ハズレ魔法【設計図】ただの紙切れしかだせない魔法などクソだと追放された転生貴族の九男坊~実は小人さんたちが寝てる間になんでも作ってくれる便利魔法だったので、魔の森で現代快適領地経営を始めます~

 「領主さま~~やつら一直線にこっちへ突っ込んでくるだ!」

 レッドボア。イノシシ型の魔物で、突進力だけならブラックウルフを軽く凌駕するなかなかに厄介な連中だ。
 ラスタール三八式歩兵銃を何発も撃ち込んで、やっとその勢いを止められるかという魔物。

 よって、リスクはあるがここで新型兵器である88ミリ砲を投入する。

 このラスタール88ミリ高射砲は、同世代の砲と比べて非常に軽量(とはいえ数トンある)に作られており、小人さん特製の牽引パーツを使えばある程度の移動の自由がきくのも優れた点の一つだ。
 だが、さすがに今から移動させている時間はない。

 幸いなことにこの教会前広場から村の正門までは障害物となる建物もなく、一直線だ。

 「正門を全開にしろ! ここから直接、あの門の向こうからくる魔物を砲撃する!」

 「は、はいっ!? 了解だべ、正門を開けろーーーー!!」

 村人たちが慌てて正門を左右に開き、遮蔽物のない直線の一本道が完成する。
 その様子を見ていたアクシラが、再び同じ疑問をぶつけてきた。

 「ブラン様。先ほどのご説明ですと、この高射砲という兵器は空を飛ぶ魔物を攻撃するためのもの、ではなかったのですか?」

 空に向かって伸びる砲身に視線を向けるアクシラ。

 だがそれは問題ではない。

 なぜならこいつのベースとなっている砲は、あの伝説のアハト・アハトなんだ。第二次世界大戦中、この高射砲が爆撃機乗りだけでなく、地上の戦車兵たちからも「最悪の悪魔」として文字通り絶望された本当の理由―――

 それは砲身を真横に向けることで、恐るべき威力を持った水平射撃が可能という点にある。

 高高度の航空機を叩き落とすほどの超高速・高威力の砲弾が、そのまま地上の標的に向かって直線で飛んでいく。本来は対空砲として開発されたが、対戦車砲としても優れた性能を有しているのがこの砲だ。
 どんなに分厚い戦車の装甲板だろうが、こいつの前には撃ち抜かれた。空も圧倒し陸も制する……そう、万能砲なのだ。

 「大丈夫だ、アクシラ。こいつは空だけじゃなく、地上の敵も攻撃することができる」
 「そ、そうなんですね」
 「だから、ちょっと下がってろ」
 「はい、ブラン様、お気をつけて!」

 リナとロネに連れられて88ミリ砲から離れていくアクシラ。
 そして、あいた正門のずっとさきには砂煙とともに突進してくるレッドボア。


 「……シュルト。やるぞ、88ミリの初陣だ!」

 「おうよ領主さま、やってやりやすぜ! 全員配置につけぇ!」


 「砲を水平にしろ!」

 空に向けられた88ミリ高射砲のその長い砲身が、ゆっくりと下に降りてきた。

 「よし、照準あわせぇええ!」

 シュルトが直接照準を行うため、スコープを覗き込む。

 「…………照準よしでさぁ!」

 「砲弾装填! 今回は白色を使用する!」 

 白色とは砲弾の種類だ。
 小人さんが分かりやすく色分けしておいてくれたのだ。

 今回小人さんが用意してくれたのは、下記の3種類。

 ・黄色:榴弾(時限信管)……爆発の衝撃と破片で広範囲を攻撃。事前にタイマーをセットして起爆。
 ・白色:榴弾(着発信管)……爆発の衝撃と破片で広範囲を攻撃。目標に命中した瞬間に起爆。
 ・黒色:徹甲弾(着発信管)……硬い金属の塊ごと目標を貫通。目標に命中した瞬間に起爆。

 そして俺が選んだのは、白色。

 ガコンと重厚な金属音が響き、子供の背丈ほどもある巨大な88ミリ砲弾が薬室へと送り込まれる。

 たまでけぇ……

 当然だが、歩兵銃の弾丸とは比べ物にならないデカさだ。

 正門の遥か先からは、砂煙を上げながら「ブモォオオオ!」と荒い鼻息を響かせる赤い巨体のレッドボアが五匹、猛烈な勢いでこちらへ直進してくるのが見えた。
 やつらは突破力は高いが、基本的にただひたすら真っ直ぐに突っ込んでくる。だから、まだ訓練を重ねていない俺たちにとって砲の照準を合わせるにはこれ以上ない絶好の的だ。

 「―――領主様! 砲弾、装填完了でさぁ!」

 「よし、全員耳をふさげぇぇええ!」

 ―――手の拳にぐっと力が入る。


 「……撃てぇえええ!!」


 シュルトが足元の発射ペダルをグッと押し込んだ。

 次の瞬間―――


 ――――――ズガァアアアアアアアンッッ!!!


