ハズレ魔法【設計図】ただの紙切れしかだせない魔法などクソだと追放された転生貴族の九男坊~実は小人さんたちが寝てる間になんでも作ってくれる便利魔法だったので、魔の森で現代快適領地経営を始めます~

 翌朝。

 目が覚めてリビングに降りると、そこには昨夜の古布の山が跡形もなく消え去り、代わりに見事にプレスされた新品同様の美しい衣服が種類ごとにきっちりと山積みにされていた。

 「領主様、こんな新品の服もらっていいんですかい?」
 「ああ、みんなの分はちゃんとある。各自もっていけ」

 村人たちは新品になった服を着て、大満足な様子。
 見た目は彼らが今まで着ていた服とそう変わらない。

 だが……

 「うわ、なんかサラサラだべ」
 「軽いのに丈夫だわ~」
 「わぁ~~きもちいい~」

 そう、素材が違うのだ。

 天然素材の心地よさと化学繊維の機能性を掛け合わせた、前世現代のハイブリッド衣服。軽量性、通気性、ストレッチ性、どれをとってもこの異世界の衣服より優れており、さらに洗濯もしやすくストレスフリーな着用感を実現している。

 さすが小人さん、あのボロ布たちを未知の素材で生まれ変わらせてくれた。

 ふはは、衣服でも快適に溺れるがいい。我が領民たちよ。

 俺がウンウン満足していると、ホトナが機嫌の良い声をあげる。

 「うむ、ブランこれはよい! 動きやすいし、肌触りもツルツルじゃ!」

 ホトナをはじめとするエルフたちは、小人さんたちが作った新しい服を身に纏いリビングの鏡の前で大満足の笑顔を浮かべていた。
 彼女たちが着ているのは、緑と白を基調とした自然に溶け込みつつも洗練されたデザインのニットとショートパンツだった。これなら昨日の葉っぱ一枚に比べれば、遥かに文明的だ。

 ひとまず男たちの理性が崩壊する危機は免れたと、胸をなでおろす。

 にしても。

 ムフフ。村人もエルフも大満足。

 これがあるから【設計図】はやめられん。たまらんわ。

 俺がひとりムフムフしていると、完成品を検品していたアクシラがふと眉をひそめて山積みの服の一部を引っ張り出した。

 「ブラン様、完成した衣類はとても素晴らしいのですが。……この一部のエルフ女性用の服、少しばかり胸元が開きすぎている気がいたしませんか?」

 「え? あ、いや……」

 確かに、特定の服は胸元のカッティングがかなり大胆で、エルフの豊かな渓谷が強調される仕様になっている。

 「ほら、エルフって元々そういう自然体で開放的な種族なイメージが前世―――いや、俺の中にあってだな。細かなニュアンスはほら、デザイナーズ小人さんが俺の深層心理を勝手に具現化しちゃったというか、俺も把握しきれていないというか……」

 「そうですね……たしかに、わたくしたちの常識を彼女たちに押し付けるのは良くないですね」

 ふぅ、なんか納得?してくれたようだ。

 俺が若干変な汗をかいていると、リビングの隅から別の声が上がった。


 「ブラン様ぁ~~この隅っこに置いてある黒い箱、もしかしてあたしたちの新しいメイド服ですかぁ~~!?」


 見れば部屋の隅に他の衣服とは明らかに違う黒塗りに白のラインが入った箱が数箱、丁寧に重ねられていた。
 黒と白といえば、メイド服。

 「おお、多分そうだ。リナとロネの分だな」

 「わぁ~~い! リナ、さっそく着替えてきま~~す♪」
 「はいです! 新しいメイド服、楽しみです!」

 リナとロネは嬉しそうに箱を抱え、二階の自室へとドタバタと駆け上がっていった。

 よしよし、喜んでもらえて何よりだ。

 ちなみに、どんなメイド服なんだろうか。

 俺は残された黒い箱を何気なく開けてみた。
 まず最初に見えたのは、カチューシャだった。だが、普段見るメイド用の白いフリルではない。

 ……細長く伸びた、白いウサギの耳だった。

 「んん、なんだこれ? 獣人用の飾りか?」

 いや、うちの住民に獣人とかおらんし。不審に思いながら、その下にあるメインの服を引っ張り出す。
 現れたのは、黒い妖艶な光沢を放つテカテカとしたラメ素材のボディスーツ。そしてお尻の部分には、白い丸くてモフモフとしたボールチックな尻尾が一つ、ちょこんと付いていた。

 おい……

 「ちょっと待て……これ」

 バニーガールじゃねえか!!!

 まてまてまて!

 なぜこんなのがメイド服の箱に混ざっている!?  

 昨夜はエルフたちの葉っぱビキニに圧倒されたり、アクシラの下着の引き出しが開けられたりと、俺の脳内が刺激を受けすぎて、【設計図】作成時にバニーガールのイメージを電脳世界の彼方からサルベージし、それをデザイナーズ小人さんが全力で最高品質に仕立て上げたのだろうか。

 いや、なんかそれらしい理由つけてはみたけど……違う。

 すんません。

 単に男の欲望が出ちゃったんです……

 だが妄想までならまだいいが、リアルはいかん。

 作成されるなど、夢にも思ってなかった。

 「リナ、ロネ! それ、着ちゃダメなやつだ! 今すぐ脱げ―――」

 現実に戻った俺が慌てて二階へ向かって叫ぼうとした、まさにその瞬間。 トントンと軽快な足音と共に、階段から聞き馴染んだ声が響いた。

 「じゃあ~~ん! ブラン様~新しいメイド服、着てきましたよ~~♪」

 「……あ」

 階段を降りてきたリナは、非の打ち所がないほど完璧な黒の艶やかなバニーガール姿に変身していた。 ドデカイ膨らみと、すらりと伸びた健康的な生足に黒タイツをまいて、きゅっと引き締まったウエスト。そして、頭の上でぴょこぴょこと揺れる白いウサギ耳。

 うわぁ……着ちゃってるよ。
 完璧に着こなしちゃってるよ。

 いや、でも……ぶっちゃけ、めちゃくちゃ似合うなクソォオオ!! 最高に可愛いじゃないか!!

