「結果、有償のアロマストーンを購入しなければ限定衣装は出ない。さらにアロマストーンとは別に有償のアイテムを購入してドーピングしなきゃ、ランキングの上位に入れない。ランクに入れないと、特別な報酬が手に入らない。その上、自分の贔屓している相手が全くスポットライトを浴びない、なんてことになれば」
三人は、うわぁと言わんばかりに顔を歪めた。
「楽しめなくなった人は、僕たちの世界に見切りをつけて離れて行っちゃうよね」
「そうそう。その上、当のHAJIMEさんまで離脱しちゃって」
「は?」
思案顔をしていたネロリが、目を上げた。
「待ってよ。創造主ちゃんのお仲間は、チュベローズの支援者とも言えるHAJIMEちゃんのために、サービスを心がけていたんだよね? あいつにスポットを当てて、見せ場や衣装を増やしてまでして」
「運営側としてはそのつもりだったと思う。だけど、その姿勢が露骨になるほど、他のアロマリアを応援していたユーザーさんたちの反発を招いちゃったんだ。アロバラは、HAJIMEさんのご機嫌取りばかりしている作品だ、私たちのことなんてどうでもいい、もう付き合ってられない、って。SNSでそんな声が上がって、ちょっとした炎上騒ぎ。そうなると、HAJIMEさんにも怒りの矛先が向いちゃってさ。いたたまれなくなったんだと思う。HAJIMEさん、結局アロバラやめちゃったんだ」
ベルガモットが小さなため息をついた。
「……この世界を保持するために尽力くださった方が、離れてしまわれたのは痛手ですね」
「そう。アロバラは炎上騒ぎの上、大きな収入源を失った。しかもタイミング悪くおかしなバグまで発生しちゃって。その対処に運営さんがもたついたものだから、ユーザーさんの離脱に歯止めがきかなくなって、……ついに崩壊という流れ」
語り終えた私は大きく息を吐く。
冷静にこれまであったことを並べ立ててみれば、サービス終了になったことに何の不思議もない。私も一ユーザーとして遊んでいたけど、実のところここ二ヶ月ほどはあまり熱心にやってなかった。ログインして、イベントもさらっと流して、あとはボイスモードで各キャラの甘いセリフを聞いていただけ。
身内の贔屓目があっても終盤は、そこまで夢中になれる作品ではなかった。私にとって貴重な飯のタネだったのは間違いないけれど。
「しかし、ここまで原因がはっきりわかっているのであれば、対策の打ちようがあるのではないでしょうか」
ベルガモットの言葉に私は目を上げる。
「対策……」
「まだ、この世界を見捨てていない方はおられますよね?」
「……うん」
恐らく惰性ではあるが。ログインすらしていなくても、なんとなく作品が終わるまではデータを削除できない、というユーザーの存在はSNSで散見される。それに、キャストの声優さんのファンで、最後までボイスモードを楽しみたいというファンもいるようだ。
「そうだね、まずは今も残ってくれている人たちが離脱しないよう、全力で引き留めなきゃ」
せっかく頑張って皆を喜ばせられる物語を書いても、公開される頃に読んでくれる人が消えてしまえば意味がない。
私は机へ向かい、ノートパソコンを開いた。
「創造主ちゃん? 何すんの?」
「まずはラスト三ヶ月におけるシステム面での改善を、担当さんに打診してみる」
内容は私が一ユーザーとして感じていた、アロバラのシステム面での不満点。それを思い出し箇条書きにする。書き上げるのに五分もかからなかった。
(シナリオが公開されるまでの間、せめてユーザーさんにとってアロバラが負担やストレスにならないようにしてもらわなきゃ)
私は雨村さんへ送るメールの内容を、送信前に幾度も確認する。
―――――――――――――――――――――――
株式会社クプアス
雨村様
お世話になっております。
現在、最終話に向けてプロットを作成中です。
それにあたって、いくつか提案があるのですがお聞きいただけますでしょうか。
1:限定ガチャの復刻祭り
2:デイリーミッションの簡略化と報酬サービス
