ブラックウルフ襲撃における防衛戦が終わり、リナの特製ウルフ肉料理をたらふく食べた翌日。
エド村の空気は、希望と活気に満ちあふれていた。
懸案案件のひとつであった「食」に関しては、大量の魔物肉を確保できたのでひとまずクリアだ。今朝できたばかりの冷蔵庫と冷凍庫のおかげで、長期保存も可能となった。
さらに倒した魔物たちから解体時にきっちりと魔石を取り出しておいた。これがかなりの大収穫で、魔石ストックもしばらくは困らないだけの量を確保。
最低限の防衛力と食料を得た。
となると、お次は……
「いつまでも、みんなでこの教会にすし詰めでいるわけにもいかないな」
俺は教会の前で腕を組み、小さく息を吐いた。
現在エド村のほとんどがカジル神父の教会に避難し、そのまま寝泊まりしている。ここが唯一エアコンの効いた施設で寝泊りに関しては他の場所へはいけないのはわかるが、色々と限界がある。ここまで大人数だと狭いし、プライバシーもへったくれもない。さらに密集して暮らしていれば衛生面でのリスクも跳ね上がる。誰か一人が風邪を引けば一発で全体に蔓延するだろう。
ではどうしたらいいのか。
個別の住居を住めるようにすれば、問題は解決する。
「てことで、家を建てよう」
そうと決まれば行動は早い。まずは俺自身の拠点であり、この村の統治の象徴となるべき領主の館から着手することにした。
リナとガジル神父とともに、かつて領主館と呼ばれていた場所へと向かう。村の中心部から少し離れた小高い丘の上にその敷地はあった。
「……うん、分かってはいたけど、改めて見ると凄まじくボロいな」
「はい、ご領主様不在となって随分と月日が経ちましたので……ブラン様がようやく来てくれましたじゃ」
ガジル神父がしみじみと言う。
伯爵領からも王国からも、見捨てらえたような領地だからな。
そんな領地だからこそ、改善のしがいがあるのだが。
「ふわぁ~~すごいですね。倒れちゃいそうですぅ~」
リナの言う通りだ。もういつ崩れてもおかしくないぐらいにボロい。
そして敷地だけは無駄に広い。さすがは開拓団の本拠地だっただけあって、そこらのお貴族様の別荘よりも広い土地が確保されている。だが肝心の建物がひどい。
木造の二階建てなのだが、屋根の半分は腐って落ち、壁には大きな穴がいくつも開いている。窓枠は歪み中には雑草が我が物顔で生い茂っていた。
ぶっちゃけ不気味な雰囲気すら漂っている。
「わぁ~い、ボロ~ボロ~~♪」
「おばけやしきだぁ~~♪」
「これ、子供たち。領主さまの前じゃぞ」
興味本位についてきた子供たちが、ボロ館のまわりをキャッキャッとはしゃいで走り回っている。
あの子たちの振動だけで、崩れそうだな……
でも……絶望的かと言うと、そうは思わない。
なぜなら、今の俺には心強い味方がいるから。
「よし、イメージだ……今の俺のレベル的に無駄にドデカい石造りのお城とかをイメージしても、魔力や素材不足だろうし俺の性分にも合わん。こじんまりとしていていいから、とにかく機能的で徹底的に快適な家―――」
快適、快適、かいてき。
俺は目を閉じ、前世の記憶の引き出しを片っ端からひっくり返した。
前世の俺が一番落ち着いた場所。冬は暖かく、夏は涼しく、快適の塊だった現代日本の英知の結晶。
「イメ~ジ……イメ~ジ……。高気密、高断熱。二十四時間換気システム……!」
「?……ブラン様? なんの呪文ですか?」
おっと、心の声がもれていたか。
だがイメージは固まった、これでいこう!
