ハズレ魔法【設計図】ただの紙切れしかだせない魔法などクソだと追放された転生貴族の九男坊~実は小人さんたちが寝てる間になんでも作ってくれる便利魔法だったので、魔の森で現代快適領地経営を始めます~

 「ひゃっ!」

 すぐ隣から短い悲鳴が聞こえた。見れば、木材と鉄くずの無惨な残骸の山からリナがうっかり足を踏み外してバランスを崩しているところだった。

 「おっと、大丈夫かリナ」

 俺はとっさに手を伸ばす。

 「ふあぁ~、ありがとうございますブラン様ぁ~」

 リナは胸に手を当てて、ホッと長い息を吐き出した。相変わらず、ちょっと目を離すとすぐにすっ転びそうになるドジっ子属性は健在のようだ。まあ、そんなところも可愛いから許してしまうのだが。

 昨日のレッドボアとの戦闘において、俺は我がラスタール領の新兵器である88ミリ高射砲を初めて実戦投入した。その戦果は、控えめに言っても予想を遥かに上回るものだった。ワイバーン対策としても、非常に大きな希望の持てる結果だったと言える。

 だが、しかし。

 「にしても、ボロボロですねぇ……」

 リナが視線を向けた先を見て、俺は思わず苦笑いを浮かべた。

 「ああ、これは全面改修が必要だな」

 そうなのだ。戦果は素晴らしかったのだが、何しろ慣れない初弾の照準がズレたこともあり、正門の一部が見事に粉砕されてしまっている。さらに昨日今日で壊れた部分だけでなく、これまでの長い年月放置されていた外壁の至る所にも、ひび割れや腐食といったガタがきているのが丸分かりだった。

 残骸の山を下りて開けた場所まで移動した俺に、そこで待っていたアクシラが、神妙な面持ちで声をかけてきた。

 「ブラン様。やはり、ただの修理では済みそうにありませんね」

 「うむ、門もだが、周囲の外壁も完全にガタがきているな」

 「そうですね……。開拓団がこの村を作って以来、かなりの年月が経っているようですし、この風雨に晒され続けた壁ではワイバーンの強力な爪や体当たりに耐えられるとは思えません」

 「ああ。だからこそ、これを機にもっと頑丈な門と外壁に作り替えようと思うんだ」

 俺が拳を握りしめて力強く宣言すると、アクシラは「はい、ブラン様」と頷きつつも、どこか少し遠慮がちにその美しい青い瞳を小さく揺らした。

 「どうした? 言いたいことは何でも言ってくれていいぞ、アクシラ」

 俺が促すと、彼女は一度、フゥと小さく息を整えてから口を開いた。

 「……はい。ブラン様のおっしゃる通り、門を頑丈にすること自体には大賛成です。ですが……もし、今よりももっと分厚い鉄や石で巨大な門を作った場合、その開閉には数人がかり、あるいは馬の力を借りるような大がかりな作業になってしまいます」

 たしかに、アクシラの言う通りこの世界の要塞の門となると、重い横木を外したり跳ね橋にしたりと開閉には時間がかかる。

 「ですが、いずれはこの村も商売や交易をする時がきます。また、外壁の外へ出ることも多くなるはずです」

 「なるほど。人の往来や馬車の出入りが妨げられるとうことか」

 「はい、その通りです。……ですが、もちろん今はワイバーンの襲来に備えて防御を最優先に固める方が先決なのは間違いありません。私の心配は、ずっと先の未来のお話ですから、聞き流していただいて構いません」

 アクシラは少し申し訳なさそうに微笑んだ。

 この村は王都や大都市の近くにあるわけでもなく、周囲は魔物だらけのド辺境だ。だから、つねに門を全開にしておくわけにはいかないし、ガチガチの引きこもり要塞にするのもアリかもしれない。
 いまはそれでいいかもしれんが、アクシラはすでにこの村が発展した未来、つまり交易都市としてのラスタール領の姿を見据えて進言してくれている。

 ふむ。

 頑丈だが、人の往来を妨げない便利な門、か……。

 ムフフ。いいね、ちょっとウズウズしてきたぞ……!

