エルフたちが教会の広間で泥のように寝静まったその日の夜。
俺は領主館に戻り、一人リビングのソファに深く腰掛けながらあれやこれやと妄想―――いや、真面目な思考を巡らせていた。
まずはエルフたちの服だな……。
今のままだと、あまりにも目の毒というか刺激が強すぎる。
ラスタール領に滞在してもらう以上、最低限の文明的な服を着てもらわんとこちらとしても日常生活に支障をきたす。
村の男たちが全員前傾姿勢のモジモジ村になりましたとか、シャレにならんぞ。
だが、いつもの妄想を膨らまそうとすると、大きな問題にぶち当たってしまった。
「そもそも、女性の服ってどんなデザインがいいんだ……?」
俺は前世においてファッション誌なんて小洒落たものは、ほぼ読んだことがない。せいぜい通販サイトのカタログを流し見した程度だ。さらに言えば、この世界の服装にもそこまで詳しくない。
ぶっちゃけ、具体的なイメージが全く湧いてこないのだ。
う~む、と唸りながら頭を抱えていると。
「……ブラン様、そんなに眉間にシワを寄せて、何かお困りですか?」
「ブラン、なにを唸っておるんじゃ?」
背後から同時にかけられた二つの声。
そこに立っていたのは、ほかほかの湯気を立ててお風呂から上がってきたばかりのアクシラと、森エルフの族長であるホトナの姿があった。
聞けば、アクシラがホトナを「もっとお話ししたいことがございますから」と、自らお風呂に誘ったらしい。
エド村にやってきた当初は、「お化粧も落として、髪も整えていない状態でブラン様の前に出るなどできません」と頑なに言い張り、風呂上がりは即座に自分の部屋へ引きこもっていたアクシラだった。だが、この一ヶ月の共同生活で慣れたのか、あるいは俺に気を許し始めてくれたのか、最近ではこうして風呂上がりの部屋着姿でも普通にリビングに現れるようになっていた。
自分の興味あることには積極的に関わって、今までの習慣も崩せるものは崩す。
アクシラは、色々やろうとしているんだな……
なんだか少しばかり嬉しい感情が胸に湧くのを覚えつつ、俺は口をひらいた。
「いや、ちょっとエルフたちの服を作ろうと思ったんだが、イマイチ女性物の服のイメージが湧かなくてな。男物ならともかく、女性物となるとさっぱりなんだよ」
するとホトナが濡れた緑髪をバスタオルでガシガシと拭きながら、実にあっけらかんとした調子で言った。
「なんじゃ、そんなことか。ならばアクシラの部屋に行くのじゃ!」
「え……? アクシラの部屋に?」
「うむ。われが今着ているこの動きやすい服も、アクシラが貸してくれたものじゃからな。部屋の大きな箱の中に、他にもたくさん入っておったぞ」
なるほど、実物を見ろってことか。
確かにホトナが着ているのは、アクシラが館のなかで着ているゆったりとした部屋着だ。
「ちなみにホトナ。エルフって、人間の服を着るのを嫌がったりするタブーとかはないのか? ほら、自然の精霊の怒りをかうとか」
「そんなものは部族ごとのしきたりによりけりじゃな。少なくとも、われらの部族はそんな面倒なことは気にせんぞ。てか便利なものは大好物じゃ! あの「えあこん」という箱からでる暖かい空気は、絶妙に気持ち良くてたまらん! この家、本当に最高じゃな! 」
ついさっき、領主館に入った瞬間に文明の利器に目を輝かせていたホトナの姿を思い出す。俺のエルフイメージは、傲慢で人間を嫌う頑固なエルフとか、自然との共生を重んじるエルフみたいかんじだった。
が、現に俺の目の前にいるエルフは、極めて柔軟で好奇心旺盛な性格のようだ。新しいものにこれほど抵抗感がないのは、俺としては嬉しい限りだ。
おっと、話が脱線してしまった。
本題に戻さねば。
「……というわけなんだが、いいのか? アクシラ」
俺が尋ねるとアクシラは少しだけ頬を赤く染め、もじもじと指先を絡め合わせながらもコクリと頷いた。
「……はい。ブラン様の参考になるのでしたら、どうぞご覧になってください」
おお、お許しがでたぞ。
俺たちは二階にあるアクシラの私室へと向かった。
公爵令嬢のプライベートな部屋に夜、潜入する。
これは仕事なのだ。
そう、これは内政の仕事なのだ。
てことで、お邪魔しま~す。
「こちらです……」
部屋に入るとアクシラが少し恥ずかしそうに、壁際に備え付けられたクローゼットの扉を開けてくれた。
別にあるウォークインクローゼットの方には、きらびやかなドレスがメインで保管されている。だが、今彼女が開けてくれたのは、より日常的で動きやすいブラウスやフレアスカート、チュニックといった普段着が収められた棚だった。
アクシラ自身は、外に出る際にはドレスと普段着を使い分けているようだ。
「ふむふむ、なるほど……」
俺が真面目な顔で服の構造やデザインを観察していると、後ろで退屈そうにしていたホトナが部屋の隅にある別の引き出しに手をかけた。
「ブラン、ここにも変わった小さな布がたくさん入っておるのじゃ! これも見せてやるぞ!」
「あっ! ホトナさん、そこは―――」
え? なに?
