ハズレ魔法【設計図】ただの紙切れしかだせない魔法などクソだと追放された転生貴族の九男坊~実は小人さんたちが寝てる間になんでも作ってくれる便利魔法だったので、魔の森で現代快適領地経営を始めます~

 「ワイバーンの季節……」

 ぽかぽかとした春の陽気が降り注ぐ中央広場で、俺はガジル神父の言葉を思わず復唱していた。

 「左様ですじゃ。あの魔の森で冬ごもりをしていたワイバーンたちが、春になると一斉にエサを求めて外へと飛び出してくる。ワイバーンの季節ですじゃ」

 「いやいや、風物詩のレベルが狂いすぎだろ。普通は桜とかツクシとかだぞ」

 四季の移り変わりを魔物で感じるとは、さすがは王国最果てのド辺境・ラスタール領である。環境がスパルタすぎるわ。

 にしても、マジか。

 ワイバーンといえば、デカい体躯で空を自在に飛び回り、鋭い爪や牙を持つファンタジー世界における定番かつ危険な飛竜だ。

 こりゃあ早急に対策を立てんと。

 俺の脳内で緊急「どうするワイバーン対策会議」が本格的に始まろうとした、まさにその時だった。  村の正門見張り櫓から、切羽詰まった叫び声が響き渡った。

 「領主さまぁ~~! なんか来やしたぜ!!」

 ええぇ、まさかもうきたのか!? はやすぎだろ!

 俺は慌てて思考を切り替え、全力で正門の櫓へと駆け上がった。ハァハァと息を切らしながら階段を上り、すぐさま空を見上げる。

 「……あれ、どこだ? どこにいるんだ。ワイバーンの群れは?」

 春の心地よい風が吹き抜ける青空は、一点の曇りもなくどこまでも美しく澄み渡っている。

 「あ、領主さま、上じゃねぇです。下、下ですだ!」

 見張りの若い男が、気まずそうに自分の指をぐっと下へと向けた。

 「下……? 地上か?」

 視線を空から地上の街道へと移す。するとゾロゾロとこちらへ向かって歩いてくる、奇妙な集団の姿が視界に飛び込んできた。

 「あれは……人かな?」

 兵士のような整列された動きではない。かといって殺気を放つ盗賊や野盗の類でもなさそうだ。

 「領主様ぁ……あいつら、なんだか耳がもの凄く尖ってますぜ」

 「耳が尖っている?」

 うーん、俺の目ではここからじゃそこまでの細部が見えない。クソ、こんなことなら双眼鏡でも小人さんに作ってもらっておけば良かったな。

 「というか……あいつら全員、足元がフラフラしてないか?」

 集団の人数はおよそ三十名ほど。  
 その誰もが今にも糸が切れた人形のように身体を前後に揺らしながら、辛うじて足を前に進めているように見える。そして集団の先頭を歩いていた人影が、ガクリと膝を折って倒れ込んでしまった。

 「動ける男たちを集めろ! 救護に向かう!」



 ◇◇◇



 「は~~い、お肉はまだまだいっぱいありますからね! たくさん食べて、元気を出してくださいね~~♪」
 「おかわりですか? ああっ、それはお皿だから食べちゃダメです!」

 リナとロネの元気な声が、教会の広間に賑やかに響き渡っていた。

 エド村にやって来た謎の集団―――その正体は、エルフたちだった。  
 総勢で約三十名ほど。正門前で全員が力尽きて倒れてしまったため、いったん開門してぐったりしたエルフたちをこの教会に担ぎ込んだ。

 武器も持っておらず、代表らしきエルフが助けを求めていたのでまあ敵意はないかと思う。ていうか放置するには忍びないほど弱り切っていた。
 どうやら何日もまともな食事を摂っていなかったらしく、完全な極限状態の餓死寸前だったようだ。

 教会の広間に並べられた長机の上には、大盛りにされた肉料理が次から次へと運ばれている。エルフたちは、俺のファンタジーイメージにあるような「ベジタリアンで少食」さなど木っ端微塵に吹き飛ばし、もの凄い勢いでブラックウルフの肉をガツガツ、バクバクと頬張っていた。

