ハズレ魔法【設計図】ただの紙切れしかだせない魔法などクソだと追放された転生貴族の九男坊~実は小人さんたちが寝てる間になんでも作ってくれる便利魔法だったので、魔の森で現代快適領地経営を始めます~

 「よっしゃあああ! 自室で思いっきりゴロゴロするぞぉ~~っ!!」

 大いなる脅威であったワイバーンの群れを奇跡の死者ゼロで退け、外壁の最低限の応急処置や負傷者の搬送といった緊急の事後処理も一段落した。
 張り詰めていた緊張が解けた俺は、領主館の自室ベッドへダイブしてゴロゴロからの泥のように眠る……そんな最高の妄想を膨らませる。

 だが、現実は非情である。

 「ブラン様ぁ~~こっちにも山ほどありますよぉ~~!」
 「ご主人様、いっぱいです! まだまだです!」

 俺の目の前に立ちはだかったのは、我が領主館が誇る二人の愛らしきメイド、リナとロネだった。
 そのメイド2人が、俺の服の袖を左右からグイグイと引っ張る。

 やめてくれ、ふたつに裂けちゃう。

 ゴロゴロできなかった……

 その理由は。

 「肉だ……」

 そう、肉である。

 どこを見ても、視界のすべてが肉・肉・肉。

 村の即席解体場には巨躯を横たえたワイバーンの死体が整然と並べられ、手の空いた領民たちが総出で解体作業に追われていた。

 もうここはエド村じゃなくて、肉村である。

 ワイバーンは体躯が大きい魔物なので、攻撃によって原型を留めずに粉砕された個体はほとんどない。

 つまり肉パラダイス状態なのだ。

 さらに、素晴らしい副産物もある。

 「これだけ倒したんだ、魔石の数もとんでもないな……」

 解体場の脇にある木箱には、ワイバーンの体内から摘出された立派な魔石がゴロゴロと、それこそ溢れんばかりに詰め込まれていた。
 魔石はこのエド村におけるすべての快適生活の動力源であり、同時に高射砲の砲弾や歩兵銃の弾丸原料でもある。
 今回の防衛戦で弾薬を大量に消費してしまったが、この魔石の山があればお釣りが来るどころか、村の備蓄は大増幅、一気にエネルギー大国(村だけど)の仲間入りだ。

 「よしよし……災い転じて福となす、だな。大量のワイバーン肉と魔石をゲットだぜ」

 ひとまず魔石の確保に満足して頷く。

 ちなみにこのワイバーン肉は、市場に出回れば貴族や大富豪がこぞって大金を積むような、滅多にお目にかかれない超最高級肉である。 俺が以前いた魔物狩りを得意とする伯爵家でさえ、ワイバーンの肉なんてそうそうお目にかかれない。

 それが今、この村には腐るほどある。

 基本的には冷凍保存だが、冷凍庫が足りないからある程度は干し肉にもする。

 「これだけの在庫があれば、すぐにでも商売を始めたいところですね。ブラン様」

 教会の救護所から応急処置を終えたアクシラが、肉の塊を見て呟いた。

 「そうだな。かなりの高値で売れるだろうが……」

 現状俺たちには他の町との流通手段がない。
 くわえて、お抱えの商人もいない。

 「解決すべき問題はいくらでもわいてくるな」
 「ふふ、そうですね。ブラン様」

 アクシラと共に苦笑していると、解体場のすぐ近くから何やら騒がしい声が聞こえてきた。

 「うまそうじゃ~~もう我慢できないのじゃ~~かぷり」
 「ちょ、ホトナさん!? 何をしているのですか! 生肉ですよ、ペッしなさい! はやく!」

 戦いを終えて極限までお腹をすかせたエルフの族長ホトナが、ワイバーンの生肉にかぶりついていた。
 それを見たアクシラが、顔を真っ青にして必死にお肉を引き剥がそうとしている。