アクシラが急に声のトーンをあげる。
「そこはダメですっ!!」
ガタァンッ!! と、凄まじい勢いでアクシラが割り込み、ホトナの手から引き出しをぶんどるようにして全力で押し戻した。
「…………」
一瞬。本当にコンマ数秒の刹那だったが引き出しが開いた瞬間、俺の視界にはレースがあしらわれた色とりどりの、大変シルキーでコンパクトな布地が大量に飛び込んできてしまった。
なるほど、これはあれだな……
「ここはダメですから……」
そう言ったアクシラの顔は、耳の裏まで完全に熟したトマトのように真っ赤に染まっている。
まあ下着は俺の想像でいくか。アクシラにパンツしっかり見せてとか、もはや変態だからな。
その後もアクシラの服を一通り見せてもらった。
ちょっとした(もしかしたらちょっとしてないかも)ハプニングはあったものの、得られるものは大きかった。
「よし、だいたい分かったぞ。助かったよアクシラ」
「……はい」
「エルフたちの服はもちろん、ついでに村人たちの新しい服や、アクシラ、リナ、ロネの分、それにセバロの新しい執事服もまとめて作ってしまおう!」
「……はい」
アクシラの返事が心ここにあらずみたいな感じだが、まあすぐに回復するだろう。
俺たちは再び一階のリビングへと戻り、本格的な作業の準備に取り掛かる。
「よっしゃ。やるか」
リビングの床には事前に村人たちから回収しておいた、古くなって着られなくなったボロボロの服や、使い道のなくなった布が山のように積み上げられていた。
「かなりの量ですね」
「ああ。これだけ材料があれば十分だ。俺の魔法の本領発揮といくか」
俺は両手にぐっと魔力を込め、脳内で大量のイメージを膨らませながら魔法【設計図】を発動させた。
―――バサバサバサ!
激しい音と共に、俺の手元から光り輝く魔法の紙がリビングの床へ落ちていく。今回はいつにも増して出力された紙の量が多い。
エルフの服、村人の服、さらには下着のイメージまで、色々と脳内で想像を膨らませすぎたせいが、すべての情報を俺自身が把握しきれないぐらいだ。
すると、床に散らばった設計図の紙が、光を放ちながらモコモコと盛り上がり始めた。
むくり、ぴょこ。
ぴょこぴょこ。
ぴょこぴょこぴょこ。
手のひらサイズの小人さんたちだ。
「……かわいい。小人さんたちが背中に背負っているのは、まち針ですね」
「そうだな。あっちの小人さんが両手で抱えているのは、糸切りはさみとチャコペンだな」
今回現れた小人さんたちは、裁縫に特化したマチバリ小人さんたちだった。それぞれの小さな体に合わせた定規や裁ちばさみ、そして色とりどりの糸の束を誇らしげにかついでいる。
「ブラン様、あちらの箱はなんでしょう?」
アクシラが不思議そうに指さした先では、小人さんたち数人がリビングのテーブルの上へ、金属製の見慣れない四角い機械を「おいっちに。おいっちに」と声を掛け合いながらセッティングしていた。
「ふむ、あれはミシンだな」
「みしん……? それは一体どのような道具なのですか?」
「手で一針ずつ縫うのではなく、布をもの凄い速度でしかも均一に美しく縫い合わせることができる機械だ。これがあれば手で何日もかかる裁縫が、ずっと短い時間で終わるんだよ」
「布を一瞬で、均一に美しく……ですか!?」
案の定、アクシラの青い瞳がカッと見開かれた。彼女の凛々しい頭脳のなかで、ビジネス分析モードのスイッチが入ったのが分かった。
「ブラン様、もしそのミシンが量産可能かつ一般の領民でも扱えるようになれば、服をラスタールの特産品にできるかもしれません。周辺の領地はおろか王都の市場すら入り込める一大交易品になり得る可能性が……ですが、まずは村の人たちを一定レベルにまで引き上げないと。それに……」
「はは、始まったな。アクシラのビジネス分析」
「あ……申し訳ありません、ついつい興奮してしまい……」
恥ずかしそうに口元を隠すアクシラだったが、俺は嬉しかった。彼女がこうして自分の意志で、このエド村を豊かにするためのアイデアを必死に考えてくれている。
将来、彼女がアパレル事業を立ち上げたいと言い出したら、ミシンの設計図なんていくらでも出すぞ。
「おお~~これは精霊かのう? ちっこくて、実に可愛いヤツらじゃな!」
