていた。
「今日はどこ行くんだ? 馬籠? 苗木城? それとも中山道関係?」
「まずは駅前商店街」
「渋いな!」
「渋いのか?」
悠斗が思わず聞く。
翔太は胸を張った。
「渋いよ。駅前にはその町の今が出る」
「そういうもん?」
「そういうもん」
妙に説得力があるような、ないような。
こうして五人がそろった。
美月はノートを開き、真ん中に立つ。
「改めまして」
そして、元気よく言った。
「中津川PRプロジェクト、開始です!」
誰も拍手しなかった。
少し間が空く。
「してよ!」
美月が叫ぶ。
翔太だけが慌てて拍手した。
「お、おおー!」
「翔太くん優しい!」
「俺は?」
「神谷くんは冷たい」
「知ってる」
美月は咳払いをした。
「今日の目的は、中津川に本当に紹介するものがないのか調べること」
悠斗をちらりと見る。
「誰かさんが、何もないって言うから」
「事実だろ」
「だから調べるの」
美月はノートを掲げた。
「ルールがあります」
「ルール?」
「一つ、思い込み禁止」
ペンでノートを叩く。
「二つ、聞いた話をすぐ否定しない」
「俺向けだろ」
「三つ、まず見る」
「はいはい」
「四つ、まず聞く」
「探偵かよ」
「似たようなものだよ。町の宝探し」
町の宝探し。
その言葉に、悠斗は少しだけ眉を動かした。
大地がカメラを取り出す。
「じゃあ、撮りながら行くか」
琴音もカメラの設定を確認する。
「最初の一枚、駅前からにしよう」
翔太はもう周辺の建物を見回している。
「この辺り、昔の道筋と今の町並みが重なってて面白いんだよ」
「長くなりそうだから歩きながらで」
美月が笑う。
五人は駅前から商店街へ向かって歩き出した。
◇
土曜日の商店街は、静かだった。
シャッターの閉まった店もある。
けれど、開いている店からは人の気配がした。
和菓子店。
喫茶店。
雑貨屋。
八百屋。
昔からそこにあるような建物が、通りに並んでいる。
悠斗は周囲を見渡し、肩をすくめた。
「ほらな」
「何が?」
「やっぱり普通」
美月が振り返る。
「早い。まだ歩き始めたばっかり」
「だって見たままだろ」
「神谷くんの悪いところ出てる」
「悪いところ?」
「見た瞬間に決めつけるところ」
美月はそう言って、一軒の店の前で立ち止まった。
そこは古い和菓子屋だった。
木の看板に、柔らかい文字で店名が書かれている。
店先には栗きんとんの文字。
悠斗は少しだけ足を止めた。
「栗きんとんか」
「中津川といえば、やっぱり外せないでしょ」
「食べ物だけでPRになるのか?」
「なるよ。食べ物って、その土地の記憶だから」
美月は自信満々に言った。
その言葉を聞いて、琴音がすぐにカメラを構えた。
「今のいいね。美月、もう一回言って」
「え、恥ずかしい」
「言葉も撮りたい」
「写真なのに?」
「気持ちの問題」
大地は店の外観を撮影している。
「看板、いい雰囲気だな」
翔太も頷いた。
「中津川の栗菓子文化は大事だよ。山の恵みと町の職人技が繋がってる」
「へぇ」
悠斗は思わず声を漏らした。
美月がすかさず反応する。
「今、ちょっと興味持った?」
「持ってない」
「嘘だ」
「持ってない」
「顔に出てた」
「出てねぇ」
美月は楽しそうに笑った。
その笑顔を見て、悠斗は少しだけ視線を逸らした。
◇
店の中に入ると、甘い香りがした。
木の棚には、栗きんとんや羊羹、季節の和菓子が並んでいる。
店の奥から、年配の店主が出てきた。
「いらっしゃい」
柔らかい声だった。
美月が少し緊張しながら一歩前に出る。
「あの、私たち高校の文化祭で中津川のPR企画をしていて……少しお話を聞いてもいいですか?」
店主は目を細めた。
「高校生が中津川のPRか。いいねえ」
「ありがとうございます!」
「何が聞きたい?」
美月はノートを開いた。
「栗きんとんって、どうして中津川で有名なんですか?」
店主はゆっくりと話し始めた。
昔からこの地域では栗が身近だったこと。
秋になると、家庭でも栗を使った菓子を作っていたこと。
それが職人の手で磨かれ、今の栗きんとんにつながっていること。
派手な菓子ではない。
でも、栗そのものの味を大切にする。
余計なものを足しすぎない。
素材と向き合う。
店主の言葉は静かだったが、不思議と力があった。
悠斗は黙って聞いていた。
正直、栗きんとんなんて、ただの土産物だと思っていた。
秋になれば店に並ぶもの。
誰かの家に行く時に持っていくもの。
それくらいの認識しかなかった。
でも、目の前の店主は、それをまるで大切な思い出のように語っている。
「栗きんとんはね」
店主は笑った。
「中津川の秋を、手のひらに乗せたようなものなんだよ」
その言葉に、教室では感じなかった重みがあった。
琴音が小さくシャッターを切る。
