あおいと呼ぶにはまだ早い

「山中、今日は宮世の自主練行かないの?」
「…いかない」
「声、小さっ」

テスト終わり、僕がうつ伏せになっていると
ハヤトがちょっかいを、出してくる 
「これか、女子が騒いでる、お揃いのぬいぐるみ」
僕の、柴犬を触る

ハヤトから柴犬を奪い返し
「部活行ってくる」
と、ふらっと、立ち上がる
「バレー部の助っ人!」
ハヤトが僕を指差す
「そう…」
「テスト期間で忘れてたわ」
「…頑張ってくる」
「柊太朗、終わったら図書室。ハヤトも俺もいるから」
「うん」


バレー部は、明後日が最終試合ということで、
部員みんなは感慨深いらしく、僕だけが、その感情の波に乗れず…
疎外感を味わい…
ただ、今の僕の気持ちには、ピッタリな気もしていた

部活が終わり、図書室へ
ハヤトと卓はカリカリと勉強しながら、真ん中の席を空けてくれた

携帯の待受を眺める
"三つのリンゴの飴"と"空のペットボトル"

今日も、外の気温は30度超え
陸上部は、4階の廊下で練習しているらしい

目を閉じる
宮世の走る姿が、すぐに再生出来た

背筋の伸びた自信に満ちた走り
再生する度に好きになる

僕とは違う世界で生きている
その世界に近づきたいと思った
入ってくるなと、引かれた線
だけど、この宮世の側にいたい
もう線を超えようとは、思わない
宮世が許してくれるなら、やっぱり側にいたい

卓が僕の肩を揺すり、リンゴの飴を差し出す

「なんで!?」
「シーッ」
卓はジェスチャーをする
走るポーズ 
前髪センター分け
腕まくり?
――宮世か…?

ハヤトはノートに
「みやせ」
と書いた
だよね

僕は飴を握りしめ、2人の間から出ようとするが
阻まれる
僕は2人の目をみて 小声で
「大丈夫。宮世は太陽、僕はファン。僕が勝手に応援したいだけ」

卓が人差し指を1に、した(もう1回?)
僕は、もう一度ゆっくりと
「宮世は太陽、僕はファン」
これさえ分かっていれば、もう傷つかない

僕は走り出す
4階の廊下、4階、4階
だけど、そこには誰もいなかった
僕は校舎中を走る
前にもこんな事があった

2階の窓からグラウンドに目をやる
みやせ!

宮世ともう1人?
こんなに、暑いのに…
宮世は軽くストレッチを済ませると、走った
いつもより、体が重く感じる
暑さのせい?
ゴールでは、もう一人の彼がタイムを計っている

そっか!
"タイムを計る"
僕に出来ることがあった!

僕はグラウンドに全速力で向かった
下駄箱から、外に出た瞬間、熱気で汗が噴き出る
僕は宮世を、応援したい
それが僕の、頑張りたいこと
グラウンドでは、僕に気づいた宮世が、こちらを見ている
僕は息を切らしながら、近づき
「宮世、これ」
と、飴を見せた

宮世は、微笑みながら優しく
「あげる」
と言ってくれた

「宮世、昨日はごめん。僕、宮世を応援したい」
「ありがと、しゅう。嬉しいよ」

「それで、僕でも、出来ることがあったんだ。タイム!タイムくらいなら出来ると思うんだ」
僕は、意気揚々と発表した
だけど…あれ?
宮世の顔が曇った気がした

宮世は振り返り、後ろにいる、もう1人に視線を投げる
「あの、どなたかしりませんけど」
そのもう1人の彼が、僕に話しかけてきた
「あっ、3年の山中です」
「私は2年の遠藤です。タイムくらいって、心外なんですけど」
と、怒りメラメラな空気で、一歩前に出てきた

「あっいや、そんなつもりは」
宮世が、あたふたする僕とメラメラな遠藤君の間に、入ってくれた
「遠藤、ストップウォッチ、しゅうに渡して」  
宮世の表情は硬い
後輩の前では、硬派なタイプ?

「ですけど、無理だと思います」
「渡して」
宮世の意思の固さは、冷たい言い方から伝わる
遠藤君は、渋々、僕にストップウォッチを渡してくれた
僕はホッとした
「ありがとう」

「じゃあ」
と、宮世は僕の手を引く
ドクンっ!心臓がヤバい

「先輩」
遠藤君が追いかけてきて、僕らの前に、回り込む
「あの、ストップウォッチ、私が教えましょうか」
「ありが」
僕は、厚意を受け取ろうとする

「大丈夫、しゅうには俺が教えるから」
宮世は、僕の腰に、手をまわし
ギュッと自分の方に引き寄せた

ドクン!ドクン!ドクン!
僕の心臓の音が
このシリアスなシーンに響いていそうで
恥ずかしい

「でも、それじゃ、先輩の練習時間が短くなります」
「構わない」
宮世の声が少し大きくなった

遠藤君は困惑している
「遠藤君、心配してくれてありがと。でも大丈夫だから、ねっ?」
と、僕は、宮世を見た
宮世は頷き、微笑んでくれる
今、その顔を見たら、心臓の音がヤバいんだけどー

「遠藤君それじゃあー」
僕は、重い空気と、僕の心臓の音、全てをごまかす為に、おどけながら、宮世の背中を押した。

  
僕らは30分で練習をきり上げ、ラーメン屋に向かっている
「飴、ありがとう」
「こちらこそ、練習来てくれてありがとう。…しゅうの友達って面白いな」
「えっ、なんかした?」
卓、ハヤト…何したー?

「いや、飴をお願いした時。桃太郎とかパブロフとかコソコソ言ってたから」
「あー、それは…この飴があれば、僕は宮世を探して辿り着くって2人は言ってて。その例え話」
「例え話?」
「全然、例えられてないから、気にしないで。それよりストップウォッチって、難しいんだな」
「慣れだよ」
「練習するよ!0.1秒のとこで、宮世は勝負してるのに、下手なのは申し訳無くて」
「いいよ。しゅうはゴールで、見ていてくれるだけでいい」
「見てて役に立つこと無いかな」
「じゃあ、動画撮ってよ」
「動画、携帯で?」
「うん、フォームの確認したいし」
「出来る、それなら出来るよ」

宮世は、ほっとした表情を浮かべた
「よかったな!動画担当が出来て!」
「そうだな。…しゅうが元気になって良かったよ」
「もとから元気だよ」
「元気無かったよ。…遠藤には、言っとくから」
「えっ、何を言うの?」
「しゅうのすることに、口出しするなって」
「ダメダメ。言わなくていいよ、そんなこと。遠藤君とはきっと、分かり合える気がするから」
「遠藤と、しゅうが?なんで」
「なんでって」
遠藤君もきっと宮世のファンだ
ヤバっ、僕の顔、緩んでそう

「なんでニヤけてんの?」
「ニヤけてないよ」
「…しゅう、遠藤が気になるの?」
宮世は心配そうな表情で僕を見つめる
「うん?気になると言えば気になる。多分、同じだから」
「何が?」

宮世の心もとない眼差し
僕の知らない宮世の表情
これ以上、好きにさせないでー
「だから、色々。はい!もう、着いたよ」

僕らは、店内に入った