 鼓膜が物理的に破裂するかと思うほどの、凄まじい大轟音と衝撃波が広場全体を震わせた。

 砲口から巨大な炎の帯が噴き出し、その後、砲身がグッと後ろにさがる。

 反動をある程度吸収しているはずだが、それでも衝撃波が発生して近くにいた俺は一瞬目眩を覚えるほどだった。

 そして、放たれた超音速の砲弾は―――

 ギガガガガガアンッ!!

 「あ……」

 一発目の砲弾は、初弾ゆえの照準の調整不足か左にずれていた。弾はレッドボアたちに届く前に、村の正門の左側の壁に直撃。爆発と共に、正門の一部が木端微塵に粉砕されて消え去った。

 すげぇ速度だ……

 発射と着弾がほぼ同じだったぞ……

 「気にするなシュルト、門ぐらい後で俺の魔法でいくらでも直してやる! 次弾装填……落ち着いて真ん中を狙え!」

 「う……お、おうよ! 砲弾再装填、急げぇ!」

 シュルトたちも耳がキーンとしているのか、声がでかい。互いに怒鳴り合いながら二発目の砲弾を薬室に叩き込む。

 「領主さま! 照準・装填完了でさぁ!」

 「よし、撃てぇえええ!」


 ――――――ズガァアアアアアアアンッッ!!!


 二回目の大轟音が炸裂した。

 今度は完璧だった。放たれた二発目の88ミリ砲弾は、一直線に突き進んできていたレッドボア五匹の、まさにど真ん中へと正確に突き刺さった。

 直後、凄まじい爆発と衝撃波が魔物たちを飲み込む。

 ドガアアアンと大きな爆発音が鳴り響き、土煙が晴れた後には―――

 「うわぁぁぁ……りょ、りょ、りょうしゅさまぁ~~魔物が、魔物がグチャグチャだべぇ……!」

 見張り櫓の斥候が、ガタガタと震えながら戦果を報告する。

 うむ……。

 確かに期待通りの、いや、期待を遥かに超える性能だ。これならワイバーンの群れが上空から突っ込んできても、十二分に対抗することができるだろう。

 ……ただ、一つだけ問題が発生したな。

 戦利品であるはずの「魔物の肉」が全く残らなかった。肉片としてそこら中に散らばってしまったのだ。
 これでは今夜の晩御飯のおかずにならない。レッドボアやブラックウルフといった食料になりうる魔物に関しては、やはりこれまで通りラスタール三八式歩兵銃で各個撃破するか、ガンチたちの剣や槍で仕留めた方が領地の食糧事情的にはいいのかもしれん。

 襲ってくる魔物たちの規模によって、攻撃方法は変えていくようにしよう。

 「まぁ、何はともあれ初陣としては大成功だな……ん?」

 俺が一人で納得してウンウンと頷きながら、感想を求めようと後ろを振り向いた、その時だった。


 「「「「「…………」」」」」


 そこには広場にいた全員が、文字通り魂を抜かれたような顔をして地面にしりもちをつき、呆然と腰を抜かしている光景が広がっていた。

 あの動じなさそうなエルフの族長であるホトナすらも、地面に手を突き緑の髪を振り乱してカタカタと震えている。
 リナとロネはひっくり返って、あたまの白いカチューシャがお尻についていた……。

 そして公爵令嬢アクシラもまた例外なく、ドレスの裾を地面で汚すのも構わずにペタンと地面にしりもちをついたまま、美しい青い瞳をこれでもかと見開いて完全に硬直している。

 うむ……。

 88ミリ砲の放つ凄まじい発射音と威力の現実には、これから少しずつ訓練を通して慣れていってもらうしかなさそうだな。歩兵銃とは比べ物にならない文字通りの大砲なのだから、無理もない。

 俺は気を取り直して、広場に声をあげる。

 「ひとまず、ラスタール88ミリ高射砲の初陣は見事な勝利だ! 高射砲部隊は今回の感覚を忘れないうちに、小人さんのマニュアルを読んでしっかりと訓練を重ねておいてくれ。……よし、それじゃあ、まずは粉砕しちまった正門の修理から取り掛かるとするか!」

 どのみち村全体の防壁や門も改修しなきゃいけないなと考えていたところだ。ちょうどいいキッカケになったと思おう。

 うし、門だ門だ~~作るぞ~~♪