「本当にね。私もそこはしっかりと設定したいって、担当さんに伝えたんだよ。目的のない道行きじゃ思い切って走れないからって。でも人気が出てサービスを継続しようとなった場合、はっきりした敵や道筋があると、かえってそれが枷になるって言われちゃって」
「枷、ですか」
「そう。目的をクリアしたら、めでたしめでたしで話が終わっちゃう。そうなると、気持ちに一区切りついたユーザーさんが満足して離れてしまう。だからあえて敵に関しては具体的にはせず、ぼかして謎めいたままにしておきましょうって言われたんだ」
思わせぶりなキーワードだけを並べておいて、実は具体的な設定がなかったというのが実情だ。状況に合わせて展開を変えるためと説明はされていたが、私自身かなり足場の悪い場所で走らされている気持ちだった。
「最終章をまとめるためには、今更ながらこの辺の設定を固めなくてはならないということになりますね」
「そっか。そうなるよね」
残り三ヶ月で。実際は書くのに一ヶ月、そしてゲームに組み込むのに一ヶ月必要だから、期間は一ヶ月あるかどうかだ。
「他にはどのような問題があったのでしょう」
「問題……」
「人々は、我々のいるこの世界を不要と判断したのでしょう。その原因となった問題です」
「うーん……」
元々ソーシャルゲーム自体そこまで息の長いものではない。トップランカーは十周年を祝ったりなどしているが、殆どの作品は「一年の壁」も越えられず終わる。一年を超えられれば成功とすら言われているから、実際のところアロバラも成功作品のうちに入る。しかし、今はそんな気休めを言っている場合ではない。アロバラがサービス終了となってしまった原因だ。
「やっぱり、あれだよね。イベントが人気キャラクターに集中しすぎていたこと」
「イベントが、集中……?」
根幹シナリオがほぼないのをカバーするように、アロバラでは毎月現実の季節に合わせたイベントを開催していた。二月ならバレンタイン、四月ならイースター、七月なら夏祭りといった具合に。異世界にそんな行事があるのか、と突っ込みたい気持ちもあったが、ユーザーが盛り上がっていたのは事実だし、他のゲームでもやってることだ。
そしてイベントとなれば、限定衣装が実装される。しかし全員にグラフィックを追加するのは予算的にも納期的にも大変なので、イベントストーリーは一部のキャラクターにだけスポットが当たるようになる。新規衣装はその物語の主要人物のみ、ということだ。
「言われてみれば、季節ごとの特殊任務には、特定のメンバーばかりが指名されていた気がします。出撃頻度の差を不思議に思っていたのですが、それが人気キャラクター……」
ベルガモットは、ふむと顎に手を当てる。
「と言うことは、チュベローズとベンゾイン、パチュリ辺りが人気のトップスリーと考えてよろしいでしょうか」
(あ、はは……)
正解だが、この物語の登場人物の一人であるベルガモットに、人気順を見抜かれるのは少々気まずい。
「ベルガモットも真ん中より上だからね!」
「は。言われてみれば、自分も幾度か普段と違う衣装を着させられましたね。自分の出番を望む方がおられるとは、ありがたいことです」
なんとなく、わたし以外からの好意にベルガモットが喜んだように見えて、ちょっとモヤッとした。
「ユーザー人気も大事だけど。ベルガモットは私にとって一番の存在なの、一番! なにせベルガモットは、私の私による私のための推しだから! あなたは私の理想を集約させた存在だから!」
ベルガモットが驚いたように目を見張る。その表情に私は少しギクリとなった。これではまるで告白だ。創造主からの告白ってなんか重いだろうし、それに立場をかさに着ているような気もする。
(ベルガモットが私に親切にしてくれるのは、あくまでも彼らにとって私が上位の存在だからだ。惚れた腫れたの対象にされたら迷惑に感じちゃうかも)
けれどベルガモットは照れたようにふわりと表情を和らげた。
「ありがとうございます。創造主である千枝が、そこまで自分に肩入れしてくださっていたとは、望外の喜びにございます」
(くぁ…、まばゆい!)
