ホトナをはじめとする森エルフたち総勢約三十名が、正式に我がラスタール領・エド村の住人に加わった。
「まぁ、われらは風の向くまま気の向くままに生きる種族じゃからな。飽きたらまた旅立つのじゃ。それが百年後か二百年後かはわれにもわからんがのう」
領主館のリビングで、新しいお気に入りのクッションにすっかり身を埋めたホトナが、紅茶をズズッとすすりながらそんなことを言った。
「ああ、そこは無理に縛る気はない」
百年単位とは、さすが長寿エルフらしい。まあ、俺の命があるうちに旅立つ気は毛頭ないってことだな。
よし、その長い年月の間にどうやってお前たちを快適まみれにしてしてやろうか……ウズウズ
そんな俺の趣味を胸に秘めつつも、俺には片付けなければならない大仕事があった。
そう、王国最果てのド辺境に迫る春の風物詩―――ワイバーン対策である。
「なあ、ホトナ。お前たちを故郷から追い出したワイバーンってのは、具体的にどういう攻撃をしてくるんだ? 」
俺の問いかけにそれまでお気楽な表情を浮かべていたホトナの顔が、スッと引き締まった。後ろで新しい服を試着していたエルフたちの身体が、恐怖の記憶を呼び起こされたかのように微かに怯えたのが分かった。
「ふむ……奴らは獰猛で動くものなら片っ端から食べる。なんでも引き裂く鋭い爪と、あらゆる肉を噛み砕く牙。……じゃが、本当に恐ろしいのは……」
ホトナは一度言葉を切り、天井を見上げた。
「奴らは高い空から一気に襲い掛かってくるのじゃ。その速度はわれら森エルフの自慢の弓をもってしても、捉えるのが困難なほどの凄まじい速さじゃぞ」
ホトナの言葉に続いて、我が村の戦士隊長であるガンチも神妙な面持ちでウンウンと深く頷いた。
「領主様、ホトナさんの言う通りだぜ。やつらは空からバッと急降下して獲物を掻きさらっていき、反撃する隙も与えずにバッと空に戻るんだ」
「急降下からのヒット&アウェイ、か……」
俺は腕を組み、うむと唸った。
地上の魔物なら、こちらに接近してくる間にラスタール式三八式歩兵銃で、遠距離からある程度の打撃を与えることができる。だからこそ、前衛のガンチたちも剣や槍や盾で村への侵入を防ぐことが出来ているのだ。
我が領が誇るラスタール三八式歩兵銃は確かに優れたライフルだが、有効射程距離は水平射撃で五百から六百メートル程度。しかもこれを上空に向かって撃つとなると、射程はさらに短くなる。
もしワイバーンが上空千メートル以上の弾の届かない安全圏を旋回しながらこちらの隙を窺い、超高速で急降下してくるのだとしたら―――こちらが狙い撃てるチャンスは、奴らが地表近くまで接近してきた、ほんの一瞬だけということになる。
しかも、相手はブラックウルフとは体格も皮膚の頑丈さも桁違いときた。仮に歩兵銃の弾が数発命中したところで、致命傷を与えられずにそのまま押し切られる可能性もある。
「う~~ん、単発ライフルと剣や槍だけで、ワイバーンの群れを相手にするのは流石に無茶だな……」
なら、どうするか。
答えはシンプルだ。
急降下してくる前に、奴らの安全圏である上空に向けて歩兵銃よりも高火力の先制攻撃を叩き込んでやればいい。そう、対空兵器である。
俺の脳内で前世のミリタリー知識が、そして前世のイメージがフル稼働する。
現状の俺のレベルで作成できる近代兵器……空の脅威に対抗する武器。
俺の中で答えが導き出される。
うん。これでいこう。
方向性は決まった。
さて、次に必要なのは材料だが、これに関しては今のエド村には幸いなことに大量にある。
「ガンチ、村の動ける男たち全員と、エルフたちにも声をかけてくれ。村の中にある鉄くずを中央広場に集めてほしい」
「鉄くず、ですかい? 壊れた剣や錆びついた鎧のなれの果てなら、確かに山ほど転がってますが……」
「ああ、それで十分だ」
「おうよ! 領主様の頼みなら、すぐにかき集めてくるぜ!」
ガンチが威勢よく返事をして走り出し、エルフたちもホトナの合図でそれに従った。
エド村はかつての開拓団本拠地だった。だから様々な武器や防具などのなれの果てがそこら中に転がっている。
◇◇◇
夕暮れ時。中央広場には、みんなが必死に運び込んだ錆びついた武器や防具、得体の知れない金属パーツが巨大な山を形成していた。
俺はフゥと一つ息を吐き、両手の指先に全ての魔力を集中して【設計図】を発動させた。
ペラっと一枚の紙が落ちてくる。
そしてその紙からモコモコと、小さな人影が現れた。
むくり、ぴょこ。
ぴょこぴょこ。
ぴょこぴょこぴょこ。
光の中から現れたのは、手のひらサイズの一糸乱れぬ見事な隊列を組んだ軍服小人さんたちだった。
「お、出てきたな」
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ!
