天使の専属料理人

 日比谷セナは有名人だ。
 テレビに出ているわけでもない。歌手でも俳優でもない。
 それでも、うちの高校でその名前を知らない人はいないと思う。
 海外の血を引いていると噂の整った顔立ち。事実そうではないらしいため、天性のイケメンだ。そしてモデルとして活動する高い身長。男女問わず好かれる人当たりの良さ。
 校内ではその彫刻のような見た目と人当たりの良さから、『天使』なんて呼ばれている。

 俺__小辻拓澄とは正反対の存在だった。
 クッキング部唯一の男子部員。
 趣味は料理。
 特技も料理。
 将来の夢も料理関係。
 れ以外は特になし。
 成績は普通。運動は苦手。友達は少ないわけじゃないが多くもない。
 そんな俺と日比谷セナが関わることなんて、一生ないと思っていた。
 少なくとも、その日までは。

 「小辻さん。」
 放課後。
 部室棟の廊下で呼び止められた俺は、聞き覚えのないほど綺麗な声に振り返った。
 ……そこには、学校中の注目を集める「天使」が立っていた。