 ホトナは「むー」と不満げに口を尖らせながらも、アクシラの必死の形相に押されて渋々肉を吐き出していた。

 まぁ、ホトナの気持ちも分からんでもない。
 何せ、命がけの総力戦を終えたばかりなのだ。

 腹が減った……

 これは全員に言えることだろう。

 「よし、分かった。いったんワイバーンの解体や保存作業はそこそこにして、まずはみんなで腹ごしらえにしよう!」

 俺の言葉に、広場で作業をしていた領民たちの耳がピクッと動いた。

 「リナ、ロネ。悪いが今すぐ食べられる部位をいくつか切り出して、夕食の用意をお願いできるか?」

 「は~~いブラン様~お任せくださいぁ~い!」
 「はいですご主人様! お夕飯のしたくです!」

 教会にはまだ動けない負傷者もいる。なので教会のすぐ目の前にある広場に、長テーブルをいくつも並べて全員で食べることにした。

 あとガンチたちには、領主館からあるものを持ってきてもらう。

 「領主さま、この鉄の板はなにに使うんです?」

 ガンチは持って来た数枚の鉄板を手に、不思議そうな顔をする。

 「ああ、そいつは見てのお楽しみだ」

 俺はガンチ達がもってきた鉄板をテーブルの各所に置いて、脇のスイッチをカチっといれる。

 「鉄板はじきに熱くなる。だから、みんな触るなよ」

 こいつは魔石を燃料にした魔導卓上コンロである。
 ようするにホットプレートだ。

 俺が手すきの時に、いろいろ作り置きした快適道具のひとつである。

 広場に設置された鉄板が、じわじわと熱を帯びていく。そこへ、リナたちが丁寧に切り分けてくれたワイバーンの極上肉が並べられた瞬間、全員の視線がそこに釘付けになった。

 ひと口大に切り分けられた肉。
 そして、熱い鉄板。

 もうやることは、ひとつしかない。


 「よし、準備はいいか! 記念すべきワイバーン防衛戦の祝勝会……焼肉まつりだぁあああ!!」


 「「「「「お……おおおおお!!!」」」」」


 ちょっと俺のテンションに戸惑いがある領民たちだったが……

 ジュ~~~ッ
 ジュ~~~ッ
 ジュ~~~ッ

 説明よりも実際にやってみせた方が早い。
 俺は各テーブルの肉を数枚ずつ、鉄板の上に載せていった。

 鉄板に肉が置かれた瞬間、食欲に直接訴えかけるような最高の音がはぜる。

 途端に、香ばしい脂の香りと肉汁の匂いが広場全体に爆発的に広がっていく。

 それを見ていたみんなの反応はというと。


 じゅるり……


 よしよし、理解したようだな。


 「肉じゃ! 肉じゃあ! これぞ勝利の果実じゃ!」

 まず最初に焼き上がったのは、綺麗なサシの入ったロースだ。
 これに真っ先に飛びついたのは、ホトナ率いるエルフの戦士たちだった。待ちきれなかったのか、タレに浸けたロース肉を次から次へと口に放り込んでいく。

 「う、うむぉおおお!? なんじゃこの柔らかさは! うまいのじゃ!」
 「族長ずるい。私にもその肉くれ!」
 「ふほぉお~~はやいもの勝ちじゃぁ~~」

 凄まじい勢いで肉が消えていく。それを見た村の者たちも負けてはいない。
 ガンチやシュルトたちも、焼き上がった肉を豪快に口へ放り込む。

 「うめぇええええ!!」
 「なんだこれ、ブラックウルフやレッドボアの肉の比じゃねぇぞ!」

 あちこちから「うめぇええ!」という魂の叫びが聞こえてくる。

 続いて一番脂の乗った極上のワイバーンカルビが鉄板の上で黄金色に輝き始めた。

 「ご、ご主人様、これ溶けるです! お口の中で脂が甘くとろけるです!」

 ロネがカルビを一口食べた瞬間、幸せそうに両頬を押さえて身悶えしていた。

 うむ、どれどれ……!?