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ!
小さな笛の音に合わせて、キリッとした表情の軍服小人さんたちが、ミニチュアの軍靴の音を響かせながら完璧な行進を始めた。
歩兵銃を作った時にも現れた、我が領の国防を支える心強い小人さんたち。
そして―――
ブロロロロロロ……ッ!!
小人さんたちのあとから、小さな、しかし力強いエンジン音を響かせる軍事トラックや、アームを備えたクレーン車たちが次々と出てきた。トラックの荷台からは、馴染みのない機械が次々に降ろされていく。鋼を加工するための工作機械だろうか。
キビキビとした動作で、手際よく鉄材のまわりに現場を作っていく軍服小人さんたち。
「わぁ~~小人さんたち、みんなお顔がキリッとしてて凄くカッコいいですぅ~~♪」
「……これは。前回の裁縫小人さんたちとは雰囲気がまるで違いますね。兵士の小人さんたちでしょうか?」
「おお~~っ!? なにやら動く箱がたくさん出てきたのじゃ! 精霊の世界の乗り物か!? 凄い、面白いのう!」
いつの間にか俺の左右に並んでいたリナ、アクシラ、そしてホトナが、軍服小人さんや小さな重機たちに目をキラキラと輝かせて声を上げていた。
すると隊列の先頭にいた、ひときわ立派な帽子を被った将校らしき小人さんが、リナの足元までトコトコと歩み寄り、小さな手足を使ってピコピコとジェスチャーを交えながら何かを訴え始めた。
「うんうん、そっか~うん、わかったよ~!」
なぜか小人さんと完璧に意思疎通ができるリナが、何度も深く頷きながら俺たちを振り返った。
「みんな~~小人さんたちが言うにはね、今夜は絶対にこの広場に近寄らないでくださいだって! これからもの凄く熱くて危ない本格的な作業を始めるから、おうちで良い子にしててね、とのことで~~す!」
熱い作業か。どうやら、今回は鋳造や溶接まで本格的にやるようだな。
俺は山積みの鉄くずと、すでにその周りに足場を組み始めている小人さんたちを見つめた。彼らの手によってあのゴミの山がどう生まれ変わるのか、想像するだけで胸の奥にある男のロマンがパチパチと火花を散らす。
「よし、小人さんの言う通りだ。今夜は作業の邪魔にならないよう、全員広場への立ち入りを禁止する。アクシラもホトナも、大人しく館に戻るぞ」
「はい、ブラン様。彼らの安全な作業を祈りましょう」
「うむ、邪魔をしては悪いからのう。われはあのふかふかの寝床に戻って、いい夢をみるのじゃ」
みんなで揃って頷き、俺たちは熱気を帯び始めた広場を後にして、領主館の寝床へと帰っていった。
「ふぅ~~」
今日は魔力を使い切ったな。だがなんとか【設計図】を出すことはできたぞ。
ベッドに横たわり、天井を見つめる。
広場からは夜の静寂を切り裂くように、ガガガガガ、ドンドン、カンカンという、いつもより大きめで力強い金属音が絶え間なく響いてきていた。それはエド村の新しい明日を創り出す、実に頼もしい子守唄のように聞こえる。
「明日が楽しみだな……」
俺は心地よい疲労感と共に、深い眠りへと落ちていくのだった。
「まぁ、われらは風の向くまま気の向くままに生きる種族じゃからな。飽きたらまた旅立つのじゃ。それが百年後か二百年後かはわれにもわからんがのう」
領主館のリビングで、新しいお気に入りのクッションにすっかり身を埋めたホトナが、紅茶をズズッとすすりながらそんなことを言った。
「ああ、そこは無理に縛る気はない」
百年単位とは、さすが長寿エルフらしい。まあ、俺の命があるうちに旅立つ気は毛頭ないってことだな。
よし、その長い年月の間にどうやってお前たちを快適まみれにしてしてやろうか……ウズウズ
そんな俺の趣味を胸に秘めつつも、俺には片付けなければならない大仕事があった。
そう、王国最果てのド辺境に迫る春の風物詩―――ワイバーン対策である。