3:ログボ演出のスキップ機能
―――――――――――――――――――――――
「限定ガチャの復刻祭り?」
背後から画面を覗き込んでいたベルガモット、ネロリ、クラリセージの声がきれいにハモる。
「……とは、どういったものでしょうか?」
「うん、一定の期間にしか排出されなかったイベント専用の衣装を、皆の手に届くようチャンスを作ってほしいってこと」
限定衣装にはそれぞれ、特別なシナリオが用意されている。例えばサンタ衣装を手に入れられればクリスマスデートの物語、浴衣衣装を手に入れられれば夏祭りデートの物語が読めるようになるのだ。
「私だって気合い入れて考えた物語だからさ、出来るだけ多くの人に読んでもらって甘い時間を過ごしてもらいたいんだ。特に、そのアロマリアを好きでいてくれた人には絶対届いてほしい。でも、期間限定ガチャは文字通り期間限定のものだから、一度チャンスを逃せば二度と読めないシナリオだったんだよね。希少価値を上げるために必要だったんだろうけど、もう終わりだって言うなら、景気よく放出してほしいなって」
まだ残ってくれている人で、その期間に推しの衣装を手に入れられなかった人が、これを目的にアンインストールすることを思いとどまってくれればいい。
「それって手に入れたら満足して、気持ちにケリつけて離れちゃったりしない?」
「ぐっ、その可能性もあるにはあるけど。少なくとも『チャンスは二度とないんだから居残っても無駄』ってやさぐれてアロバラを見捨てる、ってのだけはないかなぁ、と」
なんとしても、より多くの人に最後まで見守ってもらわなくてはならない。
本音を言うなら、限定衣装は全て無条件で配布してほしいくらいだ。頑張って書いた胸きゅんシナリオなのだから、出来るだけ多くの人を甘さで悶えさせたい。だけど、配布してしまえば「いっぱい課金して手に入れた思い出の衣装なのに、結局ただで配るなら私のしたこと無意味じゃん」と、かつて課金で支えてくれたユーザーさんの怒りを買う可能性が高い。ガチャという形式は、最後まで残しておかなくてはならない。
「この二番目の、『デイリーミッションの簡略化と報酬サービス』って、何かな?」
三人は、うわぁと言わんばかりに顔を歪めた。
「楽しめなくなった人は、僕たちの世界に見切りをつけて離れて行っちゃうよね」
「そうそう。その上、当のHAJIMEさんまで離脱しちゃって」
「は?」
思案顔をしていたネロリが、目を上げた。
「待ってよ。創造主ちゃんのお仲間は、チュベローズの支援者とも言えるHAJIMEちゃんのために、サービスを心がけていたんだよね? あいつにスポットを当てて、見せ場や衣装を増やしてまでして」
「運営側としてはそのつもりだったと思う。だけど、その姿勢が露骨になるほど、他のアロマリアを応援していたユーザーさんたちの反発を招いちゃったんだ。アロバラは、HAJIMEさんのご機嫌取りばかりしている作品だ、私たちのことなんてどうでもいい、もう付き合ってられない、って。SNSでそんな声が上がって、ちょっとした炎上騒ぎ。そうなると、HAJIMEさんにも怒りの矛先が向いちゃってさ。いたたまれなくなったんだと思う。HAJIMEさん、結局アロバラやめちゃったんだ」
ベルガモットが小さなため息をついた。
「……この世界を保持するために尽力くださった方が、離れてしまわれたのは痛手ですね」
「そう。アロバラは炎上騒ぎの上、大きな収入源を失った。しかもタイミング悪くおかしなバグまで発生しちゃって。その対処に運営さんがもたついたものだから、ユーザーさんの離脱に歯止めがきかなくなって、……ついに崩壊という流れ」
語り終えた私は大きく息を吐く。
冷静にこれまであったことを並べ立ててみれば、サービス終了になったことに何の不思議もない。私も一ユーザーとして遊んでいたけど、実のところここ二ヶ月ほどはあまり熱心にやってなかった。ログインして、イベントもさらっと流して、あとはボイスモードで各キャラの甘いセリフを聞いていただけ。
