あおいと呼ぶにはまだ早い

分からない
混乱したままの思考
時間だけが過ぎていく

今日はもう、インターハイ当日
このままでいいのか?
いいはずが、ない!

自問自答を、繰り返す

宮世が僕を好き?

いやいや、僕が宮世を好き
僕らの関係は、ずっとそうだったはず
宮世は、確かに僕を拒絶して…いた…?
分からない
何も分からない


「これ、柊太朗の?」

急に部屋に入ってきた母が手渡したのは

透明のビニール袋に入った

リンゴの飴!!

「…えっ、いつ?」
「さぁ、ポスト見たのは今だけど?」

「………ちょっと、行ってくる」
「どこへ?」

「ぐんまー」

 
群馬スタジアム
デカっ、広過ぎ

僕は、無我夢中に観客席を目指して、グングン進む
「もうすぐ100メートルの決勝だって。見に行こう」
そんな声につられて、人混みをかき分け進む

宮世!
決勝には残ってるよな
残ってろよ!

祈りながら人混みの先頭に出ると、
急に視界が広がる

青い空と、灼熱のフィールド
僕は、最前列まで、階段を降りていく
宮世、残ってろよ
フィールドに宮世の姿を探す

宮世、宮世、宮世…

真下から、宮世の真剣な眼差しが、
まっすぐに僕を捉えた

僕らは数秒?数十秒
お互いの目から、目を逸らさない
お互いの眼差しが、2人に安心感を与える
安心感が、ふと僕らを笑顔にした

「宮世、これ」
僕は、飴を見せる
「あげる」
と、穏やかな微笑みを浮かべる
「どうやって来たの?」
「公共交通機関、公共交通機関、公共交通機関」
「(笑)早口ことば?」
「…宮世の最後を見届けにきた」
「最後って俺、死ぬの?」
「だからー、宮世の陸上人生最後のレース」
 
「宮世!」 顧問が呼んでいる
 
「しゅう、ありがとう」
宮世は、軽やかに走って行く

振り返って、振り返って
と僕は念じる

もう一度、
あの陸上にかける、宮世の顔がみたい
僕は宮世が好きだ!好きしかない

くるりと宮世は振り向き
「しゅうー」
と大きく手を振ってくれた

僕も、負けないくらい、大きく手を振る
「がんばれーみやせー大好きだーー」
 
――

激闘の後
宮世は、今、僕の隣で電車を待っている

「やっぱり、顧問の先生とかと、一緒に帰った方がよかったんじゃない?」
「ヤダ、しゅうと帰る」
そう言って宮世は、僕の手を握った

「ダメ?」
「ダメじゃないけど」
「ヤダ?」
「ヤダじゃないけど」
「よかった」

宮世は満足そうに微笑む
ずっと、宮世は、僕より大人だと感じていた
その、宮世のワガママは、すごくかわいい

僕は、改めて、宮世と手を絡めなが、
幸せな、その手を見る
もしかして?

「宮世」
「うん?」
「夢を叶えようとしてる?誰かとの」
と、繋いだ手を見せる

僕の手を引いて歩き出す、宮世
「デートもしよう」
「えっ、もうすぐ電車来るよ」
宮世は、立ち止まり、手を離す
離された僕の手は、行き場を失う

真っすぐと僕を見つめ、一度、目を閉じる
宮世は、ゆっくりと、手を差し出し、
落ち着いた口調で

「しゅう、大好きです。
俺とデートしてくれますか?」

と、言ってくれた
僕は差し出された手を握った

「もちろんです」
目の前の宮世は、夕日の中で、
穏やかな眩しさを放っていた


僕らは改札を出て、
知らない街を気の向くままに歩く
もどかしかった宮世との距離が、
どんどんと溶けていく
なんで、あんなケンカをしたんだろう

「パフェ食べに行こう」
宮世が僕の手を引き、少し早歩きになる
「パフェ?いきなりどうしたの?」
宮世は僕の目を凝視する

「えっ?」
「覚えて無い?しゅうが言ってたんだよ」
「えーいつ?」
「さぁ、いつでしょう。後、夏祭りも行こうな」
「行きたいけど、えっ、それも言ってた?いつ?」
「教えない」

僕は練習中や帰り道の記憶をたどる
そんな話したっけ?

「しゅう、ストップウォッチとか、ちゃんと教えなくてごめん」
「えっ…」
「俺はさぁ、俺といる時くらいは、しゅうに、リラックスして欲しかったんだ。しゅうって、周りばっかり、気にしてるように見えたから」
温かい手
優しい眼差し
「ありがと」
僕は、愚痴っていた自分を恥じた

「しゅう、次はどうする?」
「どうするって?」

「俺らの夢」
「えっと…」

「…受験勉強だな」
宮世は、少し考えながら、そう言った
「どこ目指すの?」
「しゅうが、行くところに決まってるじゃん。
頑張って追いつくから」
「ヤバ、めっちゃ速そう」
「因みに、期末テスト、学年順位なん位だった?」
「56」
「俺、89。秒で追いつくわ」
「えー、追い越さないでね」
「そんなの、調整できないよ。しゅうもがんばれー」
「えー、勉強、頑張るのぉ」
「順当だろ、高3なんだから。2人で日本1の大学行こう」
「目標こわっ、絶対、ムリ!」
「そうと決まれば、行くぞ」

​宮世は僕の手を引いて、ぐんぐん前を走り出す
そっちは夕日の方角なんだけど…
​僕なんかが夕日に向かって走るなんて、どこの映画のワンシーン?
ふと、そんなベタなことをしている自分に気づいて、可笑しくなった

「インターハイ終わったとこなのに、ゆっくりしようよ」
「それ、俺のセリフ!しゅう、早く」

僕は、宮世の背中に勇気を出して呼びかけた
「待って、あおい」

振り返る宮世に
「……早い?」と首をかしげる

宮世は愛おしそうに笑った

「――遅い」

また走り出す
あおいと僕
 
これからも僕らは、全速力で生きていく