あおいと呼ぶにはまだ早い

「学校、今日も休むの?終業式でしょ」
階段下から、お母さんが叫んでる
もう3日休んでいる
「休むー」
「もう、勝手にしなさい!お母さん、仕事行くからね!」

はぁーー
僕は布団に潜り込む


『俺の夢に、乗せてやるよ』

あの言葉は何だったんだ?
インターハイが終るまでの話?
だから、僕の応援は、上達しなくていいってこと? ストップウォッチも、動画も

僕だって、僕なりに一生懸命、応援してたのに
陸上を辞める?
そんな大事なことを言ってくれないなんて
「あぁーー」
枕に顔をうずめて、僕は何度も叫んだ


ずっと 
ずっと
ずっと

夏休み中

いつも同じ事を考えてる

そして、いつも
枕は、濡れている


宮世にとって僕が、どんな存在なのか

友達以下確定

なんの確認もしてない
だから、裏切られた。訳では無い
だから、泣いたら変なんだ
変なんだ

なのに、いつも涙が止まらない


今日はもう7/24
来週は、インターハイ
会場は…たしか群馬
この土日に、移動して
ホテルに泊まって、練習して、本番…か?

調子はどうだろう?

今週も暑かったけど、練習は思うように出来たのか

僕が心配することじゃない
関係無い 関係無い 関係無い


夕方のリビング

お母さんが作り置きしてくれた、お昼ご飯を
ぼーっと、つまむ

ピンポ〜ン
…荷物?

モニターには

みやせ!!

どうしよう…

居留守しよう!

いやいや、ダメだ

自分の部屋着を確認する
中学の時のダサジャージ…

あーーームリ…

でも仕方ない!

意を決して僕は玄関のドアを開けた
「…」
「今、いい?」と、宮世
「…入って。誰もいないし」
「ありがと」

僕は、宮世をリビングに案内した
「そこに、座って」
ソファを勧める
「何か飲む?」
「何で?…何でずっと休んでたの?」
宮世は、ソファに座る気は無さそう

「あぁ…えっと…」
宮世って、どこまで知ってる?
僕が遠藤君に、宮世が陸上辞めることを
聞いたって知ってる?
遠藤君から聞いたとか、また、機嫌悪くなる?
いや、僕は友達以下
誰と仲良くしててもいいのか
「えっと…」
宮世は、僕を真っすぐ見据えている
「えっと…なんとなく」
「なんとなく?」
「そう、なんとなく。ほら、柄にもなく、放課後の
居残り頑張ってたから、疲れたーみたいな」

僕は重い空気を、なんとか軽くする為に、わざとヘラヘラする
「俺の自主練に付き合って、疲れたってこと?」
「違う違う、全然」
ヘラヘラすると、いつも誤解をうむ
だから良くないって、わかってるけど、どうしても、こういう空気には耐えれない

「なんてゆーか、適当に聞いてほしいんだけど。
宮世が悪いとかじゃなくて、ただ、色々慣れなくて、疲れた?みたいな」
宮世の、表情は…全く納得してない
「しゅうの言葉を、適当に聞いたこと無いし、適当に聞きたくない」

あぁー、どうしよう… 宮世、真面目すぎ
「…あのさぁ、別に全然いいんだけど。夢の話
覚えてる?」
「…」
「ほら、俺の夢に乗せてやるよって言ったこと。
覚えて無いなら、全然いいんだけど」
「覚えてるよ。あと、さっきから、全然いいって
言ってるけど、しゅうは、いいとは思って無いだろ。嘘つくなよ」

もぉーケンカは、したく無いのに!
陸上辞めるの、教えてくれなかったくせに
なんで、僕が責められてるの!?
なんだか、腹が立ってきた

「うん、そうだね。全然よくない。
夢に乗せてくれるって言ったのに、その夢を
辞めることを、教えてくれない。
それって、なんなのかな?って、思ってる。
遠藤君に動画の撮り方を聞いたのも、気に障ったかもしれないけど、元はと言えば、宮世に何を
相談しても、しゅうのやりたいようにって、真面目に取り合ってくれないだろ」

