ゲームの創造神たる私は、サ終と共に滅する運命です【長編版】

 私は下を向き、前髪をいじる。
「ベルガモットたちにしてみれば、やっぱり私は責任逃れをしようとしている創造主だよ。この世界を守るために、もっとちゃんと向き合って戦わなきゃいけない立場だったのに。はは、みっともないね。恥ずかしい。……情けない」
「いいえ」
 ベルガモットは首を横に振ると、私の両肩に手を置いた。優しいぬくもりに包まれ、反射的に涙腺がゆるむ。
「自分は、創造主が出来る限りのことをしてくれたと信じております」
 ベルガモットが私の耳元へ、そっと口を寄せる。静かで落ち着いた声が、耳に届いた。
「だから今は、千枝の身に現実に起きたことを教えてください。突破口を見つけるためです。自分は、あなたを信じておりますので」
「ベルガモット……」
 私は遠慮なく彼の肩に額を預ける。
「そうだね。多分担当さんは、ラストのストーリーについてそこまで口を出してこないと思う。もう終わる話と思っているから。だからこそ、これまで私がやりたくても出来なかったことをするチャンスでもある」
「千枝がしたかったこととは何ですか?」
「もっと、みんなそれぞれに活躍の場を与えたかった。アロマリアのそれぞれの魅力が生きるシチュエーションだっていっぱい考えていたし、それを書きたかった」
 私はベルガモットの肩から、顔を上げる。
「人気投票では奮わなくても、アロマリアのみんなは私にとって大切な存在だよ。そんな彼らを推してくれる人の愚痴をSNSで目にするたび、いつも思った。みんなが満足してくれる活躍を、私もさせたいのに、って」
「やりましょう」
 ベルガモットの手が、私の髪をそっと撫でる。
「自分も、千枝が本気で作る見せ場がどんなものか見てみたいし、やってみたいです」
「うん」
 私はベルガモットの胸を指先で軽く押し、名残惜しく思いながらもぬくもりから離れる。
「しかし、人気の順位というのはそんなにはっきりわかるものですか。やはり定期的に人気投票を?」
「ううん、投票はサービス開始前に一回、バレンタインに一回やったきりかな。でもイベント時に、特別衣装が実装されるって言ったでしょ。その衣装を手に入れるために課金をする――つまりお金を貢ぐ人が多いほど、人気があるキャラだと判断されるんだよね。今回のイベントの課金額はすごいぞ、じゃあこのキャラで次も稼げるな、って運営側は考えるわけ」
 話しながら少し申し訳ない気分になってくる。ベルガモットたち登場人物が、課金額でランク付けされているという事実を当人に伝えることに。
 けれど、ベルガモットは意外な反応をした。
「なるほど。ではチュベローズやベンゾインは、余程大勢の方の心を掴んだということになりますね。千枝は、それだけの寄進を集めるほど彼らを魅力的に演出したと。素晴らしいことです」
(えっ、ここでまさか私への全肯定!?)
 彼らの人気を私の手柄にしてくれたベルガモットに、気持ちが軽くなった。
 だけどすぐに、現実が追いかけてくる。
(サ終は会社の決定、覆ることは多分ない……。華々しいラストを作り出せたとしても、この世界が救われる道に直結しているとは思えない……。どうすればいいんだろう、本当に)
 私のため息の意味に、ベルガモットは気付いたのだろう。
「千枝」
「なに? ベルガモット」
「もしもこの世界があなたの手によって無事に救われた暁には」
「暁には?」
 ベルガモットの瞳には決意の光が潜む。彼は筋張った右手を自分の胸へと当てた。
「この身をあなたの望むまま、如何様にもお好きになさってください」
 その言葉が耳に入った瞬間、考えるより先に言葉が出た。
「やる」
 完全に脊髄反射だった。ベルガモットは目を丸くしている。私もびっくりだ。
(だ、だって……!)
 口にした後で、恥じらいが頬に熱を運ぶ。
(私の理想を集約させた存在が、好きにしていいって言ってくれたんだよ? そんなの……、好きにするしかないでしょ!!)
 仕事では担当の雨村さんから「R-12が限界ですからね。それ以上艶めかしくしちゃだめですよ」と何度も注意を受けていた。ベルガモットの、ちょっと大人なシナリオを書きたくても我慢していた。軽く触れるキスが限界である。
(だけど、目の前に実在しているベルガモットを、好きにしていい……!)
 頭の中に、ジャケットを脱ぎネクタイを外し、シャツの胸元を乱したベルガモットの姿が浮かぶ。その胸板にはしっとりと汗の輝きを纏って。好きに……、好きに……。さ、鎖骨を触らせてもらうのもアリですかね!? あと、手の甲の血管とか!
(あぁ、もう! なんでここにスマホがないの? 録画して、エネルギーとかモチベーションが切れかけた時の起爆剤にしたいのに!)
 この世界を継続させようなんて、無駄なあがきかもしれない。けれど、ご褒美が美味しすぎる。煩悩炸裂。
(やるしかない……)
 現実を思い返すことで鎮火しつつあった闘志が、再び蘇って来た。
「うん。怖気づいていちゃだめだよね、今も残ってくれているファンの皆さんのためにも。それに、もっと続いてほしい!って思ってもらえるようにあがくしかない」
 両の拳を固めて鼻息を荒くする私へ、ベルガモットは柔らかに目元を細めた。
「はい。……あなた自身の救済のためにも」