ゲームの創造神たる私は、サ終と共に滅する運命です【長編版】

 最後に書くシナリオは、キャラクターそれぞれ平等に見せ場を作る。そのためにも、アロマリアたちの最終目標をしっかり定め、魔王の正体をきちんと設定する。そう方針を決めた翌日。
「おっはよ~、創造主ちゃん! ど? 元気してる?」
「あは、ごめんね、創造主様。朝からうるさくして。お邪魔してもいいかな?」
 二人の青年が、部屋に姿を現した。私の朝食を手にしたベルガモットと共に。
「ネロリ。それにクラリセージ」
 陽気で、まばゆいハニーブロンドの髪と落ち着いたグリーンの瞳が印象的なのがネロリ。
 穏やかで、淡いピンクの髪に紫色の瞳が甘い雰囲気を醸し出しているのがクラリセージである。
「朝早くから申し訳ございません。自分が千枝の食事を作って届けているのを見て、この二人がどうしても同行したいと」
「そうなんだ。私は別に構わないけど」
 その時、ネロリが深いグリーンの瞳をきゅるんと輝かせた。
「チエ? 創造主ちゃんの名前、チエって言うんだ!」
 ぐっと迫るきめの細かい肌。ネロリのハニーブロンドの髪が朝陽を受け、目の前でキラキラと揺れる。
「ね、オレもチエって呼んでいい?」
(うっ……!)
 顔が良い。
「アロバラ」のキャラクターデザインの人が、人気イラストレーターなのだから当然ではあるが。
(こんな至近距離で見ても美しい。毛穴が見えない。リアル造形になっても、まごうことなきイケメンだ。最推しじゃなくても、うっかりときめいてしまう。それになんだかいい匂い。フローラルでフルーティーで……)
 これがネロリの香りなのだろう。思い返せば、ベルガモットも爽やかないい香りを纏っていた。
 不意打ちのイケメンの大接近にぐらぐらしていると、「はいはいはい」という声と共にネロリは少し後ろに下げられた。クラリセージの手が、ネロリの両肩にかかっている。
「え~? なんで邪魔すんの、クラリセージ」
「創造主様がびっくりしてるじゃないか。駄目だよネロリ、ぐいぐい行き過ぎ」
「ははっ、だってさ。はわわってなってる創造主ちゃん可愛すぎん?」
「それは認めるけど」
 認めるんかい、ありがとう。
 クラリセージは困ったように眉を下げて微笑む。
「ごめんね、創造主様。ネロリは悪い奴じゃないんだけど、ちょっと人と距離が近いって言うか」
「あ、ううん。大丈夫」
 というか、よく知ってる。私が彼をそう設定したのだから。
「千枝という呼び方は」
 朝食の乗ったトレイをテーブルに置きながら、ベルガモットが口を開いた。
「創造主に請われて俺が特別に許された呼び方だ。誰もが気安く口にしていい名ではない」
 いや、そんなことはないんだけど!?
 てか、今自分のこと『俺』って言ったよね? なんか普段よりワイルドぉ!
「別にみんな、好きに呼べばいいじゃん」って気持ちと「ベルガモットがそう言うなら、彼だけに許した特別な名のままにしておきたい」という気持ちがせめぎ合う。
 ちらりと横目でベルガモットを見れば、誇らしげな横顔がそこにあった。
 我こそは創造主の寵愛を受けた特別な存在であるぞ、というオーラが出ている。まぁ、伝えちゃったからね、彼は私の理想を突き詰めた存在だと。
(どど、どうしよう)
 ベルガモットへの思い入れが一番深いのは事実だけど、ネロリたちを大切に思っていないわけじゃない。みんな、私が愛情込めて生み出した存在だ。けれど心細かった時に、真っ先に駆け付けて来てくれたベルガモットの顔も潰したくない。
(な、なんて呼ばせれば……!)
「もー、ネロリ。ほら、創造主様が困ってるでしょ」
 穏やかなクラリセージが、ベルガモットとネロリの間に割って入る。
「ひとまず僕たちはこれまで通り、彼女を『創造主』って呼ぶことにしない?」
「え~っ、ベルガモットだけ狡くない?」
「ベルガモットは僕たちがまごまごしている間に、真っ先に創造主様の元へ駆けつけて、朝食を作ったりお世話焼いていたんだよ。その信頼の証が特別な呼び方なんだと僕は思う。いつか彼女が心を開いてくれたら、僕たちもその呼び方を許してもらえるさ」
 クラリセージは、アメジスト色の瞳を柔らかく細める。
「だよね、創造主様」
「え? あ、うん」
 私にマイナス感情をぶつけて来ない二人なら、別に今すぐ本名を呼んでくれても構わない、気持ちもあるけれど。ここはクラリセージの言葉に乗っておくことにした。
(でも、『今日から特別な呼び方をしていいよ』って伝えるのも、乙女ゲー的には重要イベントっぽくなっちゃうよなぁ)
 ベルガモットが気を悪くしないタイミングで、呼び方チェンジイベントをうまく発生させるしかない。できるかなぁ。
「ちぇ~っ、創造主ちゃんがそう言うなら仕方ないけどさぁ」
 言ってない。言ってないよ。乗っただけだよ。
 あと端正なイケメン面で、子どもっぽく口を尖らせないでネロリ。可愛いから。
「オレさあ、みんなが創造主ちゃんをここに呼んで、一緒に滅ぼうとか言い出した時、全力で止めたんだよ?」
「えっ、そうなの?」
「当然でしょ。だって」
 ネロリの白い指が、私の髪に触れた。
「女の子を、そんな怖い目に遭わせたくないからね」
 ん゛っ!!
 そんな顔でそんな仕草でそんな台詞言われたら、うっかり恋に落ちてしまいそうだ。これだから乙女ゲームのキャラは! いや、私が生み出したんだろ! 知ってる!
「そっか、ネロリは私をここに呼ばないように言ってくれた一人なんだ」
 脳内一人ボケツッコミを表に出さないようにして、私はネロリの思いやりに笑みを返す。
「気遣ってくれてありがとう、ネロリ。それと、ごめんね」
「何が?」
「……この世界が滅ぶようなことになってしまって」
「それは創造主ちゃん一人ではどうしようもなかったんでしょ? その辺はベルガモットから聞いた」
 ネロリはほんのりと切なさをにじませながらも、彼らしく微笑む。私の髪に触れていた彼の手が、頬へと移った。
「ねぇ、創造主ちゃん。もしその日のその瞬間が来たらさ、オレの腕の中に来てよ」
「え?」
「そんで最後に一度だけ、創造主ちゃんを『チエ』って呼ばせて? オレ、それで幸せだから。きっと後悔しないからさ」
「ネロリ……」