毒喰らい女王蜂はアオハルを嫌う



 ***


 四限目が終わると、私は真っ先に旧校舎の物置になっている教室へ向かった。
 理由はひとつ。これから来るであろう彼女たちに見つからないように隠れて待つためだ。

 ピコンッとスマホが鳴る。
 私はポケットから取り出して画面を開く。メッセージの送り主は駒井さん。

【今から向かいます】

 教室からここまでは歩いて数分ってところだ。そろそろ隠れておかないとまずい。
 教室を確認して回り、何も入っていない掃除棚の中に隠れることにする。少し埃っぽいのは仕方ない。あの女の裏の顔の証拠を掴むためだ。

 私はポケットからスマホを取り出して通気口にレンズを向ける。うん、これならばっちり撮れそうだ。
 そろそろ着く頃だと予想して、録画ボタンを押した。
 その直後、ガラッと扉が開く音がする。

「うわっ、埃くさ……」
「ほ、ほんとだね」

 白鳥さんと駒井さんの声だ。

「それで。話って何。わざわざ私を呼び出したんだから、それなりの話でしょうね」

 白鳥さんの声色がいつもより低くなる。
 裏の顔のお出ましだ。

「それとも何。昨日の裏垢の件についての言い訳でもする気かしら?」

 ニコニコとしているけれど、目が笑っていない。どうやらよほど怒っているらしい。

「ごっ、ごめんなさい……!」

 駒井さんは一度、勢いよく頭を下げた。

「昨日、中澤さんの机にカンペを仕掛けようと思ったら、教室に近づいてくる足音がして、だからできなくて、裏垢も投稿できなくて……」

 怯えながらも、しっかりと「誰に」対しての「嫌がらせ」行為なのか話している。
 駒井さん、怯えているわりにはやるじゃない。

「私、失敗は許さないって言ったわよね」
「ほんとにごめんなさい……っ!」

 もう一度、駒井さんが頭を下げた直後。

「あんた、本当に使えないゴミね! 誰のおかげでこのクラスで人並みの口が聞けてると思ってるの!? 次はないって言ったよね? あんたもあいつみたいに学校にいられなくしてあげようか!?」

 激怒した白鳥さんが、駒井さんに向かって感情を露わにする。
 駒井さんは深く頭を下げながら、

「ほ、ほんとに、ごめんなさい! ごめんなさい! 失敗はしちゃったけど、それより、いい証拠が手に入ったの……っ!」

 と、言いながら顔を上げる。

「証拠?」
「う、うん。中澤さんのスマホが机の中に入ってて、ロックがかかってなかったからスマホ覗いてみたら、写真の中にこんなものがあって。……これ、麗華ちゃんの裏垢だよね? 急いで私のスマホで直撮りしたから、ちょっと手ブレしちゃったんだけど……」

 駒井さんは彼女へ画面を向ける。

 あんたの大好きな餌を用意してあげたのよ。
 ──さあ、食いつきなさい。

「な、何よこれ! あいつ、これがあたしの裏垢だって気づいてんの?!」
「そうみたい。何枚も写真持ってるみたいだし、もしかしたら選挙演説でみんなの前で麗華ちゃんのこと暴露しちゃうんじゃない?」
「冗談じゃない! そっちがその気なら潰される前に潰すだけよ! その写真、よこしなさい。利用してやるわ!」

 先程よりもさらに怒気を含んでいるその声は、白鳥さんのものとは思えないほとだ。

「明日スクリーンに流す映像、これに変更するわよ。あんたも手伝いなさい!」
「う、うん、分かった」

 そう言って二人は物置になっている教室を出て行く。

 私は録画ボタンの停止を押し、数秒待ってからロッカーの中からそうっと出る。

「これで全てのピースが揃ったわ。あなたが私の思っているような人間でほんとに助かった。……さあ、あなたの選挙演説にしっかりと花を添えてあげる。楽しみにしていなさい」

 私はスマホ画面を見つめながらニヤリと笑みを浮かべた。

 その日の放課後、偽の証拠に夢中になっている白鳥さんは、当日の体育館の機材室に入り浸り、駒井さんと二人でコソコソと何やら作業をしていた。

 私は「選挙補助」の立場を利用して、コンピューター室でプロジェクターに流す偽映像の完成度をさらにあげるために作業をする。
 それをUSBに保存して、白鳥さんが帰ったあとに駒井さんに声をかける。

「これを明日の選挙演説中に流しなさい。指示は、無料通話アプリでするからずっと繋いでおくように」

 さあ、準備は整った。
 あとは、選挙当日を待つだけ。