「しゅう、何に、そんなに怒ってるの」
宮世は冷静だ
だから、余計に、イライラする

「俺が、陸上辞めることに怒ってるの?」
「怒って無いって。ただ、宮世の夢を僕は、
僕なりに一生懸命に、応援してて。僕の人生の頑張ることにしたい。それくらい、これからも、応援したいと思ってた。それなのに……」

「俺が、陸上辞めることを、言わなかったことに、
怒ってるの?」
怒れるはずがない
ファンに、報告する義務が無い
そんなことぐらい、分かっている

「とにかく、もったいないよ。
宮世、陸上の才能があるのに、それを捨てるなんて。もったいないよ」
「陸上やめたら俺って、価値ないの?」
「そんなこと、…そんなこと言ってないだろ!」
「みんなは、そう言ってるよ。しゅうも、
そうなの?」

宮世は感情の揺れを言葉に入れない
僕だけが感情むき出しで
その話し方、宮世ズルいよ
フェアじゃないよ…

「違うって、変な話にするなよ。価値が無いなんて、言ってない。
ただ、人生をかけるくらいのものに、出会っている
のに、それを捨てるのは、もったいないって
言ってんの!」

僕は、キッチンで、コップに、麦茶をそそぐ
勢いあまって、コップから、麦茶がこぼれた
麦茶をふいたタオルがびちゃびちゃ

はぁー

疲れる

人とぶつかるのは疲れる

だから、普段から、ヘラヘラとみんなに合わせて
暮らしてきた
だけど、宮世には、僕を、誤解されたくない
そんな、気持ちのせいで、こんなことに…
冷静にならないと…
 
宮世が、ポツリと
話始めた
「陸上を辞めること、去年には、決めてたんだ」
「なんで」
「陸上以外の、夢に出会った」
「陸上の才能を捨てるくらいの夢?
宮世、僕は、嬉しかったんだ。
夢に乗せてくれるって言ってもらえて。
ファンとして、ちゃんと宮世を応援しようって、
思ったんだ」
「俺も普通の、高校生活がしたい」
「だけど、宮世のベストタイム。あと0.5秒で
9秒台だろ。日本代表でオリンピックに出る。
宮世なら、あり得ない話じゃない。
そう思うと、普通の高校生活に拘らなくても」
「まず、日本代表なんて、あり得無い。
0.1秒縮めるのに、どれだけの、努力…ごめん。
しゅうに話す話じゃない」

また、出た
僕と宮世の間に、線を引く話し方!
冷静でなんていられない

「ほら、そうやってまた、僕は蚊帳の外!
こんなに真剣に話しているのに、僕に言ったって
仕方ないと思ってる。
そうです、陸上のことなんて、
何にも分かってませんから」
「しゅうが分かってないなんて言ってないだろ。
とにかく、俺だって、誰かを好きになって、
誰かと手をつなぎたいとか、一緒に帰りたいとか、
デートしたいとか、その子の夢を
叶えてあげたいとか」

胸がグリグリと痛い

何だよそれ
誰だよそれ

宮世が、本気になれば、そんな相手、いつでも出来る

「宮世、そんなの、いつだってできるよ。誰かって、その誰かもきっと、そのうち出会える。
そんな、未来の誰かの為に、陸上を捨てる価値は、
無いと思う」

「…未来じゃねーよ。お前だろ!今、ここにいる、
お前だよ」

「ぼく…」
僕の顔は、凍りついている
「カッコいいとか、男前とか言ってたのに、急に
ファンだとか、距離おきやがって!しゅうも
皆と一緒で、陸上やってない俺には興味ないんだよ」
そう言って、宮世は足早に、玄関に向かった

僕は立ち尽くす
宮世の才能を捨てさせる価値なんて…僕には無い

この状況、めっちゃシリアス…
僕には似合わないよ…