あおいと呼ぶにはまだ早い

月曜の放課後 いつものベンチ
「宮世、ごめん。撮影する時、宮世の携帯貸して」
僕は役に立つどころか、宮世に迷惑をかけていた

「全然いいけど、携帯忘れたの?」
「いや、無くした」
「えっ大丈夫?」
「うん、多分、あそこかな?って思ってる場所はあるから」
「どこ?」
「えっ…」

土日、遠藤君と会っていたこと
隠すことじゃ無い、だけど、言いづらい

「しゅう?」
携帯を無くした僕を、心配してくれている宮世が
目の前にいる
申し訳ない
「ラーメン屋さんに」
「あこ?前一緒に行った」
「そう、たぶん…」
「週末行ったの?」
宮世は質問しながら、目線は携帯で、
何か操作している

「うん、まぁ」
ヤバい、会話の流れが
「誰と?」
きた!
そりゃ、次はこの質問だよね
えっと
だから、隠すことじゃないんだけど…

ぷるるる〜

どこからか、携帯の着信音がなる
えっ?
ベンチの下に置かれた鞄の中?
僕は、恐る恐る
「この鞄って?」
と宮世を見た
「遠藤の」
明らかに不機嫌になった宮世が答える

2人の間に沈黙が居座り、着信音だけが、
踊るように、なっている
僕の全身から冷や汗…
宮世が、自分の携帯を触った

着信音は切れた

「…」
「遠藤の鞄に入ってるの、しゅうの携帯じゃない?」
「そうかも…ね」
とにかく、気まずくて宮世の顔が見れない
「週末、遠藤と会ってたの?」
「会ってた…とゆーか、助けてもらってた」
「助ける?」
「助けるってゆーか、教えて、もらった」
「何を?」
「何って…動画の撮り方」

宮世は、
大きく、息を吸って、大きく、ため息をつく
「何で?」
明らかにイラついている
「何でって…上手く撮りたいから。コツとかあるのかなぁ…って」
僕は、場を和ませようと、わざとヘラヘラとした話し方をする
「何で?」
宮世は、動じない
場は和まない
「だから、上手く撮ったほうが、宮世の役に立てるかなぁって」
「何で?」
「だからー」
僕の口調には、隠しきれない、ウンザリとした気持ちがにじみ出ていた

それを、宮世は見逃さない
宮世が理性で、ギリギリ繋ぎ止めていた、冷静さを、僕は、吹き飛ばしてしまった
「何で、何で遠藤なんだよ!」
宮世が、怒ってる
宮世が取り乱している
どうしよう…

「何でって」
それは、宮世が、いくら相談しても、僕の、好きにとか、僕の、やりやすいように、とか、真面目に取り合ってくれないから
だけど、こんな事言ったら、ケンカになっちゃう

「宮世、ごめん」
「俺の事、何だと思ってるんだよ!もう、いい」
宮世は行ってしまった

もう、いいって…
良くないよ
ケンカしたく無いから、謝ったのに
これじゃ、もう、ケンカじゃん
僕は、ヘナヘナと座り込んだ

 
「あれ、宮世先輩は?」
遠藤君が、小走りでベンチにきた
「帰った」
僕の落ち込む姿をみて、遠藤君は心配そうなに隣に、座ってくれた
 
「すみません!私が、すぐに思い出して、携帯をお返ししてたら、こんなことにならなかったのに」
「全然、遠藤君のせいじゃない」
遠藤君は、鞄から僕の携帯を取り出し
「すみませんでした」
と、頭を下げてくれた

「ホントに大丈夫だから。ありがと」
遠藤君は本当に悪くない…僕はどこで間違った…?
心配そうに僕の側にいてくれる遠藤君に
何か話さないと…

「今日は?遠藤君も、自主練?」
「はい、ご迷惑かとも思ったんですが、宮世先輩と練習できるのも、あと少しですし、盗めるところは、盗みたくて」
「すごいね」
「いえいえ、来年は、僕もインターハイに出たいので」
「遠藤君も、宮世も、羨ましいよ。一生かけて、努力したいことがみつかってて」
「一生かは、僕も分かりません。僕も、宮世先輩みたいに高校でやめるかも。でも、とにかく今は全力で頑張りたい、挑戦したいって感じです」

「……今、なんて言った?」
「何がですか?全力で頑張りたいって」
「その前」
僕の、切羽詰まった表情を見て、遠藤君は、不安げな顔つきで
「宮世先輩みたいに、僕も高校で、陸上をやめるかもしれない」
「…宮世って陸上、辞めるの?」
「…はい。インターハイが最後…聞いてませんか?」
「聞いてない…どういうこと?」
「私も詳しくは知りませんけど、大学とか、実業団の陸上部の誘いを、全て断ってるって。才能があるのに、もったいないって、みんな言ってます。あっ、でも宮世先輩から直接聞いた人はいなくて…」

僕の膝は力を失い、崩れ落ちた

その後、どうやって家まで帰ったか?
これを放心状態と呼ぶのだろう