身内の贔屓目があっても終盤は、そこまで夢中になれる作品ではなかった。私にとって貴重な飯のタネだったのは間違いないけれど。
「しかし、ここまで原因がはっきりわかっているのであれば、対策の打ちようがあるのではないでしょうか」
ベルガモットの言葉に私は目を上げる。
「対策……」
「まだ、この世界を見捨てていない方はおられますよね?」
「……うん」
恐らく惰性ではあるが。ログインすらしていなくても、なんとなく作品が終わるまではデータを削除できない、というユーザーの存在はSNSで散見される。それに、キャストの声優さんのファンで、最後までボイスモードを楽しみたいというファンもいるようだ。
「そうだね、まずは今も残ってくれている人たちが離脱しないよう、全力で引き留めなきゃ」
せっかく頑張って皆を喜ばせられる物語を書いても、公開される頃に読んでくれる人が消えてしまえば意味がない。
私は机へ向かい、ノートパソコンを開いた。
「創造主ちゃん? 何すんの?」
「まずはラスト三ヶ月におけるシステム面での改善を、担当さんに打診してみる」
内容は私が一ユーザーとして感じていた、アロバラのシステム面での不満点。それを思い出し箇条書きにする。書き上げるのに五分もかからなかった。
(シナリオが公開されるまでの間、せめてユーザーさんにとってアロバラが負担やストレスにならないようにしてもらわなきゃ)
私は雨村さんへ送るメールの内容を、送信前に幾度も確認する。
―――――――――――――――――――――――
株式会社クプアス
雨村様
お世話になっております。
現在、最終話に向けてプロットを作成中です。
それにあたって、いくつか提案があるのですがお聞きいただけますでしょうか。
1:限定ガチャの復刻祭り
2:デイリーミッションの簡略化と報酬サービス
3:ログボ演出のスキップ機能
―――――――――――――――――――――――
「限定ガチャの復刻祭り?」
背後から画面を覗き込んでいたベルガモット、ネロリ、クラリセージの声がきれいにハモる。
「……とは、どういったものでしょうか?」
「うん、一定の期間にしか排出されなかったイベント専用の衣装を、皆の手に届くようチャンスを作ってほしいってこと」
限定衣装にはそれぞれ、特別なシナリオが用意されている。例えばサンタ衣装を手に入れられればクリスマスデートの物語、浴衣衣装を手に入れられれば夏祭りデートの物語が読めるようになるのだ。
「私だって気合い入れて考えた物語だからさ、出来るだけ多くの人に読んでもらって甘い時間を過ごしてもらいたいんだ。特に、そのアロマリアを好きでいてくれた人には絶対届いてほしい。でも、期間限定ガチャは文字通り期間限定のものだから、一度チャンスを逃せば二度と読めないシナリオだったんだよね。希少価値を上げるために必要だったんだろうけど、もう終わりだって言うなら、景気よく放出してほしいなって」
まだ残ってくれている人で、その期間に推しの衣装を手に入れられなかった人が、これを目的にアンインストールすることを思いとどまってくれればいい。
「それって手に入れたら満足して、気持ちにケリつけて離れちゃったりしない?」
「ぐっ、その可能性もあるにはあるけど。少なくとも『チャンスは二度とないんだから居残っても無駄』ってやさぐれてアロバラを見捨てる、ってのだけはないかなぁ、と」
なんとしても、より多くの人に最後まで見守ってもらわなくてはならない。
本音を言うなら、限定衣装は全て無条件で配布してほしいくらいだ。頑張って書いた胸きゅんシナリオなのだから、出来るだけ多くの人を甘さで悶えさせたい。だけど、配布してしまえば「いっぱい課金して手に入れた思い出の衣装なのに、結局ただで配るなら私のしたこと無意味じゃん」と、かつて課金で支えてくれたユーザーさんの怒りを買う可能性が高い。ガチャという形式は、最後まで残しておかなくてはならない。
「この二番目の、『デイリーミッションの簡略化と報酬サービス』って、何かな?」



