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朝の選挙活動が終わり、教室に戻るとクラスメイトが「聖女」のもとへ集まってくる。
私は、自分の席に向かうと、鞄の中からイヤホンを取り出して耳につけると音楽をかける。そして、お気に入りの文庫本を開いた。
自分の世界に浸っていると、肩をトントンッと軽く叩かれる。ちら、と目線を上に向ければ、そこにいたのは聖女こと白鳥さんだった。
私は憂鬱な気持ちでイヤホンを外す。
「……何?」
愛想のない表情のまま彼女に問いかける。
「さっきはありがとう! これ、お口に合うか分からないけど、よかったらもらって!」
手渡されたのは、可愛らしくラッピングされたクッキーだった。おそらく手作りのもの。
正直言って、甘いものは嫌いなのでいらないと言いたいが、この女の「本性」を暴くためには良好な関係でいなきゃいけない。
「ありがとう」
仕方なくもらうと、彼女は嬉しそうな顔で微笑んでみんなが待つ場所へ戻っていった。
「麗華ちゃん、優しいね」
「やっぱり麗華ちゃんは天使だよね!」
「え〜そんなことないよ。優しいって言ってくれるみんなが優しいんだよ」
みんなに囲まれながら、幸せそうな姿を演じている。
あいつが優しい?
あいつが天使?
みんな簡単に騙されちゃってバカみたい。
あいつが私に手作りクッキーを渡すのは、生徒会選挙のため。
廊下を歩いている別のクラスの生徒たちに向けて、『私って普段から優しいんだよ』とアピールするためのものである。
それは彼女なりの作戦なのだ。
なのに、そんな簡単な罠にも気づかずに、それを「優しい」とおだてるなんて。
ほんとあんたたちってお気楽な人間なのね。
せっかくいい気分で読書をしていたのに、なんだか読む気になれない。
文庫本を机の中にしまっていると、
「そろそろ先生くるから、みんな席につきましょう」
と、白鳥さんの掛け声が聞こえる。
談笑していた生徒みんなが自分の席へと戻っていく。
「全員出席してるね。よかった。誰か体調悪い人いる?」
真ん中の席からあたりを見回しながら白鳥さんが問いかける。
これもいつものことだ。つまり、〝ポイント稼ぎ〟。誰にかって? それはこれからやってくる担任からもらえるポイントのことだ。
「おー今日もばっちり席についてるな」
しばらくして教室にやってきた担任が、席についているみんなを見て、「感心だ」と頷きながら教卓へと向かう。
「先生、今日も全員が出席しています。体調が悪い子もいません!」
担任が教卓で出席簿を開くや否や、白鳥さんが手を挙げて説明をする。
当然、担任は、こうなる。
「さすが、白鳥だ。クラスでも頼りになるし、次の生徒会長は白鳥で決まりだなぁ」
担任は嬉しそうに笑みを浮かべる。
すると、周りの雰囲気も良くなり、「さすが白鳥さん」「聖女さま」といったような声も聞こえてくる。
……ほんと、バッカみたい。
私は、うんざりした気持ちで白鳥さんから目を離す。が、彼女の後ろにいる駒井さんが気になって思わず目線を止めた。
なぜか駒井さんは、顔色を悪くしている。
それも白鳥さんが褒められるたびに、わずかに肩をビクつかせているようだ。
誰も気づかない。私だけが見えているように。
あの怯え方は、異常だ。白鳥さんの他の友達は普通なのに、駒井さんだけがおかしい。
もしかしたら駒井さんは彼女の「何か」を知っているのかもしれない。
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お昼休みになり、購買へ向かうために席を立とうとしたら、「先に行っとくね!」と声が聞こえる。
声のする方へ目線を向けると、白鳥さんの友達二人が手を振って廊下を出て右へ行く。それと同時に白鳥さんと駒井さんは左へと歩いていく。
駒井さんの表情が怯えているように見えたので、私は「何かある」そう思って気づかれないようについていくことにした。
たどり着いた場所は、人気のない静かなコンピューター室のそば。そこで何やら二人だけで密談をしているようだったが、少し遠かったため内容までは分からない。
けれど、ただならぬ雰囲気であることには違いなかった。
二人に気づかれる前にその場をあとにして、購買でパンと飲み物を買って教室に戻る。
それから少しして二人は遅れて帰ってくる。先に席に座っていた二人と合流して、四人でお昼ご飯を食べ始めた。
楽しそうに笑っている。一見、仲よさそうに見えるが、一人だけ表情が強張ってみえる。駒井さんだ。
……やっぱりさっき何か言われたのかもしれない。いつも以上に無理して笑っている様子。
これは、彼女をマークする必要がありそうだ。
パンを早々に食べ終えると、イヤホンで音楽を聴きながら文庫本を読んでいる。フリをして、たまに駒井さんの様子を伺った。