理想の権化が、私の言葉に喜んでくれた。気を遣わせてしまったという後ろめたさも若干あるが。しかしどうだろう、この最上の微笑! この顔をリアルで、至近距離で見られただけで目が勝手に潤む。
「もう思い残すことはない。ここで命朽ち果てても」
「急に何ですか!? 諦めないでください」
ベルガモットは一つ咳払いをした。
「無駄話をしている暇はございません、創造主。急ぎ、この状況を好転させるための策を練らなければ」
私も頷いて返す。確かに一分一秒も惜しい状況だ。しかしやはりチュートリアルのキャラクター。進行がテキパキしている。
「その、特定の人物に特殊任務……、イベントが集中したことの何が問題だったのでしょうか」
「ユーザーの中には、その他のキャラクターが好きな人も大勢いるんだよ、当然ながら。つまりアロマリアにはそれぞれ、応援してくれている人がいるんだ。なのに、自分の推しが作品内でないがしろにされていたら、応援している立場としては面白くないよね」
「推し……」
「人気のキャラクターにはイベント限定衣装が用意されて、色んな着せ替えも出来る。新規ボイスや特別シナリオだって実装される。だけど、自分が応援しているキャラクターには一向にそれが出てこないうえ、出番のほぼないモブの扱いにされたら、やっぱり不満も出てくる。私だって、ベルガモットの出番はもっと増やしたかった。何なら、全イベントのメインにしたかった。この世界でいーっぱい活躍させたかった」
ベルガモットが不思議そうに首を傾げた。金色の瞳が、私を映す。
「それも、タントーとやらの指示、というわけですか」
「そう。私はあくまでも雇われシナリオライターで、ゲームをどうするか方針を決めるのは会社だから……」
言いかけて、私は足元へ視線を落とす。
「ごめん。さっきから私、『会社が』『担当さんが』ばっか言ってるよね。この世界を作り出したのは私なのに。ベルガモットたちを生み出したのも私なのに」
「千枝……」
「枷、ですか」
「そう。目的をクリアしたら、めでたしめでたしで話が終わっちゃう。そうなると、気持ちに一区切りついたユーザーさんが満足して離れてしまう。だからあえて敵に関しては具体的にはせず、ぼかして謎めいたままにしておきましょうって言われたんだ」
思わせぶりなキーワードだけを並べておいて、実は具体的な設定がなかったというのが実情だ。状況に合わせて展開を変えるためと説明はされていたが、私自身かなり足場の悪い場所で走らされている気持ちだった。
「最終章をまとめるためには、今更ながらこの辺の設定を固めなくてはならないということになりますね」
「そっか。そうなるよね」
残り三ヶ月で。実際は書くのに一ヶ月、そしてゲームに組み込むのに一ヶ月必要だから、期間は一ヶ月あるかどうかだ。
「他にはどのような問題があったのでしょう」
「問題……」
「人々は、我々のいるこの世界を不要と判断したのでしょう。その原因となった問題です」
「うーん……」
元々ソーシャルゲーム自体そこまで息の長いものではない。トップランカーは十周年を祝ったりなどしているが、殆どの作品は「一年の壁」も越えられず終わる。一年を超えられれば成功とすら言われているから、実際のところアロバラも成功作品のうちに入る。しかし、今はそんな気休めを言っている場合ではない。アロバラがサービス終了となってしまった原因だ。
「やっぱり、あれだよね。イベントが人気キャラクターに集中しすぎていたこと」
「イベントが、集中……?」
根幹シナリオがほぼないのをカバーするように、アロバラでは毎月現実の季節に合わせたイベントを開催していた。二月ならバレンタイン、四月ならイースター、七月なら夏祭りといった具合に。異世界にそんな行事があるのか、と突っ込みたい気持ちもあったが、ユーザーが盛り上がっていたのは事実だし、他のゲームでもやってることだ。