脳内で設計図がバシッと完成した瞬間、俺の魔力が起動した。眩い光と共に俺の手のひらから魔法の【設計図】が発動する。ペラリと一枚の白い紙切れが宙を舞い、地面へと落ちた。
すると、その紙の表面からぴょっこりと小人さんたちが出てくる。
―――むくり、ぴょこ。
最初に現れたのは頭にねじり鉢巻を巻き、ダボッとしたニッカポッカ風のズボンを穿いた小人さんだった。
その肩には、これまた小さなのこぎりや金槌が担がれている。
おお……これは職人小人さんか。
―――ぴょこぴょこ。
続いて、腰に工具ベルトを巻き作業着を着た「設備業者」スタイルの小人さんたちも次々と出てきた。どうやら今回は大工小人さんチームがでてくるようだ。
「わあ~こびとさん、いっぱいおどうぐもってる~~!」
「おしごとのふくきてる~~かわいい~~」
「ブラン様~~新しい小人さんたちですぅ! 今度の小人さんたち、おでこに布をまいててもの凄くかわいいですぅ~~!」
リナが胸をときめかせ、村の子供たちもキャーキャーと大はしゃぎで小人さんたちを囲み込んだ。大工小人さんたちは子供たちにお辞儀をされると、小さな手で鉢巻を直したり胸を張って「任せろ!」と言わんばかりに金槌を掲げたりしている。
やる気満々だな小人さんたち。
これで全員出たかかな。と思った時だった。
ブロロロ―――
ええ!? 何の音!?
ちょっと待て!
小人さんトラックに乗ってるんだが!?
数人の小人さんたちが現場に到着した小人さんサイズのトラックをバックで誘導している。
トラックの中から、銀色の金属製の骨組みを大量に降ろし始めた小人さんたち。
ああ……これは、足場か。
建築には必須のアイテムだ。
こりゃ今回の小人さんたちも期待できそうだ。
大工小人さんたちは、廃墟と化した元領主館へ向けて短い手足をぴょこぴょこと動かして行進を開始する。
よし、任せたぞ。
俺がアイコンタクトすると、大工小人さんチームはグッと力こぶを作ってみせた。
「さて、俺たちは一度教会に戻って晩飯でも食って寝るか」
「はいっ、ブラン様! あたし、美味しい夜ご飯の準備をしま~す!」
領主館の方角から微かにカンカン、トントン、ギュイーーンという小気味良い音が聞こえてくる中、俺はいつもの定位置の床でゴロンと転がりゆっくりと瞼を閉じたのだった。
◇◇◇
そして、翌朝。
「で、できてる! うわぁあ~~ブラン様、見てください! おうちできてますよ!!」
リナのひときわ高い興奮の声が、ラスタールの冷たい空気に響き渡った。
昨日まで不気味な廃墟が佇んでいた丘の上には、今や全く異なる異質な建物が鎮座している。
「……これが、新しい領主館ですかい?」
「一夜で建てちまったんだか? にしてもこんな家みたこともないで」
「ていうか、なんかちっこくないか?」
「確かにおらたちの家とあんま変わんない大きさだぞ」
新築の領主館に集まったガンチ以下村の者たちは、思い思いの感想をもらす。
それもそのはず。そこに建っていたのは、白を基調とした実に見事な「現代日本の新築一戸建て住宅」だったからだ。確かにこの世界の領主の館として見れば、めちゃくちゃ小さい。お城のような威厳もなければ、豪華な彫刻もない。
だが、この家は俺の希望の集大成だ。
前世の記憶をベースに、こじんまりとしていて機能的な家を限界まで追求した結果、見事に日本のハウスメーカーが建てるような超快適な戸建て住宅が完成したのだった。
「ベタ基礎に上物も鉄筋コンクリートか。うんうん、小人さんたちいい仕事するなぁ」
俺は完成した5LDKの戸建て領主館を見ながら、満足げに頷いた。
「ブランさま~~はやく入りましょうよ~~♪」
リナが隣で待ちきれないように、でかい胸を揺らしてピョンピョン跳ねる。
ムフフ……だが俺もかなり楽しみだ。
新しい家に入るのって、なんかテンションあがる。