ホトナがミシンを設置し終えた小人さんの一人を指先でツンツンと突っついていた。小人さんはあまり気にしない様子で、次のミシン設置に動き始める。
「俺の魔法【設計図】から生み出された小人さんたちだ。精霊かどうかは俺にも分からんが、いつも俺のイメージ通りに完璧な仕事をしてくれる、最高の相棒たちさ」
「なるほどな。たしかに、このちっこい子達からはブランと同じにおいがするのう。お主の魔力の残り香というやつじゃな」
「俺のにおい……って。お前、俺のにおいなんて分かるのかよ」
「ふふん、エルフの鼻を舐めるでないぞ」
エルフの外見からすれば耳が効くように見えるが。
五感が人よりも発達してるんだろうか。とりあえず俺のにおいが臭いわけではないらしい。
そうこうしている間にも、【設計図】から小人さんたちが次々と出てくる。そして他の小人さんたちとは明らかに一線を画す、最新の奇抜なファッションに身を包んだ気取った小人さんも現れた。
デザイナーズ小人さんだろうか。まあデザインは大事だし、今回は裁縫フルメンバーが集結しているようだ。
これは楽しみなメンツだぜ。
「よし、みんな任せたぞ」
ピピっとマチバリをかかげて、任されよのポーズを取る小人さんたち。
「んじゃ、俺たちは寝るか」
「はい、ブラン様。おやすみなさい」
「うほぉ~~あのベッドというふかふかで寝るのじゃ~~」
みな各自寝床へと向かう。
今日もなんだかんだで疲れた。ぐっすり寝れそうだよ。
チョキチョキチョキ……!
カタカタカタカタ……!
リビングに響き渡る心地よいミシンの稼働音とハサミの音を聞きながら、俺たちは深い眠りへと就くのだった。
俺は領主館に戻り、一人リビングのソファに深く腰掛けながらあれやこれやと妄想―――いや、真面目な思考を巡らせていた。
まずはエルフたちの服だな……。
今のままだと、あまりにも目の毒というか刺激が強すぎる。
ラスタール領に滞在してもらう以上、最低限の文明的な服を着てもらわんとこちらとしても日常生活に支障をきたす。
村の男たちが全員前傾姿勢のモジモジ村になりましたとか、シャレにならんぞ。
だが、いつもの妄想を膨らまそうとすると、大きな問題にぶち当たってしまった。
「そもそも、女性の服ってどんなデザインがいいんだ……?」
俺は前世においてファッション誌なんて小洒落たものは、ほぼ読んだことがない。せいぜい通販サイトのカタログを流し見した程度だ。さらに言えば、この世界の服装にもそこまで詳しくない。
ぶっちゃけ、具体的なイメージが全く湧いてこないのだ。
う~む、と唸りながら頭を抱えていると。
「……ブラン様、そんなに眉間にシワを寄せて、何かお困りですか?」
「ブラン、なにを唸っておるんじゃ?」
背後から同時にかけられた二つの声。
そこに立っていたのは、ほかほかの湯気を立ててお風呂から上がってきたばかりのアクシラと、森エルフの族長であるホトナの姿があった。
聞けば、アクシラがホトナを「もっとお話ししたいことがございますから」と、自らお風呂に誘ったらしい。
エド村にやってきた当初は、「お化粧も落として、髪も整えていない状態でブラン様の前に出るなどできません」と頑なに言い張り、風呂上がりは即座に自分の部屋へ引きこもっていたアクシラだった。だが、この一ヶ月の共同生活で慣れたのか、あるいは俺に気を許し始めてくれたのか、最近ではこうして風呂上がりの部屋着姿でも普通にリビングに現れるようになっていた。
自分の興味あることには積極的に関わって、今までの習慣も崩せるものは崩す。
アクシラは、色々やろうとしているんだな……
なんだか少しばかり嬉しい感情が胸に湧くのを覚えつつ、俺は口をひらいた。
「いや、ちょっとエルフたちの服を作ろうと思ったんだが、イマイチ女性物の服のイメージが湧かなくてな。男物ならともかく、女性物となるとさっぱりなんだよ」
するとホトナが濡れた緑髪をバスタオルでガシガシと拭きながら、実にあっけらかんとした調子で言った。
「なんじゃ、そんなことか。ならばアクシラの部屋に行くのじゃ!」
「え……? アクシラの部屋に?」