「なあ、ホトナ。お前たちを故郷から追い出したワイバーンってのは、具体的にどういう攻撃をしてくるんだ? 」
俺の問いかけにそれまでお気楽な表情を浮かべていたホトナの顔が、スッと引き締まった。後ろで新しい服を試着していたエルフたちの身体が、恐怖の記憶を呼び起こされたかのように微かに怯えたのが分かった。
「ふむ……奴らは獰猛で動くものなら片っ端から食べる。なんでも引き裂く鋭い爪と、あらゆる肉を噛み砕く牙。……じゃが、本当に恐ろしいのは……」
ホトナは一度言葉を切り、天井を見上げた。
「奴らは高い空から一気に襲い掛かってくるのじゃ。その速度はわれら森エルフの自慢の弓をもってしても、捉えるのが困難なほどの凄まじい速さじゃぞ」
ホトナの言葉に続いて、我が村の戦士隊長であるガンチも神妙な面持ちでウンウンと深く頷いた。
「領主様、ホトナさんの言う通りだぜ。やつらは空からバッと急降下して獲物を掻きさらっていき、反撃する隙も与えずにバッと空に戻るんだ」
「急降下からのヒット&アウェイ、か……」
俺は腕を組み、うむと唸った。
地上の魔物なら、こちらに接近してくる間にラスタール式三八式歩兵銃で、遠距離からある程度の打撃を与えることができる。だからこそ、前衛のガンチたちも剣や槍や盾で村への侵入を防ぐことが出来ているのだ。
我が領が誇るラスタール三八式歩兵銃は確かに優れたライフルだが、有効射程距離は水平射撃で五百から六百メートル程度。しかもこれを上空に向かって撃つとなると、射程はさらに短くなる。
もしワイバーンが上空千メートル以上の弾の届かない安全圏を旋回しながらこちらの隙を窺い、超高速で急降下してくるのだとしたら―――こちらが狙い撃てるチャンスは、奴らが地表近くまで接近してきた、ほんの一瞬だけということになる。
しかも、相手はブラックウルフとは体格も皮膚の頑丈さも桁違いときた。仮に歩兵銃の弾が数発命中したところで、致命傷を与えられずにそのまま押し切られる可能性もある。
「う~~ん、単発ライフルと剣や槍だけで、ワイバーンの群れを相手にするのは流石に無茶だな……」
なら、どうするか。
答えはシンプルだ。
急降下してくる前に、奴らの安全圏である上空に向けて歩兵銃よりも高火力の先制攻撃を叩き込んでやればいい。そう、対空兵器である。
俺の脳内で前世のミリタリー知識が、そして前世のイメージがフル稼働する。
現状の俺のレベルで作成できる近代兵器……空の脅威に対抗する武器。
俺の中で答えが導き出される。
うん。これでいこう。
方向性は決まった。
さて、次に必要なのは材料だが、これに関しては今のエド村には幸いなことに大量にある。
「ガンチ、村の動ける男たち全員と、エルフたちにも声をかけてくれ。村の中にある鉄くずを中央広場に集めてほしい」
「鉄くず、ですかい? 壊れた剣や錆びついた鎧のなれの果てなら、確かに山ほど転がってますが……」
「ああ、それで十分だ」
「おうよ! 領主様の頼みなら、すぐにかき集めてくるぜ!」
ガンチが威勢よく返事をして走り出し、エルフたちもホトナの合図でそれに従った。
エド村はかつての開拓団本拠地だった。だから様々な武器や防具などのなれの果てがそこら中に転がっている。
◇◇◇
夕暮れ時。中央広場には、みんなが必死に運び込んだ錆びついた武器や防具、得体の知れない金属パーツが巨大な山を形成していた。
俺はフゥと一つ息を吐き、両手の指先に全ての魔力を集中して【設計図】を発動させた。
ペラっと一枚の紙が落ちてくる。
そしてその紙からモコモコと、小さな人影が現れた。
むくり、ぴょこ。
ぴょこぴょこ。
ぴょこぴょこぴょこ。
光の中から現れたのは、手のひらサイズの一糸乱れぬ見事な隊列を組んだ軍服小人さんたちだった。
「お、出てきたな」
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ!