「よし、せっかくだ。みんなで中に入ってみるか」
「えっ……!? あ、あっしらも中に入ってよろしいんですか?」
ガンチが恐る恐る尋ねてくる。
「もちろんだ。ほら、遠慮せずに入れ」
俺が玄関のドアノブを回して扉を開けると、リナを先頭に村人たちがごくりと唾を飲み込んで、おずおずと一歩を踏み出してきた。
さあ、中世ファンタジー世界の住民による、前代未聞の「5LDK領主館内見ツアー」の始まりである。
エド村の空気は、希望と活気に満ちあふれていた。
懸案案件のひとつであった「食」に関しては、大量の魔物肉を確保できたのでひとまずクリアだ。今朝できたばかりの冷蔵庫と冷凍庫のおかげで、長期保存も可能となった。
さらに倒した魔物たちから解体時にきっちりと魔石を取り出しておいた。これがかなりの大収穫で、魔石ストックもしばらくは困らないだけの量を確保。
最低限の防衛力と食料を得た。
となると、お次は……
「いつまでも、みんなでこの教会にすし詰めでいるわけにもいかないな」
俺は教会の前で腕を組み、小さく息を吐いた。
現在エド村のほとんどがカジル神父の教会に避難し、そのまま寝泊まりしている。ここが唯一エアコンの効いた施設で寝泊りに関しては他の場所へはいけないのはわかるが、色々と限界がある。ここまで大人数だと狭いし、プライバシーもへったくれもない。さらに密集して暮らしていれば衛生面でのリスクも跳ね上がる。誰か一人が風邪を引けば一発で全体に蔓延するだろう。
ではどうしたらいいのか。
個別の住居を住めるようにすれば、問題は解決する。
「てことで、家を建てよう」
そうと決まれば行動は早い。まずは俺自身の拠点であり、この村の統治の象徴となるべき領主の館から着手することにした。
リナとガジル神父とともに、かつて領主館と呼ばれていた場所へと向かう。村の中心部から少し離れた小高い丘の上にその敷地はあった。
「……うん、分かってはいたけど、改めて見ると凄まじくボロいな」
「はい、ご領主様不在となって随分と月日が経ちましたので……ブラン様がようやく来てくれましたじゃ」
ガジル神父がしみじみと言う。
伯爵領からも王国からも、見捨てらえたような領地だからな。
そんな領地だからこそ、改善のしがいがあるのだが。
「ふわぁ~~すごいですね。倒れちゃいそうですぅ~」
リナの言う通りだ。もういつ崩れてもおかしくないぐらいにボロい。
そして敷地だけは無駄に広い。さすがは開拓団の本拠地だっただけあって、そこらのお貴族様の別荘よりも広い土地が確保されている。だが肝心の建物がひどい。
木造の二階建てなのだが、屋根の半分は腐って落ち、壁には大きな穴がいくつも開いている。窓枠は歪み中には雑草が我が物顔で生い茂っていた。
ぶっちゃけ不気味な雰囲気すら漂っている。
「わぁ~い、ボロ~ボロ~~♪」
「おばけやしきだぁ~~♪」
「これ、子供たち。領主さまの前じゃぞ」
興味本位についてきた子供たちが、ボロ館のまわりをキャッキャッとはしゃいで走り回っている。
あの子たちの振動だけで、崩れそうだな……
でも……絶望的かと言うと、そうは思わない。
なぜなら、今の俺には心強い味方がいるから。
「よし、イメージだ……今の俺のレベル的に無駄にドデカい石造りのお城とかをイメージしても、魔力や素材不足だろうし俺の性分にも合わん。こじんまりとしていていいから、とにかく機能的で徹底的に快適な家―――」
快適、快適、かいてき。
俺は目を閉じ、前世の記憶の引き出しを片っ端からひっくり返した。
前世の俺が一番落ち着いた場所。冬は暖かく、夏は涼しく、快適の塊だった現代日本の英知の結晶。
「イメ~ジ……イメ~ジ……。高気密、高断熱。二十四時間換気システム……!」
「?……ブラン様? なんの呪文ですか?」
おっと、心の声がもれていたか。
だがイメージは固まった、これでいこう!