大地は静かにカメラを回している。
翔太も珍しく口を挟まない。
美月は真剣にメモを取っていた。
悠斗だけが、何も持たずに立っている。
でも、心の中には確かに何かが残っていた。
◇
店を出た後、五人は商店街を歩き続けた。
美月は嬉しそうにノートを見返している。
「すごかったね」
「何が?」
悠斗が聞く。
「栗きんとんって、ただ美味しいだけじゃないんだなって」
「まあ……」
「まあ?」
「知らなかった」
思わず出た言葉だった。
美月がぴたりと止まる。
「今、何て?」
「何でもない」
「言ったよね? 知らなかったって」
「言ったけど」
「一個発見!」
「何が」
「神谷くん、中津川のこと知らないって認めた!」
「うるさい」
美月は満足そうに笑った。
大地がぼそっと言う。
「今の動画に入れたいな」
「入れるな」
「タイトル、神谷、初めての敗北」
「絶対やめろ」
琴音が笑う。
「でも、いい表情してたよ」
「してない」
「してた」
翔太が腕を組む。
「知らないことを知る。それが歴史の始まりだな」
「急に壮大にするな」
賑やかに歩いているうちに、通りの先にまた古い建物が見えてきた。
美月が足を止める。
「あ、ここも行きたい」
悠斗は看板を見上げた。
「はざま酒造?」
そこには、歴史を感じる酒蔵があった。
白壁と木の造り。
町の中にありながら、そこだけ時間が少しゆっくり流れているように見えた。
「酒蔵って……俺たち高校生だぞ」
「飲むわけじゃないよ!」
美月が慌てて言う。
「建物とか、歴史とか、水とか、職人さんの話を聞くの」
「水?」
「お酒って、いい水が大事なんだって。中津川の自然とも繋がってると思う」
大地がカメラを構えた。
「外観だけでも映えるな」
琴音も頷く。
「古い建物って光が似合う」
翔太はすでに目を輝かせている。
「酒蔵は地域文化の塊だよ。土地の水、米、人の技術、商いの歴史が全部入ってる」
「お前、こういう時だけ生き生きするな」
悠斗が言うと、翔太は胸を張った。
「歴史だからな」
美月は入り口の前で少し緊張した顔になる。
「取材、お願いしてみよう」
◇
中に入ると、空気が少し変わった。
木の香り。
静かな空間。
古い建物独特の落ち着いた雰囲気がある。
美月が受付の人に事情を説明すると、短時間ならと話を聞かせてもらえることになった。
案内してくれたのは、穏やかな表情の男性だった。
「高校生が町のPRか。いいですね」
「ありがとうございます」
美月が頭を下げる。
悠斗も慌てて軽く頭を下げた。
男性は酒蔵の歴史や、仕込みに使う水の大切さについて話してくれた。
酒を造る場所は、ただ商品を作る場所ではない。
その土地の気候や水、人の暮らしと深く結びついている。
中津川という土地の自然があって、そこで暮らす人たちがいて、受け継がれてきた技術がある。
その積み重ねが、今もこの場所に残っている。
「君たちはまだ飲めない年齢だけど」
男性は少し笑った。
「こういう場所は、大人だけのものじゃないんです。町の歴史として、誰が見てもいい。知ってもらえたら嬉しいですね」
その言葉に、美月の顔が明るくなる。
「はい。ちゃんと伝えたいです」
悠斗は周囲を見回した。
古い梁。
磨かれた床。
静かに並ぶ道具。
そこに派手さはない。
でも、確かに誰かが大切に守ってきた時間があった。
ふと、和菓子屋の店主の言葉を思い出す。
中津川の秋を、手のひらに乗せたようなもの。
ここにも、似たものがあるのかもしれない。
この町で暮らしてきた人たちの積み重ね。
自分が見ようとしていなかったもの。
「神谷くん」
美月に呼ばれ、悠斗は我に返る。
「どう?」
「どうって?」
「何か思った?」
悠斗は少しだけ迷った。
いつものように「普通」と言えば終わる。
でも、それは少し違う気がした。
「……古いけど」
「うん」
「ちゃんと残ってるんだなって思った」
美月は驚いたように目を丸くした。
それから、ゆっくり笑った。
「いい感想」
「別に」
「照れてる」
「照れてない」
大地が小声で言う。
「今のも使えるな」
「使うな」
琴音は酒蔵の入り口から差し込む光を撮っていた。
「ここ、いい写真になる」
翔太は男性に質問を続けている。
「この辺りの街道との関わりってありますか?」
「翔太、長くなる予感しかしない」
美月が笑う。
その笑い声が、静かな酒蔵に柔らかく響いた。
◇
取材を終えた五人は、再び外へ出た。
昼前の陽射しが少しまぶしい。
商店街の通りには、さっきより人が増えていた。
悠斗は何となく振り返って、はざま酒造の建物を見た。
さっきまでは、ただの古い建物だった。
でも今は少し違って見える。
そこに物語があると知ったからだ。
知らなければ、ただ通り過ぎるだけだった。