 俺の脳内で、前世の現代知識が火花を散らす。頑丈さと圧倒的な利便性の両立。ファンタジーの常識と前世現代知識の融合―――

 「よし、ならばこれでいくか!」

 俺は魔法【設計図】を発動させた.手元にペラリと落ちてきた一枚の紙。そこから淡い光が溢れ出して……

 むくり、ぴょこ。  

 ぴょこぴょこ。

 ぴょこぴょこぴょこ。

 光の中から現れたのは、黄色い工事用ヘルメットを頭にちょこんと被った小人さんたちだった。
 以前見た大工さんチームとはまたちょっと違うかんじだ。全員がちっちゃい安全靴を着用し、重機を夜通し使いまくるのだろうか、小さな安全ベストには蛍光テープが貼り付けられており、より大がかりな工事が行われることを想像させる。

 「わぁ~~今度の小人さんたちは、お帽子が黄色くて丸いですぅ~! かわぃいい~♪」

 リナが目を輝かせて歓声をあげる。確かに、黄色いヘルメットを揺らしながらぴょこぴょこと一列に並んで行進する姿はマスコットキャラクターのようでめちゃくちゃ可愛い。だが、その愛らしい見た目に反して、彼らはあの壊れたデカい門を生まれ変わらせるために現れたプロである。

 「どんぐりみたいです! いっぱいです!」 

 ロネの言う通り、小人さんがいつもの人数では終わらない。


 ぴょこぴょこぴょこぴょこ。

 ぴょこぴょこぴょこぴょこぴょこ。

 ぴょこぴょこぴょこぴょこぴょこぴょこ。


 うお……すげぇ出てくるんだけど……


 ゾロゾロとでてくる土木小人さんたち。
 俺の魔力、大丈夫か。

 たしかに魔力がどんどんそぎ取られていく感覚はある。
 が、前回の88ミリ高射砲の時ほどではない。

 デカ物を完成させたことで、また魔法のレベルが上がったのかもしれん。

 さらに土木小人さんたちの後ろからは、これまたミニチュアサイズのショベルカーや、ドラムがぐるぐると回るミキサー車、クレーン車といった重機たちが、ブロロロロ……と小気味いいエンジン音を響かせながら次々と姿を現した。
 土木小人さんの大軍はキビキビとした動きで即座に役割分担を決め、壊れた正門の方へと一斉に向かっていった。足場を組み、コンクリートを練るような本格的な作業の音が早くも響き始める。

 「あれ~~? ブラン様ぁ~~この小人さんはみんなと一緒に作業にいかないのかな?」

 リナが不思議そうに首を傾げた。

 確かにその小人さんは、土木小人さんの列には混じらず別行動をしているようだった。ヘルメットを後ろ前に被り、こちらに向けて小さななにかを構えている。

 次の瞬間―――パシャリ!

 「な、なんです! まぶしいです!」

 光りを受けたロネがビックリして、あたまからメイドのカチューシャを落としそうになっていた。

 さらにその小人さんは素早い動きで別の場所へとトコトコ~~と移動し、今度は作業を見守っていたガンチの足元で機械を構え、再び―――パシャリ!

 「うおっ!? 眩しい! おれの目がァ!」

 小人さんはそんな領民たちのリアクションなどどこ吹く風で、さらにリナの前に回り込んでパシャリ、「なんですか?」とこちらにきたアクシラの前でパシャリ、事情がのみこめないセバロの前でパシャリと、手当たり次第に領民たちを片っ端からパシャリしては満足そうにフムフムと頷いていた。

 あれはおそらく……。

 彼らが何を企んでいるのか、俺にはなんとなく察しがついた。

 「よし、みんな。今回も小人さんたちの大がかりな夜通し作業になる。邪魔をしないように、大人しく館に戻って寝るとしよう」

 俺は遠慮なしにバンバン光を放ち続ける小人さんを横目に、みんなを促して領主館へと引き上げたのだった。

 さあ、明日が楽しみだ。