 俺も一切れパクっといくと……うめぇええ……なんだこれ。

 ああぁ~~米が欲しい。
 なんとかして稲を手に入れられないのか。この世界にもあるはずなんだ。

 「ふはぁあ~~ん♡」

 今度はリナが綺麗に切り分けられた赤身の王様、ヒレをハフハフしながら口に運んだ。

 「ブラン様~~これ、すっごく柔らかいですぅ~~お肉ってかんじしま~す♪」
 「本当だな、赤身の旨味が凝縮されていて、いくらでも食べられそうだ」

 俺もヒレ肉を一枚口に放り込む。上品な肉汁が舌の上に広がり、戦いの疲れが急速に癒えていくのが分かった。

 村人たちも、老若男女問わず鉄板を囲んで笑顔で肉を頬張っている。負傷して教会にいた連中にも、リナたちが焼いた先からお皿に盛って運んでいくと、教会の窓から「うめぇええ!」という歓喜の声が響いてきた。

 そんな中ふと隣を見ると、アクシラが皿の上のある肉を前にして、戸惑っていた。

 「あの……ブラン様」
 「ん? どうしたアクシラ、食べないのか?」
 「いえ、その……このお肉は、もしかして……ワイバーンの「舌」なのですか?」

 アクシラは少しだけ頬を引きつらせ、青い瞳を不安げに揺らしていた。
 公爵令嬢からすれば、魔物のベロを食べるなどという行為は完全に未知の世界なのだろう。
 というか、そもそもこの世界に舌を食べる風習はないようだがな。

 「うむ、タン(舌)だな。まあ騙されたと思って食べてみろ。これがまたうまいんだ」

 俺は鉄板の上でサッと両面をあぶったタンをアクシラのお皿に乗せ、塩とレモンをキュッと絞ってやった。

 「さっぱりしてて旨いぞ。ほら、アーン」
 「あ……っ」

 俺が箸で肉を持ち上げて彼女の口元に運ぶと、アクシラは一瞬恥ずかしそうに顔を赤くした。

 が……アクシラは意を決したように小さな口を開け、パクリとタンを口に含んだ。 そして、恐る恐る咀嚼を始める。

 「……っ!」

 次の瞬間、彼女の美しい青い瞳が大きく見開かれた。

 「どうだ?」

 「……お、おいしい、です……!」

 アクシラは、まるで宝物を見つけた子供のようにパッと表情を輝かせた。

 「この、独特の歯ごたえ……それにお塩と果汁の酸味が合わさって、とってもさっぱりしています!  カルビとは全く違う魅力がありますね……!」
 「だろ? 気に入ってくれて何よりだ」

 そう言って俺が笑うと、アクシラはハッと我に返ったように、今更「あーん」で食べさせてもらった事実を思い出したのか、カァッと耳の根元まで真っ赤になって俯いてしまった。

 「も、もう一枚……自分で焼いて、いただきます……」

 小声でモゴモゴと言いながら、一生懸命に鉄板の上のタンを突っついている。
 なにこの子、元よりかわいいけど最近その度合いが増しているぞ。

 俺はそんなアクシラと一緒に、焼肉を大いに楽しんだ。

 こうして、エド村初めての焼肉まつりは大満足で終りを迎えた。


 「「「「「ふぅ~~~食った食った」」」」」


 大満足した村人たちやエルフたちが、それぞれ膨れたお腹をさすりながら解散していく。
 俺も鉄板の前で、完全に満腹になって贅沢なため息を漏らしていた。極上の肉をこれでもかと堪能しまくった。

 よし、お腹もいっぱいになったことだし、今度こそ自室に戻ってゴロゴロ……

 そう思った瞬間、ガンチがふと思い出したように俺の元へと歩み寄ってきた。

 「領主さま~~ちょっと聞きたいことがあるんだ」
 「ん? なんだガンチ」

 「いや……村の外に落ちたワイバーンたちはどうしたもんかと思ってさ。 ほら、最初の頃に大砲で撃ち落としたやつらだ。まだ外にゴロゴロ転がってるぜ」

 「あ……」

 ガンチの言葉に、俺は思わず声を漏らした。

 そうだ。すっかり忘れていた。激戦の序盤88ミリ高射砲のアウトレンジ射撃によって、村の外にそこそこの数のワイバーンを叩き落としていたのだった。

 「結構な数が落ちてるんだが、どうしたもんですかね」

 「確かに……人力で運ぶのは完全に無理があるな」

 俺の頭の中で前世の記憶が、火花を散らすようにパチパチと急速に噛み合い始めた。重量物を荷台に積み込み、圧倒的な馬力でグイグイと進む……

 ふむ、ではアレを作ってみるか。

 俺は楽しみにしていたベッドでのゴロゴロも完全に忘れ去り、目を輝かせながら妄想の世界へと深く没入していくのだった。