 まあ肉に関しては、定期的にブラックウルフが来るのでストックには余裕がある。

 「にしても……エルフかぁ。俺、生まれて初めて見たよ」

 「はい、わたくしも本物のエルフを見るのはこれが初めてです」

 俺のすぐ隣でアクシラが小さく頷きながら、食事中のエルフたちを興味深そうにじっと観察していた。  

 細く綺麗に伸びた尖った耳。ファンタジーの教科書通りの特徴がそこにはあった。

 「そういえばエルフに関する書物って、あんまり見たことないな」

 「はいブラン様。わたくしも歴史の講義で人里離れた秘境に隠れ住む長命種である、ということくらいしか学びませんでした。まさか、そんな種族が目の前に……しかもこれほど大勢いるなんて……」

 アクシラの青い瞳が、どこかキラキラと輝いている。
 どうやら彼女の中にある探求心と学術的な好奇心が、うずうずと疼き始めているらしい。

 そうして一通り山積みの肉が平らげられ、彼らの胃袋が落ち着いた頃。  
 ひときわ整った容姿の女性エルフが、ふはぁ~~と満足そうな息を吐いてこちらに向かってきた。

 「……ふぅ。生き返ったのじゃ。飢えで干からびて、そのまま精霊の元へ旅立つかと思ったぞ。われらを助けてくれたこと、部族を代表して心より礼を言うのじゃ」

 「ああ、気にしないでくれ。俺はブラン。このエド村があるラスタール領の領主を務めている」

 「ふむ、ブラン殿か。寛大な領主じゃな。われは森エルフのホトナじゃ。この部族の族長を務めておる」

 ホトナは自身の引き締まった胸をドンと拳で叩き、深々とお辞儀をした。それがエルフ流の最敬礼なのだろうか。

 改めて近くで見ると、ホトナは非常にスレンダーでモデルのようにつんと整ったスタイルをしていた。ぶっちゃけ、めちゃくちゃ美人である。
 というか、他の女性陣もほぼ全員が例外なくシュッとしていてスタイルがいい。そして顔面偏差値が異常に高かった。やっぱりエルフってのは、世界共通で美人種族なんだな。男のロマンが詰まっているじゃないか。  

 ちなみに男性陣のエルフたちもいるのだが、こちらはなんというか、全体的に温和でおっとりとした優しそうな雰囲気を醸し出していた。

 「ちなみに、ホトナたちは一体どこからやってきたんだ? この近くにエルフの集落なんてあったっけ?」

 「うむ。われらは母なる大森林からきたのじゃ」

 「大森林? それって……」

 「うむ。この村の裏手に流れている、あの広き大河を渡った先にある森のことじゃな」

 「マジか……。ってことは、魔の森から来たってことかよ!?」

 俺の言葉に、隣のアクシラも「そのようなところから……」と声を漏らした。あの凶悪な魔物が無限に湧き出てくる、人間禁制のデスゾーン。てっきり魔物しか住んでいないおぞましい場所だと思っていたが、まさかエルフたちが普通に暮らしていたとは驚きだ。

 その後もホトナと会話を重ねることで、いくつかの情報が分かってきた。  
 エルフという種族は、人間のように一つの「国家」を持たないらしい。基本的には数十人単位の「部族」に分かれて行動し、気に入った土地に数十年から数百年いついては、飽きたら部族丸ごと次の新天地へと移動する。なんとも長命種らしい、風の向くまま気の向くままな生き方だ。  
 そして、魔の森にはホトナたちの部族以外にも、異なる文化を持った多様なエルフの部族が点在しているらしい。

 「なるほどな。エルフの生態についてはよく分かった。……で、本題なんだが、なんで魔の森で暮らせるほどの君らが、餓死寸前で行き倒れるまで追い詰められてたんだ?」

 そう、これが一番の謎だった。  

 今で森の中で生活できていたのなら、そのサバイバル能力は人間の比ではないはず。

 俺の問いに、ホトナはそれまでのフランクな表情を一変させ、真面目な顔で口をひらいた。


 「……ワイバーンの季節じゃ」


 うわ、また出た。

 本日、二回目のパワーワード。

 「今年のワイバーンは、例年に比べてかなりの数が羽化しておってな……いつもより多めに舞っておるのじゃ」

 今年は例年に比べて花粉が非常に多く飛散しております。みたいな感じで増えるってことか……怖すぎるだろ。

 「特にわれらの集落があった縄張りが、奴らの通り道になってしまってのぅ。我らは普段精霊の加護で魔物には気付かれにくい存在なんじゃが。さすがに数が多くてかわしきれなんだ。貴重な備蓄の食料もすべて食べられてしまい、もはや森には留まれず命からがら森を脱出せざるを得んかったのじゃ」