「うむ。われが今着ているこの動きやすい服も、アクシラが貸してくれたものじゃからな。部屋の大きな箱の中に、他にもたくさん入っておったぞ」
なるほど、実物を見ろってことか。
確かにホトナが着ているのは、アクシラが館のなかで着ているゆったりとした部屋着だ。
「ちなみにホトナ。エルフって、人間の服を着るのを嫌がったりするタブーとかはないのか? ほら、自然の精霊の怒りをかうとか」
「そんなものは部族ごとのしきたりによりけりじゃな。少なくとも、われらの部族はそんな面倒なことは気にせんぞ。てか便利なものは大好物じゃ! あの「えあこん」という箱からでる暖かい空気は、絶妙に気持ち良くてたまらん! この家、本当に最高じゃな! 」
ついさっき、領主館に入った瞬間に文明の利器に目を輝かせていたホトナの姿を思い出す。俺のエルフイメージは、傲慢で人間を嫌う頑固なエルフとか、自然との共生を重んじるエルフみたいかんじだった。
が、現に俺の目の前にいるエルフは、極めて柔軟で好奇心旺盛な性格のようだ。新しいものにこれほど抵抗感がないのは、俺としては嬉しい限りだ。
おっと、話が脱線してしまった。
本題に戻さねば。
「……というわけなんだが、いいのか? アクシラ」
俺が尋ねるとアクシラは少しだけ頬を赤く染め、もじもじと指先を絡め合わせながらもコクリと頷いた。
「……はい。ブラン様の参考になるのでしたら、どうぞご覧になってください」
おお、お許しがでたぞ。
俺たちは二階にあるアクシラの私室へと向かった。
公爵令嬢のプライベートな部屋に夜、潜入する。
これは仕事なのだ。
そう、これは内政の仕事なのだ。
てことで、お邪魔しま~す。
「こちらです……」
部屋に入るとアクシラが少し恥ずかしそうに、壁際に備え付けられたクローゼットの扉を開けてくれた。
別にあるウォークインクローゼットの方には、きらびやかなドレスがメインで保管されている。だが、今彼女が開けてくれたのは、より日常的で動きやすいブラウスやフレアスカート、チュニックといった普段着が収められた棚だった。
アクシラ自身は、外に出る際にはドレスと普段着を使い分けているようだ。
「ふむふむ、なるほど……」
俺が真面目な顔で服の構造やデザインを観察していると、後ろで退屈そうにしていたホトナが部屋の隅にある別の引き出しに手をかけた。
「ブラン、ここにも変わった小さな布がたくさん入っておるのじゃ! これも見せてやるぞ!」
「あっ! ホトナさん、そこは―――」
え? なに?
アクシラが急に声のトーンをあげる。
「そこはダメですっ!!」
ガタァンッ!! と、凄まじい勢いでアクシラが割り込み、ホトナの手から引き出しをぶんどるようにして全力で押し戻した。
「…………」
一瞬。本当にコンマ数秒の刹那だったが引き出しが開いた瞬間、俺の視界にはレースがあしらわれた色とりどりの、大変シルキーでコンパクトな布地が大量に飛び込んできてしまった。
なるほど、これはあれだな……
「ここはダメですから……」
そう言ったアクシラの顔は、耳の裏まで完全に熟したトマトのように真っ赤に染まっている。
まあ下着は俺の想像でいくか。アクシラにパンツしっかり見せてとか、もはや変態だからな。
その後もアクシラの服を一通り見せてもらった。
ちょっとした(もしかしたらちょっとしてないかも)ハプニングはあったものの、得られるものは大きかった。
「よし、だいたい分かったぞ。助かったよアクシラ」
「……はい」
「エルフたちの服はもちろん、ついでに村人たちの新しい服や、アクシラ、リナ、ロネの分、それにセバロの新しい執事服もまとめて作ってしまおう!」
「……はい」
アクシラの返事が心ここにあらずみたいな感じだが、まあすぐに回復するだろう。
俺たちは再び一階のリビングへと戻り、本格的な作業の準備に取り掛かる。
「よっしゃ。やるか」
リビングの床には事前に村人たちから回収しておいた、古くなって着られなくなったボロボロの服や、使い道のなくなった布が山のように積み上げられていた。
「かなりの量ですね」
「ああ。これだけ材料があれば十分だ。俺の魔法の本領発揮といくか」
俺は両手にぐっと魔力を込め、脳内で大量のイメージを膨らませながら魔法【設計図】を発動させた。
―――バサバサバサ!