脳内で設計図がバシッと完成した瞬間、俺の魔力が起動した。眩い光と共に俺の手のひらから魔法の【設計図】が発動する。ペラリと一枚の白い紙切れが宙を舞い、地面へと落ちた。
すると、その紙の表面からぴょっこりと小人さんたちが出てくる。
―――むくり、ぴょこ。
最初に現れたのは頭にねじり鉢巻を巻き、ダボッとしたニッカポッカ風のズボンを穿いた小人さんだった。
その肩には、これまた小さなのこぎりや金槌が担がれている。
おお……これは職人小人さんか。
―――ぴょこぴょこ。
続いて、腰に工具ベルトを巻き作業着を着た「設備業者」スタイルの小人さんたちも次々と出てきた。どうやら今回は大工小人さんチームがでてくるようだ。
「わあ~こびとさん、いっぱいおどうぐもってる~~!」
「おしごとのふくきてる~~かわいい~~」
「ブラン様~~新しい小人さんたちですぅ! 今度の小人さんたち、おでこに布をまいててもの凄くかわいいですぅ~~!」
リナが胸をときめかせ、村の子供たちもキャーキャーと大はしゃぎで小人さんたちを囲み込んだ。大工小人さんたちは子供たちにお辞儀をされると、小さな手で鉢巻を直したり胸を張って「任せろ!」と言わんばかりに金槌を掲げたりしている。
やる気満々だな小人さんたち。
これで全員出たかかな。と思った時だった。
ブロロロ―――
ええ!? 何の音!?
ちょっと待て!
小人さんトラックに乗ってるんだが!?
数人の小人さんたちが現場に到着した小人さんサイズのトラックをバックで誘導している。
トラックの中から、銀色の金属製の骨組みを大量に降ろし始めた小人さんたち。
ああ……これは、足場か。
建築には必須のアイテムだ。
こりゃ今回の小人さんたちも期待できそうだ。
大工小人さんたちは、廃墟と化した元領主館へ向けて短い手足をぴょこぴょこと動かして行進を開始する。
よし、任せたぞ。
俺がアイコンタクトすると、大工小人さんチームはグッと力こぶを作ってみせた。
「さて、俺たちは一度教会に戻って晩飯でも食って寝るか」
「はいっ、ブラン様! あたし、美味しい夜ご飯の準備をしま~す!」
領主館の方角から微かにカンカン、トントン、ギュイーーンという小気味良い音が聞こえてくる中、俺はいつもの定位置の床でゴロンと転がりゆっくりと瞼を閉じたのだった。
◇◇◇
そして、翌朝。
「で、できてる! うわぁあ~~ブラン様、見てください! おうちできてますよ!!」
リナのひときわ高い興奮の声が、ラスタールの冷たい空気に響き渡った。
昨日まで不気味な廃墟が佇んでいた丘の上には、今や全く異なる異質な建物が鎮座している。
「……これが、新しい領主館ですかい?」
「一夜で建てちまったんだか? にしてもこんな家みたこともないで」
「ていうか、なんかちっこくないか?」
「確かにおらたちの家とあんま変わんない大きさだぞ」
新築の領主館に集まったガンチ以下村の者たちは、思い思いの感想をもらす。
それもそのはず。そこに建っていたのは、白を基調とした実に見事な「現代日本の新築一戸建て住宅」だったからだ。確かにこの世界の領主の館として見れば、めちゃくちゃ小さい。お城のような威厳もなければ、豪華な彫刻もない。
だが、この家は俺の希望の集大成だ。
前世の記憶をベースに、こじんまりとしていて機能的な家を限界まで追求した結果、見事に日本のハウスメーカーが建てるような超快適な戸建て住宅が完成したのだった。
「ベタ基礎に上物も鉄筋コンクリートか。うんうん、小人さんたちいい仕事するなぁ」
俺は完成した5LDKの戸建て領主館を見ながら、満足げに頷いた。
「ブランさま~~はやく入りましょうよ~~♪」
リナが隣で待ちきれないように、でかい胸を揺らしてピョンピョン跳ねる。
ムフフ……だが俺もかなり楽しみだ。
新しい家に入るのって、なんかテンションあがる。
「よし、せっかくだ。みんなで中に入ってみるか」
「えっ……!? あ、あっしらも中に入ってよろしいんですか?」
ガンチが恐る恐る尋ねてくる。
「もちろんだ。ほら、遠慮せずに入れ」
俺が玄関のドアノブを回して扉を開けると、リナを先頭に村人たちがごくりと唾を飲み込んで、おずおずと一歩を踏み出してきた。
さあ、中世ファンタジー世界の住民による、前代未聞の「5LDK領主館内見ツアー」の始まりである。