知った瞬間、景色は変わる。
それが少し悔しかった。
「神谷くん」
美月が隣に並ぶ。
「今日、どう?」
「何回聞くんだよ」
「だって気になるもん」
「まだ午前中だろ」
「じゃあ途中経過」
「……まあ」
悠斗は言葉を探す。
正直に言うのは、少し癪だった。
「思ったより、悪くない」
美月はぱっと笑った。
「やった」
「何が」
「一歩前進」
「大げさ」
「大げさじゃないよ」
美月は商店街の先を指差した。
「まだまだ行くよ。駅前、ちゃんと見るんだから」
「まだ歩くのかよ」
「当たり前」
大地が後ろであくびをする。
「昼飯も撮ろうぜ。グルメ要素いる」
琴音が頷く。
「お店の人の表情も撮りたい」
翔太は楽しそうに言う。
「午後は歴史の話もできるな」
「勘弁してくれ」
悠斗はそう言いながらも、足を止めなかった。
◇
午後。
五人は駅前周辺を歩きながら、いくつかの店や通りを見て回った。
昔ながらの喫茶店。
地元野菜を並べる店。
小さな雑貨屋。
どれも、悠斗にとっては珍しいものではない。
でも、美月たちはひとつひとつに足を止めた。
店主に話を聞き、写真を撮り、動画に残す。
何気ない看板。
古い椅子。
軒先の花。
通りすがりの人の挨拶。
それらを美月は宝物みたいに拾い上げていく。
悠斗は最初、その様子を少し馬鹿にしていた。
けれど、時間が経つにつれて、だんだん分からなくなってきた。
もしかして。
本当に、自分が見ていなかっただけなのかもしれない。
そう思いかけて、すぐに首を振る。
まだ早い。
今日一日歩いただけで、町への印象が変わるなんて単純すぎる。
でも。
和菓子屋の店主の言葉。
酒蔵の静けさ。
美月の笑顔。
それらは確かに、悠斗の中に残っていた。
◇
夕方。
五人は駅前広場に戻ってきた。
ベンチに座り、今日撮った写真や動画を確認する。
大地のカメラには、思った以上にたくさんの映像が入っていた。
琴音の写真も、かなりの枚数になっている。
「見て、これ」
琴音がカメラの画面を見せる。
和菓子屋の店主が笑っている写真。
はざま酒造の入り口に光が差し込む写真。
商店街を歩く美月の後ろ姿。
そして、少し離れた場所で何かを見上げている悠斗の写真。
「勝手に撮るなよ」
「いい顔してたから」
「してない」
「してたよ。何か考えてる顔」
悠斗は画面から目を逸らした。
大地が動画を再生する。
美月の声が聞こえる。
『本当に何もないのか、調べてみよう』
その後に、和菓子屋、酒蔵、商店街の映像が続く。
まだ編集前なのに、不思議と形になっているように見えた。
「……意外と撮れてるな」
悠斗が言うと、大地がにやりとした。
「だろ? 編集したらもっと良くなる」
翔太も満足そうだった。
「歴史解説も入れよう」
「長すぎるのはカットな」
「なぜだ!」
「動画が終わらなくなるから」
美月が笑いながらノートを閉じる。
「神谷くん」
「何」
「今日、どうだった?」
またその質問。
悠斗はため息をつく。
でも、今度は逃げなかった。
「……思ったより」
言葉を区切る。
四人がこちらを見る。
「悪くなかった」
美月の顔が、ゆっくり明るくなった。
「一個発見」
「何が」
「神谷くんが初めて中津川を褒めた」
「褒めてねぇ」
「褒めたよ」
「悪くなかったって言っただけだ」
「それ、神谷くんにしてはかなり褒めてる」
大地が頷く。
「歴史的瞬間だな」
琴音も笑う。
「写真撮ればよかった」
翔太は真面目な顔で言った。
「これは中津川PR史に残る」
「残らねぇよ」
五人の笑い声が駅前広場に広がる。
悠斗は少しだけ居心地の悪さを感じた。
でも、不思議と嫌ではなかった。
夕焼けが町を染めていく。
遠くに恵那山が見えた。
いつもの山。
毎日見ていた景色。
でも今日は、朝とは少し違って見えた。
知らないことは、まだたくさんある。
そう思った。
何もない町。
ずっとそう決めつけていた。
でも。
もしかしたら。
何もないのではなく、自分が何も見ていなかっただけなのかもしれない。
悠斗はその考えを、まだ誰にも言わなかった。
ただ、夕日に染まる町を見つめていた。
隣で美月が言う。
「次はもっと面白いよ」
「まだやるのか」
「もちろん」
「どこ行くんだよ」
美月は得意げに笑った。
「次は、駅前取材をもっと本格的にやります」
「今日も駅前だっただろ」
「今日は下見。次は本番」
「マジかよ」
「マジです」
悠斗は大きくため息をついた。
けれど、その口元はほんの少しだけ緩んでいた。
美月はそれに気づいていたが、何も言わなかった。
ただ、嬉しそうに前を向いた。
春の夕風が、五人の間を通り抜ける。
中津川の町は静かに暮れていく。
その静けさの中で、彼らの小さなプロジェクトは、確かに動き始めていた。

