あおいと呼ぶにはまだ早い

夏休み明けの学校は、文化祭準備一色だ

「聞いて!」
ハヤトが、忙しい教室に、噂話を持ってくる
僕と(たく)は、ダンボールにカボチャの絵を描いている

「宮世、インターハイで、何位だったと思う?」
卓は手を止めずに
「1位」
と、言った

「そんな訳ないだろ?1位だったら校舎に横断幕かかってるよ」
「じゃあ2位」
と僕は、カボチャの目を描きながら答えた
「真面目にー。2位だって横断幕!3位までは横断幕だから」
「じゃあ4」
と、卓は
カボチャに髪の毛を足しながら言った
「正解、つまんねー」

僕は、我慢できず卓に
「カボチャに髪の毛は変じゃない?」
「そうか…目も口もあるのに」
「お前ら、どうでもいいんだよ!カボチャの毛の話は!宮世が日本4位!すげーって」
「ハヤト、これ」
卓は、熱くなっているハヤトに、絵の具の筆を渡す
「そこ、黒な!」
「やまなかー」
ハヤトは僕に助けを求める

卓は、僕らに
「宮世は推薦で入った学園の宝。足が速いのは分かりきってる。ダンボール取ってきて」
と、伝えた
僕らは卓が描く、ロン毛のカボチャに、笑いをこらえながら
「はーい」と返事をして、教室をでた


僕らは、それぞれ2メートル以上あるダンボールを運んでいる
廊下のみんなは、僕らを避けて歩いてくれる
「ハヤト前見えてる?」
「見えてない」

「あー俺も、宮世みたいに才能が欲しい。ダンボール重たいし、中間近いし」
「関係ないよ」
「宮世みたいに才能があれば、頑張らなくても楽しい人生が送れるのに」
「努力してると思うよ」
「山中って、変なとこ正しいよなー」
僕は、苦笑いで受け流す
「だけどさぁ、宮世って葵って名前、絶対呼ばせないらしいわ」
「何情報?」
「1年の時に、同じ陸上部になった東が、『あおい』って呼んだら、めちゃくちゃ睨まれたって。あと潔癖症で、うわぁー」

ハヤトが誰かにぶつかって、ダンボールを落とす音が聞こえた

僕はダンボールを立てかけ
「すみません!」
と声をかけたが、歩いて行ってしまう後ろ姿が見えた

「痛い!足ひねったかも」
ハヤトは左足首を回している
「大丈夫?ぶつかった人行っちゃったね」
「あれ、宮世だよ」
「えっそうなの?」
「感じ悪いんだよ、宮世って」

僕はもう一度、宮世君の背中を探した

もう、いない

僕らの話を聞いていただろうか…