そしてイベントとなれば、限定衣装が実装される。しかし全員にグラフィックを追加するのは予算的にも納期的にも大変なので、イベントストーリーは一部のキャラクターにだけスポットが当たるようになる。新規衣装はその物語の主要人物のみ、ということだ。
「言われてみれば、季節ごとの特殊任務には、特定のメンバーばかりが指名されていた気がします。出撃頻度の差を不思議に思っていたのですが、それが人気キャラクター……」
ベルガモットは、ふむと顎に手を当てる。
「と言うことは、チュベローズとベンゾイン、パチュリ辺りが人気のトップスリーと考えてよろしいでしょうか」
(あ、はは……)
正解だが、この物語の登場人物の一人であるベルガモットに、人気順を見抜かれるのは少々気まずい。
「ベルガモットも真ん中より上だからね!」
「は。言われてみれば、自分も幾度か普段と違う衣装を着させられましたね。自分の出番を望む方がおられるとは、ありがたいことです」
なんとなく、わたし以外からの好意にベルガモットが喜んだように見えて、ちょっとモヤッとした。
「ユーザー人気も大事だけど。ベルガモットは私にとって一番の存在なの、一番! なにせベルガモットは、私の私による私のための推しだから! あなたは私の理想を集約させた存在だから!」
ベルガモットが驚いたように目を見張る。その表情に私は少しギクリとなった。これではまるで告白だ。創造主からの告白ってなんか重いだろうし、それに立場をかさに着ているような気もする。
(ベルガモットが私に親切にしてくれるのは、あくまでも彼らにとって私が上位の存在だからだ。惚れた腫れたの対象にされたら迷惑に感じちゃうかも)
けれどベルガモットは照れたようにふわりと表情を和らげた。
「ありがとうございます。創造主である千枝が、そこまで自分に肩入れしてくださっていたとは、望外の喜びにございます」
(くぁ…、まばゆい!)
理想の権化が、私の言葉に喜んでくれた。気を遣わせてしまったという後ろめたさも若干あるが。しかしどうだろう、この最上の微笑! この顔をリアルで、至近距離で見られただけで目が勝手に潤む。
「もう思い残すことはない。ここで命朽ち果てても」
「急に何ですか!? 諦めないでください」
ベルガモットは一つ咳払いをした。
「無駄話をしている暇はございません、創造主。急ぎ、この状況を好転させるための策を練らなければ」
私も頷いて返す。確かに一分一秒も惜しい状況だ。しかしやはりチュートリアルのキャラクター。進行がテキパキしている。
「その、特定の人物に特殊任務……、イベントが集中したことの何が問題だったのでしょうか」
「ユーザーの中には、その他のキャラクターが好きな人も大勢いるんだよ、当然ながら。つまりアロマリアにはそれぞれ、応援してくれている人がいるんだ。なのに、自分の推しが作品内でないがしろにされていたら、応援している立場としては面白くないよね」
「推し……」
「人気のキャラクターにはイベント限定衣装が用意されて、色んな着せ替えも出来る。新規ボイスや特別シナリオだって実装される。だけど、自分が応援しているキャラクターには一向にそれが出てこないうえ、出番のほぼないモブの扱いにされたら、やっぱり不満も出てくる。私だって、ベルガモットの出番はもっと増やしたかった。何なら、全イベントのメインにしたかった。この世界でいーっぱい活躍させたかった」
ベルガモットが不思議そうに首を傾げた。金色の瞳が、私を映す。
「それも、タントーとやらの指示、というわけですか」
「そう。私はあくまでも雇われシナリオライターで、ゲームをどうするか方針を決めるのは会社だから……」
言いかけて、私は足元へ視線を落とす。
「ごめん。さっきから私、『会社が』『担当さんが』ばっか言ってるよね。この世界を作り出したのは私なのに。ベルガモットたちを生み出したのも私なのに」
「千枝……」