 ホトナは悔しそうに拳を握りしめる。  
 聞けば安全なルートを確保する余裕すらなく、魔の森を突っ切りあの大河を強引に渡る際に、かなりの数の同胞が犠牲になってしまったらしい。生き残ったこの三十名も、食料なしに行軍し続けてついに力尽きたということだ。

 なるほど……森で生きてきたエルフたちをここまで完膚なきまでに叩きのめし、命からがら逃げ出させるほど、今年の「ワイバーンの季節」とやらはヤバイってわけだ。

 これは、早急に対策をたてんといかん。

 が……

 それよりもすぐに解決しないといけないことがある。

 もう速攻で。

 「ご主人様。村の男の人たち、さっきからなんであんなに縮こまってるです?」

 配膳を終えたロネが、トコトコと俺の足元にやってきて不思議そうに首を傾げた。

 そう。

 エルフたちが来てから、じつはモジモジしているのだ。

 主に男たちが(俺を含む)。

 理由はあまりにもシンプル、かつ男として極めて不可抗力なものだった。

 エルフのみなさん、先ほども言った通り非常にスタイルが良く、全員がもれなく絶世の美人・美少女揃いである。そこまでは大歓迎なのだが、問題は彼女たちの格好……つまり服装だった。
 魔の森で独自の文化を育んできた彼女たちは、人間のような布を織った服を着る習慣がないらしい。  

 じゃあ何を着ているのかというと。

 ……なんか、大きめの不思議な葉っぱとか頑丈そうな蔦のような植物の繊維を、絶妙なバランスで身体に巻きつけているだけなのだ。

 まわりくどい言い方をしたが、もうハッキリと言おう。  


 裸じゃないけど、はだかよりエロいのよ。


 その「隠している面積の少なさ」と「動くたびに葉っぱがズレそうになるスリル」のせいで、ぶっちゃけ丸裸よりも何倍もエロい。族長のホトナなんて胸元を覆っている特大の葉っぱが彼女が呼吸をして胸が上下するたびに、今にもペラリと剥がれ落ちそうに揺れているのだ。男なら視線がそこにくぎ付けになるのは、これはもう生物学的な本能というやつである。

 「もぅ~~みんなして一体何やってるのよ、バカみたい……」

 もじもじと身をよじる村の男たちに向かって、リナが両手を腰に当て、完全に軽蔑しきったジト目を突き刺してくる。
 まわりの村の女性陣も同じく。そして……

 「……ブラン様」

 そして。リナのジト目よりも恐ろしい絶対零度の冷たい声が、俺の真後ろから鼓膜へと突き刺さった。

 恐る恐る振り返ると、そこにはかつてないほど無表情だが、瞳の奥に凄まじい冷気を宿したアクシラが立っていた。

 「……なぜみなさんは前傾姿勢なのですか? ブラン様も含めて」

 「な、何を言っているんだいアクシラ。そんなことはないぞ。ちょっと、春の風が心地よくて背筋を伸ばす運動をしていただけだよ!」

 「そうですか……ですが、先ほどからホトナさんとお話しされている間も、ブラン様の視線は彼女の胸元に合わせて、非常に細かく不自然に上下左右へと揺れ動いていらっしゃいましたが?」

 う、うわああああ!! 全部、克明にチェックしてるやん!!

 だって、仕方ないだろ! 

 あの葉っぱ、どう見ても粘着力が弱そうなんだよ! 

 今にも取れそうだったら、男として心配になって見てしまうのは当然の紳士的な反応だろ!?(何が紳士的かは不明だが)

 て、俺は心の中で叫んだ。

 「何か彼女たちについて、気になることでもおありなのですか?」

 ダメだ、アクシラさん。村にやってきて以来、過去最高レベルで機嫌が悪い。

 これは村の危機だ。

 「よし、このままだとここはモジモジ村になってしまう。服をつくろう」

 なにをするにも、まずは服を作ってからだ。