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ!
小さな笛の音に合わせて、キリッとした表情の軍服小人さんたちが、ミニチュアの軍靴の音を響かせながら完璧な行進を始めた。
歩兵銃を作った時にも現れた、我が領の国防を支える心強い小人さんたち。
そして―――
ブロロロロロロ……ッ!!
小人さんたちのあとから、小さな、しかし力強いエンジン音を響かせる軍事トラックや、アームを備えたクレーン車たちが次々と出てきた。トラックの荷台からは、馴染みのない機械が次々に降ろされていく。鋼を加工するための工作機械だろうか。
キビキビとした動作で、手際よく鉄材のまわりに現場を作っていく軍服小人さんたち。
「わぁ~~小人さんたち、みんなお顔がキリッとしてて凄くカッコいいですぅ~~♪」
「……これは。前回の裁縫小人さんたちとは雰囲気がまるで違いますね。兵士の小人さんたちでしょうか?」
「おお~~っ!? なにやら動く箱がたくさん出てきたのじゃ! 精霊の世界の乗り物か!? 凄い、面白いのう!」
いつの間にか俺の左右に並んでいたリナ、アクシラ、そしてホトナが、軍服小人さんや小さな重機たちに目をキラキラと輝かせて声を上げていた。
すると隊列の先頭にいた、ひときわ立派な帽子を被った将校らしき小人さんが、リナの足元までトコトコと歩み寄り、小さな手足を使ってピコピコとジェスチャーを交えながら何かを訴え始めた。
「うんうん、そっか~うん、わかったよ~!」
なぜか小人さんと完璧に意思疎通ができるリナが、何度も深く頷きながら俺たちを振り返った。
「みんな~~小人さんたちが言うにはね、今夜は絶対にこの広場に近寄らないでくださいだって! これからもの凄く熱くて危ない本格的な作業を始めるから、おうちで良い子にしててね、とのことで~~す!」
熱い作業か。どうやら、今回は鋳造や溶接まで本格的にやるようだな。
俺は山積みの鉄くずと、すでにその周りに足場を組み始めている小人さんたちを見つめた。彼らの手によってあのゴミの山がどう生まれ変わるのか、想像するだけで胸の奥にある男のロマンがパチパチと火花を散らす。
「よし、小人さんの言う通りだ。今夜は作業の邪魔にならないよう、全員広場への立ち入りを禁止する。アクシラもホトナも、大人しく館に戻るぞ」
「はい、ブラン様。彼らの安全な作業を祈りましょう」
「うむ、邪魔をしては悪いからのう。われはあのふかふかの寝床に戻って、いい夢をみるのじゃ」
みんなで揃って頷き、俺たちは熱気を帯び始めた広場を後にして、領主館の寝床へと帰っていった。
「ふぅ~~」
今日は魔力を使い切ったな。だがなんとか【設計図】を出すことはできたぞ。
ベッドに横たわり、天井を見つめる。
広場からは夜の静寂を切り裂くように、ガガガガガ、ドンドン、カンカンという、いつもより大きめで力強い金属音が絶え間なく響いてきていた。それはエド村の新しい明日を創り出す、実に頼もしい子守唄のように聞こえる。
「明日が楽しみだな……」
俺は心地よい疲労感と共に、深い眠りへと落ちていくのだった。