激しい音と共に、俺の手元から光り輝く魔法の紙がリビングの床へ落ちていく。今回はいつにも増して出力された紙の量が多い。
エルフの服、村人の服、さらには下着のイメージまで、色々と脳内で想像を膨らませすぎたせいが、すべての情報を俺自身が把握しきれないぐらいだ。
すると、床に散らばった設計図の紙が、光を放ちながらモコモコと盛り上がり始めた。
むくり、ぴょこ。
ぴょこぴょこ。
ぴょこぴょこぴょこ。
手のひらサイズの小人さんたちだ。
「……かわいい。小人さんたちが背中に背負っているのは、まち針ですね」
「そうだな。あっちの小人さんが両手で抱えているのは、糸切りはさみとチャコペンだな」
今回現れた小人さんたちは、裁縫に特化したマチバリ小人さんたちだった。それぞれの小さな体に合わせた定規や裁ちばさみ、そして色とりどりの糸の束を誇らしげにかついでいる。
「ブラン様、あちらの箱はなんでしょう?」
アクシラが不思議そうに指さした先では、小人さんたち数人がリビングのテーブルの上へ、金属製の見慣れない四角い機械を「おいっちに。おいっちに」と声を掛け合いながらセッティングしていた。
「ふむ、あれはミシンだな」
「みしん……? それは一体どのような道具なのですか?」
「手で一針ずつ縫うのではなく、布をもの凄い速度でしかも均一に美しく縫い合わせることができる機械だ。これがあれば手で何日もかかる裁縫が、ずっと短い時間で終わるんだよ」
「布を一瞬で、均一に美しく……ですか!?」
案の定、アクシラの青い瞳がカッと見開かれた。彼女の凛々しい頭脳のなかで、ビジネス分析モードのスイッチが入ったのが分かった。
「ブラン様、もしそのミシンが量産可能かつ一般の領民でも扱えるようになれば、服をラスタールの特産品にできるかもしれません。周辺の領地はおろか王都の市場すら入り込める一大交易品になり得る可能性が……ですが、まずは村の人たちを一定レベルにまで引き上げないと。それに……」
「はは、始まったな。アクシラのビジネス分析」
「あ……申し訳ありません、ついつい興奮してしまい……」
恥ずかしそうに口元を隠すアクシラだったが、俺は嬉しかった。彼女がこうして自分の意志で、このエド村を豊かにするためのアイデアを必死に考えてくれている。
将来、彼女がアパレル事業を立ち上げたいと言い出したら、ミシンの設計図なんていくらでも出すぞ。
「おお~~これは精霊かのう? ちっこくて、実に可愛いヤツらじゃな!」
ホトナがミシンを設置し終えた小人さんの一人を指先でツンツンと突っついていた。小人さんはあまり気にしない様子で、次のミシン設置に動き始める。
「俺の魔法【設計図】から生み出された小人さんたちだ。精霊かどうかは俺にも分からんが、いつも俺のイメージ通りに完璧な仕事をしてくれる、最高の相棒たちさ」
「なるほどな。たしかに、このちっこい子達からはブランと同じにおいがするのう。お主の魔力の残り香というやつじゃな」
「俺のにおい……って。お前、俺のにおいなんて分かるのかよ」
「ふふん、エルフの鼻を舐めるでないぞ」
エルフの外見からすれば耳が効くように見えるが。
五感が人よりも発達してるんだろうか。とりあえず俺のにおいが臭いわけではないらしい。
そうこうしている間にも、【設計図】から小人さんたちが次々と出てくる。そして他の小人さんたちとは明らかに一線を画す、最新の奇抜なファッションに身を包んだ気取った小人さんも現れた。
デザイナーズ小人さんだろうか。まあデザインは大事だし、今回は裁縫フルメンバーが集結しているようだ。
これは楽しみなメンツだぜ。
「よし、みんな任せたぞ」
ピピっとマチバリをかかげて、任されよのポーズを取る小人さんたち。
「んじゃ、俺たちは寝るか」
「はい、ブラン様。おやすみなさい」
「うほぉ~~あのベッドというふかふかで寝るのじゃ~~」
みな各自寝床へと向かう。
今日もなんだかんだで疲れた。ぐっすり寝れそうだよ。
チョキチョキチョキ……!
カタカタカタカタ……!
リビングに響き渡る心地よいミシンの稼働音とハサミの音を聞きながら、俺たちは深い眠りへと就くのだった。