 ―――ガシッ!!!

 次の瞬間、俺の視界が完全に暗くなった。

 「は、破廉恥です! ブラン様は見てはいけません!!」

 背後から回り込んできたアクシラが、もの凄い握力で俺の両目をガッチリと塞いできたのだ。

 「リナも、なんて格好をしているのですか! すぐに着替えてきなさい!」

 「ええ~~アクシラ様、これ動きやすいし、とっても可愛いですよ? ほら~~アクシラ様の分も、色違い(白バニー)が入ってましたよ? 一緒にクルクルしましょう♪」

 「なっ……!? こ、こんなの……恥ずかしすぎますっ!!」

 リナバニーも破壊力が凄まじいが、アクシラバニーだと……!?

 公爵令嬢バニー……

 しかも純白バージョン……

 ……あかん、それは流石にヤバすぎる。男の妄想の最終兵器だぞ。

 「や~ん、ブラン様ったらなに想像してたんですか~鼻息が荒いですよ~♪」
 「……ふむ。ブラン様、お戯れが過ぎるようですな。いくら領主とはいえ、婚前の不適切な行為は感心いたしません。正式な然るべき婚礼の儀を経てから、お部屋で二人きりの時になさるべきです」

 リナとセバロがなんか言ってる。

 ていうか行為ってなんだ。
 そもそも、婚約してるのすらよくわからんのだけど俺。

 とにかくアクシラに説明して、リナには着替えに戻ってもらって、なんとかその場を落ち着かせた俺。

 俺の魔法【設計図】、妄想を現実にしてくれる素晴らしい力だが、ちょっと気を付けよう。
 扱いを誤ると、とんでもないことになる。

 ま、まあ、とにかく。エルフたちの衣服は無事に揃った。これで村の男たちが教会の前で前傾姿勢でモジモジする不審者事案は、完全に解決したと言っていいだろう。

 ちなみにロネはバニーを着たはいいが、恥ずかしくて自室から出られなかったそうだ。
 ……うん、悪かった。後で最高級のかき氷を作って謝ろう。

 そんな朝のひと悶着という名の寸劇を終えた頃。エルフ族長のホトナが、新しい服に着替えてすっかりリフレッシュしたエルフたちを引き連れて俺の前にきた。

 「ブラン、われたちはこの場所が気に入ったぞ」

 「それは何よりだ」

 「うむ! 肉は食べられるし、家は温かいし、お主の魔法が生み出すものはどれも不思議で、退屈しない。実に面白い、最高の場所じゃ」

 ホトナはそう言って美しい笑みを浮かべた。人間の文明をこれほどあっさりと、しかも楽しそうに受け入れるエルフの部族というのも珍しいかもしれないが、彼女たちの屈託のなさは、心から楽しんでいるように見受けられる。

 ホトナは、グッと近づいて真剣な眼差しで俺の目をじっと見据えた。

 「そこで相談なんじゃが……われたちはこの村にしばらく住み着きたい」

 ふむ……

 その申し出は、俺にとってもラスタール領にとっても願ってもないチャンスだった。

 ホトナたちは、あの魔の森からやってきた。
 つまり彼女たちを迎え入れるということは、これまで完全に謎に包まれていた魔の森の情報を入手できるということを意味する。どのような魔物がいるのか、資源になりそうなものは眠っていないかなどなど、今の俺たちにはわかっていないことだらけだ。
 これからもラスタールの領地経営を円滑に続けるには、魔の森の調査とリスク管理は絶対に避けては通れない。

 そして何より、エルフたちは快適な現代文明に対して非常に素直だ。

 ……ふふふ、つまりこれは、エルフを快適漬けにして二度と森へは帰れない体にすることも可能。

 俺は不敵な笑みを隠し、領主としての真面目な顔を作って頷いた。

 「分かった。我がラスタール領は来る者を拒まない。ただしここに住み込む以上は、俺からの協力要請には全面的に応えてもらう。住民の務めというやつだ。それが約束できるなら、今日からお前たちを正式なエド村の住民として歓迎しよう」

 「むろんじゃ。われらのできることなら、何でもやってやるぞ。よし、契約成立じゃな! 皆のもの、聞いたか!」

 ホトナが後ろを振り返って叫ぶと、エルフたちが一斉に歓声を上げた。

 「やった~これで毎日お肉が食べられるぞ♪」
 「あの、えあこんという箱がある部屋に住めるのね~~♪」
 「ふわふわの寝床だ~~♪」

 ……うん、やっぱり完全に文明の利器に屈しているな。

 さて。新たな住民が増えたところで、いよいよ本題だ。

 忘れてはならない、ガジル神父が告げたラスタールに迫る脅威。魔の森で過ごしてきたエルフたちすらも、圧倒的な数の暴力で故郷を追いやった空の支配者たち。

 ワイバーンの季節がやってくる。

 奴らがこの快適村へ攻めてくる前に、迎え撃つ準備を整えなければならない。

 ならば……

 装備を増やそうじゃないか。

 ラスタールの春の空を見上げながら、俺は次なる計画に向けて静かに闘志を燃やすのだった。